労働者派遣の完全自由化
3月19日に、労働者派遣法の改正が閣議決定されました。閣議決定案で、成立することが予想さますが、いっそのこと、完全自由化すると、どうなるのだろうと考えました。NikkeiBizPlusの記事と政府発表を掲げます。
3月19日 Nikkei BizPlus 登録型派遣を禁止 法改正案を閣議決定、製造業も
平成22年3月19日厚生労働省 発表 「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案」について
1) フレキシビリティー
派遣労働の一番の特徴は、フレキシビリティーであると思います。使用者と労働者の双方にあてはまるわけで、変化の激しい現在の社会に対応するには、派遣労働は好都合と言えます。近代化する前の社会の変化が小さい時には、10年以上の長期間をかけてその仕事に取り組みプロとして力を発揮することが社会のニーズでした。変化の激しい時代は、陳腐化からの脱却と新しいニーズへの対応が迫られます。
企業にとっては、変化に応じて、雇用を調整できる派遣は、ある面では好都合であり、派遣労働で対応できない部分は、直接雇用の労働者で対応する。労働者は、仕事のミスマッチを感じたら、自分にふさわしい自分の能力を発揮できる仕事に就けるチャンスが高くなる。また、ニーズに応じて、それまでの自分の経歴・経験を生かすと共に、次々と新たな資格、より高度な資格を取得していく。結果、社会の発展に繋がり、人々はより豊かな生活を手に入れる。
上記のようなことを考えるのですが、あまりにも絵空事で、秋葉原事件を知らないのかと言われそうです。
2) 問題点
一番の本題点は、古典的な部分で現在も続いている、労働者が弱いことと思います。労働基準法があり、労働組合法がある。これらの法律は、派遣労働を前提につくられていない。しかし、労働基準法や労働組合法がなかったら、無茶苦茶で、労働者保護は重要です。派遣労働については、使用者にフレキシビリティーが高くなっている分、労働者保護も厚くする必要があると考えます。
現在の日本について、デフレ経済とか、閉塞社会であるとか聞きますが、悪循環に陥っている気がします。生産を上げることができず、生活水準が上昇したことによる新規の需要が生み出されていない。人々は、将来の不安から、貯蓄をし、生活を切り詰める。派遣労働のみが、その原因ではないが、現在の派遣労働の仕組みが、低賃金・格差社会を生み出している一因にはなっていると思います。
逆に、派遣労働を高賃金労働であり、ゆとりある生活の方法として選択可能なように、少しずつでも変えていく必要があると思います。
3) 現状
労働者派遣法(正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」と長い名前で、閣議決定では、これを「・・・及び派遣労働者の保護等に関する法律」とほんの少し短くするようです。)は、1985年に公布された法律ですが、派遣労働そのものは、その前から存在し、派遣労働に関して適正な規制をすべく制定された法律です。例えば、マンパワー・ジャパンという会社は、Webを見ると、1966年の設立です。
労働者派遣法では、26業務は自由化されており、この26業務は閣議決定でも変更はありません。しかし、内容は、こんなの意味あるのかと思えます。26業務全て思えるのですが、例えば、次のような業務(番号は業務の番号です。)についてコメントしてみます。文章は、施行令の条文です。
(2) 機械、装置若しくは器具(これらの部品を含む。以下この号及び第二十五号において「機械等」という。)又は機械等により構成される設備の設計又は製図(現図製作を含む。)の業務 |
CADなんて今や特殊ではないと思います。 |
(5) 電子計算機、タイプライター、テレックス又はこれらに準ずる事務用機器(第二十三号において「事務用機器」という。)の操作の業務 | PCを使わない事務作業は、ないと思います。 |
(7) 法人の代表者その他の事業運営上の重要な決定を行い、又はその決定に参画する管理的地位にある者の秘書の業務 | 特殊性なし。法制定前を引きずっているだけではないの? |
(8) 文書、磁気テープ等のファイリング(能率的な事務処理を図るために総合的かつ系統的な分類に従つてする文書、磁気テープ等の整理(保管を含む。)をいう。以下この号において同じ。)に係る分類の作成又はファイリング(高度の専門的な知識、技術又は経験を必要とするものに限る。)の業務 | 私は、この業務の解釈に苦しみます。 |
(10) 貸借対照表、損益計算書等の財務に関する書類の作成その他財務の処理の業務 | 経理業務を自由化している意義はあるのか? |
26業務とは、労働者派遣法制定前から派遣で実施されていたことから、既成事実や既定権利として認めることで、法が制定されたと思います。未だに、そんなことを引きずっていてよいのか疑問です。
なお、法4条と施行令2条に禁止業務があります。この中に、医師(へき地等を除く)が禁止業務となっています。大学が医師派遣するのは、派遣ではなく、医療機関との直接雇用としているのでしょうが、何か変と感じます。
4) 提案
十分に練り上げた提案ではなく、思いつきの提案であると考えてください。派遣労働を自由化します。その上で、業務を細分化して、取り決め、この資格で、この経験年数であれば、最低賃金○○円と決めれば良いと思います。例えば、貸借対照表、損益計算書等財務諸表の作成業務で、資格簿記1級もしくは同等以上で、経験年数10年以上、時給7,000円(交通費別、社会保険料50%使用者負担)を最低賃金のように定めるのです。製造業についても、NC旋盤精度0.05mmの技能で、経験年数10年以上時給6,000円とか。
そうすれば、派遣労働者もより高い賃金を目指して、資格を高めるべく努力すると思います。使用する方も、ニーズに合わせて、労働者を選定しやすくなる。派遣の賃金が上がれば、正規雇用の賃金も上がるかも知れないし、あるいは競争が激しくなり、下がるのでしょうか?でも、正規雇用で、長期に働いていることは、その企業の実態を深く理解していることと繋がり、より企業に貢献できるはず。従い、正規雇用の方が、高い賃金となると思います。逆に、低すぎると思えば、正規雇用の人も、派遣を選べば良いのです。なお、企業年金について、派遣の場合は、自己支払の確定拠出年金となるでしょうから、正規雇用の場合、後払い賃金としての企業年金部分は、労働提供時の賃金が安くなると思います。派遣労働は、短期間雇用が実態であれば、単価が高いのは当然です。
職業訓練校を充実するのです。内容は、大学ではないので、企業のニーズを優先させるのです。企業が欲しい業務・資格で、かつ派遣労働賃金の高い業務・資格に人気が集まると思います。それでよいのであり、税を投入すればよいと思います。公共事業やバラマキ政策より、長期的には経済効果があると思います。また、派遣労働が、不安定である側面があることから、仕事がなく就労できない時の、手当を職業訓練と組み合わせて、充実する必要があると思います。企業にとって、フレキシビリティーが高まることは、同時にその分、コストを下げることができることになるのであり、コスト低下分の一部を税とするか、失業保険とするか、名目をどうするかは別ですが、負担するようにすればよいと考えます。
そうは言っても、業務を細かく分類し、最低賃金を決めていくのは、容易ではありません。最低賃金が決まった業務から、派遣労働を自由化し、それ以外の業務は一定の時期を区切って禁止とすれば、細かい業務分類とその最低賃金の取り決めが進むと思います。また、最低賃金を決めて、このような制度をつくっても、悪徳業者はなくならないと思うので、監督体制の整備も重要と思います。
5) 期待される効果
2)で、景気刺激や格差解消の効果を書きましたが、男女の差がなくなりジェンダー問題解消にも多少は向かうと思います。同一労働・同一賃金の原則の拡充も期待できるし、正規労働者の長時間サービス残業からの解放にもなると思います。女性が出産して、復帰する場合に、現在よりも、復帰後に就任できる仕事の種類も多くなり、少しは高い賃金も得ることができるのではと思います。それからすると、スーパーのレジ係に応募が少なくなり、賃金は上昇し、スーパーは打撃になるのでしょうか?でも、スーパーにとってもデフレ値下げ競争より、全般的に所得が高くなり、価格と品質でよりよい物が売れ、経営が長期に安定する方が、よいと思います。
今の格差社会の現状は、勝ち組にとっても、休みが取れず、生活をエンジョイできない。高齢化社会は、高齢者も、自分の能力にあった働き方ができる社会でなければならないはずが、今の制度のままでは、高齢者を活用することができない気がします。高齢者が、それまでの経験を生かした仕事を、週に3日するといった働き方があってよいと思うし、そんな働き方は派遣労働の方が、つくりやすいと思います。
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)
最近のコメント