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2010年9月28日 (火)

尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件ビデオ公開

尖閣諸島に関するブログが連続し、よくないことです。しかし、ビデオ公開については、やはり書きたいことがあります。

読売 9月28日 法務省、尖閣沖での衝突時ビデオ公開検討

ところが、これに対して、次の報道では、「前原外相は、衝突の様子を撮影したビデオの公開は慎重に検討する姿勢を示した。」とありますが、参院外交防衛委員会での発言であり、政府決定ではないと理解します。

読売 9月28日 「中国漁船かじきり体当たり」外相、故意を強調

1) 刑事訴訟法47条

刑事訴訟法47条は、次の通りです。

訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。

これが故に、刑事事件の場合は、検察の証拠は開示されてきませんでした。その理由として、刑事被告人は、裁判により罪が確定し、それまでは無罪と推定されるのであり、証拠等を公開することは、関係者のプライバシー等を侵害するおそれや、あるいは捜査・公判に支障を生ずるおそれもあります。現実には、この法務省の説明のように、不起訴記録の開示についても被害者等の救済や民事裁判での重要な争点に関するものでも、特別な場合に限って開示を認めています。

2) 公共目的の証拠開示

証拠が開示されないことの不合理性としては、例えば、ここに2006年6月に発生したシンドラー・エレベーターの2009年1月の事故報告書があり、そこには、次のように書かれています。

港区は事故の重大性に鑑み、事故調査委員会を設置して独自に事故原因の究明と再発防止策の検討に着手しましたが、原因究明に欠くことのできない事故機の制動装置・制御盤等の主要部分や点検報告書等の資料が捜査機関に押収されたままであり、エレベーター製造会社・保守会社からの事故聴取や制御プログラムの入手も難航しております。

最近は、この例のように開示されることもあるようですが、犯罪捜査のために行われる司法解剖鑑定書もほとんど遺族に対してさえ開示されません。むやみに証拠を開示しないことは必要でありますが、刑事訴訟法47条の但し書きについてフレキシブルであってもよいと考えます。

大事故における原因調査と対策を考えるような場合の様に、刑事裁判以外に重要な目的が存在する場合もあります。限定された相手への開示もあり得るし、支障のない捜査と公判を優先しすぎることの弊害があると私は思います。刑事訴訟法47条については、裁判で争われることがまずはない条文であり、政府・法務省・検察庁の解釈で運用される結果になっていると考えます。47条の運用は、どうあるべきか、国民的な議論が必要であると私は考えます。

3) 中国漁船衝突事件ビデオの公開は検察庁 or 海上保安庁

検察庁は釈放をしたのみであり、不起訴処分としたとのニュースは未だ聞こえてきません。この状態で、重大な証拠であるビデオを検察が公開できるのかと言う点です。

例えば、村木さん事件で、フロッピーディスク(FD)を上村被告に返却しています。これは、検察がFDを証拠に採用しなかったからです。もし、証拠としていたなら、刑事訴訟法47条の定めも含め、検察が保管していたはずです。中国漁船衝突事件では、検察が起訴をしなくても起訴猶予であれば、いつか起訴をする可能性が残っていることになり、ビデオを海上保安庁に返還できないのではと私は考えます。

海上保安庁は、自らが撮影したビデオであり、これを公開することに支障はありません。一方、検察庁は、村木さんFD事件で、現時点では何においても、批判を受けやすい立場にある。不起訴処分にして海上保安庁に返却することは難しいし、まして、47条の解釈に一歩踏み出せるのだろうかと考えます。

4) 政府・内閣の問題

やはり、政府・内閣の問題と考えます。第一歩において、ビデオ公開を優先して、外交で決着をつける方法があったはず。しかし、党の代表選もあっただろうが、なすに委せた。例え、否認や黙秘状態であっても、ビデオが確実な証拠であるなら、10日間の勾留期限で釈放できたはず。次に、国連総会のニューヨークで首脳接触の機会もあった。これらのことは、政府・内閣の無責任さを語っているように思う。

本当にビデオに決定的証拠能力があるなら、政府・内閣が不起訴処分をきめるか、あるいは刑事訴訟法47条の但し書き解釈により公開すべきと考える。さもなくば、ビデオはハッタリと皆が思うでしょう。

それでなくとも、中国漁船が故意に衝突を意図したとしても、その時漁船の操舵輪を誰が握り、船内がどのような状態であったかを知ることには、相当の困難があると思う。無能力政府・内閣かどうか、見物することとします。

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