電力供給は民間企業による市場経済を貫け
4月1日付で日経Web版は、次の記事を掲載していた。
毎日は、次の記事を掲載していた。
福島第一原子力発電所の事故に起因しての損害賠償問題に端を発するが、国営化をして何の解決にもならないし、得る物は何もないと思うので書いてみます。
1) 東京電力の賠償義務
3月31日のブログに書いたように、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)第3条は、一般的な賠償義務である民法709条の「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」より広い無過失責任の賠償義務を定めている。例えば、イレッサ裁判の東京地裁判決はアストラゼネカと政府に賠償義務があると判断したが、その理由は添付文書等により副作用について十分な警告をする注意義務についての過失があったとしたからである。(イレッサ裁判東京地裁判決そのものについての評価は、今回のテーマではないので、別とする。)
東京電力に過失があったかどうかは、今後の検証によるのであるが、源賠法は無過失であっても、賠償義務があるとしている。賠償をするために国営化というのは、納得がいかない。責任追及は、すればよいが、その前に国営化というのは、論理的におかしいし、間違ったことをする可能性がある。原子力発電所は、厳しい政府の管理下にある。国家規格・基準に合致して、建設・運転されているとして、その規格・基準が不合理部分があった時にも原賠法は、東京電力に全ての賠償義務があるとしている。国会で定めた法であり、法に従って解決せねばならないが、同時に同じ源賠法第3条の但し書きと第16条の政府援助義務を正しく運用し、国民の利益になるようにしなければならない。
2) 民間事業者による電力供給
日本では、明治なって電気産業が始まり、民間事業として電気供給事業が始まった。しかし、満州事変・五・一五事件・二・二六事件・日中戦争と戦争への流れの中で、政府による人・物の統制運用を可能とする国家総動員法が1938年(昭和13年)に制定され、電力事業の国家統制についても同時期に「電力管理法」・「日本発送電株式会社法」・「電力管理に伴う社債処理に関する法律案」が制定された。そして、1939年に国営会社の日本発送電株式会社が設立され発電設備と送電設備の接収が行われた。1941年8月には配電統制令が発布された。日本発送電は、戦後の電気事業再編政令による1951年の9電力会社(北海道・東北・東京・中部・北陸・関西・中国・四国・九州)設立まで続いた。9電力会社は、設立から3月~20月を経て、株式上場会社となった。
ユニバーサルサービスが提供され続けるなら、国営企業や政府サービスにする理由はない。政府が事業計画を立て、料金を徴収して、サービスを提供すると、逆に非効率、コスト高の事業となり、利用者にとって不利になると思う。民間事業として成立しない分野であれば、政府の関与が必要であるが、市場競争による発展で社会に貢献する産業は、民間事業者による産業としなければならない。
例えば、日本は50KWで6000V以上の電力は自由化されている(沖縄は2000kW)。弱者への供給としてのユニバーサルサービスを確保せねばならないが、家庭用の100V-200Vも自由化すべきと考える。誰もが電力供給者を選択でき、電力供給者間の市場競争により最も合理的な投資が市場競争の結果として生まれる。そんな姿を目指して、電気事業法の改正が行われ、2000年の電気事業法改正があった。当初自由化電力は2000kWであったが、2004年に500kWに引き下げられ、2005年4月に50kWとなった。これと逆行した動きには、私は反対する。
例えば、日本には日本卸電力取引所が存在し、現実に取引がされている。
朝日新聞は、3月27日に「電力不足―計画節電へ政府は動け」と社説を出し、4月2日に電力使用制限令、ピークを抑制 冷房集中の昼間狙うと、電気事業法27条による経済産業大臣による電気の使用制限を報道している。ちなみに、27条による場合は、施行令第2条が500kW以上の受電電力の容量と規定している。自由化電力の大口を電気事業法27条で脅かして、需要抑制しようというのか理解に苦しむが、電力統制に私は反対する。
3) 原子力問題
東京電力に福島事故の賠償責任はあると考える。しかし、事故について、東京電力にのみ責任があるとは思わない。
例えば、毎日は次の記事を3月30日に掲載していた。
毎日 3月30日 福島第1原発:設計に弱さ GE元技術者が指摘
源賠法第4条は、製造物責任法の規定は適用しないとしている。GEに賠償を求めることはできない。また、「設計上の問題は、米原子力規制委員会の専門家も指摘し、GEは弁を取り付けて原子炉内の減圧を可能にし、格納容器を下から支える構造物の強度も改善。GEによると、福島第1原発にも反映された。」とある。それで、十分であったのかという問題も残っているが、日本政府の原子力安全委員会がこの対策で対応可能と判断したら、民間企業が、特別の理由が無くて、それ以上の対策をできるであろうか?人間の作った物である以上、欠陥は存在する。欠陥に気付いたとして、その対策は、どこまですべきか、その時に考え得る、これなら問題ないと判断できることを超えて要求することは困難である。
原子力委員会や原子力安全委員会及びその理事長や理事に責任はないのだろうか?今回の事故の詳細を明らかにして、事故に対する関与を調査すべきである。国家の原子力政策を実践しているのが電力会社という側面がある。電力会社に原子力を採用するか、しないかのオプションはなかったと思う。何故なら、規模が小さい沖縄電力を除く9電力の全てが保有・運転しているからである。原子力を採用しないという電力会社が1社でもあれば、電力会社の方針かも知れないが、この横並びは、政府が許認可権を武器に電力会社に強制した部分もあると疑う。現実は、双方の利害の一致であったのであろうが、そうであれば、電力会社のみに強くあたっても片手落ちのはず。
ところで、源賠法第3条、第4条で、賠償責任を原子炉の運転等に係る原子力事業者としたことから、政府も賠償責任から逃れたことになる。源賠法が制定された経緯の参考として、昭和34年3月11日の核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律案についての衆議院科学技術振興対策特別委員会でなされた満場一致の附帯決議が参考になるので、次に掲げます。
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議案 原子力の研究開発を推進するためには、災害の予防とその補償が特にわが国の現実にかえりみて緊要である。従って、政府は最も速やかなる機会に左の各項の実現を期すべきである。 |
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コメント
震災後、周りでもデモや色々な反発が起こっているのですが、もう反対だけではどうにもならないかな、と思い、
自分で色々考えてみたのですが、結局原発を反対しても大多数の方達が電気の恩恵を受けているので、計画停電のような事をされたら、やっぱり必要かも?って思ってしまいます。でも、電力会社が独占している実態を知って、これが一番の原因じゃないのかと思い、検索したらコチラにたどり着きました。実際、民間の企業が電力会社を設立して使ってもらうには法律を作らないといけないんですか?もしくは今ある法律を改正するんですか?もしお分かりになる範囲で結構ですので、お返事頂けたら幸いです。
投稿: 中村 | 2011年4月15日 (金) 22時03分
中村さん
このブログを訪問いただいてありがとうございます。
本文にも書いたように、2000年の電気事業法改正で、独占はなくなったのです。但し、50kW以下については、独占が続いています。一方、50kW以下は、同時に供給義務も負っていると言えます。それと、自由化されたと言っても、10電力会社が送電線と配電線を保有しています。これについては、50kW以上のユーザーや発電・売電者が利用することは可能としています。
そのように自由化が進み(実態は、10電力会社が新規参入者より巨人なので、なかなか進んでいないとも言えますが)、更にはスマートグリッドの時代に向かおうとする時に、計画停電なんて、時代遅れと思えることをしたので反発を覚えました。当初は、4月末まで計画停電なんて、バカなことを言っていました。
一方、原発の関係からは、原発は、沖縄電力を除く9電力と日本原子力発電、そして建設中の大間が電源開発で、地域独占時代の名残があります。原発を国のエネルギー政策であるとすれば、原発を誰が建設し、運転すべきであったかは、また大きなテーマであります。例えば、福島原発が国営原子力発電会社であったなら、もしかすると、今の東京電力より対応が悪かった可能性さえあります。
原子力というテーマは、少しひねると色々な側面がでてきますね。
投稿: ある経営コンサルタント | 2011年4月16日 (土) 00時33分