川辺川ダム
私のブログで、最近の検索ワードで「八ッ場ダム」が上位に来ています。(8月25日 八ッ場ダムを考える)民主党が大規模公共工事見直しの具体的な工事名として上げているもう一つのダム工事である川辺川ダムについても、書くこととします。
私の考え方は、利害関係者全員に調査報告書、評価報告書を含め多くの情報を開示して、透明性を確保した上での決定を下し、推進すべきは推進し、見直し・凍結・中止をすべき工事は、そのようにすべきであるとの考え方です。利害関係者とは、税金が投入されるからには、国民全員が利害関係者であり、ダムの場合は、水没地で住宅・農地・生活を含め多くの資産を失う人々は、より大きな利害を持つ関係者です。ダム工事の受注を期待する土建屋も利害関係者であり、下流流域で洪水軽減や水供給を受ける利害関係者も存在します。その範囲は、株式会社における株主、従業員、債権者、取引先と言う範囲よりはるかに大きくなります。
1) 川辺川ダム
位置は、次のYahoo地図の通りで、住所は熊本県球磨郡相良村大字四浦字藤田です。
ダムの大きさは、八ッ場ダムとほぼ同じで、比較すると次の通りです。
八ッ場ダム | 川辺川ダム | |
堤高 | 116.0m | 107.5m |
堤頂長 | 190.8m | 283m |
流域面積 | 707.9km2 | 470km2 |
湛水面積 | 304ha | 391ha |
総貯水容量 | 107,500千m3 | 133,000千m3 |
有効貯水容量 | 90,000千m3 | 106,000千m3 |
水没戸数 | 340戸 | 403戸 |
水没農地面積 | 48ha | 66ha |
事業費 | 4,600億円 | 2,650億円 |
2) 経緯及び背景
八ッ場ダムとの違いは、あえて言えば、川辺川ダムが建設される川辺川及び、ダムの約20km下流で合流する本流の球磨川は、上流から下流までの流域全てが熊本県であることです。川辺川ダムは、1966年7月の建設省による川辺川ダム建設計画発表から始まるのですが、1963年、64年、65年の3年にわたり、川辺川、球磨川で毎年大規模な洪水が発生し、1965年に熊本県議会及び人吉市議会が建設省に対して球磨川の抜本的治水対策を要望したことがあり、この要望を受けての建設省の決定です。
ダムの約20km下流の球磨川との合流地点にあるのが、人吉市であり、水没地がダムの直ぐ上流の五木の子守歌の五木村です。(上のYahoo地図を動かせば、見ることができます。)中心地にかかっている橋が、頭地橋で、この橋が丁度海抜250m位です。川辺川ダムの計画満水位は海抜280mであることから、満水時には30m水没し、中心地を含め多くの家屋の移転が生じます。住み慣れた家や代々受け継いできた農地、先祖の墓所を手放すことになるし、自分たちにとっては、考えたこともないし、望むわけがないことです。反対運動や裁判闘争もありました。
過去の経緯の中で、一つの大きなこととして、利水としての農業用水確保が途中で消滅しました。利水事業対象農家が農水大臣に国営川辺川土地改良事業変更の同意手続きについて異議申し立てをし、裁判を提起し、2003年5月福岡高等裁判所で、用排水事業の同意率が65.66%、区画整理事業が64.82%の同意率と認定し、土地改良法87条の3に定める3分の2以上の同意に足りないとして、この2つの事業は違法として取消すと判決を出した。そして、2003年8月19日に亀井善之農林水産大臣は、上告断念の談話を発表したのです。詳細は、川辺川利水訴訟弁護団の声明文を参照下さい。
声明文には、「1966年の建設計画では、治水目的だけであったが、1968年には利水を入れた多目的ダムとして計画の変更がなされた。」とあり、当初計画に戻っているだけなのですが、有効貯水容量106,000千m3の全てを洪水緩和に利用できるという、多分日本一洪水緩和能力のあるダムになったと思います。
3) 球磨川の洪水
球磨川の洪水は、他の河川と比較して、発生する頻度が高く、被害も大きいのは事実と思えます。例えば、国土交通省九州地方整備局の平成17年台風14号球磨川水系の出水状況(速報)や同速報(第2報)の中の写真を見ても、すごい量の水です。
当事者でもない人間が、ダムは不要と、無責任に言うことは不適切と思う次第です。もし言うとすれば、球磨川水系には、球磨川上流の市房ダム(次Yahoo地図)しかなく、市房ダムの洪水容量は18,300千m3であり相当小さいのです。従い、350m3/秒程度の流量制限しか期待できず、15時間もすれば満水になるような容量です。満水ダムは、コントロールできない恐ろしい状態であり、満水は避けねばなりません。人吉の下流に電源開発の瀬戸石ダムと熊本県の荒瀬ダムがありますが、これらのダムは発電専用ダムであり、洪水緩和には全く役に立ちません。
従い、土木屋でダム屋であり、球磨川の洪水対策を考えるなら100人が100人、今の計画地点にダムを建設することを計画するはずです。丁度、両岸が迫っており、絶好の候補地点です。但し、ダム屋以外の観点からも計画を評価することは絶対必要です。また、ダムとは自然に手を加えることであり、環境への影響は大小の差はあれ、必ずあります。
4) 水力発電
水力発電は、従であり、考える必要はないのですが、川辺川ダム砂防事務所のWebにあるQA2-8に「電源開発株式会社が新設する相良発電所(16,500KW)の発電が、ダム建設に伴い廃止される次の3つの発電所(合計)の合計発電量を下回らない。」と書いていることから、そんな単純ではないので、触れておきます。
発電所 | 事業者 | 出力 |
頭地 | チッソ | 5,200kW |
川辺川第一 | 九州電力 | 2,500kW |
川辺川第二 | チッソ | 8,200kW |
合計 | 15,900kW |
「相良発電所の年間可能発生電力量は、約85,000MWHであり、これと同等の電力を発生させるために必要な火力発電所の燃料に換算するとドラム缶約10万個の重油に相当する。」と書いてありますが、真っ赤な大嘘であり、廃止する発電所の発電量がほぼ同じか、せいぜい5%少ない程度と推定されます。従い、節約分は、ゼロかたったのドラム缶約4-5千個の重油です。
水力発電に、必ずしもダムは必要がないと理解下さい。八ッ場ダムには、廃止発電所はないが、川辺川ダムは廃止を伴うので、水力発電にとっては、ほとんど意味のない発電所です。
5) 現状
八ッ場ダムと同様、ダム本体工事には着手していないことから、中止や凍結、あるいは設計変更も可能です。
現状について、一番よく理解できるのが、2008年9月11日熊本県定例県議会における蒲島知事の発言と思います。即ち、”住民のニーズに応えうる「ダムによらない治水」のための検討を極限まで追求する”ことを知事は述べ、この方向で進んでいます。この知事発言の後、10月28日に蒲島熊本県知事と金子国土交通大臣が「ダムによらない治水を検討する場」を設立することに合意し、現在までに4回開催されています。(最近は、2009年7月16日)議事録や資料は、ここからダウンロードできます。
知事は、8月20日の定例記者会見で、民主党のマニフェストの関連で質問を受け、次のように答えています。
民主党のマニフェストがどうであれ、今進めておりますダムによらない治水を極限まで国と県と、それから関係市町村で検討していると、この考え方を進めていきたいと思っています。 当然その方向をどういう政権の形であれ、尊重されるものではないかと私は思っています。 ダムによらない治水を極限まで検討するものを、今そういうふうに進めているわけですから、そのやり方というのは私は正しいのではないかと思っています。 |
私は、このようなやり方が正しいと思います。
検討結果、ダムの中止があり得ると同時に、設計変更によりダムを小さくしたりすることや、洪水緩和機能のみになったので、穴あきダムにし、洪水緩和のために流量制限を実施する時のみ、ゲートを閉じ、通常は現状の河川と全く同じにすれば、環境負荷は最小に押さえられると思います。最も、穴なきダムについては、私も知らないので、これを機会に最適な穴あきダムを開発することを考えても良いと思います。穴あきダムの水力発電は、それに対応して計画すればよいのであり、この場合も、現状の発電量とほとんど変化はありません。
焦って予算を使い切ることより、人々を幸福にする最適な公共工事を、時間がかかっても良いから、立案し、実行することが最重要と思います。
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