問題多い休耕田や耕作放棄地での太陽光発電
ソフトバンクの孫正義氏が、休耕田や耕作放棄地での太陽光発電を進めると述べたとして話題になっているが、やはり問題が多いと思います。
47ニュース 5月26日 メガソーラーで新会社設立 孫社長、年内にも着工
1) 農地は食料生産
農地は、人々が生きていく食料を生産する土地であり、農地が余っているなら他用途への転換もあり得る。しかし、農地が足りているか、不足してるかの、検証もなしに他用途に安易に転換することは、問題が多い。日本は、食糧輸入国であることを考えると、農地が余っているとはとても思えない。
休耕田や耕作放棄地が存在する理由は、農地が余っているからではなく、農業生産をしても十分な収入を得られず、一方、生産に携わる人が過疎化や高齢化の進行で減少している。そして、本来であれば、大規模化や機械化により生産性の向上で克服されるべき問題が、日本農業の構造的な問題により進まない。しかも、構造的問題は、複雑な事項が絡みあっていて、簡単に解決するとは言い難い。
結局は、日本農業の政策の方に問題があるにも拘わらず、メガソーラーで農地転用をすると、失敗をする可能性があると思う。
メガソーラーを休耕田や耕作放棄地で実施するのであるなら、同時に休耕田や耕作放棄地については、株式会社による農業を認めることがあって良いような気がする。生育に手間を要しない飼料用作物を開発することもあってよいと思う。
農業に、灌漑と排水は欠かせず、先人達が農業に適する場所として農地をつくり、引き継がれてきた土地が農地である。単なる思いつきで、農地を転用すると将来に禍根を残す可能性がある。
2) 太陽エネルギー
地球が太陽から受ける太陽エネルギーは偉大である。化石燃料も、その昔に光合成の結果として生物に蓄えられた太陽エネルギーが、燃焼時に熱エネルギーに変換させているとも言える。蓄えられた時が、CO2を取り込むエネルギー吸収反応で、燃焼時がCO2を発生するエネルギー放出反応。そもそも、地球温暖化が言われているのは、地表面に届く太陽エネルギーより、地表面からの放出エネルギーが、温室効果ガスにより小さくなる結果である。
では、その太陽エネルギーは、どれほどかと言うことで、次の図がIPCCC(気候変動に関する政府間パネル)2007年の第4次評価報告書第1分冊のこのページの図です。(下の図はクリックで拡大)
地球に届く太陽エネルギーは、平方メートル当たり1,370ワット(W)です。地球の表面積は約5億1千万km2であり、球体なので断面積で考えると、175兆kWです。陸地のみを考えると、約50兆kWです。日本の国土面積を38万km2とすると5,200億kWですが、真上からの太陽光ではないので、4,200億kW程度と思います。
しかし、4,200億kWが全て地表に届くのではなく、上のIPCCCの図にあるように約23%は、雲に反射され地表には届かない。地表面に届いた太陽エネルギーも地表を暖めるのに役に立っているのであり、実は温暖化ガスも悪者というよりむしろ善玉の役割を果たしている部分を評価する必要があり、現在の気温が維持できているからこそ、農業が成立し、地球に多くの人類が生存できていると言える。
そもそも、微妙なバランスの上に、地球上の生命が存在し、そして人類が生存しているのである。但し、日本に降り注ぐ太陽エネルギーが最大2,800億kW、平均700億kWであるとしても、相当大きい。日本の電力消費は年間約3,600PJ(ペタ・ジュール)、エネルギー総消費15,000PJ程度である(エネルギー転換消費を除く)ので、太陽エネルギーを平均700億kWとして24時間利用可能とすると2,000,000PJであり、この1%を利用できれば、太陽エネルギーで全てをまかなえることとなる。
3) 太陽光発電による電気
現状の太陽光発電パネルは、ここにシャープのモジュールの仕様があり、最高性能のモジュールで160W、エネルギー変換効率14.3%です。これを1ヘクタールの土地に設置すると、1,400kWとなるが、実際にはメンテナンス・スペースその他も必要であり、敷地面積に対しては500kW-650kWが最大程度のようです。例えば、このプロジェクトでは10haに対して1.8MWなので、180kWであり、このプロジェクトでは14haに対して5,020kWであり、360kWとなる。百万kW級の太陽光発電となると、1haに500kWとして2,000haの敷地が必要であり、山手線内の3分の1となる。
年間発電量は、北杜市のプロジェクトでここに書いてあるように2MWで約2,000,000kWh/年であり、年間約1000時間相当です。仮に百万kWの原子力発電を比較対象として、目標としている80%稼働をしたとすると7,000GWh/年なので、これを太陽光で発電するには、7百万kWの太陽光発電設備が必要であり、山手線内側の倍以上の敷地が必要となる。
年間約1000時間稼働となるのは、夜は発電せず、雨や曇りは発電量が減少し、朝・夕も発電量が少ないことからです。一方、電力消費は、これとは必ずしも一致せず、蓄電池を含めエネルギー貯蔵設備が必要です。
設備費用も、やはり他の発電設備より高額で、メガソーラーであっても5MWで、10億円程度となる。蓄電の費用を除外すれば、15円-20円/kWhが可能かも知れないが、土地代を考えると、必要敷地面積が大きすぎて、経済性は悪い。
一方、砂漠のような土地で、日照条件も良く、元々未利用地であり、環境影響も極めて小さいなら、現状でも採算が成り立つ可能性あり。多分、それは、日本ではないはず。日本が砂漠に太陽光を設置し、その見返りとして、その結果、その土地で節約できた石油の中から幾らかを受けとり、それを日本で使用するといった形が、地球全体から見れば、効果が高くなるかも知れない。
4) 投資
まだまだ開発途上の技術である。それでも、50%のような高効率は無理であるような気がする。仮に100%効率を実現したとしても、百万kW原発相当には1000ha以上必要であり、一方、太陽光設備の設置場所の気温低下がありうると思う。まだ、試験的に設置し、データ入手をして今後の参考とする段階と思う。
一軒家、マンション、事務所、工場等の屋根に太陽光を設置する場合は、敷地問題が基本的にない。屋上緑化や、明かり取り天窓の関係、あるいは太陽光温水熱利用等との競合はあるが、最適利用で解決可能と思う。但し、設置費用やメンテナンス費用においては、一般の屋根はメガソーラーより高くつくはず。
首相は、1000万戸の屋根に太陽光パネルを設置すると述べたと報道されているが、その結果として電気料金が高くなり、低所得者の生活を圧迫するとなるとどうするか。余り、考えなしで、話をしたのだろうと思う。20兆円の投資だろうか?
本当は、投資は、研究・開発にすべきと考える。多分、太陽光発電は、効率アップよりも機器コスト・ダウンの革新技術が生まれ、世界中に普及していくのだろうと思う。液晶テレビが、あっという間に安くなったが、それ以上のコスト・ダウン競争があり得るような気がする。そう考えると今無理に1000万戸の屋根に太陽光パネルを設置するのは、バカだと思う。むしろ技術開発に投資すべきであり、技術開発が盛んになるように、政府は支援すべきである。例えば、世界最速スーパー・コンピューターへの支援である。
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コメント
原発の設備利用率を80%で考えておられますが、過去の実績平均は70%です。
また、太陽光発電の発電カーブは、電力消費のカーブに追随しやすい電源です。つまり、太陽光発電が発電するときに電力消費が多いのです。もちろん、蓄電池など必要ありません。系統電力で吸収できます。
また、700万kWも太陽光が普及すれば、さらに価格が下がります。現に今も下がり続けています。2,3年前にくらべて、kW単価が10万円も下がっています(今は1kW50万円)。これは量産効果によるものです。調べてみてください。
投稿: ちゃこ | 2012年4月27日 (金) 17時57分
あなたの言われていることは解らんことはないが、農家は北は北海道から南は九州まであることを忘れないでものを言ってほしい。私達のように山国で農業を営む者は以前米の生産調整を強いられ他の作物に雀の涙の補助金をもって先の読みの無いまま転換させられて来た経緯が有ります。これは地方農業の疲弊の一因でも有り宿命でも有ります。何とか生きていかなければならない悪条件下の農家の邪魔をしないでほしい。農地守って農業亡ぶ現状をあなたは解っていない。あなたはあなたのご子息にこの現状を平気で継がせることが出来ますか。地方農業を守れるのは6次プラス1の適正規模経営とそれを推進するための農地法の緩和しか有りません。私は五十年の専業農業を終わろうとしていますが、どうか今後農業を十束一からげで評せず将来に向かって生きて行くために即した知恵と工夫を論じてやってただきたい。お願いいたします。
わを
投稿: ヒロハタコウセイ | 2012年12月29日 (土) 00時30分
投稿: ヒロハタコウセイ | 2012年12月29日 (土) 00時36分
投稿: ヒロハタコウセイ | 2012年12月29日 (土) 00時41分
私も自分所有の農業休耕地にソーラー施設をと考え、行政に相談に行ったことがあります。しかし農地地目にソーラー施設を作った場合、農地としての税法上特典は与えられず、撤去命令が出るであろうとのことでした。無理やり設置した場合、宅地並課税がされるとのことでした。やむ無く農地使用の電力のみ発電している次第です。
「今や電力も農産物である」とまで言ったんですがね(^O^)
投稿: モチヅキヒロキ | 2013年6月12日 (水) 18時18分
モチヅキヒロキさん
コメントをありがとうございます。
ご指摘のポイントは、重要な事項と考えます。「里山」とは、言葉では美しいが、なかには農家が手を入れているから守ることができている里山もあるのであり、手を掛けなければ、たちまち荒れ地になる所も多いと思います。荒れ地になれば、自然災害が発生する危険性も高まるし、野生動物が増加し、生態系が壊れることになりかねない。
2012年12月に書いておられる「農業を十束一からげで評せず将来に向かって生きて行くために即した知恵と工夫を論じてやってただきたい。」というのは、その通りと思います。農業は、土地により成立する。個別の土地により、作物は何が適するのか、どう対応するのがよいのか異なる。「日本は」のような全体の観点のみではなく、個別に考えるべきと思います。それについて対処できていないのが現実と考えます。地方自治体も職員を増やすことができず、いわゆる木で鼻をくくったような対応にならざるを得ないし。
投稿: ある経営コンサルタント | 2013年6月13日 (木) 00時29分
野生動物が増加し、生態系が壊れる.
これは農家ではなく、職業猟師の復活にあります。農家が猟銃免許取って、自前でシカ、イノシシの駆除での頭数制限を出来るかです。 中山間部農業の最大の敵は、獣害です。福島も駆除を始めないと、もう楽園化しています。
投稿: omizo | 2013年6月13日 (木) 21時48分