イレッサ訴訟の和解に反対する
大阪地裁と東京地裁で争われていたイレッサ訴訟について両地方裁判所が和解勧告を出しました。
日経 1月7日 肺がん薬「イレッサ」訴訟、和解勧告 東京・大阪地裁 副作用死「国・製薬会社に責任」
和解をしないで裁判において判決を受け、判決文を残して欲しいことから、書きます。
1) イレッサとは
イレッサ(Iressa)とは、肺ガン用の錠剤で250mgタイプ1種類のみです。製造会社は2009年売上高US$32.8 billion(約3兆円)の1999年にスウェーデンのアストラ(Astra)と英国のZeneca Group PLCが合併し設立されたアストラゼネカAstraZeneca(ホームページはここ)であり、日本での販売会社はアストラゼネカ株式会社(ホームページはここ)で株主はAstraZeneca PLCが80%、住友化学株式会社が20%です。
イレッサに関することについては、このEUのEuropean Medicines AgnecyのIressaに関するWebの説明がよいと思いますし、概要はここに英文であります。医療や薬に関することは、専門家の説明によるべきで、間違ったことを述べてはいけないのですが、この共同47ニュースの最新医療情報を読んでもイレッサによる肺ガンに対する大きな治療効果が期待できます。あるいは、ここに自立した肺がん患者同士で支え合う会を主宰している方がイレッサに関して書いておられるページがあり、この方々が厚生労働省に対して提出した文書が(ここ(1-6ページ)とここ(7-12ページ))にあります。その他イレッサに関する情報は、この厚生労働省の第2回ゲフィチニブ検討会(平成17年3月10日)配付資料がよいと思います。
寝たきりで酸素マスクを必要とした患者が、イレッサを服用することにより通常の生活をすることができる程度に回復した例が相当程度あることを認識してください。
2) 医療とは、薬とは
私は、医療と薬に関して次のように考えます。
医療とは、人間の体が本来は必要としないことを敢えてすることである。その医療によりある疾患が回復することが期待でき、プラス効果とマイナス効果の双方を勘案して、プラス効果が期待できるから実施する。しかし、期待であって、確実性はない。
薬は様々な影響を人間の体に及ぼす。期待する影響を効能・効果と呼び、それ以外を副作用と呼ぶ。あらゆる薬には副作用がある。効能・効果と副作用は疾病により異なり、また同じ疾病でも個人差が生じる。
薬を服用するにあたっては、常にその効能・効果と副作用を検査等によりモニターを継続する必要があり、特に新薬に関しては、注意してモニターをすべきである。同じ疾病で薬を変えた場合も、例えその薬が既に多く使われていても、自分のその疾病にどのように効能・効果があり、副作用があるかは、自分が服用してみないと分からない。
デジタルで考えるよりアナログで考えた方が、実態に合っていると思います。
3) イレッサ訴訟の和解に反対する理由
イレッサに効能・効果があることは確かです。しかし、副作用により死亡したとされている人も存在します。日本での販売開始は2002年7月で、ヨーロッパより早かったのですが、これは不適切であったのでしょうか?日本人女性の肺ガンに効果がよく現れるようで、このことが日本での承認が早かった理由ではないかと思うのです。販売承認で最終であってはならず、その後も副作用や治療効果の情報開示が適切に実施され、薬が有効に利用され、場合によっては販売禁止措置もなされねばなりません。
イレッサに関して販売承認、その後の情報開示等は、どうであったのでしょうか?これが一番の関心事です。そして、不適切な点があれば、改善をすべきです。例えば、医療行政には医師が必要です。直接治療に携わる医師のみが医療に必要なのではなく、病理や治療方法、薬開発、そして行政にも医師は必要であり、それぞれに適正な人数がいないと医療は提供できないのです。ブラックジャックや赤ひげ先生のみでは医療は発展しません。
従い、政府・厚生労働省の行政と薬屋のアストラゼネカの行為に問題があったのか、それは何であるかを裁判所が突っこんで欲しいのです。難しすぎて、放棄するのは、裁判所としてしてはならないことです。問題あれば、最高裁まで争って欲しいのです。何故なら、イレッサの副作用で死んだ人の命の問題ではなく、私の命の問題であるからです。
万一、和解の結果として、日本で新薬が販売されなくなったら、販売が遅くなったら、今のようにのんびりとドラッグラグなんて言っておられません。日本の医療は、世界最低レベルとなり、先端産業は全て破滅するような気がします。
4) 治療の問題点
個別の治療において問題点があったのか、なかったのかも、問題点の一つであると思います。即ち、安易にイレッサが服用され、副作用について適切にケアされなかった場合です。このような場合は、政府や薬屋に責任はないと思います。医師は、投与する薬について十分な知識を保有していなければならず、また投与後のモニタリングも適切に実施しなければなりません。
今後、日本も米国同様に処方箋を医師から受領するに当たり大量の書類にサインを求められるようになるでしょうね。仕方ありません。私は、サインします。治療や薬なんてやってみないと効果がよく分からないんですよね。モニタリングが重要であり、またモニタリングのデータの読み方も重要で、そのために患者は医師を必要とする気がします。
インフォームド・コンセントとは、実は医師から様々な説明を聞いて、結局はその中で医師が推薦する方法を選ぶことかもしれないと思います。そんな信頼関係が患者と医師の間で築けたなら、治療をしていて希望が持てます。
一方で、問題がある安易なイレッサの服用がなかったとは言い切れず、それは、それで解明すべきだし、個別に対応すべきと考えます。でも、今回の裁判は、この点を外しています。多分、意図的です。そして、医療裁判が行われる医事部も外しています。(冒頭の日経記事に、製造物責任法(PL法)という言葉があらわれていますが、そもそも副作用が常に発生する薬に対して適用するのが適切かという問題があると思います。)
5) マスコミ報道
2002年頃にマスコミ報道で「夢の新薬イレッサ」なんて報道はなかったのでしょうか。薬事法により医薬品の広告は規制されています。ちなみに、薬事法第66条第1項には「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。」と定められています。しかし、マスコミ報道では「夢の新薬」なんて言葉を見たり、聞いたりします。
イレッサに関して、そのようなイメージをマスコミが患者に与えたことがあったらなら、マスコミは充分反省すべきと思います。間違った情報を発信続けるのがマスコミのように思える時がありますが、医療や薬に関して誤解を与える情報を発信したら悪影響が大きいと言えます。
最後に、肺がん患者セルフ・ヘルプ・グループ「カイネ・ゾルゲン」の意見書のある患者の文書からの一部を抜き書きしておきます。
私は2度手術が受けられ、抗ガン剤を使うこともできましたが、現在の選択肢はイレッサしかありません。2/14のNHK(生活ほっとモーニング)で紹介されていたように.、効果のあった人、現在使用して効果が出ている人がいることも(裁判のことばかりでなく)、マスコミで取り上げて欲しいと思います。そして地方で治療している私は、大都市の患者と同程度の情報を得たり、治療法を選んだりできる様、がん医療に精通した医師が地方にも配置されることを希望します。
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コメント
理屈の上ではそうですね。
ただ、現代医療の現場から言えば
残念ながら違うような気がします。
結論は正反対ですが、問題意識が
近いので共感いたしました。
投稿: 56 | 2011年1月11日 (火) 11時57分
56 さん
コメントをありがとうございます。
私自身、現代医療の現場を、よくは知らないで書いている部分があります。おそらく、医師によっても多少の違いはあると思いますし、あるいは製薬開発に携わっておられる方々も、様々なご意見を持っておられると思います。
私は、新薬の治験、承認等に関するルールを、よりよい内容に発展させていくには、和解よりも、裁判による争いが公開される情報が多くなり、よいと考えました。
できれば、56 さんの考えを書いていただくか、それに近いことを述べているWeb等を紹介願えればと存じます。多くの人が様々な情報に触れることにより発展があると期待します。
投稿: ある経営コンサルタント | 2011年1月11日 (火) 14時02分
このような国民性(和解を求める者)が、わが国の薬事行政(ドラッグラグ)の問題です。新薬(再生医療デバイス)の開発を行う場合、このような和解案で頭が痛かったのですが、国が拒否してくれて正義は守られたと思います
投稿: 北條元治 | 2011年1月26日 (水) 11時45分