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2010年12月12日 (日)

法人税の合理化

法人税率引き下げ結論持ち越しとのニュースですが、そもそも税収よりも国債発行高の方が大きいという予算で税率引き下げは、筋が悪いと思います。

日経 12月12日 法人税率5%下げ、財源巡り結論持ち越し 政府税調

欠損金の繰越控除を企業に不利にすることは、赤字で苦しんでいる企業の苦しみをまったく理解できていないと言うべきであり、証券税制の優遇は廃止すべきであるが、所得税の合理化を法人税引き下げの税源に議論もなしにすることは、無理がありすぎと考える。

1) IFRSと法人税

東京財団が12月に「日本のIFRS(国際財務報告基準)対応に関する提言」という政策提言を出した。(ここにあります。)IFRSの2015 年ないしは2016 年に強制適用との話もある中、強制適用には問題ありと論陣を張っており、私自身強制適用することは問題や弊害が多いと思っており、興味深く読みました。

なお、IFRSが強制適用と言っても、上場会社の連結対象となる子会社を除き、非上場の会社には現状でも適用される予定はないことを認識しておいてください。また、IFRSを積極的に適用し、IFRSによる財務諸表による会社の情報公開を積極的に行い、有利な資金調達やビジネスの展開を図ろうとする企業は、早期適用を含め大いにIFRSを利用すべきだと考えます。IFRSの一般的な説明としては、私はこの日本公認会計士協会のパンフレットが一番分かりやすいと思います。

一方、日本の法人税制がIFRSを採用しようとする企業の足を引っ張るようなことになってはならず、税制は中立であるべきです。

2) 減価償却とIFRS

IFRSで定率法による減価償却が認められるかどうかとの議論があります。有形固定資産の利用方法は、その企業が決定するのであり、その減価償却方法は他企業と異なって当然と言える。しかし、日本では多くの企業が税法基準を採用しており、税効果会計の適用以前には実例として「税法基準による。」とさえ書いてあった財務諸表にお目にかかったこともある。

有形固定資産の減価償却に関して、法人税法と所得税法で条文が次のように異なるのである。

法人税法第31条①
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として・・・損金の額に算入する金額は、・・当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額・・・のうち、・・政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。

所得税法第49条①
居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として・・・その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、・・・政令で定めるところにより計算した金額とする。

所得税法には、「その償却費として損金経理をした金額のうち」という制限がついていません。その理由は、個人の場合は、帳簿作成の義務がないことと、法人については次の企業会計原則の一般原則第7を税法でも踏襲している結果と思います。

株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる型式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない

しかし、IFRSにおける財務諸表の概念を述べている概念フレームワークには企業会計原則では馴染めない部分があり、法人税法の損金経理要件と呼ばれている「損金経理をした金額・・・のうち」という部分を条文から削除すべきと考えます。

定率法の償却率を定額法の250%とする改定の結果、固定資産税の課税標準額は帳簿価額と違ってきました。目的毎に異なった資産価額が存在して構わないと思うし、損金経理にこだわるのはおかしく、そもそも税と財務報告は目的に応じて、合理的であるべきと思います。税目的と財務報告目的は、それぞれ最も合理的な方法を選択すればよいはず。仮に減価償却方法が異なっても、最終的に減価償却費の合計は、その資産の取得価額と一致します。

日本公認会計士協会が2010年6月に出した平成23年度税制改正意見・要望書がここにありますが、要望事項1が「会計基準の国際的統一化に対応し、損金経理要件を中心とする確定決算主義の在り方を弾力的に見直すこと」となっています。

3) 歳入庁構想

歳入庁をつくることも、もっと積極的に推進すべきと思います。社会保険制度の統一のために歳入庁が必要だと思うし、地方税も多くの事務所・事業所を持っており複数の都道府県・市町村に申告がまたがっている法人は事務が大変ですし、源泉徴収票は就業者ごとの多くの市町村役所に送付せねばならない。事業税という変な税金もあるし、個人所得税は前年所得で課税されるし、これらは全て歳入庁を設立し合理的に運用すれば解決するはず。

産業が発展する方向であり、国民が豊かになる方向での税改正を望むのですが、一部だけに恩恵が向いてしまう税改正にならないよう、また基本は国債に依存しないための歳入確保であることを忘れてはならないと思います。

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