原子力の今後
原子力発電も原爆も同じであり、核分裂のエネルギーを利用する。原子力発電は、核分裂の臨界状態を保ちつつ、適切にコントロールし、その発生する熱エネルギーを電力に変換し、且つ核分裂や核燃料からでてくる放射線を閉じこめる。
1) 核兵器問題
世界には、核不拡散条約(NPT)(概要は、ここに外務省の説明)があり、米、露、英、仏、中の5か国を核兵器国と定め、核兵器国」以外への核兵器の拡散を防止することを取り決めている。但し、インド、パキスタン、イスラエルは非締約国であり、インド、パキスタンは核兵器を保有し、イスラエルも保有していると思われ、締約国の中では、イランと北朝鮮が話題になっている。
世界には、IAEA(国際原子力機関:概要は、ここに外務省の説明)があり、外務省の説明にも、「IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とする。」とあるように、原子力の平和利用と核爆弾とは密接な関係がある。
核を保有してしまった人類は、無秩序に軍事利用が拡大しないように、核を管理しなければならない。テロリストへの核物質の拡散防止を確保せねばならず、技術障壁の低下により危険性が増加することや、破綻国家の出現を考えれば、リスクは高くなる傾向かも知れない。軽水炉燃料や使用済み燃料が、簡単に核兵器に転用されないといっても、それらを利用して、放射能まき散らし爆弾なんて、簡単に作れそうに思う。それが使用されれば、津波による福島放射能被害よりはるかに大きな被害が及ぶと思う。
原子力を考える際に忘れてはならないことである。
2) 日本の制度
日経ビジネスに掲載されていたこの中山 元さんのコラムの冒頭部分に興味あることが書いてあった。ケーキがあって、それを二人の少女の間で、できるだけ公平に分けるには、一人の少女が自分で納得できるように切り分け、もう一人が先に選ぶ。実に公平である。
日本の制度の多くは、そのような公平な仕組みになっておらず、国会の議決が、帝王の独裁になっている面があると思う。原子力開発も民主的に決定されるべきが、国民不在の実態となっていないかの点を、検討すべきと思う。そこで、原子力委員会、原子力安全委員会、原子力安全・保安院について、設立根拠、役割、委員の選任は次の通りです。
A. 原子力委員会
原子力委員会及び原子力安全委員会設置法により設置され、原子力利用政策に関すること他について企画し、審議し、及び決定する。委員長及び委員は、衆参両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
B. 原子力安全委員会
原子力委員会及び原子力安全委員会設置法により設置され、原子力利用に関する政策のうち、安全の確保のための規制に関する政策に関すること他について企画し、審議し、及び決定する。委員長及び委員は、衆参両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。なお、原子炉安全専門審査会を置く義務がある。
C. 原子力安全・保安院
経済産業省の組織であり、原子力に関しては、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に関する許可や承認を含む行政の仕事等と理解する。(この経済産業省の原子力安全・保安院ご案内を見れば、組織が分かり、仕事の内容を想像することができます。)なお、原子力に関する研究関係の政府の行政については、文部科学省です。
制度や組織が機能しないことほど、恐ろしいことはないと思う。そうでなくても、組織が形骸化していることはよくある。原子力については、事故があれば、重大な結果になるのであるから、形骸化は大きな問題である。果たして、どうであったのか、原子力委員会と原子力安全委員会の各委員は答えるべきと考える。その上で、合理的な制度をつくるべきと考える。国民の投票で選んでもよいし、国会が決定するなら、議席数(これも小選挙区の問題があると思うが)に比例するよう、与党以外の人の意見も反映されるように工夫すべきと思う。
3) 基準の妥当性
今回の福島の事故の直接原因は、想定外の大きな津波が来たことと思う。しかし、津波について、何も考えていなかったわけではない。例えば、この文書は、原子力安全委員会のWebにある論文ですが、津波についても、種々のことが検討されています。2009年9月23日に高熱隧道(黒部第三発電所)を書き、吉村昭の「高熱隧道」を紹介しました。この小説の中で、次の台詞を工事現場の所長に言わせている。
「日本電力でも、地質学者の意見に不信感をいだいている。大石教授の言うようにこれから掘りすすんだ場合、温度が低くなるという期待も全く持っていない。むしろ、温度は上がる一方だろうという意見が圧倒的だ。それに仙人谷から進んでいる本坑の坑道も、摂氏80度まで上がっているのを考えると、今のままの旧ルートでは火の玉の中へ突っこんでゆくようなものだ。それで、日本電力でもルート変更を考えてくれたわけだ」
しかし、このトンネル工事では最高温度摂氏148度を記録した。会議における議論で、専門家の意見が○○であると紹介すると、それが承認されることが多い。一つの例では、大和銀行事件において、弁護士が述べたことが、決定となってしたようだ。この時、弁護士は、全てについて詳細説明を受けておらず、前提付きで意見を述べているが、その前提がいつの間にか無くなってしまう。
3月16日に書いた福島原子力発電所トラブルで、天漢日乗サンがブログで、福島原子力発電所についての津波の危険性を共産党吉井英勝衆院議員が2006年3月1日の予算委員会第七分科会で取り上げていたことを紹介しました。この時か、それ以前でもよいが、関係者の中で、津波対策について考えが及んだ人もいるのではと思う。どうであったか、今後の検証を待つ。
2)に書いた日本の制度にもつながるし、日本が原子力の導入を決定した当時の三原則である公開、民主、自主が貫かれていないように思う。本当であれば、吉井議員の質問に対して、図面を示して、対策についての説明がされるべきであったと考える。原子力委員会、原子力安全委員会の方々は、どのように思っていたのだろうか。認識はあったのか。これらの点も、三原則に従い、公開の場で、各委員から説明を聞きたい。
4) 損害賠償
賠償が、どうなるか、全く不明である。それを前提に、ブルームバーグのこの記事の賠償額10兆円は、どうだろうか?否定も肯定もできないし、10兆円払ったら、東京電力がどうなるか、東京電力の電気料金がどうなるか、考えるのは時期尚早過ぎると思うので止める。念のため、整理をしておくと、
A) 電力会社の賠償責任は、原子力損害の賠償に関する法律に定められており、無限大であるが、但し書きが付けられている。(次の第3条)今回の場合、単純な法解釈で処理することが困難と思う。国民が納得する形にせねばならない。
第3条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
B) メーカ等の関係者は免責される。同じ法律の第4条に免責が定められている。「同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は、その損害を賠償する責めに任じない」とあり、第3条の原子炉の運転等に係る原子力事業者のみが損害賠償責任を負うと私は解釈する。また、第4条3項には、「原子炉の運転等により生じた原子力損害については、商法、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律及び製造物責任法の規定は、適用しない。」となっている。
メーカには寛大な法律であり、こうしないと日本に原子力を導入できなかったのだと思う。スリーマイルアイランドの事故後、世界で、原子力の新設が止まった。その一番大きな理由は、賠償責任であったと私は理解している。一旦事故があると、その賠償額が大きすぎて、誰も手を出せなくなった。
なお、電力会社の賠償責任に関して、原子力損害の賠償に関する法律の第7条により、保険その他で1200億円が確保されており、16条で政府の援助義務が述べられている。
原子力損害の賠償に関する法律についても、これからは、見直しをすべきと考える。原発の設計をした者は、免責でよいのか?運転者のみを賠償責任とすることでよいのか?例えば、仮に津波に対しては、XXXを満たせばよいと言うルールがあったとして、ルール違反は当然賠償責任を負う。しかし、それ以上の安全性を取っていれば、どうなるのか?ルールを作った者の責任はどうなるか?あるいは、十分な安全を確保せねばならないとのルールであった場合、設計者と設置者の関係はどうなるか?この際、そのような原点にも、戻って考える必要がある。
5) インフラ輸出
現在の内閣は、最近インフラ輸出と言っていた。原子力設備輸出をするとする。相手国は、売り手や製造者である者の責任と、その政府の保証を求めてきておかしくない。原子力の場合は、破棄物処理まで輸出者と輸出国の保証を求めてくる可能性もある。
このようなことに対して、政府はどのように対処していたのか、国民に対して説明がなかった。相手国に対して、そのような保証は一切せずに、輸出するというなら、それも一つの方法である。インフラ輸出とは、原子力に限らず、物品の価格競争でない世界が入る。そのような中で、自分の利益のみを考えていては、成立せず、関係者が皆苦労をしている。人気取りの政策ではなく、世界の発展に貢献する政策が求められる。
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