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2012年3月 4日 (日)

AIJ年金問題から厚生年金問題

AIJ年金問題が、どこまで広がっていくのか、この問題は行き着く所まで、行くべきだと思う。やはり、厚生年金基金は全て解散するのが解決方法と思う。その際に、年金額は、既に受給を受けている人を含め、全員減額となる可能性はどうか?消費税がアップし、税率20%なんて可能性はどうだろうか?と思う。それが実態なら、それを直視することも必要である。

きちんと本質を見極める必要がある。なかなか、力は及ばないが、できる限り書いてみるとする。

1) AIJに委託している年金資金は厚生年金基金

次の日経の記事からすると、AIJに委託しているのは、ほとんど中小の厚生年金基金と思える。

日経 3月3日 AIJ年金問題、北関東3県にも波紋 中小基金、募る不安

「同社に運用を委託していた厚生年金基金は地場中小企業が集まって共同運用する総合型が多く、規模が小さく運用の専門家がいないケースも少なくない。返還がどの程度見込めるかも不透明で、各基金は対応に苦慮している。」とある。

厚生年金基金とは、何であるか。次は、日本年金機構のパンフレットからの図であるが、よく説明に出てくる。

Photo

厚生年金基金は、厚生年金の部分の左上に乗っかっている形で書いてある。しかし、嘘と思う。厚生年金の下の部分にほとんど伸びているのが本当の姿である。ただ、厚生年金の人が全員厚生年金基金に該当しているかというと、まず一定人数存在と厚生労働省の認可が必要である。人数を確保するために、地場中小企業が集まって共同で設立する場合がある。

そもそも、何故厚生年金基金なんて設立するかというと、かつて、厚生労働省の資金運用計画は年5.5%であり、金利が高かった時代には、厚生労働省に運用を任せずに、自分たちが運用した方が、従業員の福利厚生がよくなると言う思想である。すなわち、厚生労働省・社保庁に運用を任せずに、自分たちが独自で運用し、しかも厚生労働省より高い利率の運用をするので、年金支給額を多く支払うと約束する。この厚生年金基金制度を採用すると、従業員と雇用主である会社が支払うべき保険料のうち、基礎年金部分は社保庁・年金機構に支払うが、報酬比例部分は支払わず、厚生年金基金が自ら運用して、従業員の退職後に支払うのである。

そこで、運用が5.5%以上でできていればよいが、そんなことは、現在の金融市場で不可能と言える。そのため、代行返上が認められることとなったし、元来から解散して企業年金連合会に引き継ぐ方法もあった。代行返上のためには、社保庁に支払わなかった報酬比例部分の徴収済み金額合計と運用収益部分の合計を社保庁・年金機構に支払わねばならない。しかし、それは、運用がうまくいっている厚生年金基金または不足部分を会社が補填して支払える場合である。実は、体力のある大企業は、金融市場を考慮し、厚生年金基金を維持すれば、赤字補填が継続するとして代行返上をした。

赤字厚生年金基金は、代行返上しようとしても、金はなく、悪循環に陥った。ついには、AIJにまで手を出す始末。逆に言えば、悪意があれば、厚生年金基金なんて、欺しやすい相手である。そんな構造で、AIJ問題が発生したのであり、予想されたことと言えなくはない。

2) しかし厚生年金です

AIJ問題について、年金の3階建て部分の資金運用だと一部の報道機関は伝えた。上の日本年金機構のパンフレットからの図を見ても、波線が2階建て部分の厚生年金に入っている。ところが、厚生年金基金が扱うのは、厚生年金報酬比例部分のほとんどである。(厚生年金保険法132条2項)すなわち、厚生年金基金がパンクすると厚生年金の報酬比例部分が、ほとんど受け取れなくなる。

厚生年金とは、厚生年金保険法による年金であり、税と同じように保険料は法律で納付が義務づけられ、法律で年金受給が約束された国の年金と呼ばれている年金です。

そうなると、この問題の根の深さが分かると思います。

法律で強制的に保険料が徴収され、受給が約束されているにも拘わらず馬鹿な運用で年金が受給できないとなると、誰の責任か?一つは、AIJの様なファンドの責任。資金運用には、安全性を最も重視しなければいけない厚生年金基金の運用担当者や理事の責任。そして、こんな恐れが予想されたにも拘わらず、制度を許した厚生労働省の責任。厚生年金保険法を改正して、不十分な厚生年金基金制度を作った国会議員の責任。そんな議員を後押しした圧力団体や国民の責任。どこまででも広がっていく感じがある。

従来からも厚生年金基金の破綻はあった。その際は、厚生年金保険法149条の企業年金連合会が引き継いで厚生年金の支給を行ったし、現状もそうなっている。

問題は、では安心かというと、小さな厚生年金基金の1つや2つが破綻するには対処できても、大勢であれば、無理と思う。実は、これを見極めることが、今回の事件からやらねばならない最重要なことである。

もし、厚生労働省・日本年金機構が管理する厚生年金と比べて財政状態が相当程度悪いなら、根本的な解決を図るべきである。また、近年において悪化が進んでいるなら、厚生年金基金の強制解散をすべきと思う。

そして、いずれにせよ、財政状態が悪いなら、厚生年金基金の被保険者と企業の問題にとどめるのか、国の制度であるとして、国民全員を巻き込んだ解決を図るのか、すごい問題も待っている。

3) 厚生労働省管理の厚生年金は大丈夫か

厚生労働省が管理する厚生年金も見ておかないと心配である。昨年11月14日に年金の課題を正面から取り組むべしとのブログを書いた。この中で、問題点の一つとして、財政見通しの計算を、物価上昇率1.0%、賃金上昇率2.5%、運用利回り4.1%という甘い前提で実施していることを書いた。

次の表は、平成23年11月21日開催の「第2回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会」での資料1「年金積立金管理運用独立行政法人について」の14ページの「年金積立金の自主運用開始以来の運用実績」の一部である。22年度はマイナス0.25%、21年度や17年度のように9.88%や7.91%の年もあり、10年間平均年率換算1.20%とある。妥当と思う。(ここからダウンロード可能)

20123
国民に対して、1.0%、1.1%、1.2%の運用の場合の、年金財政の計算を示すべきである。本当の姿を予測すれば、年金が減額となる。だから、そんな予測をしないということは、おかしい。減額となった場合、それを避ける方法は、税金を投入する以外にない。その場合の税金額はいくらになるのか?冒頭に書いたように、消費税率20%となるのか、それでも足りないのか?いやはや心配の種は尽きないのであります。

なお、昨年11月14日のブログで参照した松山幸弘氏の文章があらたにすが閉鎖となり、読めないが、現在はキャノングローバル戦略研究所のこのページで読めます。

4) 企業年金

厚生年金基金の厚生年金に上積みした部分が企業年金である。ところで、確定給付年金や確定拠出年金という制度もある。確定給付年金と厚生年金基金の上積部分(3階部分)は、相当似通っている。

しかし、大きな違いが一つある。確定給付年金や確定拠出年金は、法人税法87条により積立金額に1%の法人税が課せられる。但し、現在は、租税特別措置法68条の4により法人税を課さないとなっている。

これもおかしな話である。法人税法の83条から91条までを削除すべきである。確定給付年金や確定拠出年金は、公的年金控除の適用はあるが、受給時に全額課税である。厚生年金基金の3階部分と同じ扱いをすべきである。

税と社会保険の一体改革と言いながら、何もしない政権。社会保険制度が難しいのは、その通りである。しかし、手を付けないことは許されない。せめて、実態を国民に正確に伝えることをすべきである。政権を取る前に言っていた情報開示を望む。

5) コメント

正確でない部分や間違っている部分もあると思います。また、様々な意見を持っておられる方もおられる。このコメント欄にどしどし書いてください

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