鞆の浦埋め立て架橋差し止め判決
鞆の浦における広島県による埋め立てと架橋について裁判で争われているのを知らなかったのですが、考えさせられる出来事と思いました。読売の記事を掲げます。
読売 10月1日 ポニョの「鞆の浦」工事差し止め…景観保護優先
1) 鞆の浦埋め立て架橋工事
Yahoo地図を掲げます。
地図の中央が鞆の浦の湾で、左に県道47号が湾で切れており、一方湾の右では県道22号が切れているのが見えます。この47号と22号を橋を架けて結び、47号の湾側は埋め立ても行おうという計画です。
橋を架けない場合は、湾を迂回することになるが、多くの人家があり、困難であり、遠くを迂回するにはトンネル工事が必要となる。だから、都市計画としては、埋め立てと架橋がごく自然に出てくるアイデアであり、地元の人でも、道路が完成して便利になることを願っている人も多いと思います。
2) 文化遺産・自然遺産
文化遺産・自然遺産とは、ユネスコの世界遺産に関する条約である「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」からの言葉です。
条約は、1972年の第17回ユネスコ総会で採択され、1975年に発効し、日本は1992年に批准をしています。世界遺産条約は、ここ(英語) ここ(日本語訳)にありますが、その第1条が、文化遺産(cultural heritage)の定義であり、第2条が自然遺産(natural heritage)の定義です。第3条に、何が文化遺産であり、何が自然遺産であるかを認定し及びその区域を定めること(identify and delineate)は、締約国の役割であるとしています。
実は、日本にユネスコの世界遺産は、そんなに多くないのです。世界では、現在890あるのですが、そのうち日本は14です。一番多いのはイタリアで44です。ちなみに、アジアで多いのは、中国の38とインドの27です。
鞆の浦は、ユネスコ世界遺産にはなっていません。しかし、同等の価値があれば、あるいは、次世代に受け継いでいくべき遺産であるなら、守っていくべきです。それは、条約があるなしではなく、人間社会の価値観であり、人としての義務だと思います。
3) 遺産の価値判断
鞆の浦は、誰の物なのでしょう?冒頭の読売の記事には、「原告159人のうち、地元の鞆地区から転居するなどした19人については訴えを却下した。」とあるのですが、地元に住んでいないと権利がないのでしょうか?価値ある遺産は、人類共通の遺産であっては、ならないのでしょうか?
そんな観点での決議が、ICOMOS( International Council on Monuments and Sites )の2008年10月の16回総会決議で、鞆の浦に関しては4ページ目に「埋め立てと架橋の中止の要請」が書かれています。(Resolutionは、続きを読むに入れておきます。)世界遺産条約第8条では、世界遺産委員会の会議にはICOMOSからも一人出席することが書かれています。ICOMOSが、鞆の浦に関して、どのような評価をしたか等の詳細は、日本イコモス第6小委員会のこのWebからダウンロードできます。
やはりトンネル案が書かれています。安易な文化遺産・自然遺産の破壊は慎むべきでしょうね。価値は、決して地元の人達だけに属するのではなく、多くの人に帰属する。従い、文化遺産・自然遺産の保存により地元の人達が不利益を受けるのであれば、それは社会が補償すべきと考えます。
4) 黒部ダムはどうするか
9月23日に高熱隧道(黒部第三発電所)を書きましたが、その上流にある黒部ダムは、黒部川の下廊下約7kmが失われ、自然が破壊されました。ダム屋から見れば、ダムの理想の地点とは、自然保護の観点からは、大規模破壊でしかなかった。
勿論、当時の価値観からすれば、自然保護は現在より価値がなかったのであり、それを現在の価値観で議論することは誤りです。但し、現在であれば、実現不可能なプロジェクトであったと私は思います。現在なら、黒部第三発電所の仙人ダムようにもっと小さいダムを建設したりし、黒部第四発電所がもっているピーク発電やアンシラリー・サービス機能は別途揚水発電所を作り、自然保護に努めたと思います。
黒部の太陽という映画は、黒部ダムの工事用機械を運搬するためのトンネル掘りの話を話題にしました。実は、難工事ではなかったも言えます。即ち、黒部ダムを、現在の場所に建設したのは、大町からたやすくトンネルを掘れるからでした。破砕帯にぶつかったが、グラウト(薬液)注入で対処可能なことでしたから、高熱隧道とはレベルが違うと私は思います。それが証拠に、ほぼ工期通りに完成したと理解します。
たまたま黒部ダムを言いましたが、時としてダムは大きな自然破壊であり、黒部ダムの場合は、国立公園の中で、しかもトラックが通れる道路がない箇所に無理矢理建設したダムだから自然破壊の度合いでは、極めて大きいと思うので例にあげました。
8. Tomo-No-Ura (Japan)
Considering that Tomo-no-Ura is recognized as a place of exceptional significance as it is a historic port town with temples dating from the 15th Century, merchant houses and streetscapes from the 18th Century, stone harbour facilities, and a relationship with the sea which has long been recognized as exceptionally beautiful,
Recognizing that the port, town and landscape of Tomo-no-Ura, as a unique ensemble of international significance, cannot be considered separately and that their conservation should embrace the visual environment, including the adjoining sea, the islands and mountain backdrop and consider the historical role of the port including its function, especially as part of the cultural route between Japan and Korea,
The 16th General Assembly of ICOMOS, meeting in Quebec, Canada, in October 2008 resolves to:
・ Urge the National Government of Japan:
- to suspend the authorization of the Tomo bridge project by the Government of Hiroshima Prefecture and the Government of Fukuyama City.
・ Ask the Government of Hiroshima Prefecture:
- to respect the value of the port, town and landscape of Tomo-no-Ura as a unique and inseparable ensemble,
- to withdraw its application for the authorization of the Minister of Land, Infrastructure, Transport and Tourism,
- to abandon the bridge building project and reconsider the alternatives that will not harm in any way this unique ensemble.
・ Ask the Government of Fukuyama City:
- to respect the value of the port, town and landscape of Tomo-no-Ura as a unique and inseparable ensemble,
- to withdraw its application for the authorization of the Governor of Hiroshima Prefecture,
- to abandon the bridge building project and reconsider the alternatives that will not harm in any way this unique ensemble.
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