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2011年5月13日 (金)

東京電力原子力賠償スキームは、根本問題にも目を向けるべし

東京電力福島第一原子力発電所事故の経済被害・損害賠償の枠組みは、12日の閣議で決定されず、持ち越しとなった。

日経 5月12日 首相「さらなる議論が必要」 賠償支援スキーム先送り

表面的なつじつま合わせや、政権維持のためのごまかしではない将来を見通した正しい原子力賠償スキームを打ち立てるべきと考える。賠償スキームが、未定であっても、仮払金は支払可能なはず。仮払金の支払い対象、支払うべき相手と仮払金額を政府が決定し、東京電力に支払を要請すれば良いはずである。賠償スキームは、将来像も念頭に入れた国民の支持を受ける案にすべきである。

1) 電気料金値上げ

官房長官は記者会見で、この日経 5月12日 原発賠償支援策「電気料金値上げによらず」 官房長官強調の記事のように述べたと報道がある。被害者救済を押さえれば、可能と思う。しかし、適切な補償額を支払う場合には、残念ながら、電気料金の値上げは避けられないと予想する。勿論、税金で支払えば別であるが、これまでの官房長官の話とは、異なる。

本当に、国民のことを考えるなら、そんな単純な話ではない。残念ながら、現内閣の薄っぺらな思考に思える。

2009年3月末の子会社を含まない個別貸借対照表において、東京電力の資産総額は12兆6430億円で、負債総額10兆4824億円。純資産額は2兆1606億円であった。会社を清算すれば2兆1千億円残るので、2兆1千億円まで支払能力があると考えるかも知れない。しかし、現実問題として、会社を単純には清算できず、例え会社が現在の形で存続しなくても、電力供給を続けることができなければならない。

なお、東京電力の電気事業のみの収支が記載されている個別損益計算書で見ると、2009年度収支は売上高4兆8千億円、税引後純利益1023億円である。事業収支からの、賠償金支払限度もある。即ち、株主配当を中止するとしても、社債の元利払の継続を確保するのが最低限必要と考えて、年間2000億円程度が限度となる。東京電力の負担を年間2000億円とする案が一部で報道されたこともあったが、賠償金支払い以前に福島第一の事故処理は必要である。下手をすると、事故処理だけで赤字となり、賠償金支払いができない事態は避けるのが賢明と思う。

金額を具体的に述べることは困難であるが、全額を東京電力負担としても、それを過去の蓄積と将来の利益から払えなければ、不足分を電気料金値上げで賄う必要がある。このような経済原理を忘れて処理をすると、かえって大きなマイナスとなる危険性がある。

2) 東電責任・政府責任

原子力損害の賠償に関する法律第3条から離れて考えてみる。現在、焼肉店ユッケ食中毒問題がある。生肉は、危ないと多くの人は考えている。同様に、原子力の事故は、危ないと誰もが考えている。原子力の事故は、被害が大きく、あってはならないと、事業者も政府も考えている。福島第一原発事故は、法令違反で起こったのではない。その様な場合、誰が責任を負うべきか、複雑であると考える。

基準の適切さという問題も複雑である。例えば、津波高さ5mあるいは10mどちらが適切かと言えば、安全性からは、10mである。しかし、コストを犠牲にしても、絶対10mが必要として、その基準を採用するには、5mにそれなりの根拠が示すことができないなら、相当のエビデンスが必要なことは多い。当然10mで絶対大丈夫かとの問題もつきまとう。また、相当前に基準が決定されており、その旧い基準で多くの設備が建設・運転されていたとするなら、変更すると影響が大きすぎて実施が容易ではないこともある。

民間の事業者も、法令遵守は当然であり、その上に可能な限り安全性を確保すべく尽力すべきである。しかし、法令遵守の基となる基準は、中立的で利害・損得に影響されない機関が立案すべきである。福島第一原発は、商業用発電原子炉として建設・運転された。法令遵守の上で、利益追求がなされることにより、国民に貢献するのが目的であった。

基準に欠陥があり、基準が改定されていなかったことにより事故が起こったとするなら、その事故の賠償責任は、政府にもあるのではないか。この部分の調査・究明も、事故調査委員会にお願いしたい。

3) 現在の原子力発電体制を維持して良いか

沖縄電力を除く9社の一般電気事業者と日本原子力発電による日本の原子力発電体制(建設中の電源開発による大間原発を加えると合計11社体制になる。)に、大きな問題があると思う。

例えば、エネルギー基本計画 平成22年6月の27ページの「2.原子力発電の推進(1)目指すべき姿」に次のような記述がある。

まず、2020 年までに、9基の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約85%を目指す(現状:54 基稼働、設備利用率:(2008 年度)約60%、(1998年度)約84%)。さらに、2030 年までに、少なくとも14 基以上の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約90%を目指していく。

民主党政権下での基本計画です。そんな政権与党の都合の良いように、右に左に振られていくことが、国民にとって良いことでしょうか。

原子力には、特有の問題がありすぎます。核兵器転用問題、プルトニウム問題、事故時の放射能汚染問題、放射能破棄物問題、テロ問題等です。国営会社が事業をすると、政治家に利用され問題が悪化し、情報開示も悪くなる危険性があり、民間会社による運営にすべきと考える。しかし、現状の一般電気事業者と日本原子力発電による体制ではなく、新日本原子力発電あるいは東日本会社と西日本会社の2社体制のような形の方が良いように思う。

現在の9社と日本原電が原子力発電事業を現物出資することにより新原子力発電会社を設立するのです。そして、流通株式比率35%以上とする上場会社を目指します。東京電力の賠償債務を幾ら東京電力に残し、幾ら新会社に移転するかは、それはそれで検討することとする。利点は、原子力発電のコストが、完全分離されるわけで、原子力単独での議論が容易になるはず。仮に、東京電力の原子力債務を全額引き継いだ場合は、賠償コストも発電コストとなるのであり、それは、それで合理的である。原子力発電コストには、廃炉から破棄物処理、ひいては賠償コストを含め、全てが含まれるべきである。株式上場によるガバナンスの確立を期待します。

また、この新原子力発電会社の財務諸表はIFRSで作成されるべきである。日本政府が電気事業会計規則のような規則を作り、そのような規則による財務諸表の作成を法令で強制することは可能であるが、IFRSによる財務諸表は、日本政府基準で適正監査報告書を入手できるかは、別問題である。核燃料リサイクルや放射性破棄物処理に関する負債が国際的な観点においても、適正に計上されていないとならない。原子力とは、そこまでの、透明性を持った報告がなされるべきと考える。

4) 原子力発電の将来

私にもよく分かりません。一部政治家のものであってはなりません。国民のものです。そのためには、情報開示がなされることです。

このロイターの5月12日の記事「特別リポート:世界の原発ビジネス、「フクシマ」が新たな商機に」は、とてもおもしろい。仏アレバの第3世代炉「欧州加圧水型原子炉(EPR、出力1,650MW)」は地震や津波といった自然災害に備えて複数のバックアップシステムと安全装置が付いており、2001年9月の米同時多発攻撃のような航空機の衝突にも耐える設計で、同社アレックス・マリンチッチ最高技術責任者(CTO)は「フクシマの炉がもしEPRだったなら震災に耐えられた」と言っているとのこと。

世界のビジネスとは、そのようなものです。過去を超えて、発展していかないと、明るい未来はありません。アレバのEPRが、本当に、そのように安全なのかの検証もすればよいと思います。いずれにせよ、被害者に必要な賠償を行うことにより明るい未来が到来するのであり、問題なく賠償の履行が可能なスキームでなければなりません。同時に、それは犠牲の上に成り立つのではなく、これをチャンスに電力供給体制そのものも、よりよい合理的な姿に変えていくべきと考えます。

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