有価証券報告書からみる原子力発電コスト
東京電力福島第一原子力発電所の事故に関連して、様々なことが言われています。原子力について、やはり、これを機会に検討すべき課題については、十分に国民的な広い範囲で、議論されるべきと思う。しかし、時には専門的すぎて、あるいは情報が少なすぎて、有効な議論が容易ではない面もある。調べた結果を、できる限りブログに書いて、お役に立てればと思います。
原子力発電のコストに関して、東京電力のみならず、全社の有価証券報告書からみた結果を、以下に記載するので、参考にしていただければと思います。
1) 対象会社
日本では、一般電気事業者10社のうち沖縄電力を除く9社が、原子力を保有しており、それ以外に、日本原子力発電株式会社が3基を運転中で、電源開発株式会社が1基を建設中。日本原子力発電は、1957年に設立され、日本で最初の商業用原子炉東海1号を建設・運転した。株主は、発電電力売電先の東京電力、関西電力、中部電力、北陸電力、東北電力を含め9電力会社と電源開発並びに三菱重工、日立製作所他であり、非上場会社であるが、社債発行の関係で有価証券報告書を発行している。
ちなみに、各社の原子力発電所の認可出力及び2008年度と2009年度の発電量(送電端)は以下の通りです。
2) 2008年度と2009年度の原子力発電のコスト
2008年度と2009年度における各社の原子力発電のコストは次のグラフの通り。
グラフの元とした数字を記載した表はこの2008年度の表とこの2009年度の表です。
kWh当たりの単価で、表示したグラフが次です。
3) 原子力発電コストの特徴
原子力発電はウラン235の核分裂により発生する熱エネルギーを電気エネルギーに変換することです。燃焼するのではなく、核分裂であり、ウラン235がセシウムやヨウ素等の別の元素に変化したり、放出した中性子がウラン238にぶつかりプルトニウムになったりする。核燃料減損額としているのが燃料費です。この燃料費が、発電コストの中では、小さいのです。
一方、大きな割合を占めているのが、減価償却費と修繕費です。即ち、設備費が非常に大きい。例えば、東京電力の原子力に関する有形固定資産の取得原価は、有価証券報告書では5兆1千億円です。燃料費(核燃料減損額)より、減価償却費や修繕費の方が大きいのです。従い、固定資産税も10社合計すると、435億円です。
固定費が、ほとんどで、変動費はわずかです。原子炉の定期保守が長引くと、修理費用が増加するが、発電はせず、しかも減価償却費を初め他の固定費も発生する構造です。一旦、設置すると、修理・保守に巨額を要するが、問題なく保守をして、発電することに専念する設備です。
なお、kWhあたりのコスト単価は、発電機の発電端ではなく、発電所の所内動力を控除した発電所送電端の送電電力量で割り算して算出している。また、支払利息・金融費用は社債、借入金を含む全ての有利子負債の平均利子率に原子力関係の有形固定資産期末残高をかけ算して算出している。
4) 燃料再処理、格破棄物、廃炉関係
バックエンド費用と呼ばれており、(1) 使用済燃料再処理等発電費、(2) 使用済燃料再処理等既発電費、(3) 使用済燃料再処理等準備費、(4) 破棄物処理費、(5) 原子炉等設備解体費が該当する。但し、いずれも、現実に発生している費用ではなく、将来の見積もり費用であり、引当金処理です。
(1)の使用済燃料再処理等発電費とは、六ヶ所村と海外でMOX燃料に加工するための費用です。(2)の使用済燃料再処理等既発電費は、同じ燃料再処理費用でも費用計上が過去になされていなかった分に対する費用処理です。(3)の使用済燃料再処理等準備費は、六ヶ所村の再処理施設の能力不足のために、再処理の予定が立っていない燃料に対する費用です。何故、そんな予定がないのに費用計上するかというと、日本は国策が全量再処理となっているからです。国策が破綻しているように思えるのですが、これらの会計処理は全て法令に決められており、法令遵守の結果です。その法令とは、電気事業法、電気事業会計規則、原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律等です。
原子炉等設備解体費は、これまで引当金処理をしていたが、資産除去債務として処理していくことになります。
なお、これらバックエンド会計処理が、正しい会計処理かというと、正しい会計処理です。何故なら、日本国の法令を遵守しているからです。しかし、適切かというと、余りにも大きな問題があります。福島第一原子力発電所の津波問題と全く同じです。法の想定を超えて、対応することに困難さが大きい。
日本の原子力は、トイレのないマンションだと言う人がおられます。放射性破棄物の処分方法が決まっていない。原子力発電をするからには、絶対必要である処分方法が宙ぶらりんです。それで、処分費用を見積もって、引当金を積んでも、根本問題は何も解決していないのですから。使用済燃料の再処理も同じで、再処理を行う目処がないにも拘わらず、全量再処理という国家方針です。上の、費用からみても分かるように、MOX燃料に加工する方が、ウラン燃料より高いのです。では、MOX燃料として利用した後の、使用済み燃料は、どうするか?全く解りません。
原子力発電の費用とは、恐ろしい側面を持っています。仮にある時に、原子力を中止したとしても、その時点以降も費用が発生し続けるのです。福島第一原子力発電所の1号基から4号基を廃炉にしても、今後何10年か、あるいは更に長期間か、費用が発生し続けるのです。便益なしのコストのみの発生です。
私は、だから原子力を中止すべきだとは言いません。当然ですが、良い点と悪い点があります。そこを解って、評価して、コントロールできる範囲で利用すべきと考えます。では、その範囲とは、他のエネルギー源との相対関係もあり、単純ではないが、原子力に関しての情報を公開し、広く議論すべきです。日本のような放射性破棄物の処分場所がない国には、原子力は適切か、あるいは利用するとすれば、その範囲を幾らで限定すべきか等の問題もあります。
今回は、この辺で止めておきます。次回は、他の火力、水力等と比較することとします。そして、原子力は、多くの論点を持っています。やはり、しばらくの間は、原子力についても書くこととします。
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