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2011年4月 7日 (木)

低レベル放射性廃液の海洋放出から思う

福島第一原子力発電所における低レベル放射性廃液の海洋放出については、事前了解なしで実施されたと批判がある。

産経MSN 4月6日 汚染水放出で、与野党から政府に批判噴出 保安院「反省している」 実務者会合

排出された放射性物質の量が少量でも、意図しない事故による放射能排出ではなく、バルブを開けて、人為的に海洋に放出した。それ故に、事後報告では納得がいかないとするのは、当然です。しかし、この件については、原子力に関するガバナンス問題が隠れているように思う。

1) 海洋放出

経済産業省は4月4日発表 福島第一原子力発電所からの低レベル廃液の海洋放出についで、「標記事案に関し、東京電力(株)が別添の通り公表しましたので、お知らせします。」と発表した。(福島第一原子力発電所からの低レベル廃液の海洋放出について

東京電力のプレスリリース 福島第一原子力発電所からの低レベルの滞留水などの海洋放出については、「原子炉等規制法第64条1項に基づく措置として、準備が整い次第、海洋に放出することといたします。」となっている。

原子炉等規制法第64条1項には、「原子力事業者等・・は、・・・地震、火災その他の災害が起こつたことにより、核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉による災害が発生するおそれがあり、又は発生した場合においては、直ちに、主務省令(・・・)で定めるところにより、応急の措置を講じなければならない。」となっている。そうであれば、東京電力は、法に従い実施する義務を有するのであり、選択の余地はないと思う。勿論、評価や解釈が入るのであり、常に原子力安全・保安院をはじめ関係者と相談をしているはず。

IAEAのFukushima Nucelar Accident Update Log 4 April 2011を見ると”NISA have advised the IAEA that TEPCO have been given permission by the Government of Japan to discharge 10 000 ton of low level contaminated water from their radioactive waste treatment facility to the sea.”と書いてある。NISAとは、Nuclear and Indstrial Safety Agencyの略称で、原子力安全・保安院のことである。IAEAは、原子力安全・保安院を主語として、文章を作っている。

経済産業省の4月4日発表にも放射性廃棄物集中処理設備(集中環境施設)の概要が添付されており、この原子力安全・保安院の文書には「大きな危険を回避するためにやむを得ないものと判断した。」と書いてある。

2) 責任者・主体者

1)にリンクを掲げた4つの文書を読んで、1番目の「東京電力(株)が別添の通り公表」という表現は、責任放棄、義務不履行と思ってしまう。

ここに福島第一原子力発電所に関する3月11日19:03に発表された原子力緊急事態宣言があるが、この結果、原子力災害対策本部が設置されている。首相が本部長であるが、実務を取り仕切る責任者がいなければ、形骸化された意味のない組織になっている可能性がある。

原子力緊急事態宣言が出されている時に、1)の状態でよいとは思えない。政府が実務を取り仕切れる人やチームを選任し、お願いして、対処すべきである。緊急事態であり、民間企業で対応するよりは、政府が乗り出して、関係者との調整をする必要があると判断したから原子力緊急事態宣言をしたと理解する。例えば、民間企業が、地方自治体にあるいは漁協に通告して、承認を得ようとしても、そのような権利を保有しているのか、あるいは保有すべきかの問題があるはず。韓国政府に連絡するなら、それは政府の仕事である。

ところが、経済産業省は、この文書を4月5日付けで東京電力に出して、影響を与える可能性のある地方公共団体に事前の通報連絡をすることを要求している。連絡であって、了解を取れと書いてはいないと経済産業省は述べるかも知れないが、もし、そうなら、感覚がずれていると思う。

この4月6日官房長官記者発表には、東京電力という言葉は入っていない。前任者は、尖閣問題での船長釈放に関して海上保安庁と述べて、非難を受けたが、経済産業省は、未だそのレベルのようである。

3) 実態

推測になるが、原子力安全・保安院に止まらず、少なくとも大臣、可能性としては原子力災害対策本部長である首相にも話は事前に伝わっていたと思う。何故なら、水バランスなんて簡単に計算できる。各タンクの容量も貯水量も水の発生量も、相当正確に把握できているはず。従い、ある程度前に事態が予測でき、東京電力は原子力安全・保安院に話をしたはず。その結果は、政府内部に伝えられたはずである。

低レベル放射性廃液を約1万トン(滞留水)と低レベルの地下水(延べ1,500トン)を合計12,000トンとして排出された放射能の量を推定してみる。低レベルの具体的な数字が、見あたらないが、この日経の報道によれば基準の約100倍とある。そこで、基準をヨウ素131で4/10^2Bq/cm3の原子炉規則の濃度の100倍とする。基準の100倍とは、どの程度かというと、リットルに換算すると約4,000Bq/lである。即ち、飲料水の限度300Bq/kgの約10倍であり、12,000トンは大量ではあるが、海水中で拡散することを考えると、幼児に対する飲料水限度100Bq/kgより小さな値になるような気もする。海水は飲んだりしないが、その海水中の魚を食べる訳で、蓄積等複雑で、この辺りで深入りは止める。

むしろ、2号基で4月2日から4月6日まで取水口付近の亀裂から流れ出ていた高濃度の放射性物質で汚染された水と比べることとする。こちらの高濃度汚染水は、2号基のスクリーン脇ケーブルピットの水の濃度5.2x10^6Bq/cm3と同じであると仮定し、48時間海に流れ出たとする。一方、流量が不明であるが、47ニュース 4月6日 原発、高濃度汚染水の流出止まる 爆発予防へ窒素ガス注入の写真からして、10リットル/秒程度と仮定する。この前提で計算すると、放出した水からの放射能は1.8x10^12Bqである。一方、低レベル放射性廃液は12,000トンの4,000Bq/lでは、4.8x10^10である。即ち量としては、40分の1程度となる。

リスクを考えれば、低レベル放射性廃液の海洋放出は、妥当な判断であったと思う。しかし、放出しない場合のリスクを含め、数字を示しての説明がないのは、不満である。このような情報開示をしない状態で、原子力を推進してよいのか疑問を持つ。原子力を直ちに中止することは、困難と思うし、適切に利用してよいと思う。しかし、それは、適切な情報開示なしでは、絶対に困る。

原子力委員会は、無能な委員会と思える。原子力政策の立案とは、管理組織や制度を含めて立案することである。原子力工学の中に止まってはいけない。現在の事故が発生している中で、原子力委員会は何をしているか?無能な委員会と思う。本来であれば、もっと出てきてよいと思うが、全く顔を出さず、隠れているように思う。

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