地方公共団体による課税権
3月21日に最高裁判所第一小法廷において神奈川県臨時特例企業税条例の規定による課税は、法人事業税に関する規定と矛盾抵触し、地方税法に違反し、違法、無効であるとして原審の平成22年2月25日の東京高裁判決を破棄し、第1審横浜地裁の平成20年3月19日の判決は正当であるとした判決があった。
この裁判の最高裁、東京高裁および横浜地裁の判決文は、全てWebで読むことができ、次の所にあります。
東京高裁 平成22年2月25日 判決文(神奈川県Web)
今回の最高裁判決については、地方自治に反するという意見も一部聞かれ、毎日新聞社説 3月23日 「企業税」無効判決 自主課税拡充に工夫をも、そのような意見と思える。しかし、私には神奈川県臨時特例企業税条例は極めて不当であると思うわけで、以下に記載する。
1) 神奈川県臨時特例企業税は憲法違反と考える
憲法には、税について、第30条の「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」と第84条の「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」がある。そして憲法第41条に「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」とあるように、国会のみが法律を制定できる。
やたらと変な税が作られたら困るのである。地方公共団体に課税権はあっても、その課税の根拠となる税法は国会が制定した法律に基づくという考え方に賛成するし、そうでなければならいと考える。(憲法では、地方自治体との言葉は使用せず、地方公共団体としていることから、憲法と同一の地方公共団体と記載する。)
2) 地方税法第4条3項、第5条3項
地方税法第4条3項と第5条3項の条文には「別に税目を起こして、普通税を課することができる。 」とあり、都道府県と市町村は条例を制定して課税しても地方税法第4条3項と第5条3項に従っているから問題ないとの議論がありうるであろう。しかし、最高裁判決の金築誠志裁判官の補足意見にもあるが、消極的適法要件であるべきであり、日本全国どこにいても同じ税が課せられることを理想にすべきと考える。
その地方公共団体に特有な特殊な事情があり、特別の税を課する必要があった際には、地方税法259条と669条のような総務大臣との協議を含め手続きと同意を得て実施することになるが、極めて異例であり、原則有名無実と考えるべきである。
神奈川県は、税収が不足するから新たに税を徴収するという憲法違反を試みたのであり、糾弾されるべきことと考える。税収が不足するなら、国会に働きかける、住民に訴える、政府に地方交付税の配分増加を交渉するのが本筋と考える。神奈川県は、地方税法259条による総務省との協議すら実施しなかった。
3) 許されうる地方税の税収増
地方税法では標準税率を定め、地方公共団体が条例で変更してもよいとしている税目も多いのである。例えば、事業税に関しての第72条の24の7第7項に「道府県は、・・・標準税率を超える税率で事業税を課する場合には、・・・各号に掲げる法人の区分に応ずる当該各号に定める率に、それぞれ一・二を乗じて得た率を超える税率で課することができない。」 とあり、20%増までは可能である。
日本中どこへ住んでも、どこに法人を設立し、事務所や工場を設けようとも、国税は当然同じであるが、地方税も許容範囲として認められる範囲までとすることは、日本を良い国とするためにとても良いことと思う。
4) 今後に向けて
地方の間で対立するより、協調・協力してより良い社会を作っていくのが本当の姿だと思う。国民にとっては、国税と地方税も同じであり、合計していくらとするかが重要である。政府と地方公共団体と間での分け前や配分の取り合いは、本音からすれば勝手にどうぞである。しかし、一方で、他の地方公共団体が減るのは気にしないが自分が住む地方公共団体は多く得て欲しいとの気になる。やはり、国会が公平に采配すべきである。
現状の国会が法を制定して、法に基づいて政府と地方公共団体が税の徴収を行い、更に各地方公共団体の行政執行に不足する額を地方交付税として政府が交付するのがよいと考える。
更には、やはり歳入庁をつくるべきである。歳入庁が地方税も含め徴収することとし、年金保険料も健康保険料も全て歳入庁が徴収することとすればよいのである。徴収コストを下げることができるのみならず、徴収漏れや不正をなくすことができ、管理も容易となる。番号法案の審議が始まったのであり、番号法とともに歳入庁を早く設立すべきと考える。
| 固定リンク
コメント