どうするB型肝炎訴訟
日経が、次の社説を掲載していました。
この社説の直接の出来事は、次です。
北海道B型肝炎訴訟で、政府は、2010年3月12日の札幌地裁による和解勧告を受けて、10月12日の札幌地裁での第5回和解協議において、「和解金額に関する国の考え方」を示し、この中で死亡・肝がん・肝硬変(重症)被害者に対して2500万円、肝硬変(軽症)被害者に対して1000万円、慢性肝炎被害者に対して500万円を支払うとしたのです。
札幌地裁が裁判でなく、和解を提示した理由、政府が和解に積極的な理由は、次の平成18年(2006年)06月16日の最高裁判所の判決の影響と思います。
集団予防接種によるB型肝炎ウイルス感染損害賠償請求事件最高裁判決 同(全文)
なお、原告弁護団はWebにおいても、その主張を訴え活動しておられますので、原告弁護団のWebも掲げます。
私が、思うことを、幾つか書き連ねます。
1) 詳細報告を国民にすべき
最高裁の判決を読んでも、次の点で、理解に苦しむのです。
(3) B型肝炎に関する知見 B型肝炎ウイルスの発見は,1973年(昭和48年)のことであるが,同一の注射器(針,筒)を連続して使用することなどにより,非経口的に人の血清が人体内に入り込むと肝炎が引き起こされることがあること,それが人の血清内に存在するウイルスによるものであることは,我が国の内外において,1930年代後半から1940年代前半にかけて広く知られるようになっていた。 |
裁判の原告(B型肝炎に感染した人)は5人で、感染が疑われる予防接種の時期は、①昭和39年12月~昭和46年2月、②昭和26年9月~昭和33年3月、③昭和37年1月~昭和42年10月、④昭和40年2月~昭和45年2月と⑤昭和58年8月であり、⑤の人以外は、ウイルス発見前に感染しました。そこで、「1930年代後半から1940年代前半にかけて広く知られるようになっていた。」と述べていますが、これは、どの程度なのでしょうか?ウイルスの発見前にも、その病気は存在する。しかし、ウイルスが発見されていなければ、病気の特定も治療も感染予防も困難と思えるが、どうなのでしょうか?
(4) 我が国における予防接種の経緯 我が国では,予防接種法(昭和23年7月1日施行),結核予防法(昭和26年4月1日施行)等に基づき,集団予防接種等が実施されてきた。・・・国(以下「被告」という。)は,昭和23年厚生省告示第95号において,注射針の消毒は必ず被接種者1人ごとに行わなければならないことを定め,昭和25年厚生省告示第39号において,1人ごとの注射針の取替えを定めたが,我が国において上記医学的知見が形成された昭和26年以降も,集団予防接種等の実施機関に対して,注射器(針,筒)の1人ごとの交換又は徹底した消毒の励行等を指導せず,注射器の連続使用の実態を放置していた。 |
昭和25年厚生省告示第39号で、1人ごとの注射針の取り替えを定めたと述べているが、実態は、全く異なるように思えます。昭和25年当時日本は貧しかった。注射針を1人ごとに変えていたら、ツベルクリン反応試験ができなかったのではないか?
結核対策が最優先課題の時期であったと思う。危険性は、よく解っておらず、リスクを知りつつも、リスクよりも結核予防の対策として集団接種を実施することが、結核対策として有効であると考えるのが当時の常識ではなかったかと思う。
最高裁の判決文には、何も書かれていない。日経が言うには2兆円である。納税者である国民に政府は説明すべきである。消費税を上げるから払えるなんて、気楽に考える前に、国民に、本件の詳細説明をすべきである。
政府は、金額についても、説明もすべきである。何人と予想されるかも、その理由についても。 国家賠償法により支払うのであろうが、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」とある1条1項の「故意又は過失」とは、誰による何であったのかも、明確にすべきであるし、違法とは、何のことかも。
2) 個人に負担を求めるべきではない
日経社説は、責任者、国家公務員と医療界が負担すべきと言っている。負担するなら、国民・企業全体で税金で負担すべきであり、個人にその責任を求めるべきではない。政府として、効果とリスクそして費用を勘案して決定したはずである。その結果としての負担が個人とは、変である。
仮に、これが企業であり、会社として方針を誤り損失を出したとして、その方針を決定した際に、リスクも全て合理的に勘案しての決定であれば、株主代表訴訟を受けても問題ないし、仮にその結果企業が倒産であっても、責任を問うことは困難である。
本件の場合、個人に負担を求める方向に行ったなら、暗黒の社会を作り出すと思う。
3) 医療の不確実さ
医療とは不確実である。ウイルスが発見される前に、その病気について、どこまで確実になっているか、ほとんど不明ではないか。
本件「後出しジャンケン」では、ないでしょうね。政治家が、人気取りだけで、走れば、恐ろしいことになります。真実を、明らかにして、合理的に進めて欲しいのです。もし、説明ができないなら、和解に応じずに、裁判で争って欲しいのです。
もしかしたら、悪い医療裁判と同じではないかと、思えます。医療を理解できない裁判官が、医療側に責任がないにも拘わらず、賠償を命じる判決です。
B型肝炎が予防注射で発症した方には、同情します。しかし、損害賠償に馴染むのだろうかと思うのです。新たに法を制定して、多くの国民の理解と負担で解決することが望ましいと思えます。
| 固定リンク
コメント
HBVは非常に感染力がつよく、キャリア化しやすいですから。感染ルートの解明など不可能です。治療を優先し、定期HBVワクチン行うしかないでしょう。 垂直感染以外にも、水平感染の度合いも数知れずです。 集団予防接種だけでとは言い切れないのですよ。
投稿: omizo | 2010年11月12日 (金) 15時05分
omizoさん
コメントありがとうございます。HBVについて、マスコミは予防接種感染に関する訴訟のことしか報道しない。憤りを感じます。HBVとは、どのようなものか、どのような場合に感染するのか。WHOの説明を読むと、私なんかは、HBVは性行為により感染し、その感染力はHIVの50倍以上、あるいは100倍強い。肝臓癌を引き起こす原因となる。と理解します。
マスコミ記者は、自ら調査したり、研究しようとしたりしない頭の中が空っぽの人ばかりのような気がします。HBVについて、正しい報道をすべきと思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2010年11月12日 (金) 21時41分