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2010年7月22日 (木)

グローバル生産体制と法人税

次のようなニュースを眼にしました。

日経 7月22日 タイヤ大手、タイを輸出拠点に ブリヂストンなど

少し前には、次のニュースもありましたし。

日経 7月13日 日産、タイ製「マーチ」発売 最安は100万円切る 最高燃費26キロも

安くて、しかも性能もよい。消費者なら気をそそられるし、一方、メーカを含め、仕事で関係しているなら、これに対応していかないと、事業拡大が望めないだけでなく、縮小を余儀なくされる。私は、法人税との関係を書いてみます。

1) 日本の法人税が高すぎるからタイに拠点を移すのか

絶対に違うと思います。タイが、製造業をするに、魅力的だからです。高度成長期には、日本が魅力的であったのと同じです。タイの法人税は、このJETROの解説によれば30%であり、普通の税率。しかし、よく考えると、実は日本の法人税率も同じ30%です。では、何故実効税率40%などと言われるのかは、地方税(都道府県税と市町村民税)を勘案すると40%とされているからです。

企業が保有している固定資産について納税する固定資産税は、別ですから、地方税など、余分だと思えてしまいます。しかも、法人税に相当する地方税の一つである事業税には、外形標準課税という極悪非道の税も存在します。赤字であれ容赦しないのです。例えば、資本金と内部留保の合計と考えればよいのですが、資本等の金額に0.2%の税が毎年課されます。利益に給与等人件費と支払利息を合計した付加価値に0.48%課されます。

本年2月19日に内部留保課税として、法人の税引後利益に課税を継続する内部留保課税の不合理を書きましたが、実は地方税では、当然のこととして実施されているのです。外形標準課税が資本金1億円以上(何故資本金で区分するのかも、不思議です。)の会社にしか適用されないから、ほとんど話題になりませんが、東京都が自分の都合で課税しようとして裁判で負けたのを、合法化するために制度化した税ですから、税の中でも筋が悪いと思います。

ちなみに、外形標準課税でないとして、40%が実効税率であるとした場合の、40%の内訳は、私が計算すると次のようになります。これを見ると、地方税が多く、地方税を含めて議論をしないと、本質を誤ると思います。(なお、事業税は、2008年10月1日以降開始の事業年度から、地方法人特別税の適用により、変わっていますが、実質は配分方法を少し変えただけなので、本質は、下の表の通りです。)

国税 都道府県 市町村 合計
法人税 25.0% 25.0%
事業税 9.6% 9.6%
都道府県民税 1.5% 1.5%
市町村民税 3.9% 3.9%
合計 25.0% 11.1% 3.9% 40.0%

そして税よりは、もっと基本部分の検討が、本当に必要なことだと思います。

2) 移転価格税制

法人税の課税標準は、各事業年度の所得の金額であり、会計上の利益金額と概ね一致しますが、国をまたがっている場合は、複雑になります。外国に子会社を持っている場合、親子会社間の取引金額は、内部取引であるので、操作が可能。結果として、人為的に税額を減らすべく、税率の低い国に利益をシフトするように操作する。誰もが、考えることです。

そこで登場するのが、租税特別措置法第66条の4「国外関連者との取引に係る課税の特例」です。かつては、例えば、日本の自動車メーカが、タイに販売子会社を設立し、そこに輸出する。その場合の、価格が低すぎれば、価格操作をし、日本の税逃れをしていると判断する。その際には、他の国の資本系列のない販売会社への輸出価格を参考にできる。

それが、部品の取引となった時に、複雑さが出てきました。一般には、売買されていない物を売買した時の税額を決定するための価格査定の困難さです。そして、今回のように、私は詳細情報を持っていませんが、日産マーチが、部品を含め全てタイ国内で製造されているとしたら、基本的に製造に関する利益は、タイに利益源泉があり、タイが法人税課税の権利を有するとなります。

ところで、その先は、更に複雑ですが、マーチの開発をしたのは、どこでしょうか?日産本社で日本国内であるとすれば、日産・日本の研究開発費として損金算入されており、日本の税金が低く抑えれれています。そのことに問題はないのですが、研究開発の成果としての利益も、その損金が計上された国で把握されないと変なことになります。

日本のこれからとして、製造業の研究開発を通しての付加価値の実現が、一つの重要産業であると思います。その際、成功すれば、その事業による法人税は、日本で納付されるべきと考えます。移転価格税制は、難しい分野です。一方で、移転価格税制の合理的な適用・運用を確立しないと国際協力を阻害しかねない。また、相手国政府との協力も必要である。そして、単なる2国間ではなく、タイで製造するとしても、部品はマレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、韓国、台湾、中国、日本とか複数にまたがることもあるし、そんなビジネスモデルが、これからの成功例になるように思える。医薬品の製造が、どうなるか。研究開発が、複数の国にまたがることもあり得ます。

日本がアジアに存在する強みを生かしたビジネスを、どれだけ展開できるかも、将来に大いに関係すると思う次第です。

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2010年7月16日 (金)

IMFは、何と言っているか

次の読売なんかは、「国際機関からの「外圧」と国会運営という「内憂」との間で財政再建に道筋をつけられるか、菅内閣の政権運営手腕が問われている。」と述べて、問題の本質を、政局の闘争へと、すり替えている気がすします。酷いのは、NHK報道で、IMFが述べてもいない法人税の引き下げを勧めたなどと、報道としては、絶対にあってはならず、私はNHK解散論者になりそうです。(NHK報道は、7月15日 7時10分であり、リンクが消滅すると思うので、続きを読むに文章をコピーしておきます。)

読売 7月16日 消費増税、政権に「外圧」 IMF14~22%提示

1) IMFとは

難しいことを考えるより、IMFが、どのように説明しているかを読むのが簡単で、次の通りです。

The International Monetary Fund (IMF) is an organization of 187 countries, working to foster global monetary cooperation, secure financial stability, facilitate international trade, promote high employment and sustainable economic growth, and reduce poverty around the world.

187国が参加し、世界的な金融の安定や、通貨政策の協調と共に、経済発展や貧困対策に取り組んでいます。

2) 今回のIMF発表とは

IMFに加盟するに当たり、その合意している内容がありますが、合意書第4条(Article IV - Obligations Regarding Exchange Arrangements)でここにありますが、調査や意見交換をし、場合によっては、勧告が行われることもあります。今回は、IMF Gordon調査団代表他が5月10日から19日まで来日し、日銀白川総裁、財務省野田副大臣他とも面談し、協議及び調査結果を6月14日に完成させました。

この調査結果を受け、IMF理事会が7月2日に第4条協議を採択し、これを7月14日に発表しました。どの国とも原則年1回の協議がなされ、その協議に関する、IMFの意見発表です。今回の日本に対する意見に、強制力はありません。IMFの見解を述べたのです。

3) IMFが述べていることは何か

IMF理事会の文書(IMF Executive Board Concludes 2010 Article IV Consultation with Japan Public Information Notice (PIN) No. 10/87 July 14, 2010 )はここにあります。調査団が書いた報告書はここにあります。

日本経済が回復基調にあるとしています。また、成長するアジアに位置することの優位性も述べています。しかし、日本経済の問題点・脆弱性は、政府の巨額の債務であるとしています。債務残高を持続可能なレベルに下げることが、重要としています。

では、消費税についてはと言うと、次の文章です。Theyと言っていますが、これは日本政府の人達と私は読みます。そうしないと意味が通らない。なお、日本政府の人達が述べたことは、消費税の見直しを含む税制の抜本改革です。

They generally agreed that adjustment efforts should focus on a gradual increase in the consumption tax, supported by comprehensive tax reform, limits on non-social security spending growth, and reforms to entitlement programs.

なお、報告書には、様々な分析があり、おもしろいことが色々書いてあります。例えば、Box 3には、給料が低すぎ、給料を上げないと成長が見込めないとか。中小企業対策や高齢者対策も述べています。現状では、無政策の分野です。

ちなみに税制改正の一案として述べているのは、12ペ-ジの15で、「2011年からの消費税の15パーセント順次引き上げ、所得税の控除額の引き下げ、国内投資を誘導する法人税改正、納税者番号制」です。

4) どうすべきか

消費税増税に向かわざるを得ないと思います。しかし、私なら、その前に次のことを実行します。

1.納税者番号制
2.基礎年金保険料の全額税負担
3.医療保険料の負担率の引き下げ(税負担の拡大を行い、医療保険の統合を目指します。)
4.税収増が、年金や医療保険の将来の収支を確保できることの確認
5.政府負債の削減計画

間違っても、法人税の引き下げのために、消費税を上げることはしません。国債の発行、年金の破綻、医療保険の破滅というこれらが進みつつあり、全て未来を暗くするものです。その結果、日本は暗くなりました。希望を作るべきと思います。政府が破綻した国の国民は、悲惨なものです。夕張市の破産なんて程、なまやさしくありません。夕張市は、政府から税収以上の交付税を受けることができていますが、そんなものがない世界です。

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2010年7月15日 (木)

ねじれ国会は正常国会

参議院選の結果、参議院では総議席242のうち、与党は民主106、国民3、無所属1の110と過半数を割ったことから、ねじれ国会と呼ばれることとなったが、私は正常化したとの思いです。

1) 三権分立が確立される

総理大臣が他の大臣を任命する。総理大臣と大臣が内閣を組成し、日本国の行政権は内閣に属する。これが、憲法第65条から第68条の定めです。行政権は、総理大臣にあるのだと言えると思います。官僚が、どうのこうのと言うけれど、実は総理大臣の部下であります。

総理大臣の決定方法は、憲法第67条ですが、要は衆議院の決議結果で決定される。即ち、衆議院で過半数を握る勢力が、行政権を握る。

行政権と立法権を同じ勢力が握れば、専制政治に近くなる。民主党の天下は、そんなことを実感させる時代であったと思います。内閣提出の法案が圧倒的に多い中、参議院が同じ勢力が把握していれば、暗黒法が幾らでも成立してしまう。

憲法第59条第1項の「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。」が、生かされることとなる。

2) 衆議院強行採決その他

今年の5月頃は、衆議院で強行採決が流行していたことを思い出します。5月18日にレベルの低い議員達として書きましたが、国家公務員法等の一部を改正する法案における衆院内閣委員会で傍聴に来た他の委員会の委員が強行採決を成功させるために走っていって、転んで、翌日車いすでやってきたいという、マンガのような事件がありました。(強行採決したが、結局この法案は、参議院で審議未了で、未だ成立していません。本当にマンガの2乗であります。)

権力を握ると、何も見えなくなってしまう。何が正常で、何が異常か、自分自身には分からなくなる。人間だったら、誰にでも、生じる可能性があると思います。

与党の議員には、反省して欲しい。余りにも、傲慢になりすぎで、国民をバカにしすぎた。消費税を議論しようと提案するなら、バラマキを中止すべきであった。結果は、国民に無責任な人達だと思わせたように思う。

八ッ場ダムも、中止したが、情報を公開して、国民に議論を広く呼びかけようとしない。事業仕分けは、劇場政治の誘いにはなるが、本質の解決にはならないのだが、これを成功だと宣伝する人もいる。

3) 今後

極めて簡単だと思います。政府として何をすべきかを実施し、国民のための法案を国会に提出すればよいのですから。正しい法案を提出すれば、衆議院でも参議院でも賛成を得られるはずです。党員の数からすれば、衆議院の方が賛成を得やすいでしょうが、正しい法案であれば参議院でも承認されるはずであり、そうならないなら、党がどうどうと、その説明を国民に向かってすればよいと思います。

民主主義とは、議員がする政治ではなく、国民が参加をする政治です。

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2010年7月 8日 (木)

遺族への年金払い所得税に関する最高裁判決について(その2)

toshiさんのブログでは、福岡高裁の判決文と長崎地裁の判決文の裁判所のリンクを付けておられ、読んでみました。(私は、自ら探し出せておりませんでした。)

福岡高等裁判所 平成19年10月25日判決

長崎地方裁判所 平成18年11月07日 判決

長崎地裁では、原告が勝利し、福岡高裁では政府側が勝利です。昨日のブログに加えて、あえて一点だけ感想を書きます。

法は、立法主旨や背景ではなく、条文の解釈が優先される。

条文の解釈も、文字面ではなく、慣習や関連法を全て併せて解釈するのであり、立法主旨もその一つである。時代が変わるにつれ、同じ法の同じ言葉も、意味が変わっていくのは当然であり、それを踏まえて、立法を考えないとならないのだと思います。

福岡高裁の判決文に、次の文章がありました。(第3項の当裁判所の判断の中です。)

現行所得税法は,税制調査会の昭和38年12月6日付け「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」を踏まえて立法された法律であるところ,同答申は,当時の税制について,被相続人が掛金を負担した年金契約に基づく年金受給権は,相続財産として時価により評価し,相続税の課税が行
われ,さらに相続人がその年金受給権に基づき支払を受けるときは,その年金から被相続人が負担した掛金を控除した残額に対して所得税が課税されることになっていることについて,所得税と相続税とは別個の体系の税目であることから,両者間の二重課税の問題は理論的にはないものと考え
るとしていた(乙11の(1),30)。そして,相続税法3条1項1号の立法に際しても,同号所定のみなし相続財産である年金受給権に基づいて毎年支給される年金が所得税の課税対象となることが予定されていたのである(乙20の(1),21)。
そうすると,所得税法9条1項15号,相続税法3条1項1号の立法当時,生命保険契約に基づく死亡保険金として支払われる年金について,所得税の課税が予定されていたということができる。

最高裁では、上記の判断は考慮されませんでした。当然、他の考慮すべき部分の方が、重要とする判断であり、最高裁を非難するつもりはありません。むしろ、上記の答申を尊重するなら、立法をしっかりしておく必要があると言いたいのです。

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2010年7月 7日 (水)

遺族への年金払い所得税に関する最高裁判決について

遺族が受け取る年金形式による分割払いの生命保険金に対する所得税の課税に関する最高裁の判決に対しては、最高裁の判決であるからでしょうが、この判決を当然のこととしてマスコミが論調していることついて、気になる所があります。マスコミの意見の代表例としては、次の日経と読売の社説であろうと思います。

日経 7月7日社説 恣意的な行政をただした二重課税訴訟

読売 7月7日社説 二重課税判決 税の公平性を重んじた最高裁

最高裁の判決は、この裁判所Webにあります。

国税庁は、どのような解釈でいたかは、この説明(No.1615 遺族が受け取る個人年金)を読んでみてください。

1) 所得税と相続税の二重課税

実は、そもそも相続税とでは二重課税が、常にあるし、二重課税を前提としている部分があります。獲得した所得で、現金・預金、土地等の資産を残しますが、所得税を納付した後の残余部分から金銭支出等をして取得した財産があります。この税引後の金で購入した財産を相続時に、相続税の対象にするわけで、二重課税を前提としている部分があります。

所得税と相続税は、課税する思想が異なるのであり、二重課税=ケシカランの論調には、行き過ぎがあるように思います。多額の財産を相続することについて、格差拡大の是正を含め、社会的な費用を分担し、社会的な公平さを実現するため、相続税の形で相続者が納付するのが、相続税であると考えます。

今回の最高裁判決で問題となったのは、所得税法第9条第1項第15号(現在は、オリンピック・パラリンピックの報奨金非課税が追加されているので第16号)の「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」の扱いです。

2) 国税庁の解釈

所得税法施行令183条に「生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等」があります。年金で生命保険金を受け取る場合には、受領した金額を収入とし、それまでに納付した保険料の総額を必要経費とします。10回分割で受け取るなら、支払った金額の10分の1が必要経費です。(実際の計算では、切り上げがあるので、納税者に有利となります。)

今回の裁判の例で言えば、次の通りです。

所得金額=2,300,000-納付した保険料総額920,000x1/10=2,208,000円

所得税法施行令183条第1項2号イ(1)に、「支払総額」と書いのみ書いてあり、この裁判では被相続人である夫が支払った保険料総額との解釈と思います。

3) 最高裁判決

最高裁判決は、所得税法第9条第1項第15号(現在の16号)の適用のみで、判断したと考えます。相続税法には、二重課税のことはないのですが、逆に所得税法は相続税や贈与税の対象となったものについては、原則対象外としています。このややこしさが、今回の問題のベースにありますが、二重課税をがありうるとしている所得税法の条文もあります。例えば、所得税法第60条「贈与等により取得した資産の取得費等」です。相続で取得した資産を譲渡した場合に、譲渡金額から差し引く取得費ですが、相続税の時に使用した相続時の価額ではなく、死亡した被相続人が所得した時の取得原価です。もし、取得時10で、これが相続時に100になっており、この100をベースに相続税を支払ったとしても、200で売却したならば、譲渡所得の金額は100ではなく、190となります。(実際の譲渡所得の場合は、長期譲渡所得は1/2になったりするので、少額になります。)

税法とは、社会における取り決めであるので、絶対的正義は存在しないと思います。勿論、法の解釈は、政府解釈以外に存在して然るべきであり、税法の解釈に裁判で果敢に挑まれた今回の原告には敬意を表します。

4) 最高裁判決の問題点

問題点というより、問題提起点が本当は正しいのですが。私の考えを述べてみます。

A) 年金形式による分割払いの生命保険金の所得税

最高裁判決は、相続税法第24条に基づく60%の部分が、所得税法第9条第1項の非課税であると述べているのであり、40%部分は、所得税の対象です。どのような計算をするのか、ファイナンスに詳しい人なら、頭を抱えます。(最も、最高裁は22条の結果が24条であるとして、24条とは直接は言っていませんが、算数はどうなっているのと思います。)

B) 最高裁判事はファイナンス音痴?

今回の判決文には、次のようにあります。

・・・本件年金は,被相続人の死亡日を支給日とする第1回目の年金であるから,その支給額と被相続人死亡時の現在価値とが一致するものと解される。そうすると,本件年金の額は,すべて所得税の課税対象とならないから,これに対して所得税を課することは許されないものというべきである。

実は、相続税法第24条の60%は、「残存期間が五年を超え十年以下のもの」を対象としているのです。5年と10年で現在価値が同じとすることは、ファイナンス理論からすれば、極めて変である。無理矢理、割引率を決めて、全10回であれば、残る9回に40%部分を割り振ることも確かに可能ではあるが、そんなこを納税者にさせることがよいのだろうかと思います。

配偶者を亡くされた人が対象者の多くであるとすれば、なおさらだと思います。

不思議な現象も生じます。この人の場合は、負担した保険料92万円であり、60%の1380万円が適用される方が、所得税は安くなるはず。ところが、保険料支払期間が短かったり、低金利で60%を適用するより、実際納付した保険料で合理的に所得税を計算した方が、税額が低くなる場合もあるはずです。

一方、国税庁は、相続税法第24条をどのように解釈していたかというと、No.4123 遺族が取得する年金受給権にあるように年金受給権の評価方法を定めているとの解釈でした。24条には、権利の価額とあり、複雑な概念を持ち込んだ条文で、よくないと思います。

C) 相続税と所得税の整合

相続税法と所得税法は、現状決して整合性は、よくないと思います。例えば、基礎控除は、所得税では38万円ですが、相続税では5千万円プラス相続人の数x1千万円で、保険金については500万円×相続人の数が適用されます。ですから、配偶者一人に子供が二人いれば、相続財産が8千万円に加えて、保険金の15百万が適用されます。

更に、配偶者には特別の優遇があり、配偶者が相続する財産が合計1億6千万円以下であれば、相続税は課されません。(相続税法19条の2)

相続税が、このように控除額が高くなっているのは、土地の高騰により、控除額を高くしないと相続税納付で生活が成り立たなくなることを防ぐためと理解します。しかし、控除額は、庶民感覚を離れすぎて、高くしすぎかも知れません。何故なら、相続税が発生する相続は、現実にはほとんど生じていないからです。この財務省の資料によれば、相続税が発生しているのは、全体のたった4.2%です。

相続税はほとんど発生していないので、相続税の申告書の提出がほとんどない。税務署も把握するに把握できていない。課税限度以下の納税者を執拗に税務調査することは、問題が大きいと思います。一方で、所得税も、不思議な計算をするとなると、不合理な税制になる恐れがあります。

5) 対応

この結果が、消費税引き上げにつながるのでしょうか?単純ではないが、方向は、所得税が少なくなり、その穴埋めに他の税を上げる必要が生じるという理屈は発生します。

今回の最高裁判決は、所得税法第9条第1項第16号をめぐって、あり得る解釈であり、それを放置した立法の責任であると考えます。(法案を作るべき財務省を含め)

税制のループホールから生じた問題ですが、パッチワーク的に対処してきた付けが回ってきたのだと思います。納税者番号制を含めて、税制を整備しないと、今回のような問題が生じると考えます。

多分、今回の訴訟が起こった原因は、最高裁判決からすると、(支払保険金-払った保険料)x10%が源泉税として徴収された。しかし、この人は、他に所得があったことから、他の所得のみの確定申告をした。その結果、納付税額から源泉税額が控除されることを知ったし、分割払いの保険金も所得税対象であることを知った。源泉税のあり方、確定申告のあり方を含めて合理的な税制でないとトラブルを生じ、結果的に社会的なコストになることを警告している判決と思いました。

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2010年7月 4日 (日)

政党における内部統制の重要な欠陥

「政党における内部統制の重要な欠陥」について、次の小糸工業の発表を読んで思いました。

小糸工業 6 月25 日 財務報告に係る内部統制の重要な欠陥に関するお知らせ

日経ニュースは、次でした。

日経 6月26日 小糸工など、「内部統制に欠陥」、報告書に記載

1) 政党の内部統制の重要な欠陥

重要な欠陥と思うのは、民主党も自民党も、マニフェストに大きな問題あると思うからです。

[民主党]
参議院の定数を40程度削減します。
衆議院は比例定数を80削減します。

[自民党]
国会議員定数の大幅削減 (衆議院・参議院の国会議員定数を3年後に722名から650名に1割削減し、6年後には、国会議員定数を500名に3割削減します。)

自分たちのルールを自分自身で作ることは、手前勝手、独断暴挙、専制です。発言することは、構いませんが、決定することには、問題がありすぎます。ゲームのルールを自分が提案するとすれば、そしてそのゲーム結果が有利・不利に関係するとすれば、力のある者が、自分の欲望を盛り込んでルールを作ります。

議員定数の削減という裏には、自分たちの欲望が、隠れているように思えて仕方ないのです。

2) 主権者は国民

日本で、主権なんて言葉は、戦後に生まれたのかも知れませんが、ルールを制定し、ルールを運営する際の決定権は国民にあると言うことです。国民が自分自身で、それをできないので、代表者を国会に送り、国会でルールを決定し、公務員にその実施を委託し、ルールの判定者としての裁判官を選ぶ権利を持っています。国会を構成する国民の代表者=議員の選出方法は、国民が決めるべきです。

議員選出の方法について、国民が決めると言っても、全員が同時に集まれる訳でもなく、議員ではない代表者が様々な検討を行い、それを国民に示し、そして決定していくような方法がよいと思います。即ち、国会議員とは別の第三者委員会になるのですが、各国との比較や、問題点の検討が地に着いた状態で実施されるべきです。国民の間で議論がなされず、議員が勝手に走るべき事項ではありません。

国会議員定数の削減で、ど費用削減が可能であるという点はありますが、定数削減の結果が悪の繁栄となり、悪貨が良貨を駆逐する結果となっては、国民にとって大きな損失です。

本当に、費用削減をするなら、政党助成金を廃止すべきです。私は、政党助成金が好きではありません。議員が一般公務員とは異なり、活動には多額の費用が必要だというなら、議員個人に政治活動助成金を補助すべきです。無税にして、政治活動費用の財務報告を義務付ければ済むと思いますから。あの人を支持したいという気持ちは起こっても、あの政党を支持したいとはなれない人もいらっしゃると思います。

政党のボスをはびこらせることは、独裁政治・暗黒政治につながる気がします。

3) 横暴政治

民主党の、マニフェストには、衆議院は比例定数を40程度削減と書いてあり参議院の削減案は、不明ですが、2009年衆議院選のマニフェストでは、「参議院については選挙制度の抜本的改革の中で、衆議院に準じて削減する」と書いてあり、比例部分の削減と想像します。

2009年衆議院選挙での小選挙区の結果は、300議席の中で、民主221議席、自民64議席でした。私の昨年9月のブログで書きましたが、得票率では民主が47.4%、自民が38.7%であったので、民主が142議席、自民116議席となるところでした。その結果、自分たちが国民から信頼されていると、横暴がはびこったように思います。その上、この議員定数削減を許すと、いよいよ横暴政治が激しくなるように思えます。

とてもおもしろい書類を発見しました。共産党塩川鉄也議員の質問に対する菅直人総理大臣の答弁書ですが、本年4月と5月に合計3億円の官房機密費(内閣官房報償費)を(平野官房長官は)支出していたと回答しています。支出先は解明されていません。

議員とは、こんな連中だな~って思わせます。国民がしっかりしなければならないと思います。小選挙区制や二大政党制は、日本には向かないと思っています。太平洋戦争に突入したのも、戦前の二大政党が自らの党利・党略でしか活動せず、国民を無視した。その結果、貧しい国民の中には、軍部が唱える主張に共感を覚える人達が少なからず存在することとなった。政治が、国民のことを考えずに、議員自らの利益ばかり考えることとなった時に不幸なことが生じると思います。

人は、自らの利益を求める者です。従い、健全な牽制を働かせる制度が重要であり、内部統制の重要な欠陥が問われていると思います。

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