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2010年3月29日 (月)

労働者派遣の完全自由化

3月19日に、労働者派遣法の改正が閣議決定されました。閣議決定案で、成立することが予想さますが、いっそのこと、完全自由化すると、どうなるのだろうと考えました。NikkeiBizPlusの記事と政府発表を掲げます。

3月19日 Nikkei BizPlus 登録型派遣を禁止 法改正案を閣議決定、製造業も

平成22年3月19日厚生労働省 発表 「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案」について

1) フレキシビリティー

派遣労働の一番の特徴は、フレキシビリティーであると思います。使用者と労働者の双方にあてはまるわけで、変化の激しい現在の社会に対応するには、派遣労働は好都合と言えます。近代化する前の社会の変化が小さい時には、10年以上の長期間をかけてその仕事に取り組みプロとして力を発揮することが社会のニーズでした。変化の激しい時代は、陳腐化からの脱却と新しいニーズへの対応が迫られます。

企業にとっては、変化に応じて、雇用を調整できる派遣は、ある面では好都合であり、派遣労働で対応できない部分は、直接雇用の労働者で対応する。労働者は、仕事のミスマッチを感じたら、自分にふさわしい自分の能力を発揮できる仕事に就けるチャンスが高くなる。また、ニーズに応じて、それまでの自分の経歴・経験を生かすと共に、次々と新たな資格、より高度な資格を取得していく。結果、社会の発展に繋がり、人々はより豊かな生活を手に入れる。

上記のようなことを考えるのですが、あまりにも絵空事で、秋葉原事件を知らないのかと言われそうです。

2) 問題点

一番の本題点は、古典的な部分で現在も続いている、労働者が弱いことと思います。労働基準法があり、労働組合法がある。これらの法律は、派遣労働を前提につくられていない。しかし、労働基準法や労働組合法がなかったら、無茶苦茶で、労働者保護は重要です。派遣労働については、使用者にフレキシビリティーが高くなっている分、労働者保護も厚くする必要があると考えます。

現在の日本について、デフレ経済とか、閉塞社会であるとか聞きますが、悪循環に陥っている気がします。生産を上げることができず、生活水準が上昇したことによる新規の需要が生み出されていない。人々は、将来の不安から、貯蓄をし、生活を切り詰める。派遣労働のみが、その原因ではないが、現在の派遣労働の仕組みが、低賃金・格差社会を生み出している一因にはなっていると思います。

逆に、派遣労働を高賃金労働であり、ゆとりある生活の方法として選択可能なように、少しずつでも変えていく必要があると思います。

3) 現状

労働者派遣法(正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」と長い名前で、閣議決定では、これを「・・・及び派遣労働者の保護等に関する法律」とほんの少し短くするようです。)は、1985年に公布された法律ですが、派遣労働そのものは、その前から存在し、派遣労働に関して適正な規制をすべく制定された法律です。例えば、マンパワー・ジャパンという会社は、Webを見ると、1966年の設立です。

労働者派遣法では、26業務は自由化されており、この26業務は閣議決定でも変更はありません。しかし、内容は、こんなの意味あるのかと思えます。26業務全て思えるのですが、例えば、次のような業務(番号は業務の番号です。)についてコメントしてみます。文章は、施行令の条文です。

(2) 機械、装置若しくは器具(これらの部品を含む。以下この号及び第二十五号において「機械等」という。)又は機械等により構成される設備の設計又は製図(現図製作を含む。)の業務

CADなんて今や特殊ではないと思います。
(5) 電子計算機、タイプライター、テレックス又はこれらに準ずる事務用機器(第二十三号において「事務用機器」という。)の操作の業務 PCを使わない事務作業は、ないと思います。
(7) 法人の代表者その他の事業運営上の重要な決定を行い、又はその決定に参画する管理的地位にある者の秘書の業務 特殊性なし。法制定前を引きずっているだけではないの?
(8) 文書、磁気テープ等のファイリング(能率的な事務処理を図るために総合的かつ系統的な分類に従つてする文書、磁気テープ等の整理(保管を含む。)をいう。以下この号において同じ。)に係る分類の作成又はファイリング(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とするものに限る。)の業務 私は、この業務の解釈に苦しみます。
(10) 貸借対照表、損益計算書等の財務に関する書類の作成その他財務の処理の業務 経理業務を自由化している意義はあるのか?

26業務とは、労働者派遣法制定前から派遣で実施されていたことから、既成事実や既定権利として認めることで、法が制定されたと思います。未だに、そんなことを引きずっていてよいのか疑問です。

なお、法4条と施行令2条に禁止業務があります。この中に、医師(へき地等を除く)が禁止業務となっています。大学が医師派遣するのは、派遣ではなく、医療機関との直接雇用としているのでしょうが、何か変と感じます。

4) 提案

十分に練り上げた提案ではなく、思いつきの提案であると考えてください。派遣労働を自由化します。その上で、業務を細分化して、取り決め、この資格で、この経験年数であれば、最低賃金○○円と決めれば良いと思います。例えば、貸借対照表、損益計算書等財務諸表の作成業務で、資格簿記1級もしくは同等以上で、経験年数10年以上、時給7,000円(交通費別、社会保険料50%使用者負担)を最低賃金のように定めるのです。製造業についても、NC旋盤精度0.05mmの技能で、経験年数10年以上時給6,000円とか。

そうすれば、派遣労働者もより高い賃金を目指して、資格を高めるべく努力すると思います。使用する方も、ニーズに合わせて、労働者を選定しやすくなる。派遣の賃金が上がれば、正規雇用の賃金も上がるかも知れないし、あるいは競争が激しくなり、下がるのでしょうか?でも、正規雇用で、長期に働いていることは、その企業の実態を深く理解していることと繋がり、より企業に貢献できるはず。従い、正規雇用の方が、高い賃金となると思います。逆に、低すぎると思えば、正規雇用の人も、派遣を選べば良いのです。なお、企業年金について、派遣の場合は、自己支払の確定拠出年金となるでしょうから、正規雇用の場合、後払い賃金としての企業年金部分は、労働提供時の賃金が安くなると思います。派遣労働は、短期間雇用が実態であれば、単価が高いのは当然です。

職業訓練校を充実するのです。内容は、大学ではないので、企業のニーズを優先させるのです。企業が欲しい業務・資格で、かつ派遣労働賃金の高い業務・資格に人気が集まると思います。それでよいのであり、税を投入すればよいと思います。公共事業やバラマキ政策より、長期的には経済効果があると思います。また、派遣労働が、不安定である側面があることから、仕事がなく就労できない時の、手当を職業訓練と組み合わせて、充実する必要があると思います。企業にとって、フレキシビリティーが高まることは、同時にその分、コストを下げることができることになるのであり、コスト低下分の一部を税とするか、失業保険とするか、名目をどうするかは別ですが、負担するようにすればよいと考えます。

そうは言っても、業務を細かく分類し、最低賃金を決めていくのは、容易ではありません。最低賃金が決まった業務から、派遣労働を自由化し、それ以外の業務は一定の時期を区切って禁止とすれば、細かい業務分類とその最低賃金の取り決めが進むと思います。また、最低賃金を決めて、このような制度をつくっても、悪徳業者はなくならないと思うので、監督体制の整備も重要と思います。

5) 期待される効果

2)で、景気刺激や格差解消の効果を書きましたが、男女の差がなくなりジェンダー問題解消にも多少は向かうと思います。同一労働・同一賃金の原則の拡充も期待できるし、正規労働者の長時間サービス残業からの解放にもなると思います。女性が出産して、復帰する場合に、現在よりも、復帰後に就任できる仕事の種類も多くなり、少しは高い賃金も得ることができるのではと思います。それからすると、スーパーのレジ係に応募が少なくなり、賃金は上昇し、スーパーは打撃になるのでしょうか?でも、スーパーにとってもデフレ値下げ競争より、全般的に所得が高くなり、価格と品質でよりよい物が売れ、経営が長期に安定する方が、よいと思います。

今の格差社会の現状は、勝ち組にとっても、休みが取れず、生活をエンジョイできない。高齢化社会は、高齢者も、自分の能力にあった働き方ができる社会でなければならないはずが、今の制度のままでは、高齢者を活用することができない気がします。高齢者が、それまでの経験を生かした仕事を、週に3日するといった働き方があってよいと思うし、そんな働き方は派遣労働の方が、つくりやすいと思います。

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NHKスペシャル 人体“製造”~再生医療の衝撃~

NHKスペシャル「人体“製造”~再生医療の衝撃~」を見たのですが、NHKの番組の作り方に疑問を持ちました。最近、このようなことばかり書いて嫌気がさしていますが、沈黙をしていると、気分がすぐれないかも知れず。

1) 幹細胞による再生医療

イラクで負傷した兵士に試験的に実施するのは、負傷が大きければ、そのような判断もあると思います。しかし、ガン治療で一部切除した胸の、豊胸もそうですが、美容目的で自分のお腹の脂肪から採取した幹細胞を注射して何10年という期間を考えても大丈夫だろうかとの気になりました。

たとえば、朝日 3月25日 性同一性障害、手術ミスで和解 大阪医大が慰謝料というニュースです。性同一性障害の女性(正確には「外観は女性」と言うべきでしょうか?)が、胸のふくらみを切除する手術を受けた。しかし、皮膚が壊死したとして、大阪医大に3300万円の損害賠償を求め、最終的に慰謝料330万円で和解が成立とのニュースです。性同一性障害であるからこそ、外観上も男になることを切望する。一方で、人体に傷を付けることにはなり、リスクなしとは言い切れない。

私は素人ですが、幹細胞の注射にも、リスクはあると思うのです。特に、従来なかった最先端医療であれば、そのリスクは高いと思います。命かかわるような重大な状態であり、高いリスクがあっても、最先端医療を採用すべきという場合はあると思います。しかし、「医療とは、本来は体が必要としないことを、実施することである。」と考えると、不必要な医療は避ける方が無難と思います。

2) 救世主兄弟

移植医療において、免疫抑制で問題を起こさないようにするには、遺伝子の型の一致が重要となります。遺伝子型の一致は、血の繋がった親子兄弟の間の方が、確立は高い。移植医療をしようとし、親子兄弟・登録済みドナーに一致する型がない時に、新しく子どもをつくって、その子をドナーにすることが放送されていました。当然、新しい子どもと言っても、一致する子どもは、簡単に生まれない。従い、人工授精して、多くの受精卵をつくる。受精卵が、ほんの少し分裂した段階で、遺伝子を調べ、一致が確認された遺伝子の受精卵を母親の子宮に入れる。他の受精卵は、捨てる。

生命倫理に関する問題だと思います。臓器移植法で、15歳未満に関する法改正で話題になったことがあります。臓器移植法は、脳死のことについてであり、生体臓器移植についてではありません。生体臓器移植の場合は、15歳未満であっても、生きている以上意思を持っているとも言えます。脳死以上に、倫理に関する問題があると思います。

番組では、米国は倫理問題については法で規制をすべきではないとの考え方で、自由であると述べていました。確かに、その一面はあります。一方、キリスト教ファンダメンタリストが多い国です。人工妊娠中絶絶対反対の意見であり、神の手による生命は、神が全てを決定するという考え方です。米国のことを単純化して考えると間違う恐れがあると思います。

日本は、生き方に関しては、多くの人が無宗教で、倫理観も高いと言えない人もいる。日本以外でも同じかも知れないが、無宗教と重なった時に、変な方向に行かないかなとも思います。

本来、医療とは不確実で、リスクがあり、副作用があり、やっかいな者かも知れないと思います。

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2010年3月27日 (土)

NHK追跡!AtoZ どう向き合う? がん“代替療法”

NHKが、3月20日に「追跡!AtoZ どう向き合う? がん“代替療法”」というのをやっていました。私は、見れませんでしたが、DIAMOND Online 3月26日のここに内容が出ていました。

基本的には、「がんに効くという代替療法は現時点ではないようです。これを踏まえたうえで私たちは代替療法と向き合うしかないのです。」との見地で作成されていると思うのですが、「手術、放射線治療、化学療法という3大治療を『補う』ということであれば研究によって有効性が示されています。」ともあり、『補う』とは、どのような意味で使用しているのか、疑問を持ちたくなる部分もあります。

そんな中で、気に入らない部分は、ありました。「今年、厚生労働省もようやく代替療法の研究に立ち上がりました。しかし、まだまだ十分ではありません。」とは、何を意味するのか、私には不明です。

例えば、厚生労働省のWebの無承認無許可医薬品情報があり、「いわゆる健康食品」による健康被害事例 もあります。これらは、このページにリンク元があります。厚生労働省がやっていないとは思いません。追跡!AtoZとは、悪意があるのかと思ってしまいます。

私は、このように考えています。医療とは、本来は体にふさわしくないことをするのです。しかし、悪い部分を治癒するためには、やむを得ず行う。あらゆる薬には、副作用がある。副作用を我慢しても、効能・効果を得るためにはやむを得ない。その病気、その時の病状、個人により異なってくる。だから医師が必要だし、検査等してモニターせざるを得ない。緩和ケアのようにQOLに多くの重点を置くのかどうかなんて、考え方だけではなく、病状やその人の生活によっても異なると思います。適切な医療は、個人・個人で異なる。従い、医師s(sは複数の意味)を必要とします。

「「代替療法」に頼る患者たちは、大きな悩みも抱えている。患者らを対象に開かれたセミナーでは、「インターネットで色々調べても、それがどこまで信用できるのか分からない」「良いとか悪いとか情報が色々ある。本当のところどうなのかを知りたい」などの不安の声が次々寄せられた。」と書いてあるのですが、それだったら医師に相談すれば良いではないのと思うのです。私が、理解できない世界があるのかな。

「いわゆる「代替療法」をいま、日本のがん患者の2人に1人が利用し、市場規模は1兆円に及ぶと言われている。」とあるのですが、ガン患者のみで1兆円なのか、食品のみか不明ですが、平成20年度の薬局調剤医療費が約5兆円です。従い、相当な金額なのです。

ところが一方で、3月21日の医療保険について誤解を生む読売新聞に書いたように、「がん治療費、年平均133万円…7割が負担感」と報道されているのです。何かが、狂っているような気もします。例えば、「国が代替療法の研究をすべきである。」と行っても、それは政府厚生労働省が税金で研究するか、中立的な機関が補助金・税金・寄附・健康保険金で研究することになります。そんな余裕があるのか、そのための税・保険料の値上げに賛同が得られるか、支出は最も効果・効率が上がるようにすべきですが、果たして代替療法の研究は、それに該当するのでしょうか?

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2010年3月26日 (金)

足利事件で菅家さんの無罪確定

菅家さんが、千葉刑務所から釈放されたのが、昨年6月4日でであり、10月近く経過し無罪が確定しました。本日の宇都宮地裁での再審判決公判において、最後に裁判長より、「自戒の意味を込めて謝罪をさせていただきます」と「謝罪の言葉」がありました。次の読売記事に全文があります。

読売 3月26日 足利事件無罪、裁判長の謝罪の言葉=全文

写真 あらたにす

好きでないのは、この朝日新聞にあるような、「強制的な調査権限を持つ第三者機関による原因究明と誤判防止策の検討が必要としている。」です。私が、知っている日弁連の声明は、次にありますが、3つの項目を掲げ、3番目には、「このような裁判所の反省を生かすためにも、誤判を生じさせた原因を徹底して調査する第三者機関をただちに設置すべきである。」と述べられていますが、「強制的な調査権限を持つ」とは書かれていません。マスコミの思い上がりと言うべきか、物事を深く考えることができないマスゴミの体質かとも思います。

日本弁護士連合会 2010年3月26日 足利事件再審無罪判決に関する会長声明

警察や検察は、強制的な捜査権限を持っています。強制的な権限を持つから、その反証についても、強制的に行えます。強制調査権が真実を生み出すなんて、そんな単純なことではありません。菅家さんに謝罪すべきは、裁判所、検察、警察や事件の関係者のみならず、弁護士も含め国民全員であると思います。

事件が発生したのは1990年5月であり、菅家さんの任意同行が12月1日で、その日のうちに自供、逮捕が1991年12月2日です。1993年7月に一審宇都宮地裁で無期懲役の判決があり、控訴。控訴審から弁護人をされた佐藤博史弁護士へのインタビューが2009年5月9日のあらたにすにありますが、読んでいて、教訓とすべきことは多くあります。

DNA鑑定の結果を正しいと判断した過ちがありますが、例えば、インタビューの中に「私は一審の弁護人から菅家さんは犯人であると直接聞いていました。・・・・・当時裁判所から選任されていた国選弁護人に電話したところ、控訴趣意書の提出期限が迫っているのに菅家さんと接見して事情を聞くことさえしていないことを知り、」との部分があります。そこで、控訴審から佐藤博史弁護士が弁護人を引き受けましたが、報酬なしの手弁当であったはずです。

婦人公論 2009年7月22日号に「足利事件「支える会」代表が語る 主婦の私がなぜ菅家さんの無実を信じ続けたのか 西巻糸子」という記事がありますが、菅家さんが、元気でやってこられたのは、支援する人々がおられたからだと思います。

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2010年3月25日 (木)

再生可能エネルギー買取制度(疑問あるNHKの報道能力)

経済産業省に「 再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」が設置されており、3月24日に第4回会合がありました。10月30日の太陽光発電からの電力買取48円が始まりますで書いたように、一般家庭からの太陽光発電については、48円/kWhで電力会社による買取が既に実施されています(家庭内で消費電力は対象外)。また、RPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法が、Renewable Portfolio Standard法として、RPS法と呼ばれています。)があり、電気事業者(卸電気事業者や特定規模電気事業者)が一定量の電力を再生可能エネルギーによる発電または購入でまかなうことが義務づけられています。(業者名や量はここを参照下さい。)

それなりに複雑ですが、太陽光以外はどうするか、固定価格買取制度が有効な最適手段か、電気料金のみでなく税方式など他のオプションを組み合わせるか、系統安定化対策はどうか、RPS制度は今後どうするか等々様々な課題・問題が存在します。詳細については、平成21年11月6日再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム(第1回)-議事要旨にあります。2010年3月を目途に中間報告をとりまとめ、制度のオプションを提示することとなっていますが、今後のスケジュールについては、ここにあるように3月31日にオプションに関する説明会を開催し、4月以降全国20数カ所での説明会も開催し、5月まで意見募集を行うこととしています。

1) NHK報道

NHK報道は、これでした。容易に比較ができるよう、日経読売産経毎日の新聞報道も続きを読むに入れておきます。(朝日は、発見できませんでした。)

NHKは、「4つの選択肢が示されました。経済産業省は、今後、国民の意見も聞いたうえで1つに絞り込む方針です。」と述べています。4つ以外にもあるはずと言いたいのです。また、細かい訳の分からないピンぼけ説明をしています。報道機関としては、失格と思いました。

また、NHKの文章には、「太陽光パネルは、現在、国などが補助金を出しても、設置には最低数十万円かかります。」とあるが、現在3.5kWの太陽光発電を家に設置するとこの資料のように200万円程度の支出となり、この国民生活センターの発表のように悪徳業者もいます。NHKの日本語は、いつものように言語明瞭意味不明であります。

NHKにお金を払わなくて済むように、自由契約にするよう放送法を改正することを望みます。

2) 経済産業省プロジェクトチームの試算

報道されているプロジェクトチームの試算はここにあります。これを見ると分かってきます。例えば、NHK報道の522円/月とは、既設、新設を含め全量買取とし太陽光以外を20円/kWhとした場合です。なお、これには、系統安定化費用が含まれておらず、74~561円/月の負担が増加し、最大1083円となります。

さらに、NHK報道の批判を続けると、522円/月が書かれているその右に一人年間13,403円と書いてあります。NHKは、夫婦と子供2人の標準世帯と述べているので、計算すると522x12÷4=1,566円です。実に不思議な計算と思われるはずです。プロジェクトチームの計算は正しいのです。電力は、産業でも使用されます。電気代が上がれば、物価全体も上がります。NHKのレベルでは、どうしようもない問題でしょうか?

報道の源となった資料があるので、各社の報道比較が可能です。NHK報道をどうおもわれますか?

3) 再生可能エネルギーの全量買取は正しいか?

全量買取は、電気事業者に義務づけるわけで、電気料金が確実に高くなります。RPS法は、量(実績ベースに基づく一定割合)を義務づけており、RPS法の方が合理的である気もします。太陽光と風力の間の競争も生じます。

太陽光の買取は、日本の太陽電池メーカの国際シェアが落ちたのが、日本に高値買取の制度がなかったことが原因であるとの理屈で始まったように思います。しかし、そうでしょうか?日本の太陽電池メーカが、コスト競争・性能競争で世界に負けたのではないでしょうか?競争力のないメーカを支援するお調子者になる政策を推進して良いのでしょうか?そのうち、日本に設置される太陽電池はほとんどが中国製や米国製その他外国製になってしまう気がします。

法制度の整備も進める必要があると思います。日本は、見事に後進国です。例えば、ほとんどの国では、風力発電に環境影響評価が必要ですが、日本はそうではありません。環境保全に対して、日本は整備されていないと私は思っています。間伐がされずに荒れた森林が多くなっていると聞きます。再生可能エネルギーの利用は、環境保全と両立するように進めるべきと考えます。そうすれば、素晴らしく、そうでなければ、悲惨です。

温暖化対策のために再生可能エネルギーの導入を拡大すると理解しますが、買取制度が再生可能エネルギーの拡大に果たす役割の評価も必要であり、買取制度で目標達成が可能ではなく、他の手段と組合せ、国民負担が最も軽くなる手段で実施すべきです。NHKは、「ことしの夏」なんて述べていますが、国民が決定することであり、徐々に取り入れていくことも可能です。

温暖化対策とは、温暖化があるレベル以上になると、その悪影響が生じる。放置するのではなく、対策を講じた方が、長期的には安くなる。また、化石燃料の枯渇問題の対策になるとの考えと思います。国民は政府が言う20%に縛られてはいません。20%達成の道筋を国民に説明するのは、政府の役割であり、どうするかは、国民の判断です。充分考えてみたいと思います。

なお、最後にプロジェクトチームの資料にある諸外国における買取価格を掲げておきます。

20103

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2010年3月24日 (水)

原子力発電の輸出

23日の日経には、「ゲイツ氏、東芝と次世代原発 私財数千億円投入も」という衝撃的とも感じられる記事がありました。

日経は、電子版を23日に創刊され、従来と少し異なっているようです。よく分かっていませんが、日経IDを取得すれば、無料で読める範囲が従来より広がっているように思えます。参考に2つのリンクを掲げます。

ゲイツ氏、東芝と次世代原発を共同開発

ゲイツ氏、東芝と次世代原発 私財数千億円投入も

日本からの原子力発電の輸出は、UAE向けでは韓国に、ベトナム向けではロシアに日本企業が敗退したことから、次の読売の記事のような、政府による支援強化が叫ばれたりしています。

読売 3月21日 インフラ輸出官民一体で…金融支援柱に推進原案

一方で反対論もあり、私としても考えてみたいと思います。

しんぶん赤旗 3月18日 原発推進 融資やめよ 政策金融公庫法 改定案で追及 佐々木議員

1) 安全性

しんぶん赤旗の記事に、「安全性、核兵器拡散、核廃棄物の問題」があると佐々木議員が指摘したとあります。第一番目の安全性についてです。

日本では、2007年7月16日の新潟県中越地震により、東京電力柏崎刈羽原発全7基のうち稼働中であった3、4および7号機の3基合計出力3,556MWが地震を自動関知して緊急停止しました。この際、規定を超える放射能漏れはなかったと認識します。国際原子力機関(IAEA)のこの2009年1月29日のNewsは、”The safe performance of the Kashiwazaki-Kariwa nuclear power plant during and after the earthquake that hit Japan´s Niigata and Nagano prefectures on 16 July 2007 has been confirmed, according to a IAEA report published today.”と言っており、2009年1月29日のReportは、見つけられませんでしたが、同ページからDownload可能な他のReportはあります。

一方、安全性が問題となる事故としては、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故と1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故があります。スリーマイル島の場合は、運転員が異常であることは認識できていたが、何がどうなっているのかは、分かっていなかったのです。原子炉の中は勿論のこと、放射能区域の中を人間が直接確認することができない原子炉特有の問題があります。

チェルノブイリ事故では、当然のことですが、放射能で汚染された物質は、人間が人為的に決めた国境を、無関係に超えました。また、大事故が生じた場合の、被害の大きさも、非常に大きいことを、あらためて認識させました。自国では、立法権が及ばずコントロールすることができない他国の事故で、被害を受ける可能性があるのです。

日本からの原子力発電の輸出に関して言えば、相手国が安全確保を法的な面、建設の面、運転の面、その他で十分に確立することができているかは、重要と考えます。できていなければ、当該国および国際社会に働きかけて、確保するようにしなければならない。これは、民間企業に義務付ける事項ではなく、政府が行うべきと考えます。

2) 核兵器拡散

原子炉の中では、プルトニウムが生まれます。日本には、広島と長崎に原爆が投下されました。広島は高濃縮ウラン爆弾で、長崎はプルトニウム爆弾でした。長崎の原爆に使用されたプルトニウムは、原子炉で製造されたのです。日本で稼働中の原子炉であるPWRやBWRで生まれるプルトニウムは、直ちに原爆に使用可能な物質ではないものの、転用されるリスクは皆無ではありません。

日本は、核兵器不拡散・縮小を、重要な課題として取り組んでいます。この平成22年1月の外務省の日本の原子力外交概要にも、次の文章があります。

原子力は、軍事目的への転用の可能性や一国の事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得るという特性を有しています。また、特に9.11米国同時多発テロ以降は、国際的に核テロ対策への関心も高まっています。このため、原子力の平和利用、特に原子力発電を行う国は、国際的な信頼性と透明性の確保の観点から、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティを確保することが求められています(この3要素は核不拡散の代表的な措置であるIAEAの保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)及び核セキュリティ(Security)の頭文字をとって「3S」と称されています。)。我が国は、原子力の平和利用には3Sの確保が大前提となるという立場を貫いており、これを基本方針として、二国間及び多国間の原子力協力を推進しています。原子力の平和利用に関する国際原子力機関(IAEA)も、「3Sの重要性」を強調しています。

近年、原子力利用の拡大に伴い、IAEAを中心として、核不拡散と原子力の平和的利用の両立を目指した様々なイニシアティブが活発に検討されています。このような中で、拡散抵抗性の高い原子力技術の開発や核不拡散と両立する制度の構築への関心が高まっており、我が国も積極的に貢献しています。

IAEA事務局長には、前外務省不拡散・原子力担当大使の天野之弥が昨年12月1日に就任しています。原子力の輸出は、政府が融資をすれば済むのではなく、核不拡散に向けた取り組みを政府として相手国に積極的にしていくべきと考えます。

3) 核廃棄物

日本でも、あまり進んでいない部分と思います。原子炉を運転すれば、核廃棄物は増加する。放射能汚染区域で作業をした作業員の服も放射能汚染物質であり、核燃料中では微量でしょうが、半減期1570 万年のヨウ素-129も生成される。半減期1570 万年とは、1000年経過しても、放射能レベルは未だ0.99996であり、1からほとんど減少していません。

日本では、高レベル放射性廃棄物は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律により経済産業大臣が、最終処分計画を定め、原子力発電環境整備機構が実施することになっていますが、ググってもこの計画が出てこないので、未だ定められていないと思います。

原子炉のメンテナンスをすれば、それなりに核廃棄物は発生し、解体すれば、どっさり発生する。ゴミ屋敷には、ならないのでしょうが、核廃棄物の処理方針を決めずに突っ走るのは、嫌な気がします。

実は、それでも日本は、核燃料サイクル方針を推進しており、原子炉における使用済核燃料は、核廃棄物ではなく、新たな核燃料資源であるとしています。米国は、使用済核燃料を核廃棄物であるとしており、国によって、ゴミになったり、資源になったり、複雑です。

日本には、幾らプルトニウムがあるのかと調べても、次の原子力委員会の平成20年年報資料とその下の電気事業連合会の資料では、数字が違ったりします。重量を考えても、核燃料にはウラン235は3%しかなく、使用済み核燃料中にはプルトニウムは1%程度。何をどう考えるか、複雑です。

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核廃棄物については、Webで探してもほとんど情報が見あたりません。原子力発電の輸出を支援するなら、日本国内の情報開示を適切にして、手本を世界に示す。その上で、原子力発電を導入しようとしている国に対しても、核廃棄物処理の重要性を説得すべきと考えます。

4) 原子力発電の輸出支援

支援すべきと考えます。何故なら、日本政府の支援の有無とは拘わらず、導入する国は導入すると思うからです。むしろ世界をリードすべきであり、そのために国内の情報開示も正しく実施すべきです。

米国で、40年ぶりに原子力発電再開の動きが出てきています。理由は、CO2でも環境でも、安全性でも、何でもなく、化石燃料価格が上がってきたので、原子力が経済的に有利になったことと理解します。

原子力が本当に良いのかどうかは、分からないと思っています。そんな単純ではないはずです。例えば、安全性確保が最大の理由でしょうが、出力一定運転をしており、スマートグリッドで電力を頻繁に売買してとは行きません。日本では、揚水発電と組み合わさり、火力発電と連携して効果を発揮しています。

平成22年4月1日以後開始する事業年度から資産除去債務に関する会計基準が適用されます。この会計基準は、原子力発電のように、その資産の使用を中止した以後に発生する費用について、資産の使用中から除去に関する債務を認識し、費用を割り振っていこうとする考え方です。

世界は、原子力発電ぬきで進まず、否が応でも、取り組んで行かざるを得ないのだろうと思います。その場合に、今のように、臭いものに蓋をして、見ざる言わざるで進めたら、失敗する可能性がある。情報開示をして、進めるべきと考えます。例えば、政府のWebを見ても、核燃料サイクル推進とあるが、何故かという納得できる理由は書かれていません。逆に言えば、何故米国は180度方向が違うのかの納得できる説明です。同じ、地球上での選択です。原子力の放射能漏れは国境を越えるのであり、国毎の政策より、国債連携・国際協力が重要と考えます。

最後に、ビルゲイツ氏・東芝の原発開発ですが、やはり私には難しすぎて、評価できません。

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2010年3月21日 (日)

NHK特集 “暗闇の世界”で生きられますか

本日のNHK特集が、「命をめぐる対話 “暗闇の世界”で生きられますか」を放映していたからと思いますが、このブログで2008年10月 8日に書いたTV報道の素材負け? 人工呼吸器の取り外しにアクセスを頂いております。

NHK特集は、50分番組であるので、「素材負け」とするには酷で、それなりに取り上げていました。但し、問題を本当に掘り下げることができたのか、このブログで1年半前に取り上げた問題を、さらに新たな観点で、映し出したかは、私にとっては、疑問が残ります。

1年半前に、どうであったかの自信はないのですが、現在は在宅医療で使用できる人工呼吸器があります。在宅医療の良い面は存在します。一方で、在宅医療を支援する体制ができていることが必要です。肺炎等になり緊急に入院をする必要が生じることもあります。また、人工呼吸器は機械であり、故障することもあり得ます。

医療とは、多くの事項が絡み合っています。例えば、NHKは患者と共に生きる暖かい家族を取り上げていました。しかし、現実には、全てが常にそうとは限りません。人間のドロドロした部分が出てくることもあります。一方、他の先進国では、どのようになっているでしょうか?参考とすべき点はどうか、実は、多くを知りません。そして、宗教観も関係すると思います。

だから私は言います。NHK特集は重要なことを取り上げました。しかし、「NHK特集が取り上げたことが、全てではない。」このブログで書いた中では、最高裁による上告棄却の2009年12月 9日の川崎協同病院事件医師有罪確定も頭に浮かびます。

医療は、幸せな一生を過ごすための手段です。目的ではありません。よりよい幸せになるように、育てていくべきと思います。

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医療保険について誤解を生む読売新聞: 医療、医療費、医療保険を考える(その11)

「医療、医療費、医療保険を考える」のシリーズを書いていると、どうしても、触れておかないとと思ってしまったのが、次の記事です。

読売 3月20日 がん治療費、年平均133万円…7割が負担感

1) 高額医療費の保険請求

通常は医療費の30%が自己負担であり、70%が保険から医療機関や薬局に直接支払われます(後期高齢者は10%負担、90%保険)。しかし、一定額を超えると、超えた超過額は、申請により患者に支払われます。従い、一定額以上の自己負担は、一時立て替えになりますが、実質負担はありません。

そこで、この一定額とはいくらかですが、所得や年齢により差があります。そして、一定額には、差額ベッド料は含まないが、介護保険の自己負担額を含みます。次の平成21年8月掲載の政府広報オンラインをご覧下さい。

政府広報オンライン 医療費・介護費の自己負担を軽減します。「高額医療・高額介護合算療養費制度」

夫婦ともに75歳以上の2人世帯の場合は、高額医療・高額介護合算療養費制度の自己負担限度額は年間56万円です。(市町村民税非課税であれば31万円で、現役並み所得者の場合は67万円)

但し、ここに書いた金額は合算の場合であり、医療費のみの場合は、一定額(自己負担額)は低くなります。また、一定額はこのWebの説明のように月額で決まっているので、高額医療費の請求は月額で超過すると請求し、支払を受けることができます。ここに書いた金額は上限であり、実際にはもっと少額となることもあると理解下さい。

2) 実態

実は、1)の高額医療費の保険請求をご存じない方も多いのではと思います。多くの方は、医療費が高額となり、問い合わせをして、制度があることを知ることになる。健康であれば、医療保険なんて気にしません。

もしかしたら、3月17日の企業健保の保険料率上げ:医療、医療費、医療保険を考える(その10)は、高額医療費が給付されていない状態であり、申請が制度通りになされると保険料は更に高くなるのでしょうか?実態は、私も分かっていませんが、保険事業者が各人毎の医療費額を把握しているので、申請がない場合は、申請を勧めるとと思うのですが。

あるいは、医療費自己負担限度額は年間56万円の人が、133万円負担しているというのは、差額ベッド料に77万円支払っているのでしょうか?記事の中に、健康食品などにと書いてありますが、健康食品に77万円支払っているのかなと思います。

日本の医療保険は、強制保険であるが故に、効果が不確実である治療には保険が適用されません。もし全てを認めるなら、保険料は無限に高くなります。一方で、有効な治療については、積極的に保険適用を認めることとしています。ガンに有効な健康食品があるなら、医薬品としての手続きを踏んで、有効性が確認できれば、保険対象とすることが可能です。

3) 読売記事の弊害

直前の大淀病院事件の請求棄却判決を読むで書いた、「インターネット(や毎日新聞等)の掲載だからといって、閲覧者が信頼性の低い情報として受け取るとは限らない--。」のように読売新聞を読んで、誤解する人も出てくると思います。

報道するなら、高額医療・高額介護費用の保険請求制度を伝え、かつ健康食品についても正しく伝えるべきと考えます。

また、損保や生保の医療保険がありますが、これらは所得保障保険と考えるべきと思います。従い、年金生活者であれば、不要であり、保険に入らずに、その保険料を入院時の差額ベッド料その他雑費にとっておいた方が賢いと思います。なお、患者の希望がない場合に、病院が差額ベッド料を徴収することは禁じられています。

読売の記事は、情報源としてあるNPO法人の名前をあげていますが、そのことにより読売の責任が軽くなることではないと考えます。政府や自治体、独立行政法人による発表であれば、単純に扱うことも構いませんが、このNPO法人のようなXXX機構なんて、あたかも独立行政法人のような名前を付けているNPO法人を、私は好きではありません。

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2010年3月19日 (金)

大淀病院事件の請求棄却判決を読む

3月3日に大淀病院民事訴訟判決を書きましたが、判決文が裁判所Webで公開されました。次の所からDownloadできます。

大阪地方裁判所 第17民事部 事件番号 平成19(ワ)5886 平成22年03月01日 損害賠償請求事件 棄却判決

1) 判決の結論

判決文の40ペ-ジに、次のように書かれています。

6 結論
以上のとおり,被告D医師らにCT検査を実施しなかったことについて過失を認めることはできず,仮に過失を認めたとしても,Cが死亡したこととの間に相当因果関係があるということもできない。結局,本件においては,Cに脳出血があってからの経過が急激であるため,産婦人科,脳神経外科,麻酔科が完備した病院で分娩をし,緊急の対応が可能であった場合でない限り救命できなかった,あるいはその条件が揃っていたとしても,救命できたかわからない事案であったということができる。したがって,原告らの各請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
よって,原告らの各請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

D医師とは、大淀病院の産科医であり、民事裁判で損害賠償を求められていることから被告D医師となっています。刑事被告人ではありません。Cとは、妊婦で亡くなった高崎実香さんです。

どのような民事請求を行ったかは、1ページの事案の概要にありますが、大淀病院と産科医に対して連帯して高崎実香の夫に4728万円および子に4078万円の合計8806万円の損害賠償を求める裁判でした。

2) たらい回し事件(18病院受け入れ拒否)

この事件は、たらい回し事件としてマスコミに報道されました。本当にたらい回しがあったのか、判決文を読みました。

A) 他病院への転送決定

16ペ-ジですが、次を読むとよく分かります。脳に異常がある可能性を認識すると同時に、産科医は対処不可能であると判断して、転送を決定しました。妊婦の治療と帝王切開を同時にするには、大淀病院では不可能で、2つの命を失う危険性があったのですから。

E医師は,午前1時50分ころ,陣痛室に駆けつけCを診察した。血圧,呼吸状態は安定していたが,瞳孔は散大し,右の対光反射は消失し,左の対光反射をわずかに認めるのみであった。E医師は,こうした所見や約1時間30分意識消失状態が続いていることから,脳に何らかの異常を来しているものと考え,被告D医師に対し頭部CT検査を行って脳の状態を調べるかを尋ねたが,被告D医師は直ちに転送したほうがよいと考え,受入依頼を連絡するために,陣痛室を出て電話があるナースステーションに向かった。陣痛室ではE医師とH看護師,F助産師がCの観察にあたった。

E医師とは、当直の内科医です。

B) 奈良県周産期医療情報システムに則って,奈良県立医大に電話

ナースステーションで直ちに電話をしました。

被告D医師は,午前1時50分ころ,奈良県に導入されている奈良県周産期医療情報システムに則って,奈良県立医大に電話をかけ,Cの受入れを依頼した。奈良県立医大では,満床であり,受け入れることができなかったため,他の病院を探して見つかった時点で連絡するとのことであった。被告D医師のそれまでの経験では,搬送先は長くても1時間程度で決まっていた。

C) 受け入れ先決定に時間を要した

受け入れ先決定までの間の出来事を抜き書きすると次の通りです。

Cの父が以前大阪市消防局に勤務していたことがあり,携帯電話で大阪市消防局の救急隊に電話をかけて,数か所の病院の電話番号を聞き,被告D医師に伝えた。被告D医師は,奈良県立医大を通じて搬送先を依頼していることから,別のルートで搬送先を探すことに消極ではあったが,家族から強い依頼を受けたため,救急隊から聞いた病院数か所に電話をかけたが,いずれも断られた。

被告D医師は,原告AやCの家族からの要請を受けて,また奈良県立医大に電話をかけ,奈良県立医大での受入れを依頼したが,やはり奈良県立医大では受入れができないとの回答であったものの,県立奈良病院に直接依頼の,電話をかけると受け入れてもらえるかもしれないとの情報を得た このため被告D医師は,県立奈良病院に電話をかけて受入れを依頼したが,応じてもらえなかった。

D) 国立循環器病センターでの受け入れ決定

国立循環器病センターでの受け入れは、午前4時30分ころ決定し、奈良県立医大から連絡があり、待機していた救急車で、被告D医師,F助産師,原告の夫ら同乗し、午前4時49分出発しました。国立循環器病センター到着は午前5時47分。

そのころ,国立循環器病センターでは,大阪府立母子総合医療センターから,次いで,奈良県立医大から相次いで,Cについて子癇の救急患者であるとの連絡を受け,受け入れることを決め,その旨の連絡が大阪府立母子総合医療センター及び奈良県立医大から被告病院にされた。

救急車に乗ってあちこちの病院をさまよったわけではありません。危険な状態であることを認識し、救急車に乗せるより、転送先病院が決定するまでは大淀病院で見守っています。

3) マスコミのレベル

マスコミの記者は国語ができない。それのみならず、編集部の人間も無茶苦茶と思います。ビジネスなら、こんなことをしていたら、商売がなくなります。2)に書いた状態を「たらい回し」と表現するマスコミです。

事件は2006年8月8日早朝の出来事です。報道されたのは、2月あまり経過した10月17日です。奈良県周産期情報システムが機能しなかったことを報道し、その背景や原因を探るのが報道の使命のはずです。2月経過して速報の意味はなかったはずです。フォーカスの当て方や、社会に対する報道姿勢が変だと思います。

「続きを読む」をクリックすると、2006年10月当時の新聞記事が出てきます。どう感じるか読んでみてください。

それからすると本日の毎日の社説も面白いです。社説:ネット中傷有罪 「無責任さ」への警鐘だは、「インターネット(や毎日新聞等)の掲載だからといって、閲覧者が信頼性の低い情報として受け取るとは限らない--。」と括弧のアンダーライン部分を追加しましたが、このように追加して読むのが正しいと思えてしまいます。

続きを読む "大淀病院事件の請求棄却判決を読む"

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韓国ブームと貿易統計

日経が「世界に躍進する韓国企業に学ぼう」というタイトルの社説を掲載したことから、韓国でも話題になっているとのこと。Nikkei Net IT Plusには、趙章恩氏が書いた次の記事がありました。

3月18日 日本の「韓国企業に学べ」ブーム、韓国の反応は・・・

次の「韓国と一緒に手を組んで世界市場を攻めてみよう」は、重要と考えます。

韓国では以前から「反日」ではなく、日本を超える経済大国、文化大国になる「克日」をすべきだとされてきた。日本を追い越すキャッチアップ戦略は、今もまだ進行中である。日本が急に「韓国はすごい」「韓国を学ぼう」と言い出すよりも、「韓国と一緒に手を組んで世界市場を攻めてみよう」と言ってくれる方がうれしい。

韓国は、人口4860万人で、国土面積98千km2なので、人口密度は496人/km2であり、人口で日本の約1/3弱、人口密度は日本の1.5倍という国です。日本と比べると国内マーケットが小さく、経済発展を遂げるには世界に出て行くしかなかった面があると思います。分断国家であることと関係が深いと理解するが、軍事費もGDP比2.5%を支出している。また、在日の方が60万人以上おられるが、それ以上に中国に2.4百万人、米国に2.1百万人、ロシアに50万人以上と国外に居住する人々が多くいることも特徴です。

1997・98年のアジア通貨危機では、IMFの支援を受け入れざるを得なかったが、見事に立て直しており、同じ時期から現在に至る経済成長では、日本とはあまりにも対比的です。勿論、日本が成熟期に達しており高度成長が望めないという状態にありますが、韓国のバイタリティーを見ていると、日本が取り残されそうな気がします。しかし、韓国の成長の陰には日本があり、両国が互いの強み・弱みを生かし、補完し、協力することにより将来の発展があると思います。

貿易統計の面から見てみたいと思います。

1) 2009年輸出相手国第3位韓国

2009年の輸出は、 財務省貿易統計によれば54兆1706億円でした。これを相手先別にグラフにしたのが次です。

2009tradeex

2) 2009年輸入

2009年の輸入についても、見ておきます。燃料や資源の輸入相手国であるオーストラリア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦を除けば、やはり韓国が中国、米国に次ぐ順位です。但し、韓国との貿易は輸出4.4兆円に対して、輸入2.1兆円なので、輸出が2倍以上です。

2009tradeim

3) 日本の貿易主要相手国

燃料や資源の輸入原産国を除けば、中国、米国、韓国、台湾であり、中国の数字に香港も加えて、2009年の輸出入額をグラフにしました。

2009tradebalance

貿易額がどれくらいかと言うと、「コンクリートから人へ」とのことで、公共事業費を減らしていますが、2009年度予算は7兆701億円で、これを2010年度の予算案では5兆7731億円となっています。この数字と上のグラフの数字を比べてください。貿易とは、経済に与える影響が大きいことが分かります。

なお、2009年の日本の名目GDPは、474兆2188億円でした。輸出はGDP比11.4%となります。韓国は、2008年輸出GDP比31.9%で、4330億米ドルなので、外国貿易が産業に占めるウェイトが高い貿易立国となっています。

4) 日本の貿易

円高為替で、輸入が良くないと言われることがありますが、決して、そんな単純ではありません。次のグラフが、2009年の毎月の輸出入額です。輸出入とも増加しており、輸出の増加の方が大きいのです。

2009tradem

最後に、中国、米国、韓国、台湾向けの2009年月別輸出額の推移グラフを掲げます。

2009trade4cm

これらのグラフを見て、先行きが暗いとはあまり思えません。やはり、日本は貿易立国ではないか。但し、高度成長期の加工貿易の時代は終わっています。近隣諸国を始め、世界の国々と共存していく中で、日本がどのような貢献をしていくか、高い貢献をすることが高い価値を相手が認めてくれることです。そうすることにより、繁栄があると思います。 

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2010年3月18日 (木)

還付金付き消費税

前回の「企業健保の保険料率上げ」の中で、還付金付き消費税なんて、変なことを書いたので、少し触れてみます。

1) 政府から国民への給付金

税は国民が政府に払います。納税であり、金銭で納付します。逆に、政府が国民に支払ったら、どうなるか。子ども手当で、実施するので、できなくはありません。

2) 消費税

現在消費税は4%(で地方消費税1%と併せて5%)であり、平成22年度予算では9兆6380億円です。ちなみに、平成21年度予算では、1兆130億円でした。消費税1%は、約2兆5千億円の税収に相当します。

3) 還付金付き消費税

仮に、消費税率を10%アップするとします。そうすると25兆円税収が増加すると期待できますが、例えば国民1人につき5万円還付します。そうすると、人口1億2千5百万人として6兆2500億円を還付するので、実質の増税は18兆7500億円です。徴収しておいて、バラマキをするのは、意味がないと言える部分があるが、18兆7500億円の税収増が残ります。

いずれにせよ、計算結果を見る方が早いので、結果が次の表です。こども手当の計算に使用した金額を使いました。即ち、手取金額から消費税が対象となり、更には家賃やローン返済や各種保険料のような非課税支出が存在します。どのような前提の金額を置いたかは、表を見てください。なお、消費税の還付金は一人5万円とし、4人家族を想定しました。(クリックで拡大表示されます。)消費税の計算は、110%で割り算をして、10%を掛けています。

20103a 

還付金があることにより低所得者の負担が軽減されていることにつきるのかも知れません。生活保護手当をどうするかですが、調整すればよいのです。従来から、生活保護費は消費税を考慮して決めていたので、消費税率を上げれば、生活保護費も上げる必要があったのですが、還付金があれば、相当額の減額調整を行えば良いのです。

4) 消費税アップの使い道

幾らでもあるはずですが、やはり国債の償還、基礎年金の補填、医療保険の補填のような生活に密接に関係した部分を優先すべきと思います。何故なら、消費税は、事業者が負担するのではなく、消費者が負担するのであり、消費者・国民の為の年金や医療制度の維持を優先すべきと考えます。健康保険や医療保険の制度維持ができれば、多くの人が安心して住める社会になると考えます。

5) 納税番号制導入

番号制の導入が、どうしても必要と考えます。何故なら、還付金の管理は非常に重要になるからです。

現在付加価値税(消費税)が多くの国で導入されていますが、ほとんどは日本と異なり伝票方式と理解します。付加価値税(消費税)は、事業者が売り先に対する代金とともに徴収し、納付しますが、納付に際し、仕入れの際に支払った付加価値税(消費税)が控除されます。その時に、伝票の保管が義務づけられるのです。日本でも、消費税法30条において伝票の保管や帳簿の記載が求められています。

納税番号制があれば、仕入れ業者の納税番号を電子データで入れることにすれば、他の業者の脱税が露見しやすくなります。税務調査なんて、あまり歓迎するものではありません。疑わしい場合に、限るべきと考えます。そのためには、露見しやすい制度を取ることにより、公平性の確保にもなり、効果的で、気持ちもよいと考えます。

手続きが煩雑になる可能性はありますが、免税事業者や簡易課税制度は、金額制限の見直しは必要かも知れないが、制度としては残せばよいと思います。

6) 代替案

銀行の利子収入は非課税売上であるため、非課税売上に対応する仕入れ税額ができません。そのため、消費税率アップは、銀行業にとっては、利益減少に繋がります。もっとも、仕入れに相当する預金の方も消費税非課税であるので、建物を含め、一般管理費に関する部分ではあります。但し、還付金付き消費税に限定されるのではなく、消費税であれば、同じ結果です。

消費税アップなんて望むところではありません。消費税アップするなら、高額所得者の所得税率アップもあってよいと考えます。つい10年少し前の1999年までは、所得税の最高税率は3000万円以上が50%で、住民税も15%でしたから、高額所得者は15%減税の恩恵を受けています。一方、低所得者は、減税なしで、逆に消費税の負担が増加し、医療保険料が高くなり、可愛そうな者です。

平成22年度予算の国債発行収入は44兆円ですから、消費税率にすれば20%近くになるのでしょうか、大変な金額です。勿論、一度に返済するのではないが、発行残高1000兆円の国債を利率年3%として50年均等返済を考えると年間38.8兆円になります。平成22年度は、普通国債残高637兆円で、利払い額9.7兆円で済んでいますが、リスクがあることは間違いないと思います。

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2010年3月17日 (水)

企業健保の保険料率上げ:医療、医療費、医療保険を考える(その10)

次のニュースがありました。

日経 3月16日 企業健保、保険料率上げ 日産やイオン、高齢者医療が重荷

記事は、「日産の健康保険組合は3月分から料率を7.28%から8.02%に引き上げ、イオン健康保険組合も8.4%から8.8%への引き上げ」と報じています。また、NEC、大日本印刷など、他の大手企業でも09年度に続き、料率引き上げに動く健保が目立つと述べています。

1) 健康保険組合

健康保険組合とは、健康保険法の下で、常時700人以上の従業員がいる企業、または同種・同業の複数の企業で3000人以上の従業員がいる事業所において、事業主の申請によって厚生労働大臣の認可を得て健康保険組合を設立されます。2009年7月1日現在で健保組合数は1484ありました。

健康保険法には、もう一つ政府により出資された全国健康保険協会(協会けんぽ)があります。当然のことですが、健康保険組合の方が、例えば、保険料率を自主的に決定できたり、付加給付のメニューを追加したりして、自由度が少し高くなると言えます。企業により、保険料率に違いがあります。

協会けんぽの平成22年度の保険料率は、ここにあり、平均9.34%です。協会けんぽの保険料率より高い料率適用となる健保組合は、解散に向かうことになります。(1年前のニュースですが、2009年3月27日 健保8組合が解散 保険料率高でメリット薄れ

2) 保険料率の将来予想

民主党は、後期高齢者医療制度の廃止と医療保険の統合を掲げており、次のグラフは、現状を維持した場合の、将来の保険料率の予想です。実線と破線の2種類のグラフがありますが、実線は国庫補助金、都道府県・市町村負担金が現状の金額で維持された場合の保険料率です。破線は、医療費総額の増加に伴い、保険料の増加と同率で、税負担も増加した場合です。

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このグラフは、一人当たりの医療費増加はないものと仮定しています。但し、医療費総額は、増加するとしました。一人当たりの医療費増加がないにも拘わらず、医療費総額が増加する理由は、高齢者の増加です。即ち、年齢層別の医療費を現状維持で考えたからです。

上のグラフの保険料率は、雇用者負担額との合計なので、実際の個人負担は、原則この2分の1です。企業から見れば、従業員に支払うのも、健保組合に支払うのも、人件費としては全て合算した金額です。企業にとってコスト増であり、そのカバーのために給与を抑えようとするか、派遣・非正規に向かうかも知れません。

3) 後期高齢者保険

2)のグラフにおいて、年齢層別の医療費を現状維持で考えたことは、別の言い方をすれば、上のグラフの保険料率の増加は、被保険者の医療費の増加ではなく、高齢者の人数が増加したことに伴う、増加です。次のグラフは、2)のグラフの茶破線の健保組合保険料率の内訳を示したものです。

20103medinsurance2

収入は増加しない。健康保険料が、外部の人である後期高齢者のために増加する。そんな状態になると勤労意欲すらなくしてしまうのではと危惧します。

後期高齢者医療制度は、導入された際に、高齢者から負担増に対して反対がありました。しかし、負担者が大きいのは、健保組合、共済組合や協会けんぽの被保険者です。

4) 将来の方向

健康保険の料率は、税金のように給与所得控除や基礎控除等の所得控除がなく、給与金額にかけ算をするので、負担を重く感じます。しかも、後期高齢者の医療の為に、負担増となります。健康保険制度を統合して、保険料と税負担を合理的に設計し直さないと破綻する危険性を感じます。

増税せざるを得ないと思います。公平な増税をしないと支持されない。そのために、絶対必要なことは、番号制の導入です。番号制がないから、3)のグラフのように、勤労者に全ての負担が回る。還付金付き消費税のような還付金制度を導入するなら、番号制にしないと公平が保てないはずです。朝日 3月16日 「共通番号制」賛否割れる 朝日新聞世論調査は朝日の世論調査結果として「職業別では事務・技術職層と製造・サービス従事者層で賛成が多め、自営業者層と農林漁業者層で反対が多めだった。」と述べています。勤労者に負担を押しつけることでは、解決しないはずです。

番号制において、プライバシーが保護できないというのは、変な話です。欠陥法律を作ることを前提としているか、現在に満足しているように思えます。

米国では、最終的にどのようになるかまだ不明ですが、米議会で医療保険改革法案が審議・採決されようとしています。それでも、米国の問題として残るのは、医療費の多さです。2月1日の日米比較:医療、医療費、医療保険を考える(その6)で書きましたが、米国の一人当たり2007年医療費は7,416ドルですから90円で換算して、667千円なので、日本の267千円の2.5倍です。日本が、現状の医療費水準を維持することが容易ではなく、上のグラフより更に増加するのは、ほぼ確実と思いますが、米国ほどは高額にしないように、対処しないといけないと思います。

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2010年3月13日 (土)

こども手当衆院厚生労働委員会で可決

こども手当は衆院厚生労働委員会で可決とのことですが、複雑怪奇であります。

日経 3月12日 衆院厚労委、子ども手当法案を可決

何が複雑怪奇か、書き続けます。

1) 16歳未満の扶養控除廃止

「子ども手当の支給に関する法律案」は、これから衆議院本会議にかかるわけですが、既に「所得税法等の一部を改正する法律案」が3月2日に衆議院で可決され、成立確実となっています。この所得税改正法案で、控除対象扶養親族が「扶養親族のうち、年齢十六歳以上の者をいう。」と定義されています。

子ども手当は、15歳に達した以後の3月31日までの者が対象であり、基本的には、こども手当を受領していれば、所得税の扶養控除の対象外となります。

扶養控除がなくなる見込みなら、子ども手当に賛成せざるを得ない。変な話で、複雑怪奇です。

2) 児童手当との関係

児童手当との関係も、スッキリしません。子ども手当法案の第20条なんて、読み返しても、さっぱり分からなかったりします。子ども手当は、政府負担としながら、児童手当の地方自治体負担を継続させたかったから、こんな訳の分からない文章を書いたのだと思います。

いずれにせよ、3月分で児童手当がなくなり、4月から子ども一人月13千円と思えばよいのです。

但し、実は、子ども手当法案の第7条2項が「・・・、平成二十三年三月(・・)で終わる。」となっているので、平成22年度のみです。最も、当然それ以降も視野に入れているが、それならそれで、十分検討した法案を作ればよいのにと思います。

3) 収入増?収入減?

児童手当は3歳未満1万円で、3歳以上5千円であったから、月7千円・年間84千円の収入増と考えてしまいますが、扶養控除がなくなることを考えると、単純ではありません。そこで、子ども二人で、給与所得のみと前提をおいて、収入増となるのか、収入減となるのか計算をしてみました。(クリックすると表は拡大されます。)

20103 

給与総額が15百万円以上の人は、収入減となりました。理由は、所得税が33%で計算された場合、扶養控除がなくなることにより一人当たり125.4千円の増税で、同じく住民税が33千円、合計158.4千円ですから、子ども手当156千円(13千円x12)より大きくなるのです。

給与総額が8百万円の人が収入減となっていますが、理由は、子ども手当の実質増加額が156千円ではなく、60千円(5千円x12)との差額である96千円であり、税率20%が適用されると109千円の増税となり、増税の方が大きくなります。

所得制限のあり・なしの差と超過累進税率がなせる結果です。これで、とやかく言っても仕方のないことかも知れません。

4) 来年はどうするか

民主党は、扶養控除の廃止は2011年からだと言うのでしょうね。しかし、こんなに増税をして良いのかと思います。即ち、国債発行イコール増税のはずです。インフレがないので、税の自然増はなく、インフレになれば金利上昇に伴い、国債利払い額が増加する。もう政府財政は破綻しているはずで、バブルの破裂を待っているのが現状ではないかと思います。

増税無くして、子ども手当の増額はなく、財源があれば、子ども手当ではなく、政府が実施すべきは保育園の充実であり、より重要と思います。何故なら、競争原理のみで簡単に整備できると思わないからです。工夫が必要であり、そのためには有効に税金を使うべきと思います。

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2010年3月12日 (金)

よくわからないニュース

次のニュースは、頭が混乱しそうです。

読売 3月11日 自民「朝鮮学校の無償化」に反対

矛盾ばかりに思えるのです。

1) 自民は高校授業料無償化に反対

「同党は高校授業料無償化法案への反対をすでに決めている。」と書いてあります。それ以外の部分を読むと、朝鮮学校に対しての無償化に反対かと思いました。

2) 朝鮮学校は純粋な教育機関ではない

朝鮮学校は、学校教育法第1条の教育機関ではないが、学校教育法第134条に基づき都道府県の教育委員会又は都道府県知事の認可を受けた各種学校であります。各種学校は、教育機関ではないとなると、アメリカンスクールも他の各種学校も全て教育機関ではないとなるのですが、論理がよくわかりません。

北朝鮮拉致問題に取り組むなら、論理的に取り組むべきと思います。解決には、北朝鮮を民主的な開かれた国にする必要があり、韓国と中国と共同して取り組む必要があると思います。ある部分、韓国も中国も戦前には日本の侵略があったとの認識をしており、真実と論理であたらないと、感情論では失敗すると思います。

最も、今の自民党は、民主党がバカなことをしているのに、それを批判すらできず、どうしようもない状態だと思いますが。

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2010年3月10日 (水)

富士通の対応は正しいか

3月9日、東京証券取引所は富士通に対して、厳重注意を行いました。

日経 3月9日 東証、富士通を厳重注意 前社長の辞任理由変更で

1) 東証の発表

東証のWebで、私は見つけられませんでしたが、富士通の発表は、ここにあり、次のように述べられています。

・・・・・『平成21年9月25日の適時開示は、代表者の異動理由について適切な説明が行われておらず、開示の適正性に欠けていたものと考えられますが、代表者異動自体に係る投資者の投資判断に大きな誤りをもたらすほどの重大な影響があるとまでは言い難いことから、改善報告書徴求等の措置をとるには至らない』とのご判断により、口頭で、厳重に、注意を受けました。当社は、これを真摯に受け止め、今後も、状況に応じて、適切な情報開示に努めてまいります。

2) 富士通の対応

「今後も、状況に応じて、適切な情報開示に努めてまいります。」なんてのは、従来から適切な情報開示を行っていたと、あたかも問題はありませんと言っているみたいで、スッキリしません。もともとスッキリしない事件です。今回のことにしても、富士通の発表は次の「一部報道について」という表題でしたから。

富士通 2010年3月6日発表 一部報道について

「一部報道について」(英語では、”Regarding Media Reports on Former President, Mr. Kuniaki Nozoe”と固有名詞は入っていますが)では、本題をはぐらかしているみたいです。本文では、「昨年9月25日、野副氏の事情聴取と弁明の機会を設け、野副氏と当該企業との関係が調査結果どおりであれば代表取締役社長を解職すること、ただし野副氏に辞任の意向があればこれを受け入れることとし、野副氏と面談を行いました。であり、野副氏代表取締役辞任(解職?)のことに対する説明です。

富士通の対応は私にはスッキリしません。

3) 会社は誰のもの

12月 3日の次世代スパコンで書きましたが、富士通は次世代スパコンをつくる能力がある、日本経済を牽引することができる会社であると思っています。会社は、個人や取締役会のものではなく、多くのステークホルダーもものであると考えます。会社を私物化してはならない。

すくなくともガバナンスやコンプラができていなければならないが、ここにある病気療養のためという社長の辞任理由を発表することは、社会に対して虚偽の発表であると考えます。

4) ガバナンス問題

3月6日 ダイヤモンド 富士通 野副前社長 “解任”取り消し動議の全真相が実態なのかと思いますが、3月10日 ダイヤモンド 富士通とトヨタに見る“日本的ガバナンス”の崩壊~なぜ取締役会は経営監督機能を果たせないのかは、

取締役会が発揮すべき機能を発揮していない。

社外取締役や委員会等設置会社というガバナンスの装置が、日本企業特有のムラ社会経営の閉鎖性を糊塗するために変質、利用されているとも言える。

と日本企業のガバナンスについて批判をしていました。企業や団体・組織のガバナンスは「法令についての違反はありません。」ではなく、自分たちがルールを率先して作り、社会がそれを追いかける姿としなければならないと思います。政治献金の話みたいになりましたが、政治の世界もビジネスの世界も同じで、自分たちが世界のルールを作る。ルールを作った人達が一番尊敬され、名誉、栄誉、果実を受けることができると思います。

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2010年3月 9日 (火)

OECDジェンダー報告

OECDが2010年のジェンダー報告(Gender Brief)を出しました。男女共同参画や男女差別なんて言葉を使わず、ここは、OECD(経済協力開発機構)を見習ってジェンダーで通します。

このLong Abstractの中からDownloadできますし、ここからも直接Downloadできます。(ファイル容量はpdfで2.4Mです。)

現在話題となっている子供手当や夫婦別姓あるいは少子化を頭に置いて読むと面白い報告書でした。以下に、少し紹介します。

1) 少子化は日本特有の問題ではない

OECD諸国の1970年、1995年、2008年の合計特殊出生率のグラフです。ほとんどの国で、人口減少とならないレベルである2.1に達していないのです。(ジェンダー報告から直接コピーしたグラフはクリックすると拡大します。)

Oecdgender1

1990年以降の合計特殊出生率の推移を、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、メキシコ、スウェーデン、トルコ、英国、米国にういてグラフを書いてみました。2000年以降スウェーデンや英国で上昇したが、日本、韓国、ドイツ、イタリアでは、上昇はありませんでした。

Oecdgender1a

子供手当で、出生率が上昇するのかと疑問を持ちます。子供手当については、塾の時間が増加したり、教育保険なんて言って保険屋が頑張ったりで、変な風になりそうな気がします。何故なら、児童手当が廃止される故、低所得者のメリットは少なく、お金持ちがお金を手にし、それを目指してビジネスが発生するとはならないでしょうか?

2) 高年齢出産化

高年齢出産の傾向は世界共通です。

Oecdgender2

3) 日本と韓国が特殊な未婚の母

次のグラフは、出産の中に未婚の母による出産が占める割合です。

Oecdgender4

数字で示すと、日本はたったの2.1%であり、アイスランドなんて65.6%ですから、3人に2人が未婚の母からの子供です。出産してから、籍を入れるなんてこともあるでしょうから、ほとんどが未婚で出産するのかもしれません。

未婚の母となるかどうかは、個人の選択の問題であり、未婚の母に対する社会的、経済的、法的な差別は、あってはならないと考えます。女が持つ出産の自由と権利でしょうか。男には、うらやましくも思えます。

4) 男女賃金格差も韓国、日本が大

次のグラフは、正規雇用の場合に、男の賃金が女の賃金より何パーセント高いかを表しています。

Oecdgender5

日本とは、女にとって住みやすい国ではないようです。少子化対策としては、産科医の不足なんかより、多くの女が未婚の母を選択しても、子育てが可能な仕事と収入が得られ、楽しく生きていける社会にする必要がある気がします。

5) 夫婦別姓は当たり前

夫婦別姓を選択可能とする法案について反対論があるようですが、2月15日のNB Onlineにあった自民党が少子化を加速させた 自民党・野田聖子衆院議員インタビューは、面白かった。

野田氏の発言に「高学歴・高所得の女性から生まれにくいのが日本の特徴で、そこが一番の問題点なのに改善されない。」という部分があります。高学歴・高所得の女を生かし切れない社会は、発展しないと思います。

非嫡出子の相続権が嫡出子と同一となるように民法が改正されるのは当然のことで、夫婦別姓の場合は、子供は成人になった時に、自分の姓を決定する権利を持つとか、離婚をしやすくし、日本でもジェンダーの取り組みをまじめにしないと破滅する国になるのではと危惧します。(過激ですか?)

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2010年3月 8日 (月)

バイオ燃料に関する報告書

相当前になりますが、2007年10月12日にバイオ燃料を書きました。経済産業省資源エネルギー庁は、3月5日に 「バイオ燃料導入に係る持続可能性基準等に関する検討会」報告書を公表しました。次のページからDownloadできます。

3月5日 経済産業省報道発表 「バイオ燃料導入に係る持続可能性基準等に関する検討会」報告書について

報告書は別添を含めると234ページもあり、添付資料2の概要または添付資料3の概要が読みやすいと思います。バイオ燃料が単純にCO2削減とはなるとは思えず、興味あることが書かれています。

1) 下手をするとCO2削減にならないバイオ燃料

報告書はCO2の発生量をLife Cycleで評価しています。バイオとは生物であり、燃焼したり腐敗したりするとCO2を発生するが、そのCO2は再び植物が取り込み、植物を動物が食べれば動物に移転したりで、植物と動物の合計した重量が地球上で変化しなければ、地球上のCO2も増加・減少はしないと考えられます。

従い、バイオが燃焼してもCO2発生はない。しかし、自然状態を超えて、農機具を使い、肥料を与えてバイオを育成し、運搬し、バイオ燃料を生産し、それを運搬・貯蔵すれば、自然状態を超えてCO2が発生することとなる。従い、燃焼時のみではなく、Life Cycleで評価せねばならず、LCA(Life Cycle Assessment)を報告書では実施しています。その結果は、報告書の次の図の通りです。

Biofuel20103a 

ブラジル産サトウキビがガソリン比236%増となっているのは、森林を伐採すると森林によるCO2吸収が失われ、バイオ燃料で得られるCO2削減よりも、失う方が大きいからです。

ガソリン比50%減の所に赤線が引いてあり、50%以下となるのは現状では、ブラジル産サトウキビ(既存農地)、てん菜、建設廃材のみになっています。50%の意味は、50%削減できなければ意味がないであろう参考値です。即ち、+/-ゼロが意味がないのは、直ぐに分かります。そこで例えば、バイオをそのまま燃料として湯を沸かしたり、ボイラで焚いて蒸気をつくり発電する。これらの場合よりも、バイオ燃料とする積極的な異議付けが必要であり、バイオ燃料にせずに、高効率バイオ発電の研究をした方が賢いことになります。バイオを使うなら、基準点はここという目安値です。

結果、バイオ燃料として意味があるのは、現状では、限られた場合に思えます。国産の計算値の内訳を掲げておきます。

Biofuel20103b

ガソリンの基準値が81.7gCO2/MJになっています。蛇足かも知れませんが、インサイトvsプリウス、そしてi-MiEVとティーダを比較しましたを書いた時は、ガソリンのCO2発生量を私は、67.1gCO2/MJとして計算しました。67.1gCO2/MJは、燃焼時のCO2のみで、81.7gCO2/MJは、掘削、生産、輸送を含んだCO2発生量を考えており、このため大きくなっています。

2) 4分野評価

4分野のWorking Groupを設け、GHG排出量評価、食料競合評価、生物多様性等評価、経済性・供給安定性評価を実施しています。上の1)は、GHG排出量評価です。

動物からバイオ燃料を作っても、その動物の飼料にする植物が必要であり、それなら初めから、植物からバイオ燃料を作ればよい。ところが、植物をどこで作るかとなると、農地か新たに開墾した農地しかない。食料競合は、常に生じる問題だと思います。例えば、日本における耕作放棄地は、食料生産に適さないからではなく、耕作人がいなくなったのが大部分の理由のはずで、食料より低いコストで生産する必要があるので容易ではないはずです。

上の表のMA米とは、ミニマムアクセス米であり、輸入米。即ち、本来は食料にする米です。飼料も食料とほぼ同じで、バイオ燃料生産に耕作地を回し、生産が減少した食料や飼料を輸入するのは、バカみたいと思います。世界中に飢えた人が存在しなくなることが、バイオ燃料を生産するための基準である気もします。

バイオ燃料用の植物は、食物ではないので、農薬や遺伝子組み換えなんて関係ないとして、多収穫品種を開発したとする。しかし、それは新種であり、下手をすると外来品種以上に生態系を破壊する可能性がある。相手は生物ですから、恐ろしいと思います。生態系・生物多様性なんて、我々がどこまで分かっているか、疑問があると思います。簡単に実験をできるわけでもありませんし。

経済性について言えば、大規模農場で生産されているブラジルや米国以外で、どれほど経済性がでているか分かりませんが、少なくとも日本では全く経済性はありません。だから研究も中止せよとは言いません。危険なのは、経済性を目指して大規模な設備や計画を推進してしまうことである気がします。

逆に、破棄物の利用による熱回収が可能性がある気がします。例えば、バイオではないが、廃プラスチックを燃料として熱供給や発電をする。埋め立てよりも良いと思います。あるいは、間伐材利用後の破棄部分を燃料とする発電です。林業にも貢献するし、景観保護、水資源確保、洪水対策にも役に立ちます。

バイオは、特定の分野のみに関係するのではなく、多くの分野に関連するのであり、総合的な評価をした取り組みが重要と考えます。そして、このような報告書が公開されることを歓迎します。数字を示して、議論をし、批判や反対も、数字や事実に基づいて可能になります。

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2010年3月 7日 (日)

医療関係の報道

医療に関する裁判について、もう一つ書いてみます。東京女子医大心臓手術事件です。2001年3月に、心臓手術を受けた当時12歳の少女が死亡した。東京女子医大は、死亡原因が人工心肺のポンプを高回転にした操作ミスに起因する脳障害と結論付けた内部報告書を作成した。人工心肺のポンプを操作した佐藤医師は、2002年6月に逮捕され、約3カ月間勾留された。裁判では、2005年11月に無罪判決が出され、これを不服として検察は控訴し、控訴審の東京高裁でも2009年3月27日に無罪判決となりました。検察は、上告せず、無罪が確定しました。

概要については、佐藤医師がNikkei Medical2007年8月号に書いておられる文章がここにあります。また、佐藤医師は、ブログ紫色の顔の友達を助けたいを書いておられ、そちらにも資料があります。

東京女子医大が佐藤医師の操作ミスが死因であるかのような内部報告書を書いたし、警察は逮捕したし、検察は起訴したので、マスコミは共同47 2002年7月19日 東京女子医大の2医師起訴 心臓手術の女児死亡でのような報道をしました。

佐藤医師は、報道機関等に対して名誉毀損の損害賠償裁判を提起し、その結果、原告である佐藤医師が勝訴したのがある一方で、請求が認められず、棄却されたのもあります。

請求が認められなかったのは、共同47 2007年4月11日 NHKの「隠し撮り」適法 元担当医の名誉棄損認めず共同47 2009年7月28日 名誉棄損で新聞3社逆転勝訴 共同通信の記事掲載です。

損害賠償が確定したのは、共同47 2007年8月27日 無罪判決の報道で名誉棄損 医師がフジテレビに勝訴共同47 2010年2月17日 名誉棄損で毎日記者らの敗訴確定 術後死亡記事を出版です。

佐藤医師は、裁判では共同47 2003年8月25日 佐藤医師が起訴事実を否認 東京女子医大手術ミスのように2003年8月25日には、否認をしています。毎日の記者が書き、集英社が発行した新書「医療事故がとまらない」の出版は2003年12月であったが、記事を見直すことなく、出版し、誤解を与え、名誉を毀損したのです。フジテレビは、東京地裁の無罪判決をニュース番組で報道する時に、わざわざ医師が未熟だったとする趣旨の弁護士のコメントを紹介し、医師と被害者遺族の双方が記者会見をしたのに、遺族のコメントだけを放送したなんて、無罪判決の報道とは思えません。

この事件のニュースには、様々なものがあり、共同47 2008年9月30日 当時の担当医の処分を要請 手術事故で死亡女児の両親なんて、2005年11月の無罪判決がケシカランから行政処分で医師免許を取り消せと言っています。執刀医は、看護記録などを改ざんした証拠隠滅罪で有罪となっていますが、読むと佐藤医師のことです。

医療は難しい面がありますが、思いこみで、分かったつもりになることは危険だと思います。

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2010年3月 5日 (金)

カンガルーケアのリスク

3月3日に、大淀病院事件での大阪地裁判決について書きましたが、カンガルーケアで赤ちゃんが呼吸停止し、脳機能障害になっているというニュースが目に入りました。

MSN産経 3月3日 「カンガルーケア」中に赤ちゃん呼吸停止 長崎の産婦人科医院

カンガルーケアとは、出産後すぐに、赤ちゃんをお母さんが素肌の胸の上に抱くことです。その結果、お母さんの育児放棄も少なくなり、お母さんと赤ちゃんの愛情形成に役立つと言われています。当然のことながら医師の下でしないと危険であり、万能ではありません。例えば、朝日は、昨年9月28日に次のような記事を出しています。

朝日 2009年9月28日 出産直後のカンガルーケア 新生児の呼吸停止など16例

医師の許可を得て、出産直後にお母さんが赤ちゃんを抱くことは、良いことだと思います。但し、ほんの短い間にすべきでしょうね。

問題は、リスクを含め、正しい知識がお母さんに伝わっているのかだと思います。

朝日の記事には、「長野県立こども病院の中村友彦・総合周産期母子医療センター長も「(正常出産でも)出生直後は呼吸循環状況が危機的な状況となる可能性が高いことを認識して実施すべきだ」と強調した。 」とあります。

また、MSN産経の記事が書いている「カンガルーケアは1978年に南米のコロンビアで保育器不足の対策として始まり、・・・」なんてことは、お母さんに正しく認識されているのか疑問です。

大淀病院事件も、たらい回しなんて批判された。しかし、大淀病院の産科医が頑張ったのは、お母さんと赤ちゃんの両方の命を救いたかったからです。大淀病院では、残念ながら助けられないと判断し、お母さんと赤ちゃんの両方を治療可能なICUとNICUを持っていて、受け入れ可能な病院を探さなければならなかった。受け入れた病院では、お母さんを直ぐに手術するとともに赤ちゃんを帝王切開で出産するのです。そんな大変な事態であることを、認識せずに、たらい回しという変な表現を使う。

よりよい社会をつくりあげるには、正しい認識をすることが、必要且つ重要と思います。

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2010年3月 3日 (水)

大淀病院民事訴訟判決

2006年8月に妊婦が奈良県大淀町立大淀病院でのお産に際し、意識不明となり、19病院で受け入れができず、大阪府の国立循環器病センターに転送となり、死亡したことで、遺族が大淀町と産科医に約8800万円の賠償を求めた訴訟の判決が3月1日に大阪地裁であり、遺族の請求は棄却されました。日経と日テレを掲げておきます。

Nikkei Net Kansai 3月2日 奈良妊婦死亡、地裁「救急医療の再生を」──判決で異例の付言、損賠請求は棄却


奈良妊婦死亡、遺族の請求棄却~大阪地裁

判決文は、入手できていませんが、裁判を傍聴された方が、書いておられるブログがあり、内容的に正しいと思いますので、紹介します。

たまり(ょ)さんのブログ 大淀町裁判に行ってきました(その2)(大淀事件35-2)

三上藤花さんのブログ 判決要旨のつもり

医療問題についての正しい認識が広まってきたようにありますが、問題の深さは依然として相当あり、少し書いてみます。

1) 高崎実香さんのCT検査は正しい選択か

遺族は、病院がCT検査をしなかったことで、助けられなかったと主張しました。裁判所は、CT検査を実施すれば、検査中に搬送先が決まる可能性もあり、検査が搬送の妨げになるとも考えられ、医師の判断は充分な合理性を有しているとしました。

CT検査は、万能でしょうか?CTの検査のために、移動させる必要がある。高崎実香さんについては、搬送の決定が正しかった。何が正しいかは、患者の容体や病院の状態により、異なってくるはずです。医療とは、PCに質問が出てきて、それに答えていけば、正しい治療方法が分かるといった単純なものではないはずです。個別の対応が必要だから、医師を必要とすると考えます。

「先生を信頼します。先生のベストと思う治療をお願いします。」と患者が述べることは、間違いでしょうか?

2) 救急医療体制

大淀病院事件もあり、救急医療体制と周産期医療体制の充実が喫緊の課題として叫ばれています。しかし、どれほど進んだのか、大いに疑問を持っています。何故なら、一朝一夕に充実することができない問題であるからです。

判決の付言で「救急医療の整備や確保は、国や地方自治体の最も基本的な責務である。重症患者をいつまでも受け入れ病院が決まらず放置するのではなく、とりあえずどこかの医療機関が引き受けるような体制作りが必要である。」とあったようですが、正論です。しかし、良識ある人は全員が理解・認識していることと思います。医師は工場で生産できる製品ではありません。金を出せば、製造できるのではなく、社会が長期間を掛けて、育成していく必要があります。途上国から、連れてこいと言うなら、その途上国で医師不足が生じても良いのですねとなります。それと、医師にも人権が存在します。強制労働をすることはできず、職業選択の自由を含め、基本的人権が確保されねばなりません。ハコモノのように、対応は簡単ではありません。

ちなみに、大淀病院は、この事件の後、産婦人科を閉鎖しました。今は、婦人科のみです。2006年当時、奈良県南部でお産が可能であったのは、大淀病院のみであったのです。本当は、医療体制を皆が支えていかなければならない。しかし、現実には、マスコミを始め、社会は崩壊させようとしている結果になっている部分があります。

お産は、100%安全ではありません。急変することは、あり得るのであり、理性を持って冷静に考えることは必要と思います。高崎実香さんも、転送先の国立循環器病センターで、帝王切開ですが、無事に赤ちゃんを出産できています。

3) 毎日新聞

私の昔の名前のブログですが。

2006年10月23日 続続々 大淀病院事件

で、毎日新聞が、この事件のスクープについて、支局長がほめていることを書いています。ちなみに、今回の毎日の報道は、これです。

マスコミの恐ろしさです。ゾウの一部に触れて、全体と思って、報道してしまう。しかも、そのことに全く気づかない。社内に、リスクコントロールをする部署もない。私のブログを検索ワード「蓮見喜久子」で訪問いただいていることがあります。毎日新聞西山記者は、蓮見喜久子さんから入手した書類のコピーを横路孝弘議員に渡してしまったのです。絶対に秘密を守るべき取材源の秘密を漏らした。取材源が公務員法違反に問われることが頭になかったのかも知れません。

2.26事件もそうかも知れない。クーデターを起こそうとした将校や兵は、政治腐敗や農村の困窮を憂いで行動した。しかし、その結果は、利用され、戦争へと向かっていった。医療問題も複雑で、マスコミが伝えているのは、一部分であり、全体の姿を数字により正確に把握、分析する必要性を強く感じます。

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2010年3月 1日 (月)

独立行政法人の国債保有

朝日新聞が、独立行政法人による国債の保有について、批判をしていました。(朝日2月28日 21独法、国費で国債3000億円購入 余剰資産が原資 

確かに、政府子会社に相当する独立行政法人が出資者である政府の債券である国債を保有することは、変な形ではあるが、一時的な保有としては、許されるはずであり、朝日の記事のようなAll or Nothingで、「ケシカラン」と騒ぎ立てるべきではなく、個別の内容を調査して、批判すべきと考えます。例えば、朝日の記事は「朝日新聞は、すべての独法98法人の2009年3月期の決算書をもとに、国債の保有額や購入原資を調査した。」と言っていますが、単に集計しただけで、分析をしていないし、データも集計結果も開示せずに、もの申すとは行き過ぎです。

そこで、朝日の批判の妥当性について、3006億円のうち60%に相当する1793億円を保有している住宅金融支援機構について、調査しました。以下、その結果です。

1) 住宅金融支援機構

住宅金融支援機構は、独立行政法人住宅金融支援機構法により2007年4月に設立され、次の業務を行っています。設立と同時に、住宅金融公庫は解散され、その権利・義務は住宅金融支援機構が承継しました。

① 証券化支援業務(日本版住宅MBS (Morgage Backed Security)の発行等)
② 融資業務 (災害復興住宅融資、財形住宅資金貸付等)
③ 住宅融資保険業務
④ その他(旧住宅金融公庫の住宅貸し付けの管理を含む。)

①の証券化支援業務の2008年度実績は31,613戸・6848億円で、民間金融機関が貸付をした住宅貸付を支援機構が買取し、この住宅貸付債権を下に信用リスクは支援機構が負担する仕組みで貸付債権担保債券(MBS)を発行するスキムです。MBSは、支援機構が貸付者となる住宅貸付や旧住宅金融公庫の分についても利用しています。MBSや一般担保債券を発行することにより、政府財投資金からの脱却を計り、民間金融機関や投資資金を利用し、互いの利点を出し合った日本の住宅資金金融を良い形のPublic-Private-Partnershipで推進することを目指していると理解します。

2) 貸借対照表

2009年3月末の貸借対照表を次のグラフに表しました。

20102

資産の大部分は住宅貸付金と買取債権(証券化支援業務で発生)です。住宅貸付金には、旧住宅金融公庫の貸付による残高と住宅金融支援機構が貸し付けた残高がありますが、ほとんどが旧住宅金融公庫から引き継いだ貸付金です。上の貸借対照表に証券課支援勘定と既往債権管理勘定を、参考までに付け加えたのが次の図です。

20102b_2 

各勘定別(セグメント別)の数字の貸借対照表も掲げておきます。(クリックすると拡大されます。)

20102c

3) 国債保有

政府が出資をしている独立行政法人が、国債を保有することは変則的です。しかし、住宅金融支援機構が住宅金融業務を実施するに当たり、信用リスクを負担したり、MBSを発行し、信用格付けも得ているのであるから、業務に必要な手元資金を確保することは、必要であり、それを換金容易で信用力の高い金融資産で保有していることは当然と考えます。そのような金融資産の一部に国債が含まれていても合理的であれば問題はないと考えます。

住宅金融支援機構が2009年3月31日において保有する国債は、朝日が報道しているように、1793億円です。しかし、総資産が4兆238億円であることから0.4%です。保有している有価証券でみても、合計5190億円であり、民間企業が発行している社債を2793億円保有しており、社債の方が金額は大きいのです。一方、国債の購入原資を考えても、財政投融資借入、旧簡易生命資金、政府保証債券による資金が入っている既往債権管理勘定では、国債を保有していません。

証券化支援業務で住宅貸付金を購入し、これを下にMBSを発行するが、信用リスクが残っている。もし、貸付金の返済がなければ、MBSを保有している投資家に対して住宅金融支援機構が自らの資金でMBSを期日通りに償還する必要がある。そのための資金の一部を国債で保有していても何ら問題はなく、これをリスクの高い株式等で保有していれば問題であると考えます。

なお、住宅金融支援機構は、2009年3月31日において未処理損失5642億円抱えています。このうち5381億円が旧住宅金融公庫の住宅貸付に関わる既往債権管理勘定における未処理損失です。2)の貸借対照表では、利益剰余金が1777億円のマイナス残高となっていますが、5381億円との差は、団信特約料長期安定化積立金3279億円等があるためです。いずれにせよ、剰余金はマイナスの状態です。従い、利益を政府に戻さず、国債で運用しているというのには該当しません。

住宅金融公庫は、日本に一定品質の住宅を普及させるのに貢献したと思います。住宅金融公庫の融資が受けられることから、個人の住宅取得が容易になったし、融資を受けるためには、容積率、建坪率、都市計画との整合性、建築基準法検査合格等が必要であり、不適切な開発を防止したと思います。また、阪神大震災復旧住宅への融資のような災害融資は、将来も独立行政法人や政府機関による金融制度が必要であり、住宅金融支援機構の役割は重要と考えます。

すくなくとも私が調査した範囲では、住宅金融支援機構の国債保有に問題点は発見できませんでした。蛇足かもしれませんが、住宅金融支援機構は、役員である理事・監事の報酬額について個人毎に金額を情報開示しておられました。1億円以上の開示でも、反対論がある世界とは異なっていました。

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