原子力発電の輸出
23日の日経には、「ゲイツ氏、東芝と次世代原発 私財数千億円投入も」という衝撃的とも感じられる記事がありました。
日経は、電子版を23日に創刊され、従来と少し異なっているようです。よく分かっていませんが、日経IDを取得すれば、無料で読める範囲が従来より広がっているように思えます。参考に2つのリンクを掲げます。
日本からの原子力発電の輸出は、UAE向けでは韓国に、ベトナム向けではロシアに日本企業が敗退したことから、次の読売の記事のような、政府による支援強化が叫ばれたりしています。
読売 3月21日 インフラ輸出官民一体で…金融支援柱に推進原案
一方で反対論もあり、私としても考えてみたいと思います。
しんぶん赤旗 3月18日 原発推進 融資やめよ 政策金融公庫法 改定案で追及 佐々木議員
1) 安全性
しんぶん赤旗の記事に、「安全性、核兵器拡散、核廃棄物の問題」があると佐々木議員が指摘したとあります。第一番目の安全性についてです。
日本では、2007年7月16日の新潟県中越地震により、東京電力柏崎刈羽原発全7基のうち稼働中であった3、4および7号機の3基合計出力3,556MWが地震を自動関知して緊急停止しました。この際、規定を超える放射能漏れはなかったと認識します。国際原子力機関(IAEA)のこの2009年1月29日のNewsは、”The safe performance of the Kashiwazaki-Kariwa nuclear power plant during and after the earthquake that hit Japan´s Niigata and Nagano prefectures on 16 July 2007 has been confirmed, according to a IAEA report published today.”と言っており、2009年1月29日のReportは、見つけられませんでしたが、同ページからDownload可能な他のReportはあります。
一方、安全性が問題となる事故としては、1979年のスリーマイル島原子力発電所事故と1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故があります。スリーマイル島の場合は、運転員が異常であることは認識できていたが、何がどうなっているのかは、分かっていなかったのです。原子炉の中は勿論のこと、放射能区域の中を人間が直接確認することができない原子炉特有の問題があります。
チェルノブイリ事故では、当然のことですが、放射能で汚染された物質は、人間が人為的に決めた国境を、無関係に超えました。また、大事故が生じた場合の、被害の大きさも、非常に大きいことを、あらためて認識させました。自国では、立法権が及ばずコントロールすることができない他国の事故で、被害を受ける可能性があるのです。
日本からの原子力発電の輸出に関して言えば、相手国が安全確保を法的な面、建設の面、運転の面、その他で十分に確立することができているかは、重要と考えます。できていなければ、当該国および国際社会に働きかけて、確保するようにしなければならない。これは、民間企業に義務付ける事項ではなく、政府が行うべきと考えます。
2) 核兵器拡散
原子炉の中では、プルトニウムが生まれます。日本には、広島と長崎に原爆が投下されました。広島は高濃縮ウラン爆弾で、長崎はプルトニウム爆弾でした。長崎の原爆に使用されたプルトニウムは、原子炉で製造されたのです。日本で稼働中の原子炉であるPWRやBWRで生まれるプルトニウムは、直ちに原爆に使用可能な物質ではないものの、転用されるリスクは皆無ではありません。
日本は、核兵器不拡散・縮小を、重要な課題として取り組んでいます。この平成22年1月の外務省の日本の原子力外交概要にも、次の文章があります。
原子力は、軍事目的への転用の可能性や一国の事故が周辺諸国にも大きな影響を与え得るという特性を有しています。また、特に9.11米国同時多発テロ以降は、国際的に核テロ対策への関心も高まっています。このため、原子力の平和利用、特に原子力発電を行う国は、国際的な信頼性と透明性の確保の観点から、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティを確保することが求められています(この3要素は核不拡散の代表的な措置であるIAEAの保障措置(Safeguards)、原子力安全(Safety)及び核セキュリティ(Security)の頭文字をとって「3S」と称されています。)。我が国は、原子力の平和利用には3Sの確保が大前提となるという立場を貫いており、これを基本方針として、二国間及び多国間の原子力協力を推進しています。原子力の平和利用に関する国際原子力機関(IAEA)も、「3Sの重要性」を強調しています。 近年、原子力利用の拡大に伴い、IAEAを中心として、核不拡散と原子力の平和的利用の両立を目指した様々なイニシアティブが活発に検討されています。このような中で、拡散抵抗性の高い原子力技術の開発や核不拡散と両立する制度の構築への関心が高まっており、我が国も積極的に貢献しています。 |
IAEA事務局長には、前外務省不拡散・原子力担当大使の天野之弥が昨年12月1日に就任しています。原子力の輸出は、政府が融資をすれば済むのではなく、核不拡散に向けた取り組みを政府として相手国に積極的にしていくべきと考えます。
3) 核廃棄物
日本でも、あまり進んでいない部分と思います。原子炉を運転すれば、核廃棄物は増加する。放射能汚染区域で作業をした作業員の服も放射能汚染物質であり、核燃料中では微量でしょうが、半減期1570 万年のヨウ素-129も生成される。半減期1570 万年とは、1000年経過しても、放射能レベルは未だ0.99996であり、1からほとんど減少していません。
日本では、高レベル放射性廃棄物は、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律により経済産業大臣が、最終処分計画を定め、原子力発電環境整備機構が実施することになっていますが、ググってもこの計画が出てこないので、未だ定められていないと思います。
原子炉のメンテナンスをすれば、それなりに核廃棄物は発生し、解体すれば、どっさり発生する。ゴミ屋敷には、ならないのでしょうが、核廃棄物の処理方針を決めずに突っ走るのは、嫌な気がします。
実は、それでも日本は、核燃料サイクル方針を推進しており、原子炉における使用済核燃料は、核廃棄物ではなく、新たな核燃料資源であるとしています。米国は、使用済核燃料を核廃棄物であるとしており、国によって、ゴミになったり、資源になったり、複雑です。
日本には、幾らプルトニウムがあるのかと調べても、次の原子力委員会の平成20年年報資料とその下の電気事業連合会の資料では、数字が違ったりします。重量を考えても、核燃料にはウラン235は3%しかなく、使用済み核燃料中にはプルトニウムは1%程度。何をどう考えるか、複雑です。
核廃棄物については、Webで探してもほとんど情報が見あたりません。原子力発電の輸出を支援するなら、日本国内の情報開示を適切にして、手本を世界に示す。その上で、原子力発電を導入しようとしている国に対しても、核廃棄物処理の重要性を説得すべきと考えます。
4) 原子力発電の輸出支援
支援すべきと考えます。何故なら、日本政府の支援の有無とは拘わらず、導入する国は導入すると思うからです。むしろ世界をリードすべきであり、そのために国内の情報開示も正しく実施すべきです。
米国で、40年ぶりに原子力発電再開の動きが出てきています。理由は、CO2でも環境でも、安全性でも、何でもなく、化石燃料価格が上がってきたので、原子力が経済的に有利になったことと理解します。
原子力が本当に良いのかどうかは、分からないと思っています。そんな単純ではないはずです。例えば、安全性確保が最大の理由でしょうが、出力一定運転をしており、スマートグリッドで電力を頻繁に売買してとは行きません。日本では、揚水発電と組み合わさり、火力発電と連携して効果を発揮しています。
平成22年4月1日以後開始する事業年度から資産除去債務に関する会計基準が適用されます。この会計基準は、原子力発電のように、その資産の使用を中止した以後に発生する費用について、資産の使用中から除去に関する債務を認識し、費用を割り振っていこうとする考え方です。
世界は、原子力発電ぬきで進まず、否が応でも、取り組んで行かざるを得ないのだろうと思います。その場合に、今のように、臭いものに蓋をして、見ざる言わざるで進めたら、失敗する可能性がある。情報開示をして、進めるべきと考えます。例えば、政府のWebを見ても、核燃料サイクル推進とあるが、何故かという納得できる理由は書かれていません。逆に言えば、何故米国は180度方向が違うのかの納得できる説明です。同じ、地球上での選択です。原子力の放射能漏れは国境を越えるのであり、国毎の政策より、国債連携・国際協力が重要と考えます。
最後に、ビルゲイツ氏・東芝の原発開発ですが、やはり私には難しすぎて、評価できません。
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