グローバル生産体制と法人税
次のようなニュースを眼にしました。
日経 7月22日 タイヤ大手、タイを輸出拠点に ブリヂストンなど
少し前には、次のニュースもありましたし。
日経 7月13日 日産、タイ製「マーチ」発売 最安は100万円切る 最高燃費26キロも
安くて、しかも性能もよい。消費者なら気をそそられるし、一方、メーカを含め、仕事で関係しているなら、これに対応していかないと、事業拡大が望めないだけでなく、縮小を余儀なくされる。私は、法人税との関係を書いてみます。
1) 日本の法人税が高すぎるからタイに拠点を移すのか
絶対に違うと思います。タイが、製造業をするに、魅力的だからです。高度成長期には、日本が魅力的であったのと同じです。タイの法人税は、このJETROの解説によれば30%であり、普通の税率。しかし、よく考えると、実は日本の法人税率も同じ30%です。では、何故実効税率40%などと言われるのかは、地方税(都道府県税と市町村民税)を勘案すると40%とされているからです。
企業が保有している固定資産について納税する固定資産税は、別ですから、地方税など、余分だと思えてしまいます。しかも、法人税に相当する地方税の一つである事業税には、外形標準課税という極悪非道の税も存在します。赤字であれ容赦しないのです。例えば、資本金と内部留保の合計と考えればよいのですが、資本等の金額に0.2%の税が毎年課されます。利益に給与等人件費と支払利息を合計した付加価値に0.48%課されます。
本年2月19日に内部留保課税として、法人の税引後利益に課税を継続する内部留保課税の不合理を書きましたが、実は地方税では、当然のこととして実施されているのです。外形標準課税が資本金1億円以上(何故資本金で区分するのかも、不思議です。)の会社にしか適用されないから、ほとんど話題になりませんが、東京都が自分の都合で課税しようとして裁判で負けたのを、合法化するために制度化した税ですから、税の中でも筋が悪いと思います。
ちなみに、外形標準課税でないとして、40%が実効税率であるとした場合の、40%の内訳は、私が計算すると次のようになります。これを見ると、地方税が多く、地方税を含めて議論をしないと、本質を誤ると思います。(なお、事業税は、2008年10月1日以降開始の事業年度から、地方法人特別税の適用により、変わっていますが、実質は配分方法を少し変えただけなので、本質は、下の表の通りです。)
税 | 国税 | 都道府県 | 市町村 | 合計 |
法人税 | 25.0% | 25.0% | ||
事業税 | 9.6% | 9.6% | ||
都道府県民税 | 1.5% | 1.5% | ||
市町村民税 | 3.9% | 3.9% | ||
合計 | 25.0% | 11.1% | 3.9% | 40.0% |
そして税よりは、もっと基本部分の検討が、本当に必要なことだと思います。
2) 移転価格税制
法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額であり、会計上の利益金額と概ね一致しますが、国をまたがっている場合は、複雑になります。外国に子会社を持っている場合、親子会社間の取引金額は、内部取引であるので、操作が可能。結果として、人為的に税額を減らすべく、税率の低い国に利益をシフトするように操作する。誰もが、考えることです。
そこで登場するのが、租税特別措置法第66条の4「国外関連者との取引に係る課税の特例」です。かつては、例えば、日本の自動車メーカが、タイに販売子会社を設立し、そこに輸出する。その場合の、価格が低すぎれば、価格操作をし、日本の税逃れをしていると判断する。その際には、他の国の資本系列のない販売会社への輸出価格を参考にできる。
それが、部品の取引となった時に、複雑さが出てきました。一般には、売買されていない物を売買した時の税額を決定するための価格査定の困難さです。そして、今回のように、私は詳細情報を持っていませんが、日産マーチが、部品を含め全てタイ国内で製造されているとしたら、基本的に製造に関する利益は、タイに利益源泉があり、タイが法人税課税の権利を有するとなります。
ところで、その先は、更に複雑ですが、マーチの開発をしたのは、どこでしょうか?日産本社で日本国内であるとすれば、日産・日本の研究開発費として損金算入されており、日本の税金が低く抑えれれています。そのことに問題はないのですが、研究開発の成果としての利益も、その損金が計上された国で把握されないと変なことになります。
日本のこれからとして、製造業の研究開発を通しての付加価値の実現が、一つの重要産業であると思います。その際、成功すれば、その事業による法人税は、日本で納付されるべきと考えます。移転価格税制は、難しい分野です。一方で、移転価格税制の合理的な適用・運用を確立しないと国際協力を阻害しかねない。また、相手国政府との協力も必要である。そして、単なる2国間ではなく、タイで製造するとしても、部品はマレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、韓国、台湾、中国、日本とか複数にまたがることもあるし、そんなビジネスモデルが、これからの成功例になるように思える。医薬品の製造が、どうなるか。研究開発が、複数の国にまたがることもあり得ます。
日本がアジアに存在する強みを生かしたビジネスを、どれだけ展開できるかも、将来に大いに関係すると思う次第です。
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