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2011年12月 8日 (木)

消費税について、増税幅のみの議論で終わってはならない

野田首相が消費税増税にむけて、2011年内の取りまとめ指示したとニュースがあった。

日経 12月6日 財務相、一体改革素案「消費税率の引き上げ時期を明記したい」

これを受けての日経社説は、次の通りであった。

日経 12月6日社説 消費税増税の具体化を先送りするな

政府財政を考え、日本社会の現状を考えると、増税は、どうしても必要と思う。そして、増税手段の一つとして、消費税増税を含まないで済ませることは、議論を振り出しに戻し、増税を遅らせることになると思う。増税が遅れれば、医療、年金、国民生活の状態を悪くするだけと予想する。しかし、消費税増税において検討・注意すべき課題についても、よく考えておかないと、増税が日本社会の幸福度増進に寄与するのではなく、重税にあえぐだけとなることを懸念する。(税は、幸福度増進のために存在するはずと思う。)

1) 消費税は物価を上げるか?

答えは、2種類ある。「上げる」「上げない」の両方とも正解である。「上げない」というのは、卸物価であり、企業(個人事業も含め)の仕入に適用される価格の場合である。仕入税額控除により、仮に売上に対する消費税額より小さくとも、課税売上対応であれば、全額還付されるのである。

「上げる」というのは、消費者物価である。ちなみに、消費者物価指数は、品目別消費支出金額のような消費支出を基準に作成されている。消費税増税となれば、非課税品目もあるので、そのままの同一パーセントではないが、多少のタイムラグの後に、必ず物価上昇がある。

従い、消費税増税は、国民生活にとっては、物価が上がり、生活レベルの切り下げを余儀なくされる悲しい税である。そして、その影響が低所得者ほど大きいのである。2006年のレポートであり少し古いがニッセイ基礎研究所のレポートがここにあり、消費税の負担は、年収383.3万円の場合は2.4%、年収587.9万円では2.2%で、年収942.5万円では1.9%となっている。

2) 賃金、給料、年金、生活保護費の調整

現行制度では、年金と生活保護費は調整され、増額されるはず。最低賃金も当然調整されると思って良いのだろう。ところで、一般の勤労者の賃金・給料はと言うと、労使の力関係で決まると思う。不況だ、競争が厳しいとなると賃金アップは容易ではない。まして、企業業績が悪ければ、雇用維持が優先となることもある。自営農水産業者は、消費税のアップより、販売価格の変動影響が大きく、消費税率が上がれば、値下げプレッシャーがかかる恐れさえあり得る。

生活保護費は、最低生活を基準に決めているとすれば、上げる以外にないはず。当然と思うが、一方で、働いている人の苦しみが増加するとすれば、矛盾を感じる。年金について言えば、年金受給者に負担をさせるとして消費増税をするというのは、そもそも考え方が間違っているように思う。高額所得で資産家の高齢者に税負担をさせるなら、所得税と固定資産税・相続贈与税で税を課するべきである。

3) 非課税品目

非課税品目となっている対象には、土地、有価証券、債権、利子のような消費税の対象として馴染み難い品目と政策的に非課税品目としている身障者用物品、学校教育費、健康保険による医療費、出産に関わる医療機関への対価、住宅の貸付等がある。

非課税品目の対価には、消費税が含まれていないかというと、含まれているのである。例えば、身障者用物品でも、部品や原材料は他目的にも使用可能であり、消費税の対象となっている。販売者は、仕入に含まれている消費税分は、販売対価に含めないと販売者の負担となる。全て、同様であり、保健対象の医療にしても、医薬品の仕入は健康保険の適用取引ではなく、課税取引である。住宅の貸付も、建築や保守・修理は課税取引であり、賃貸住宅のオーナーは、消費税率があがれば、賃貸料への転嫁をすることになると思う。但し、その時の賃貸市場相場により容易に出来なかったりと、価格は市場により左右されることが大きいとは思います。

消費税は、事業者が販売と仕入の税差額を納付する仕組みであり、競合している同業者も全く同じ条件となる。このことから、最終的には消費者に転嫁されると考えられる。非課税品目であっても、仕入や費用に含まれている消費税分がコスト高になり、同業者同条件である故、やはり消費者に転嫁されるはず。

4) ゼロ税率品目の導入

ゼロ税率と非課税との違いは、事業者の納付税額は販売と仕入の税差額と述べたが、現在の消費税の仕組みは、控除可能な仕入の税は課税売上対応の仕入消費税となっている。非課税ではなくゼロ税率の課税売上というのがあれば、ゼロ税率分も納付税額から差し引くことが可能となり、もし仕入に関わる消費税の方が大きければ、税還付となる。なお、現行でも税還付はある。設備投資をして、支払った消費税が大きい場合等は、還付を受けることとなる。

ゼロ税率を導入する場合、考え得る対象は、食料品であり、それ以外に、非課税からゼロ税率に変更とすべきは医療、身障者用物品等があると思う。食料品がゼロ税率となれば、現在より価格が5%安くなるのであり歓迎されるように思う。レストランでの食事は、現状通り消費税対象としても、問題はないと思う。

保険対象の医療については、消費税増税となった場合、医療費が医薬品、機器損料、建物減価償却相当額等の消費税分増加し、現状でも財政が苦しい医療保険財政が更に苦しくなる。ゼロ消費税とすれば、税収は減少するが、健康保険料の負担は軽くなる。税を多くして、その結果、医療保険料や年金保険料を増加させるのは、政策として変であると思う。

なお、ゼロ税率とする場合、インボイス方式にするのか、管理上問題ないと認定できる販売店や医療機関・薬局に対象者を限るのか、その実施方式については検討が必要と思う。

住宅の貸付をゼロ税率とすべきかについては、自己保有住宅として購入した場合の扱いとの関係、事務所様に目的変更をした場合の扱いとも併せ何が合理的か検討が必要と思う。

4) 消費税を含めた枠組みの見直し

第3次補正予算の税収で消費税は10兆1990億円であり、結果地方消費税は2兆5500億円であり、また消費税10兆1990円のうち29.5%相当の3兆87億円は、地方交付税となる。地方税法72条の83や地方交付税法6条を改訂しなければ、5%の増税で政府の実質税収増は7兆2千億弱となり、一方で、支出について増税分が上乗せされるので7兆円にもならないと思う。

平成23年度第1次補正予算で1/2基礎年金国庫負担の財源を取り崩したが、2兆4897億円であった。既に、1/2基礎年金国庫負担による支出が決まっているのであり、残りを全て国債依存の脱却に支出しても5兆円もない。

残念ながら、消費増税で政府財政の健全化には至らず、更なる増税が必要と考える。また、3)で書いた食料や医療のゼロ消費税を実施すれば、税収は少し減少する。そこで、平成21年改正附則104条の記載を実現することを目指すべきと考える。即ち、

  1. 個人所得課税の最高税率及び給与所得控除の上限の調整等による高所得者の税負担の引き上げ。給付付き税額控除の検討並びに金融所得課税の一体化の推進
  2. 相続税の課税ベース、税率構造等を見直し、負担の適正化
  3. 納税者番号制度の導入の準備、納税者の利便の向上及び課税の適正化
  4. 低炭素化を促進する観点から、税制全体のグリーン化

5) 国民的議論

政府は、どうどうと増税案を出して欲しい。支出を含め、国民的な議論の場を作って欲しい。政治家のみによる駆け引きや裏取引で国会決議をし、法改正をすることは民主主義を否定することと思う。政治家の都合による法改正で税金が決まるのは国民にとって納得がいかず不幸なことである。

政権交代後の大きな税制改正である。民主党は、政権交代をしても、ほとんど何も変わらないことを証明してくれた。マニフェストは、自分たちの選挙目的の実現不可能な大嘘が多いことも、露見している。国民は、政党や議員を信じることができない。しかし、国家を形成しており、国家の中で活動する限り法は必要不可欠であり、税を払い、税の恩恵を受けることも重要である。政府財政が破綻すれば、どうなるのか?ギリシャを見なくても、夕張市も参考になるはず。これからの消費税増税を含む税制改正に関しては、政党ではなく、国民の意見を聞き、国民のために働く議員を応援したい。

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