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2010年6月13日 (日)

法人税の減税と日本の将来

世の中が、消費税増税と法人税減税に、進んでおり、しかも、この動きが定着する懸念を感じ、この話題について書き進めます。

これを強く感じるのが、次の民主党の動きであり、自民党は既にその方向であることから、参議院選が民主党敗退で終わったとしても、消費税増税と法人税減税が確定するように思えます。

日経 6月11日 民主参院選公約、法人税下げ明記

1) 消費税増税

民主党は、消費税を含む税制の見直しを行い、強い経済、強い財政、強い社会保障の実現を目指すと言っているのであり、消費税増税とは言っていません。しかし、後段の部分の実現のために税収増を計るとの宣言とイコールです。ところで、現在の税収を平成22年度予算案から見ると次の通りです。

H22budget_2

法人税は、現在30%(実効税率とは、地方税を含んだ税率なので、地方税を除くと30%です。)なので、10%税率を下げると2兆円の減税になります。一方、この現在財源を消費税でカバーすると、1%税率の引き上げで2.4兆円の税収増となり、ほぼこれで見合うこととなります。(消費税の税率5%は、地方消費税率1%を含んだ場合であり、また、消費税率を上げると歳出も増加するので、全額が政府財政の収支改善となるのではありません。)

2) 法人税

そもそも税とは、どのような方法で課税しようとも、公平であり、社会の発展を阻害しないのであれば、税種目にこだわる必要はないのかも知れません。例えば、江戸時代には法人税は存在せず、年貢という物納が税のほとんどであったと理解します。現代でも、法人税を無税とし、すべてを所得税で課税する方法もあり得ます。この場合は、法人の持ち主は最終的には個人であり、何時の日か個人に所得が移転するので、個人段階で課税すればよい。あるいは、法人の純資産の増減が個人に帰属するとして、個人段階で課税を完結する方法もあります。

ソ連型社会主義において、私の理解の範囲になりますが、基本的にほぼ全てが法人税非課税の国有企業でした。個人所得税もなく、一見すると、理想の夢の国に思えます。しかし、政府は役人に給料を支払わねばならず、公共投資を行い社会福祉も実現せねばなりません。その財源は、どうしたかというと、国有企業からの上納金(利益配当)です。本当に儲かっていたのかって言ってもIFRSも適用されておらず、きわめて不明瞭会計でした。国有企業であったので、法人税も利益配当も、その区分さえ不明瞭でした。しかも、設備資金が政府予算から捻出されたりで、いよいよ不明瞭会計の極みです。そもそも、市場経済ではないので、価格の前提があやふやで、会計の貨幣価値の公準なんて言っても、この前提すら、あてはめることに疑問があります。

私は、ソ連型社会主義とは、法人税が、全ての税収であった制度と言えるのではないかと思っています。個人は、小規模の農林水産業といった産業しかなく、大部分は公務員または国営企業に勤務していたので、高額所得者は存在しなかったから、それで良かったと思います。しかし、市場主義経済と言うべきか、自由主義経済と言うべきか、そのような場合には、企業・法人課税と個人課税が合理的に整合した制度とすべきであり、感覚的な法人税減税を言うのは、不適切と考えます。

3) 法人税減税論への疑問

法人税減税論者の理論では、日本の法人税率は高く、その結果日本企業は競争力を失っており、それが企業による雇用減少や日本経済の停滞につながっており、日本経済活性化のためには、法人税引き下げが必死であるとの主張です。

法人税引き下げが企業競争力の強化になるのでしょうか?少しは、なるかも知れないが、本質論は、異なると思います。製造業を考えた場合、用地が安く、原材料が安く手に入り、必要とするレベルの労働力が安く存在する国です。全てを満足しなくても、補完は可能であり、相対論の世界です。一般的には、そのような国は中国であったし、それがASEAN諸国に移行しているのが現状ではないでしょうか?ASEAN諸国と法人税の引き下げ競争をして日本が勝てるとは思いません。むしろ、日本に存在する労働力を、最も有効に生かせる産業で世界の需要に応えることが、日本経済の競争力強化になるはずです。

そもそも、赤字企業が半数以上の状態で、法人税減税をしても、その恩恵は、黒字企業にしか及びません。日本経済の失われた10年や20年は、何故発生したかと言えば、日本経済や日本企業が体質改善による競争力強化に失敗しているからです。勿論、一部の大企業では、体質改善が進み、競争力を拡大しているケースは存在します。それらの企業は、不採算部門を縮小・撤退し、多額の研究開発費を投入して、勝ち組として生き残りを図っておられます。

例えば、租税特別措置法42条の4に「試験研究を行つた場合の法人税額の特別控除」がありますが、このような減税措置の充実の方が、効果があるようにも思えます。事業仕分けで、有名になったスーパーコンピューターのような研究開発部門に関する政府の役割の充実も効果があるように思います。負け組にならないように、企業が研究開発投資を行い、勝ち組になることを政府が支援するのです。それには財源も必要であり、法人税減税をすることは、これに完全に反することとなります。また、法人税を減税して、消費税を増税した場合、給与水準を上昇させなくてはならない。給与を上げることが可能な企業は、利益を計上し、税金を払っている優良企業である。法人税減税と消費税増税は、格差拡大につながる懸念がある。

無能経営者の安易な欲望に応えることには、危険が存在することを認識すべきです。

4) 国際比較

財務省の法人所得課税の比較がここにあります。確かに、日本と米国は40%を超えており、高いのですが、消費税(付加価値税)を比較するとこの財務省の比較資料のようにヨーロッパでは、最低でも英国のように15%であり、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーのように25%という税率の国もあります。

日本は、どうしたいのでしょうか?法人税が低くても、個人には関係ありません。給料や年金が今より10%高くなれば、10%消費税が高くなれば、この際関係ありません。法人税を減税する代わりに、給料や年金を確実に上昇させ、それを担保・保証するものが得られれば、民主党の公約にも賛成したくなります。しかし、そんな担保や保証が得られる訳はありません。失政は、国民全ての負担として返ってきます。

安心できる豊かな社会を作るには、税は欠かせません。無責任な政治家に任せては、無茶苦茶になる。日本の年金や医療保険の維持に多額の税投入が避けられない時期に、安易に法人税減税を、考える馬鹿政治家に腹が立ちます。

5) 国際企業活動

一部の意見として、韓国企業に日本が負けているのは、韓国の法人税率が低いことから、ある事業で税引き前利益が同じでも、税引き後利益では韓国企業の方が多くなり、結果として、新規投資に韓国企業の方が大きな資金を投入できる。この正循環と日本の悪循環の結果が日本と韓国の差であるとの意見です。

一見すると、うなずいてしまう面があるのですが、3)で述べたように、企業活動とは、あらゆる環境の総合であり、税のみで論じることはきわめて危険です。そして、日本にも、租税特別措置による特別控除や税額控除があり、政策による減税もあり、政策減税も含めて議論すべきです。

それと、法人税法23条の2「外国子会社から受ける配当等の益金不算入」が昨年4月1日から施行され、25%以上を保有する外国子会社からの配当金には法人が課せられません。例えば、日本企業がベトナムに投資として事業をした場合と韓国企業が同じことをした場合とでは、税の面で差はありません。

法人税法23条の2により日本の国際課税はタックスヘブンを除けば、投資先国の税適用となっています。制度に関するQandAもここにあります。

バラを見せられて美しいと感じても、そのバラには大きなトゲがあることがあります。トゲを抜くべきか、抜けるのか、あるいは、レンゲがよいのか、よく考えてみたいと思います。

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コメント

はじめまして、ブログ読ませて頂きました。
税金のお話がいっぱい書いてあるのですが、果たして果たして、税金の問題なんでしょうか?

何が原因でどうすれば良いというのは、よくわかりませんが・・・・・。
税金の問題ではないんじゃないかな?と思うのですが、どうなんでしょう。

投稿: ナイモン | 2010年6月18日 (金) 13時08分

ナイモン さん コメントありがとうございます。

生活実感としては、税金については自分の住民税や所得税しか感じない人も多いと思います。消費税は、2004年4月から消費税を含んだ総額主義となったので、知らないうちに払っています。

民主党と自民党が消費税10%を言い出したので、消費税10%となる日が近いと思います。確実に物価が上がります。生活は苦しくなります。でも、消費税適用外の物もあります。例えば、土地です。

私は、多くの人に税金に関心を持ってもらいたいと思います。税金=悪ではなく、税金は、どうあるべきかを考え、課税の方法と税支出を、考えるのです。本当は、皆がそのように考えて、自分の考えを実現する目的として議員を育ててることができるのが民主主義だと思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2010年6月19日 (土) 23時46分

はじめまして。根津と申します。

私も法人税の減税にはどうしても納得できず、あちこち資料を探し回ってみました。経済産業省の資料に「法人の公的負担」関連の資料がありましたが、データの取り方に恣意性が感じられ、どうにも納得できません。
が、民主、自民、みんなの党のマニフェスト(アジェンダ)を読みましたが、いずれも法人税減税をうたっています。

なぜなのでしょう?

リンクを張らせていただいて、よろしいでしょうか?
また、ご不快でなければ、トラックバックをさせていただきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

根津

投稿: 根津幸夫 | 2010年6月24日 (木) 16時24分

根津幸夫さん
コメントありがとうございます。リンクやトラックバックは、どうぞなさってください。

法人税に関しては、近々再度また書いてみたいと思っています。税とは何かですが、考え方の一つに、政府から受けるサービスの対価であり、その対価の金額は、受けたサービスの量や内容によるのではなく、法人の事業利益により決定するとする考え方があります。

例えば、外交や防衛がしっかりしていれば、法人の事業活動には、好ましい。治安が悪ければ、治安対策に多大の経費を支出する必要があり、従業員を雇用するにしても、高給を払わねばならず、事業活動にはマイナス要素が多い。

日本の法人税率をアジアの国々と単純に比較して正しいかという問題があると思います。ちなみに、日本の法人税率は米国と、ほぼ同じです。

投稿: ある経営コンサルタント | 2010年6月24日 (木) 16時48分

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