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2011年5月 2日 (月)

被災者の税金還付手続きの紹介

4月27日に東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律および地方税法の一部を改正する法律案が公布され、公布日から施行されました。

4月27日 日経 税制特例法が成立 所得税減免などで被災者支援

結果、被災により財産を失ったり損害が生じている人は、該当すれば、昨年の税金(本年2、3月確定申告分、昨年12月年末調整分)からも税金還付を受けられることになりました。損失の大きな人は、昨年分を含め5年間所得税と住民税(均等割を除く)を払わなくてもよくなります。所得税や所得が低くできれば、国民健康保険料も安くなるはず。国民年金保険料の減免も受けられる可能性あり。そして、高額医療費の自己負担分も小さくなる可能性があります。

所得税の税還付(雑損控除による方法)について、紹介いたします。

1) 対象となる人

資産について東日本大震災により損失生じている人であり、資産の所有者は、本人以外でも所得金額38万円以下で生計を一にする配偶者または親族分も含めることができます。なお、事業用資産や賃貸資産あるいは山林が東日本大震災で損失を生じている場合については、事業所得、雑所得、不動産所得、山林所得で必要経費の算入をすることになります。

但し、資産についての損失が、(平成22年について還付を申請する場合は)平成22年所得金額の10%以上である人です。所得金額とは何であるかというと、給与所得のみの人は、自分の源泉徴収票の次の欄の「給与所得控除後の金額」です。

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給与の支払額が600万円の人であれば、426万円になっているはずです。この例では、資産の損失額が42万6千円以上であれば、所得税還付が可能となります。

2) 資産の損失金額

対象資産は事業用資産、賃貸資産、山林以外と書いたのですが、それ以外に、生活に通常必要でない資産も対象外です。それらは、宝石、書画、骨董類、別荘等で、これらは平成23年と24年の譲渡所得と損益通算が可能であり、相殺することができます。(所得税法62条)

そうすると、どのような資産が対象となるかというと、住居であった家、家にあった家財そして車が考えられます。例えば、単身赴任していて住民票は別の場所でも家族が居住していたのであれば、対象となるし、家は被害から幸運にも大丈夫であったが、車はダメになった場合も車は対象になります。スポーツカーは、生活に通常必要でない資産かも知れないが、通勤に使っていれば、生活用の資産と言えると思います。

なお、損失金額は、保険金等で補填を受けた後の金額です。また、損失の金額とは、被害を受けた直前の時価と直後の時価の差です。といっても、簡単ではありませんが、10%を残存価額とし、償却年数を通常の1.5倍として計算した残存価額を採用して税務署に通用すると思います。この時の取得価額ですが、実際の取得価額を採用するか、国税庁の地域別・構造別の工事費用表から有利な方を使ってよいと思います。例えば、岩手県で20年間住んだ100m3の木造住宅が津波で家財と共に全損したとし、150万円で購求した3年前の車もダメになったとすると、次の金額になります。家財については、世帯主年齢45歳で、家族構成は妻と子ども一人とします。

家屋の損失=100m3 x 143千円/m3 x (1 - 0.9 x 0.031 x 20年) = 6,320,600円

家財の損失= 1100万円 + 130万円 + 80万円 = 13,100,000円

自動車の損失=150万円 x (1 - 0.9 x 0.111 x 3年) = 1,050,450円

なお、火災保険で家屋500万円、家財200万円の保険金が受け取れることとすると、損失の合計額は13,471,050円となります。そうなると、損失額は所得金額426万円の10%の42万6千円より大きいので、所得税の還付を受けることが可能です。

なお、雑損控除(所得税法72条)の扱いとなりますが、雑損控除として所得金額から控除が可能なのは「損失の金額-所得の金額x10%」(場合によっては、これより大きな金額が可能な場合もありえますが)で、雑損失の金額と呼びます。

3) 還付の方法

厳密には、平成22年の所得税をゼロとし、払いすぎていた所得税を取り戻す方法です。その理屈は、

A. 4月27日公布の法律第4条に、「東日本大震災により生じた損失の金額・・・については、その居住者の選択により、平成二十二年において生じた・・損失の金額として、・・適用することができる。」とあり、東日本大震災は平成23年3月11日に発生したが、損失は平成22年に生じたとして、所得税法の雑損控除を適用できるとしました。

B. 平成22年の所得税は申告も納付も終了している人が多いと思いますが、4月27日公布の法律附則第2条に「この法律の施行の日・・前に平成二十二年分の所得税につき・・確定申告書を提出した者・・は、・・・施行日から起算して一年を経過する日までに、・・更正の請求をすることができる。」となっています。

更正の請求とは、申告金額が大きすぎた場合に、訂正を求める申告です。この用紙を使用して、税務署に提出します。サラリーマンで、確定申告をしていない人でも、更正の請求は可能ですし、逆に勤務先には提出できず、税務署に手続きをしないとなりません。

例にあげた人の場合は、雑損失の金額が13,045,050円なので、426万円の所得をゼロにしておつりが来ます。そこで、このおつりを平成23年以降も使えるようにします。通常の確定申告で、更正の請求でない場合は、この申告書の○の79の「翌年以後に繰り越される本年分の雑損失の金額」に繰越金額を書いて申請します。また、源泉税が適用されないようにするためには繰越雑損失がある場合の源泉所得税の徴収猶予承認申請手続をすればよいはずです。

なお、県民税と市町村民税も、どうように減額されます。所得税について手続きをすれば、住民税にも反映されると思うのですが、念のため市町村の税務担当に聞いてみてください。

4) 何年間所得税が減額されるか?

雑損失の金額の繰越は通常3年間ですが、東日本大震災による損失については5年間となっています。従い、平成22年の更正の請求をした場合は、平成26年分あるいは、所得金額の累計が雑損失の金額に達するまでです。

キャッシュフローで助かるのは、損失の金額ではなく、損失の金額 x 税率であるので、焼け太りになったり、得をしたりはしないのですが、苦しみの上に、更に税を払うという過酷な苦しみからは、解放されます。確定申告をしておらず、源泉税のみの方でも、同じ措置を受けられるので、被災されている方には、検討をお奨めします。

なお、この国税庁のWebこちらの国税庁のWebも、分かりつらい部分もありますが、私も全てを説明できているわけではなく、国税庁の説明も参考にしてください。税務署に問い合わせてもよいと思います。

5) 浦安液状化損失は対象となるか?

私は、浦安液状化による損失は、3月11日の東日本大震災により発生したのであり、対象になると思います。但し、損失額を幾らとするか、損失割合をどう見るか、その辺りには難しい問題があると思います。

一方、東日本大震災に入るかどうかで、長野県栄村、新潟県十日町市や津南町の地震被害があると思います。東日本大震災でなくても、雑損失の扱いを受けることは可能ですが、平成22年としたり、繰越を5年とすることができません。しかし、この財務大臣告示は相続税に関する告示ですが、同じ4月27日公布の法律に関して出された告示です。従い、私は、栄村、十日町市、津南町の地震被害も東日本大震災による被害として大丈夫だと思います。

6) 所得税のおもしろさ

所得税は、おもしろい税です。災害があれば、被災金額をマイナスして、税を減額できたりしますから。これが、消費税だと、そうは行かないのです。被災した人も、同じように税を払うこととなります。範囲を拡大して、預金の税(所得税15%、地方税5%)も、申告をして税の精算をするようにすればよいと思います。預金をするのに、身分証明を求められる一方で、税は精算して返してくれないのは一方的の感があります。

実は、預金の税について法人税では、精算してくれるのです。何故、所得税が精算されないか、不合理と思います。証券税制も同様です。株価が下がって、損をしても、税金に反映されない。損をしたら、その損を所得金額から減額をする。逆に、儲かったら、きちんと累進税率で税金を支払う。それが、大人の世界の税金です。

消費税増税ばかり言われますが、所得税もバランスさせないと、格差拡大につながる懸念もある。そして、勤労意欲・労働意欲にも関係するかも知れないと思います。日本の税は、世界一高い税にならざるを得ない状況と思いますから。政府の債務世界一で、高齢化も世界一だとしたら、世界一高い税でないと政府は破綻する。東日本大震災は、その高い税率を更に押し上げた。そんな風な見方もあり得ると思います。もし、そうでないと思うなら、人に言わなくてもよいので、自分の中で問答してみたらと思います。税は、納税者にとっては低いほどよい。しかし、復興対策を含め政府の負担拡大を望むなら、どこかでバランスしなければいけない。

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