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2010年9月30日 (木)

朝日新聞の記者

9月4日に司法修習生の給与制と貸付制を書きました。本日9月30日の朝日新聞の記者が書いた「窓」というコラムは酷いものです。Webで読むのは、有料のようですが、レベルの低い視野の狭い朝日新聞の記者が書いたと思われるコラムであり、わざわざ有料で読むことはお奨めしません。

ちなみに、ここが入り口のようですが、「司法修習生に給料や手当、ボーナスが支払われていると知ったのは記者の仕事を始めてからだ。「ずいぶん恵まれているなあ」と思った記憶がある。」で始まっているように、内容は、極めてお粗末です。

日本の終身雇用の良さには、雇用開始後に、新人教育を始め、採用とは能力のある人材を発掘し、その能力を生かすのは、会社の役割であるとの考えがありました。だから、新人研修やOJTが盛んでしたし、新人の数年間の間は、会社にとって給料の持ち出しでもよいとした考えです。多くの企業で、企業がある程度の給与を支払い続け、学費も援助して、外国の大学院でMBAを取得する企業派遣のプログラムもありました。不況になって、そのような人が退職して、あわてた企業もあったようです。

朝日新聞の記者には、学生時代の経験のみで活躍できる新聞記者のような職業しか頭にないようで、就職決定後にその職業について学ぶというようなことについては、想像すらできないようです。昔(1968年まで)、医師のインターン制度というのが、ありました。卒業しても、医師は1年間無給で働き、その結果、国家試験が受験できるのでした。

日本では、大学も大学院も授業料は安く、試験で合格できれば、費用の心配なく、学問に専念できるというなら良いのですが、現実は、そうでないと思います。社会が必要とする人材は、社会が育てねばなりません。9月4日のブログでは、司法修習生が生まれた歴史についても触れました。司法修習生の給与なんて、朝日新聞の新入社員の給料より低いのです。それを「ずいぶん恵まれている」なんて、マスゴミの記者とは、話すら通じないだろうと思います。

しかし、中にはまともな神経の記者もいるようで、このような記事も滋賀版でしたが、ありました。

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2010年9月28日 (火)

尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件ビデオ公開

尖閣諸島に関するブログが連続し、よくないことです。しかし、ビデオ公開については、やはり書きたいことがあります。

読売 9月28日 法務省、尖閣沖での衝突時ビデオ公開検討

ところが、これに対して、次の報道では、「前原外相は、衝突の様子を撮影したビデオの公開は慎重に検討する姿勢を示した。」とありますが、参院外交防衛委員会での発言であり、政府決定ではないと理解します。

読売 9月28日 「中国漁船かじきり体当たり」外相、故意を強調

1) 刑事訴訟法47条

刑事訴訟法47条は、次の通りです。

訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。

これが故に、刑事事件の場合は、検察の証拠は開示されてきませんでした。その理由として、刑事被告人は、裁判により罪が確定し、それまでは無罪と推定されるのであり、証拠等を公開することは、関係者のプライバシー等を侵害するおそれや、あるいは捜査・公判に支障を生ずるおそれもあります。現実には、この法務省の説明のように、不起訴記録の開示についても被害者等の救済や民事裁判での重要な争点に関するものでも、特別な場合に限って開示を認めています。

2) 公共目的の証拠開示

証拠が開示されないことの不合理性としては、例えば、ここに2006年6月に発生したシンドラー・エレベーターの2009年1月の事故報告書があり、そこには、次のように書かれています。

港区は事故の重大性に鑑み、事故調査委員会を設置して独自に事故原因の究明と再発防止策の検討に着手しましたが、原因究明に欠くことのできない事故機の制動装置・制御盤等の主要部分や点検報告書等の資料が捜査機関に押収されたままであり、エレベーター製造会社・保守会社からの事故聴取や制御プログラムの入手も難航しております。

最近は、この例のように開示されることもあるようですが、犯罪捜査のために行われる司法解剖鑑定書もほとんど遺族に対してさえ開示されません。むやみに証拠を開示しないことは必要でありますが、刑事訴訟法47条の但し書きについてフレキシブルであってもよいと考えます。

大事故における原因調査と対策を考えるような場合の様に、刑事裁判以外に重要な目的が存在する場合もあります。限定された相手への開示もあり得るし、支障のない捜査と公判を優先しすぎることの弊害があると私は思います。刑事訴訟法47条については、裁判で争われることがまずはない条文であり、政府・法務省・検察庁の解釈で運用される結果になっていると考えます。47条の運用は、どうあるべきか、国民的な議論が必要であると私は考えます。

3) 中国漁船衝突事件ビデオの公開は検察庁 or 海上保安庁

検察庁は釈放をしたのみであり、不起訴処分としたとのニュースは未だ聞こえてきません。この状態で、重大な証拠であるビデオを検察が公開できるのかと言う点です。

例えば、村木さん事件で、フロッピーディスク(FD)を上村被告に返却しています。これは、検察がFDを証拠に採用しなかったからです。もし、証拠としていたなら、刑事訴訟法47条の定めも含め、検察が保管していたはずです。中国漁船衝突事件では、検察が起訴をしなくても起訴猶予であれば、いつか起訴をする可能性が残っていることになり、ビデオを海上保安庁に返還できないのではと私は考えます。

海上保安庁は、自らが撮影したビデオであり、これを公開することに支障はありません。一方、検察庁は、村木さんFD事件で、現時点では何においても、批判を受けやすい立場にある。不起訴処分にして海上保安庁に返却することは難しいし、まして、47条の解釈に一歩踏み出せるのだろうかと考えます。

4) 政府・内閣の問題

やはり、政府・内閣の問題と考えます。第一歩において、ビデオ公開を優先して、外交で決着をつける方法があったはず。しかし、党の代表選もあっただろうが、なすに委せた。例え、否認や黙秘状態であっても、ビデオが確実な証拠であるなら、10日間の勾留期限で釈放できたはず。次に、国連総会のニューヨークで首脳接触の機会もあった。これらのことは、政府・内閣の無責任さを語っているように思う。

本当にビデオに決定的証拠能力があるなら、政府・内閣が不起訴処分をきめるか、あるいは刑事訴訟法47条の但し書き解釈により公開すべきと考える。さもなくば、ビデオはハッタリと皆が思うでしょう。

それでなくとも、中国漁船が故意に衝突を意図したとしても、その時漁船の操舵輪を誰が握り、船内がどのような状態であったかを知ることには、相当の困難があると思う。無能力政府・内閣かどうか、見物することとします。

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2010年9月27日 (月)

尖閣諸島海域での公務執行妨害船長釈放

尖閣諸島海域での公務執行妨害で逮捕された船長釈放の決定が、24日突然に検察庁よりなされ、船長は25日未明に釈放され、帰国した。22日に尖閣諸島問題を書き、「解決の見えてこない」と公務執行妨害事件を含めて表現したのですが、こちらについては、予想外の展開でした。

良い選択ではなかったと思います。即ち、那覇地検は「今後の日中関係を考慮」との言葉も入れて発表したが、本来は外相レベルが発表すべきだったと思います。検察庁の判断と発表しても、中国政府を含め誰も、そう受け取っていないはず。チャンスは、幾らでもあったのに、首相や外相は、動かなかった。国連総会に2人とも行っており、しかも中国の温家宝首相もいたのである。面談できた可能性は十分にあったと考える。事務方に詰めをさせて最後に会えば良いだけだし。

首相や外相がやらなくてはならないことを放棄してはならない。「領土問題はない」なんて言って通じると思っているとすれば、無責任もはなはだしいと思う。ちなみに、読売は、温家宝首相が中国・温首相「主権や領土で妥協しない」と23日に国連総会で演説したと報道をしていたが、私が国連のWebを見る限りでは、そんな発言はしていない。各国の支持を受ける演説をしており、この温家宝首相の演説を逆に引用しても、充分交渉可能と考える。菅首相の24日の演説と共にリンクを掲げておきます。

温家宝首相演説(English Translation) Statement Summary

菅首相演説 (英語) Statement Summary 日本語

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2010年9月22日 (水)

尖閣諸島問題

解決の見えてこないのが、尖閣諸島問題です。

読売 9月22日 中国首相、衝突船長の即時無条件釈放を要求

9月7日に尖閣諸島久場島の北西約15キロの海上で、海上保安庁の巡視船に、中国漁船が9月7日立ち入り検査を妨害するために衝突したことで海上保安庁が船長を逮捕し、それに対して温家宝首相が釈放を要求したとの報道です。

日本の前原外務大臣は、次のように述べたと報道されています。

読売 9月22日 「我々は冷静に対応」尖閣問題で前原外相

平行線ではなく、正反対の向きを向いていると思います。これで、解決になるのだろうか?と言うことで、私なりに調べてみました。

1) 現状

次の読売の記事は、中国漁船の数だけで、日本漁船が何隻操業していたかは書いていませんが、多くの中国漁船が従来から尖閣諸島海域で操業していたのは、確かだと思います。

読売 9月8日 中国船30隻、領海侵犯か…巡視船衝突当日

「8月中旬以降、尖閣諸島の周辺海域で操業する中国漁船が増えており、多い日では約270隻を確認。1日に70隻程度が領海内に侵入していた日もあるという。・・事件が起きた7日も周辺で約160隻の中国船による操業を確認、うち約30隻は領海侵犯していたという。いつトラブルが発生してもおかしくない状況に地元漁民も不安を募らせている。」

という背景があり、今回の事件になっていると考えます。

2) 尖閣諸島の領有権についての日本政府見解

この外務省の見解が、日本政府見解です。

「尖閣諸島は、1885年以降政府が沖縄県当局を通ずる等の方法により再三にわたり現地調査を行ない、単にこれが無人島であるのみならず、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重確認の上、1895年1月14日に現地に標杭を建設する旨の閣議決定を行なって正式にわが国の領土に編入することとしたものです。・・・・」とあります。

ところで、1885年とか1895年とかは、中国に力がなかった時代です。1894年・1895年が日清戦争の年です。それ以前に既に、欧米諸国に大幅な譲歩をした天津条約が1858年、北京条約が1860年であり、国内的には太平天国の乱(1851年-1864年)もありました。

「慎重確認の上」であるものの、中国が、それに同意するかは、大いに疑問があります。

3) 中国の領土法

国連のこのWeb Law on the Territorial Sea and the Contiguous Zone of 25 February 1992に英訳があり、第2条の主要部分は、次の通りです。

The PRC's territorial land includes the mainland and its offshore islands, Taiwan and the various affiliated islands including Diaoyu Island, Penghu Islands, Dongsha Islands, Xisha Islands, Nansha (Spratly) Islands and other islands that belong to the People's Republic of China.

台湾を含むのは、中国側からすれば当然のことですが、Diaoyu Island(尖閣諸島)、Penghu Islands(澎湖諸島)、Dongsha Islands(東沙群島)、Xisha Islands(東沙群島)、Nansha (Spratly) Islands(南沙群島)も入っています。フィリピンやベトナムも領有を主張している島々が入っているのであり、尖閣諸島のみで、とやかく言うことはないのかも知れないが、とりあえず、この法については、認識しておく必要があると思いました。

4) 条約等における扱い

日清戦争の結果の条約が下関条約であり、このWebの第2条には、(a)遼東半島、(b)台湾、(c)Pescadores Groupを中国は日本に割与すると書いてあります。Pescadores Groupとは、文字からすると尖閣諸島(中国名:釣魚台)とも思えてしまうが、緯度・経度からすると澎湖諸島で正しく、当時の認識としては、尖閣諸島は日本ということで、日中双方にとって、条約に書くほどのこともなかったのだと思います。

日本の現在の領土は、ポツダム宣言の第8項の次の文章が関係します。

The terms of the Cairo Declaration shall be carried out and Japanese sovereignty shall be limited to the islands of Honshu, Hokkaido, Kyushu, Shikoku and such minor islands as we determine.

第8項冒頭のCairo Declaration(この国会図書館Web参照)には、次のようにあります。

It is their purpose that Japan shall be stripped of all the islands in the Pacific which she has seized or occupied since the beginning of the first World War in 1914, and that all the territories Japan has stolen from the Chinese, such as Manchuria, Formosa, and The Pescadores, shall be restored to the Republic of China. Japan will also be expelled from all other territories which she has taken by violence and greed.

再び、Pescadoresが出てきますが、澎湖諸島との解釈は可能と思います。

いずれにせよ、沖縄は戦後米国統治下に入るわけで、1971年に沖縄返還協定が結ばれます。次がその第1条で、平和条約第3条の規定に基づいてアメリカ合衆国に与えられたすべての領土及び領水を日本国のために放棄するとなっています。これについて、日本外務省は、米国統治時代に中国が尖閣諸島について何等異議を唱えなえなかっと言っています。

1.アメリカ合衆国は、2に定義する琉球諸島及び大東諸島に関し、1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第3条の規定に基づくすべての権利及び利益を、この協定の効力発生の日から日本国のために放棄する。日本国は、同日に、これらの諸島の領域及び住民に対する行政、立法及び司法上のすべての権利を行使するための完全な権能及び責任を引き受ける。

2.この協定の適用上、「琉球諸島及び大東諸島」とは、行政、立法及び司法上のすべての権力を行使する権利が日本国との平和条約第3条の規定に基づいてアメリカ合衆国に与えられたすべての領土及び領水のうち、そのような権利が1953年12月24日及び1968年4月5日に日本国とアメリカ合衆国との間に署名された奄美群島に関する協定並びに南方諸島及びその他の諸島に関する協定に従つてすでに日本国に返還された部分を除いた部分をいう。

5) 解決策

領土問題なんて、世界中の多くであることです。ハーグの国際司法裁判所で解決するのが一案かも知れません。しかし、そのようにできるか、疑問はあると思います。中国と話をしなければいけないのは事実と思います。漁船の船長の個人犯罪の問題ではないと思います。

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2010年9月21日 (火)

今後の日本産業発展のために

参議院選の前の6月13日に法人税の減税と日本の将来と題してブログを書きました。当時と異なるのは、消費税増税を来年実施することには困難があると思われるが、法人税減税は、どうなるのだろう思います。

円高対策を法人税減税で対応との意見もあるようですが、本来別に考えるべきことを、混同してしまっては、いけないと考えます。企業は、利益を追求すると言われますが、今の状況は、利益追求よりは、生き残りと存続の追求と言う方が、実態にあっているように思えます。特に、次のニュースなどは、そう思えたし、そうならざるを得ない現実があることを思い知らされました。

日経 9月18日 研究・開発、インドに拠点 日立、高度なシステム設計

日経 9月19日 住友電工、光ケーブルを中国で一貫生産

先端技術も、中国・インドの時代が、やって来る。(来た。)製造業が少なくなった日本は、何をすべきか?残る、農林水産業は、重要だと思います。しかし、農林水産業が、生き残るための体質改善ができたとしても、その雇用者・就業数は、限られているはず。第3次産業としては、何に期待すべきか?流通業や外食産業も、それほどの規模にはなれないはず。

将来の日本は、ある程度は、先端技術を生かした産業を伸ばさなければ、地盤沈下で沈んでいくのではと思う。文部科学書のWeb(ここ)に、試験研究を行った場合の法人税額等の特別控除(試験研究費の特別税額控除)を恒久措置とする要望が書かれていました。私の6月13日のブログには、試験研究に対して税の軽減を与え、支援することが、政策として有効と考えると書きました。同じようなことを、文部科学省のWebに書いてあって、嬉しく思いました。試験研究費の特別税額控除は、これがあることにより、ない場合よりもR&Dへの投資を増加させます。その結果、それにより潤う、従業員や産業も存在し、さらにはR&Dの結果により、将来のGDPの増加が期待できます。マイナス点は、税収減になることですが、ない場合より、増加した分があるとすれば、全額が税収減とはならない。そして、将来の増収が期待できるなら、それよりも、日本経済の将来の活性化が期待できるなら、効果は大きいと考えます。なお、本制度には上限があり、税額の30%が限度です。黒字法人でないと使えません。(持ち越しは、多少可能と了解しますが)

法人税の税率引き下げがなされたら、試験研究費の特別税額控除も、効果が薄くなると思います。

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2010年9月14日 (火)

帝京大学病院診療制限

帝京大学附属病院のトップページを見てみると、「お詫び」と題した文書に次のことが、書かれていました。(帝京大学附属病院のトップページ

 また、このたびの事態で、当院の責務である診療を部分的に制限せざるを得ない状況となり、・・・・

文書の中での、お詫びの対象としては、この文章の前に院内感染で迷惑をかけたことと、遺族に対するお詫びが書かれています。でも、本出来事についいては、余りにも誤解が多すぎると思います。

1) 昨日の日経メディカルの記事「不毛なアシネトバクター騒動とその背景にある誤解」

日経メディカルの記事は、ここにあります。全文を読むには、登録が必要ですが、無料で登録可能と理解します。記事は、医師で感染症コンサルタントの青木眞氏の話を日経メディカルの記者が書いていますが、非常に正しいことを述べておられと思います。即ち、報道から受けるイメージとは異なり、例えば、次のような、話が書かれています。

今回、騒動になっているアシネトバクターという菌は、濃厚に抗菌薬を使わざるを得ない高度医療の場では、多かれ少なかれ見つかる可能性の高い菌です。・・・・・生まれつき抗菌薬が効きにくい菌を「耐性だ」と大騒ぎし、不必要に恐れるのはどうなのでしょうか。

周囲にいるほとんどの人にとってはさしたる危険性はありません。アシネトバクターはもともと、人に危害を与える能力の低い菌なのです。

抗菌薬が効く効かないだけではなく、それが患者さんの生命や健康にどのような影響を与えるかを考えていかなければいけません。

この程度の引用で止めますが、私は、騒ぎすぎ(特にマスコミ)であると思います。

2) 多剤耐性アシネトバクター(MRAB)とは?

1)の説明で十分と思いましたが、念のため、Webを探すと、オーストラリアNew South Wales州のHealth Fact Sheet(ここ)に、説明があり、当然のことですが、青木眞氏の話と同じです。健康体の人が、MRABに感染しても、発症する危険性はなく、病人の場合には、特別な治療が必要であると書かれています。

3) 帝京大学病院の場合

ここに、帝京大学附属病院は「平成22年7月30日(金)に開催された調査委員会の外部委員報告書」を公表しています。MRABが検出された39例のうち、25例が死亡したのですが、そのうち「関連が否定できない」が7例、「因果関係不明」が6例、「因果関係なし」が12例との判定になっています。

しかし、「関連が否定できない」とされた場合でも、「他に方法があった」に必ずしもつながらず、然るべき調査・検討の必要があると思います。

4) 対策

青木眞氏の話を日経メディカルの記事から引用するのは、これで止めますと書いたのですが、最後にこれだけは、引用させてください。

新たな調査研究を始める予算があるならば、それを感染管理の看護師を増やすことに使った方が余程効果的でしょう。

下手に抗菌薬を使うというのは、対策ではなく、逆に多剤耐性アシネトバクターを増やすだけになると思います。多くの病院・医療機関でも多剤耐性アシネトバクターの感染があったことが報道されていますが、何を非難すべきか、そのターゲットを誤ると大変なことになると思います。

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2010年9月11日 (土)

不思議に共感を覚える発言?

現実を無視した強がり発言ばかりしていると思える民主党代表選での菅直人と小沢一郎ですが、不思議に次の小沢発言(つぶやき?)には、共感を覚えました。(MSN産経ニュース)

「何だ、こんなにカネをかけて…」
 小沢は同日夜、議員会館を出る際、小沢を追うため慌ててハイヤーに乗り込もうとする記者団をみて、珍しく軽口をたたいた。

MSN産経ニュース 2010.9.10 23:23 【激突 民主党代表選】菅首相、勝利を確信? 人事手形を乱発 小沢氏は旧民社議員に直談判 (2/3ページ)

ハイヤー代は、新聞料金等に跳ね返ってくるのか?料金を強制的に徴収するNHKも、この中にいたのだろうか?そこまで経費をかけて取材をするほどの報道対象ではないと思っている人達は、どうすればよいのだろうか?

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厚生労働省元局長村木厚子氏に望むこと

土曜日にも拘わらず、訪問者数が多く、何故かとLogを見てみると、次の昨年6月18日に書いたエントリーでした。

元厚労省の局長村木厚子容疑者事件の疑惑

厚生労働省元局長村木厚子氏に大阪地裁で無罪判決があったことにより、マスコミは、ほとんどが検察・特捜の批判一色であると感じます。そのような中で、「取り調べの可視化推進」を社説で述べていた次の日経が、最も冷静と思いました。

日経 9月11日社説 全面敗北を喫した特捜検察

「取り調べの可視化」は、私も賛成します。但し、本事件が、これで終わるかというと、そうではなく、昨年6月18日に書いたように、役所の本物の印鑑が捺印されている証明書が不正に発行されたのであり、あってはならないことである。

裁判継続中の元係長上村勉被告の単独犯行であったとしても、印鑑はどのように管理されていたのかは、問題視されるべきである。本事件に関して、当時の厚生労働省障害保健福祉部企画課での管理体制は、どうであったのでしょうか?通常は、不正がなされないように管理します。例えば、証明書の発行に当たっては、複数の部課・組織や人が関与し、不正がなされないように、本件で言えば、印鑑は誰が、どのように管理していたのでしょうか?刑事犯罪になるかどうかには関係なく、管理体制の不備については厳しく問われるべきと考えます。その結果を公表し、それを踏まえ、改善すべきです。

役所の不正行為とは、極めて恐ろしいものです。民間よりも高いガバナンスが求められ、公務員には、非公務員より、厳しい義務が求められる。

そこで、本エントリーのタイトルである村木厚子氏に望むことですが、無罪が確定したなら、どのように不正が行われ、何故防止できなかったか、何を改善すべきかを指摘し、そして、厚生労働省のみならず、政府のあらゆる省庁部局において、不正が発生しないように、残る役人としての勤務を遂行してもらいたいと思う。現内閣は、村木氏が、そのように働けるようにしてもらいたい。

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2010年9月 9日 (木)

韓国哨戒艦「天安」の機雷説

韓国哨戒艦「天安」の沈没事件については、5月23日に韓国哨戒艦への北朝鮮魚雷攻撃のねらいで書きましたが、その後、目立った動きはないようですが。

1) 韓国政府調査結果の不信広がる

次のサイトで、韓国の新聞ハンギョレを日本語訳で紹介しているハンギョレサランバンというWebに次の記事が紹介されていました。

2010年09月08日 ‘天安艦調査’不信感 拡散…国民の32%だけ "政府発表 信じる"

記事の中に、「‘2010統一意識アンケート調査’によれば、信じない(‘全く信頼しない’(10.7%),‘信頼しない方’(25%))で答えた人は、信じると答えた人より約3%ほど高い35.7%と現れた。」とあります。Wikiには、「同紙の立場は、反共イデオロギーからの脱却、進歩志向である」となっており、政府に批判的な立場が多いのかも知れませんが、ソウル大統一平和研究所の調査ということで、韓国内に、政府の発表は信じられらないと考えている人は多いのだろうと思いました。

日本は、どうなのかな?私は、日本政府に限らず、国際問題については、政府の発表には裏や隠し事、場合によっては、嘘があると思います。充分、慎重であるべきです。

2) 機雷説

機雷説について触れていたのが、次のNew York Timesの記事です。

August 31, 2010 Testing North Korean Waters

International Hearld Tribuneへの在韓国大使をしたこともあるDonald P. Gregg(Wikiはここ)の投稿記事です。記事の中心は、「天安」の沈没事件ではなく、元米国大統領Jimmy Carter の北朝鮮訪問に関連しての今後の米国・北朝鮮の外交に関することです。

記事の中に、「天安」の沈没事件に関して、次のように書かれていた部分がありました。

In June, Russia sent a team of naval experts to look over the evidence upon which the South Korea based its accusations. Though the Russian report has not been made public, detailed reports in South Korean newspapers said the Russians concluded that the ship’s sinking was more likely due to a mine than to a torpedo. They also concluded that the ship had run aground prior to the explosion and apparently had become entangled in a fishnet, which could have dredged up a mine that then blew the ship up.

(ブログ主の参考訳)・・・・・ロシアの報告書は公開されていないが、韓国の新聞報道によると、「天安」は魚雷でなく機雷により沈没した可能性が高いと、ロシアは結論づける。また、「天安」は爆発前に付近を旋回しているが、これは漁網を引っかけたことが原因であり、その結果、機雷を爆発させ、哨戒艦の沈没となった。

ロシアの報告書が公開されていない理由としては、ロシアの友人がDonald P. Greggに語ったのは「李明博大統領に打撃が大きすぎ、オバマ政権をも困らす結果をおそれるから。」。なお、ロシア報告書が公開されていないばかりか、本件については実は韓国政府の報告書も公開されていない。

そうなると、私が、5月23日に書いた哨戒艦を沈没させるような北朝鮮の高度な軍事技術力は存在しないこととなる。それが当然との気がする。

現在の北朝鮮問題は、南北の軍事対立ではなく、北朝鮮の金正日の後の体制をめぐる様々な勢力の駆け引きと思う。北朝鮮の国内のみならず、韓国や米国を初め、中国は勿論のこととなる。日本は、どうするのか?拉致問題で動けないとするのではなく、やはり正常な状態となるように監視すべきと思う。しかし、北朝鮮問題となると、日本での報道や議論は、余りにも特定の一方に偏りすぎていると思える。

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鈴木宗男最高裁判決

鈴木宗男の上告を棄却する最高裁判決(懲役2年の実刑判決確定)が、次の裁判所Webにありました。(裁判官5名全員一致の判決)

鈴木宗男 最高裁判所第一小法廷 平成22年09月07日決定(棄却)

鈴木宗男は、当時就任していた公務員である北海道開発庁長官として、北海道開発局の開発建設部が発注する工事に関して、金銭を受領して、その業者に受注が可能となるように便宜を供与した。このことについて、受託収賄にならないとすれば、司法は闇になると思いました。

刑法第7条1項に”この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。”とある。

憲法15条2項の”すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。”の通り、特定の者に対する利益供与は、あってはならない。選挙で支持をしたのは、選挙区の有権者であるが、選挙結果を受けて、与党の中で、大臣、副大臣、長官等公務員となったならば、自らの行為や行動を厳しく律しなければならない。また同時に、就任した省等の公務員が正しく行動するように管理する必要がある。

公務員とは、民間企業以上のガバナンスやコンプラが求められる。不利益を受ける範囲が、投資家や債権者という範囲でおさまらず、国民全般に及ぶからである。

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2010年9月 4日 (土)

司法修習生の給与制と貸付制

司法制度改革の一環として2004年12月に国会で成立した裁判所法の改正で成立した司法修習生の給費制を廃止し、資金の貸与制とする改正法の施行が2010年11月1日と迫ってきています。一見、問題はないと感じてしまうのですが、実は余りにも大きな問題が、隠れています。

新聞各社の社説を眺めていると、朝日の次の社説がありました。一読すると合理的と誤魔化されそうですが、トンデモ社説と思います。

朝日 2010年8月29日 社説 司法修習生―国民が納得できる支援を

1) 司法修習生とは

裁判官、検察官、弁護士になるには、司法試験に合格する必要があります。新司法試験の場合では、受験資格として2年または3年の法科大学院の修了が必要です。法科大学院を修了し、司法試験に合格しても、未だ裁判官、検察官、弁護士にはなれません。それから、更に1年間は司法修習生として修習を受け、終了時に試験に合格して、初めて裁判官、検察官、弁護士として働くことができます。(裁判所法43条。検察庁法18条。弁護士法4条。)

裁判官、検察官、弁護士(法曹人)として活躍するには、司法試験のみならず、修習を受け、一定のレベルに達していることが、日本の社会や国民のためには必要であるとの考え方であり、それぞれ経験ある有能な人物が活躍すべきであり、各人が選択すれば裁判官から弁護士あるいはその逆等の人事交流の場を提供し、司法制度の発展を図るためには、法曹人を同じ司法修習制度の下で修習させることも重要であるとの考え方です。

現在の司法修習制度が何時できたかですが、裁判所法と検察庁法の公布が1947年4月16日で、施行日が日本国憲法施行と同じ1947年5月3日です。すなわち、成立は帝国議会でした。当時は、日本を新憲法に基づく民主国家として樹立することが最大の課題であり、様々な制度の改定を行っています。司法修習制度もそのような一環に入ります。戦前の日本で、三権分立が、どれだけ実現できていたかは、私の専門ではありませんが、裁判は天皇の名前で行われ、裁判所と検察が同一の建物内にあったと聞きます。裁判官と検察官は、司法官試補制度で、弁護士は弁護士試補であり、別の制度でした。裁判官と検察官は国家の官に属し、弁護士は民に属するという三権分立が明確ではない官と民の二極世界であったと思います。これを民主化し、司法を国民主権の国家の柱として確立するために、裁判官、検察官、弁護士を独立性を高めた最高裁判所の下で修習することとしたのです。

次は、裁判所法案を最初に提出した1947年3月13日の衆議院本会議における木村大臣の提案に理由説明での司法修習制度についての発言です。

なほ從來の司法官試補及び辯護士試補の制度を改め、これを司法修習生の制度に統一し、將來の法曹は、在朝在野を問はず、司法修習生の修習を終つた者であることを必要とし、その修習を最高裁判所の管理に屬させて、法曹の素質の向上を期しておるのであります。

司法・裁判制度は、国にとって極めて重要です。政府の暴走を押さえ、憲法を正しく施行できるのは、司法・裁判制度が正しく機能している時であり、国民にとって極めて重要です。

2) 司法修習生の義務と権利

裁判所法66条1項と67条2項が次の条文です。

66条1項 司法修習生は、司法試験に合格した者の中から、最高裁判所がこれを命ずる。
67条2項 司法修習生は、その修習期間中、国庫から一定額の給与を受ける。ただし、修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については、この限りでない。

2004年12月の改正は、67条2項に関して次のようになっています。

第六十七条第二項中「国庫から一定額の給与を受ける」を「最高裁判所の定めるところにより、その修習に専念しなければならない」に改め、同項ただし書を削り、同条第三項中「第一項」を「前項に定めるもののほか、第一項」に改める。

司法修習生となることを命じられ、修習に専念する義務を負うが、給与等の支払は受けられない。雇用をしておいて、訓練期間は給与を支払わずと言っているのと、同じように思います。修習は労働ではないでしょうが、修習試験修了試験合格により得られる資格が対価であり、給与は不要であるとするのは、司法修習生の負担を不当に増大させているように思います。

2004年12月の改正に関しての2004年11月24日の衆議院法務委員会での南野大臣の説明は、次でした。

裁判所法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 新たな法曹養成制度の整備は、多様かつ広範な国民の要請にこたえることができる多数のすぐれた法曹の養成を図ることを目的とするものであり、司法修習生の修習についても、司法修習生の増加に実効的に対応することができる制度とすることが求められております。
 この法律案は、このような状況にかんがみ、新たな法曹養成制度の整備の一環として、司法修習生に対し給与を支給する制度にかえて、司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金を国が貸与する制度を導入することを目的とするものであります。

私にとっては、理解不可能です。本当の理由は、国庫支出の節約です。

なお、司法修習制度の維持が、必要か、重要かについては、考えてみる必要もあると思います。ちなみに、国によっては、そのような制度はなく、試験合格で法曹人になれる国もあります。例えば、米国がそうです。英国の場合、弁護士はBarrister(法廷弁護士)とSolicitor(事務弁護士)の制度ですが、司法修習生制度はありません。また、ドイツや韓国には、司法修習制度はあるが、給与の支払いもあります。2004年12月の改正は、本質を考えていない安易な改正とも思えます。

3) 被害者

司法修習生及び裁判官、検察官、弁護士を目指しておられる方々に、その被害が及びます。国民一般は、税負担が減少すると喜んでよいのでしょうか?むしろ、一般の国民こそ、本当の被害者であると思います。

司法・裁判が正しく機能することにより、国民が自らの権利を守ることができます。司法・裁判が正しく機能するのは、有能で立派な志を持った裁判官、検察官、弁護士が存在する場合です。デタラメに起訴され、弁護士は適切な弁護をせず、裁判官はトンデモ判決を下すとなったら、どうでしょうか?民事だって同じです。個人や企業の間の争いが適切に裁判で決着することが期待できないならば、互いの信頼や与信行為は成立せず、ビジネスが成り立ちません。行政訴訟も同じです。

法曹人である裁判官、検察官、弁護士を育成することは、その国にとって極めて重要なことです。絶対におろそかにしてはならない部分を、おろそかにする大変な過ちを犯すことになる気がします。

足利事件について、このブログで何回か書きましたが、第二審より佐藤博史弁護士が弁護活動をされました。私は、菅谷さんの無罪は、佐藤弁護士の活動により得られたと思っています。国選弁護人の報酬は、微々たる金額で、活動をすれば全額持ちだしみたいなものです。被告人の弁護の必要性を感じたら、最後まで全力で弁護活動に打ち込まれる弁護士には、私は頭が下がります。一方、弁護士は高収入で、修習期間に給与を受領するのは、おかしいとの感覚を持っている方もおられると思います。確かに、高収入の弁護士もいます。消費者金融の超過返済の取り戻しで、稼いでおられる弁護士もおられます。しかし、弁護士報酬は幾らが正当であるかは、個別の仕事の内容についての需要と供給で決まるものです。制度を貸付制度に変更すると、弁護士のなり手は、悪徳弁護士が増加するというか、貸付金返済資金を得るために、報酬が高くなる懸念があると思います。また、裁判官や検察官の給料が、貸付制度を理由に上がるとは思えず、国民が本当に望む人材が他の分野に流れてしまう恐れもあると思います。

給与制度を貸付制度に変えて、何一つよいことが期待できないと思います。2004年12月の改正で、当初の政府案では施行日が2006年11月1日でした。衆議院で、施行日を4年延長される修正案が可決され、2010年11月1日となりました。当時は、自民、公明、民主が賛成し、共産と社会が反対でした。しかし、まだ間に合います。

最後に、日本弁護士連合会の司法修習給費制維持のページと司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会のホームページを紹介して、本エントリーの最後とします。

日本弁護士連合会の司法修習給費制維持のページ

司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会のホームページ

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2010年9月 3日 (金)

死にゆく妻との旅路

新潮文庫に「死にゆく妻との旅路」という本があります。

小説ではなく、縫製業を営む男の1999年3月から12月までの車での放浪の旅に関する手記です。放浪の旅は、大腸癌を再発した妻の死で終わることになり、男は、不起訴となるまでの間、保護者遺棄致死の疑いで逮捕され、約20日間留置場に入れられる。手記は2000年11月号と12月号の「新潮45」に掲載され、加筆されて文庫本となった。

手記であるので、誰しも、そのような状態になれば、そう感じ、考え、行動することがあり得ると、読んでいて、自分自身が著者の清水久典さんに、乗り移ってしまうような面があります。問題点を多く提起していると思います。

1) 病

放浪旅に出る3ヶ月半ほど前の1998年11月27日に妻は病院で大腸癌の摘出手術を受ける。清水氏は医師から早ければ3月くらいで再発の可能性があることを告げられた。1999年3月に旅に出るのも、放浪目的ではなく、職を探して各地の職安を次々と訪れていく。結果、職は見つからない。住んでいた七尾を出たのは、借金で、どうしようもなくなっていたが自己破産をする決心がつかず、どこかでひっそりと新しい仕事と住居を得ようとしたからであった。旅に出て、1週間程度過ぎた時、一旦は自己破産を決心するが、自己破産すると妻の側に一緒にいてやれなくなるかも知れないと思ってしまう。

-卑怯と言われてもかまわんわ。
出来るだけひとみの側にいてやりたい、同じ時間を過ごしてやりたい。入院させたら、ひとみと離れ離れだ。わしは約束したじゃないか、ひとみをひとりにしないと・・。押さえ切れないほどの感情が、渦を巻いていた。

-わしは今まで、何もしてやれんかった・・。
もう歯止めは効かなかった。二十二年の妻との思い出が、溢れ出していた。自の前に現れては、消えていく。

-今しかないんや。

私は奥歯を噛み締めていた、妻に気付かれぬように。
「やっぱり、自己破産は止めるわ」
妻にそう伝えた。
特に説明はしなかった。ただ「自己破産を止める」と、ひとこと言っただけだった。
「私はそれでええよ、オッサンと一緒なら」

妻はいつだってそうだ。私に反対はしない。私はその駐車場でUターンして、もと来た道を行った。もう、兄貴たちにも連絡するつもりはなかった。

その後は、次のようなことが。

「病院へ行こう」
「嫌や」
時々、その会話が繰り返される。どうしても入院費の話になる。私は申し訳なくなり、話はいつもそこで途切れた。

「一緒にいられなくなるわ・・・」
か細い声で、妻がぽつりと一言う。布団に包まった背中が震えていた。私はどうしようもなくなって俯いた。何も言えず、妻に声もかけられず、腰を上げた。
外に出て、竿を垂れる。秋空を見上げる。
空は澄みきり、雲が薄く棚引いていた。
「オッサンといられれば、それでええ」

九ヶ月前に七尾で聞いた妻の声が、私の全身に響き渡る。
-しかし、ほっといたらひとみは・・・。
金の問題じゃあない、そんなこともわかってる。
水面に目を落とした。

入江の海面は波立つこともない。穏やかに、柔らかい波紋を描き続けていた。

「大事にしてやらな、いかん」
結婚を決めた時、そう考えていたことが、しきりと頭を巡った。

死亡する10日前の11月21日。

「やっぱり病院へ…行こうや、ひとみ、な」
「嫌や」
かすかに言い返すだけだった。ようやく聞き取れるほどの声で・・・。
「だって、おなか、痛いんやろ、な、病院へ行こう」
「嫌やよ、オッサン・・・」
妻はもう声もほとんど出ない。涙が肉の削げた頬をつたう。私はじきに、何も言えなくなる。怒ることも出来ない。泣くことも出来ない。何度も繰り返されて来た会話が、再び宙に浮くだけだった。
ぞれまでに私は、何度か運転席でアクセルを踏もうとしていた。
-今日こそは病院へ行くんや。でないと、ひとみは・・・。
そう決意し、伝えようと振り返って見ると、妻は泣いている。私はそのたびに諦め、外に出ては釣りをした。天を仰ぎ、海を見つめた。
私は怖かった。妻が死んでいく、そのことに向き合うことから逃げていた。面倒を見ながらも、私はそれ以外の時間、海に向かってばかりいた。

2) 破産

妻は12月1日に死亡し、12月22日に警察署を出て、その後に弁護士と書類を作成し、自己破産の手続きをする。妻が入院し手術を受けたのは、清水氏が1998年10月25日から誰にも告げずに一人車で出かけ、金策に駆けめぐったものの徒労に終わり、約1月後に帰った時だった。妻は、行方不明となった3日後に捜索願を出していた。また、清水氏の留守の間は、病院へ行くのが嫌だと痛みを我慢していた。

清水氏は、1947年生まれ。中学卒業後1963年から縫製会社で働き裁断をしていた。妻は、1958年生まれ。同じ工場で、縫製をしていた。結婚後も、同じ職場で働くが、日本の縫製産業が競争力を失っていく中、その企業も利益があがらなくなり、1983年に清水氏は退職・独立し、縫製工場を自らが始めることを選択する。当然、輸入品が幅をきかせ、小工場の利点としての小回りの良さとして、流行のスタイルを取り入れた製品を早く作ることで競争することとなるが、苦しい経営が続く。

知人の会社の借入の保証人になると同時に自分も同じところから借り入れる。結局、知人の事業は行き詰まり、知人は行方をくらませる。取り立ては、清水氏に来る。清水氏の借金と保証人の数は増加する。加えて、自分の縫製工場も赤字となる。

金策に失敗して帰ってきた時に、妻は取り立てが来るので、清水氏の実家にやっかいになっていた。取り立ては、当然保証人の所にも行く。自己破産を親戚のほとんどが勧め、その結論に自分も納得するが、行動できなかった。

3) 感想

清水氏とは、心の優しい人なのだと思う。でも、妻の病気のことも、何か、もっとよい方法があったような気もするし、事業のことは、勇気を持って、決断すべきであったと思う。

清水氏と同じように、なってしまう人は、多いと思う。人を蹴落としてでも、自分がよくなろうとする人がいる中、愛すべき人であると思う。

一方で、そのような人達を助けようとしていないのが今の政治である気がする。8月28日の円高、株安、デフレへの経済対策で、ゾンビ企業を生き残らせるべきではないと書きました。市場の変化に応じて、産業も変化すべきである。産業構造の変化があっても、それによる支障や障害が人々の生活に及ぼす影響は最小限に止めるような政治が望まれる。しかし、現状は余りにもお粗末であると思える。

最後に、清水氏の妻は、幸せなこの世の最後を送られたと思いますか?ある面では、すごく幸せだったと私は思います。医療においても、同等の幸せが実現できるようにすべきと考えます。緩和医療や在宅医療と呼ばれている医療もあります。

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