2011年度税制改正大綱
やはり、2011年度税制改正大綱については書いておかねばならぬ気がしました。日経ニュースと税制改正大綱です。
日経 12月16日 「つぎはぎ」の税制改正、900億円減税 大綱を決定
1) よく分かりません
日経は「つぎはぎ」と表現しているのですが、無思想で下手をすれば悪用される懸念さえ感じます。大きな改正を盛り込んでいるが、全体のデザインが不明で、よく錬られておらず、思いつきでデコレーションをしているようです。与党分裂の可能性は、税制改正案を見てもあるのではと思ってしまいます。
2) 法人税
話題になっていた法人税率は25.5%としたのですが、その結果について、東京都23区の法人を想定して、法人税、地方税(法人都道府県民税と法人市町村民税)および事業税の税率を整理すると次のようになります。(資本金1億円超の外形標準課税の場合にも、事業税は、10.08%相当であるとしています。)
表面税率 | 実効税率 | |||
現行 | 大綱 | 現行 | 大綱 | |
法人税 | 30.00% | 25.50% | 27.25% | 23.16% |
地方法人税 | 6.21% | 5.28% | 5.64% | 4.80% |
事業税 | 10.08% | 10.08% | 9.16% | 9.16% |
合計 | 46.29% | 40.86% | 42.05% | 37.12% |
約5%税率が下がるのですが、そのうち国税分が約4%で、地方税(地方自治体分)が約1%です。資本金1億円超の法人に対して外形標準課税がある事業税は完全に廃止して、全てを国税とし、法人所得に関係なく人口に応じて配分する地方自治体への分与税でもつくった方が、合理的と思います。
税制改正大綱の79ページから法人課税が記載されているが、(i) 減価償却制度の定率法250%を200%にし、(ii) 資本金1億円以上の企業(大企業)の繰越欠損金の控除限度額を所得金額の80%にし、(iii) 貸倒引当金を銀行等を除き大企業には認めず、(iv) 寄附金の損金不算入は国、地方自治体に対する寄附を除き限度額を現在の50%に変更することが述べられており、これらは全て増税です。
減価償却制度について、私は12月12日に損金経理要件をなくすべきと書きましたが、大綱は逆に損金経理要件をそのままにして償却限度額を厳しくしました。即ち、事業年度の初めに投資をしたら10年償却資産であれば初年度25%を償却費として損金処理可能であったのが20%になりました。投資は借入金とあわせてするのが通常であり、所得金額より大きくその数倍の場合もあります。例えば、所得金額を100として、その2倍の10年償却資産の投資をした場合、納付税額は20となる[(100-200÷10x250%)x40%]。所得100の40%の40の税が20節約できたことになります。ところが、今回の改正では税率が35%になったにも拘わらず、税額は21で、増税となります。[(100-200÷10x200%)x35%]初年度のみで比較することは、適正さを欠くかも知れませんが、事業とは先になればなるほど、不確定要素が多くなり、新規投資の直後に節税を図かれることは、魅力的です。そして、何より、投資促進効果があるので、景気対策として効果があります。現政権の政策は、変だと思います。
繰越欠損金については、何度も述べているので、省略します。貸倒引当金についても酷いと思います。現行の制度で、大企業は過去3年間の貸倒実績による計算でしか貸倒引当金が認められていないのです。それ以外には、例えば、相手方の民事再生法や会社更生法の申請の結果として、債権の50%の貸倒引当金が認められます。この部分の詳細が不明ですが、現行で合理的と思える制度を何故改正する必要があるか理解に苦しみます。
寄附金の損金不算入額にしても、議論もなしに半分にするのは、許されるのかと思います。特定公益増進法人等に対する寄附金は同額の増額をするとのことですが、各企業の実態を余り知らず、何とも言えませんが、結果としては、資本金100億円で税引後利益12奥程度の会社であれば、寄附金の限度額は従来37百万円であったのが19百万円となります。いずれにせよ、判断できるだけの資料がなく、法人の寄附の実態についての情報を開示し、国民に議論を呼びかける必要があると思います。
3) 所得税(給与所得者の特定支出)
所得税法57条の2の「給与所得者の特定支出の控除」を対象とする特定支出は、通勤費、転任費用、受講費用等に限られ、これらの合計支出額が給与所得控除を超えた場合に給与所得を調整する仕組みでありました。大綱では、特定支出として図書費、衣服費、交際費及び職業上の団体の経費も認め、合計額が給与所得控除の50%を超えるた場合に、調整することに変更しようとしている。次のグラフが、給与所得控除の額と特定支出の足切り額であり、この足切り額を超過した特定支出を所得金額から差し引くのが大綱の案です。(グラフには、現行の給与所得控除の金額も青の点線で書きました。)
給与所得者の特定支出が給与所得控除の額を超えるのは特殊な場合で、従来ほとんど適用はありませんでした。事業所得等の場合は、必要経費が認められます。但し、家事関連費等の必要経費不算入の制度により交際費でも事業関係でなければ、必要経費として認められません。図書費、衣服費、交際費については、プライベートな支出とも密接に関係します。そもそも、線引きが困難であるから、給与所得控除として給与額から計算した金額を給与所得控除として差し引くことにしています。
特定支出で所得金額を差し引くことがほとんどなかったことの理由には、例えば通勤費や交通費は会社から全額支給されるので、個人負担がなかったことがあります。足切り額を下げたことにより、会社が個人負担として押しつけやすくなったことを懸念します。例えば、会社負担の通勤費は月1万円までとか、仕事での車の使用は全て個人負担とか、制服も個人負担とか、労働者が弱くならざるを得ない不況の時にこんな制度を導入して、どのような考えでいるのかと思います。交際費に上司への付け届けが含まれるなら、嫌なことになります。あるいは、会社は交際費を嫌って、飲食やゴルフ接待は個人負担としたり、悪影響が懸念されます。連合は行政刷新担当大臣をクビにできるか?を書きましたが、現政権は労働者の敵だと思えます。
4) 証券税制の歪みの延長
預金利息が20%の税率であり、上場株式売買差や受取配当は10%の税率というのは、歪みと呼ぶべきと思います。株式投資と預金を比較すると、預金はリスクなしで、株式は投資先が倒産しなくても株価下落や日本航空株式のようにゼロ価値になることがあり得ます。やはり、株式投資は余裕資金がある人、少なくともある程度はリスクにさらしてもよい金銭資産を保有している人しか手を出せないのが基本だと思います。即ち、証券優遇税制とは、中間層以上で、富裕層になればなるほどその恩恵を受ける税制です。
預金、証券を含めた金融商品に関する税制は、総合課税であるべきです。そうすれば、低所得者が苦しい中から預金をしてもその利息に課される税は低くて済みます。年金と預金で暮らしている高齢者も税が少なくて住みます。また、証券投資で損をした場合でも、その損金額で所得金額が低くなれば、税額は少なくなり助かります。証券投資をする多くの人にとっても、儲けた時に税を払い、損をした時に税が安くなるのは、合理的な税制です。株式投資売買損益の中でしか合算(損益通算)を認めない制度は、証券市場の合理的な発展を阻害していると思います。
なお、「退職年金等積立金に対する法人税の課税の停止措置の適用期限を3年延長します。(94ページの下から)」とありますが、これは法人税法第2章のことで租税特別措置法68条の4で平成23年3月31日までの間に開始する事業年度の退職年金等積立金については適用が停止されています。引き続き平成26年3月31日まで延長するとの意味です。しかし、そもそも制度がおかしいのであり、廃止すべきです。即ち、年金として積み立てた積立金に法人税1%と地方税0.173%の合計1.173%を徴収する税制です。運用益より税の方が高ければ、マイナスです。それでなくても、公的年金が破綻しつつるある所に、企業年金にも不合理な税を課して制度を破綻させるようなものです。
参考として総合表を作成しました。税制は合理的であるべきです。
資金拠出 | 運用益 | 資金回収 | |
預金 | 税後所得 | 20%課税 | 非課税 |
上場株式 | 税後所得 | 10%課税 | 売却益の10% |
公的年金 | 税前所得 | 非課税 | 総合課税(公的年金控除あり) |
企業年金 | 税前所得 | 残高の1.173% | 総合課税(公的年金控除あり) |
個人年金 | 税後所得 | 非課税 | 総合課税(拠出時と受取時差額に対して) |
今回の大綱においては、少し高額所得者に厳しかったので、証券税制ぐらいは延長したいとしているなら、せめて納税者番号制を延長期限の2年後には実施し、金融課税を合理的な総合課税に移行するとの決意を示すべきと考えます。
でも、ねじれ国会でどうなるのか、観察しましょう。
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