電力システムに関する改革
2日の夕刊は、各社が電力システムに関する改革について報道している。次は、日経の記事です。
閣議決定された文書は次である。(この文書では、電力システムに関する改革と題されており、これをこの言葉を本ブログ内でも使用している。)
電力システムについての改革は必要であると考える。しかし、電気は生活においても、産業にとっても、欠かすことができない必要不可欠なモノ(眼に見えないモノとしておきます。)であり、体にとっての血液のような物質とも言える。そのように重要な事項であることから、思うことを書いてみます。
1) 原子力
この会社の報道には、「電力会社から送配電部門を切り離す「発送電分離」に踏み切ることも盛り込んだ。」とあり、これでは発送電分離による新制度に移行するように思える。一方、閣議決定では、最終の5ページに「第3段階:法的分離による送配電部門の中立性の一層の確保」とある。発送電分離について、方向性は正しいと考えるが、その姿やどこまで踏み込めるかについては、閣議決定のように、これから十分検討すべきである。
一番の課題は、原子力であると考える。原子力は、この2012年10月20日のブログ 停止中の原子力発電のコストに書いたように、原子力発電は、稼働していなくても1兆6千億円程度の費用が必要である。一方、完全自由化になれば、火力発電所や水力発電所の売却・分離が進む可能性がある。そうなると、誰も原発なんか買わないので、不良資産として残ることになる。不良資産が残った会社には、資産売却代金が入ってくるが、原発の維持費で短期間に支出されるであろう。その不良資産会社は、つぶすにつぶせない会社である。もし、原発のメンテナンスに失敗したら、津波が来ていないのに、放射性物質の飛散が生じる。何故なら、原子炉とは、放射性物質の塊であるから。廃炉にするにも、同様である。廃炉とは、順調に推移しても何十年を要する仕事である。
この毎日の3月26日の記事は、電力10社(9社と日本原電)の保有するプルトニウムの量は26.5トンと報道していた。このプルトニウムの量を重量ではなく、ベクレルで現すととなんと1100京ベクレル(0が16くっつく数字)となる。(1グラムのプルトニウムは、4400億ベクレルの放射性物質である。)そして、プルトニウムとは、この4月2日日経 北朝鮮、原子炉再稼働表明 プルトニウム抽出再開もで直接の表現はないが、核爆弾の原料となる物質です。従い、この東京新聞 3月21日 高浜原発 MOX燃料仏から輸送へ 3号機もプルトニウムの仏からの輸送について報道しているが、その日程や航路は最高機密に属し、ごく限られた人しか知っていない。プルトニウムは核爆弾になるが、1グラムで4400億ベクレルもあるので、ダーティー爆弾にも簡単になる。しかも、半減期は13300年と気が遠くなるほど長いのである。
電源開発も大間原発を建設中であるから、原発は11社となる。大間原発に核燃料を装荷しなければ、放射性物質の管理上では、現状にほぼ近い。この11社の責任であると発言して押しつけても何も解決しない。運転を再開しても、プルトニウム問題を含め核廃棄物問題は何も解決しない。「一義的には電力会社の責任である」なんて発言しても、上に向かって、つばを吐いているだけで、自分にはね返ってくる。電気料金と税金で負担する以外になく、その割合や、方法をどうするかの問題が残る。
2) 現状の自由化
50kW以上は、既に自由化されているのである。マンションの場合、管理組合で契約すれば、その地域の電力会社以外から電力を購入することが今でも可能である。電圧は6000V以上になるので、変圧器を管理組合が用意する必要があるが、そんなことは新電力会社がメンテナンスを含めて斡旋してくれる。
このような制度であるにも拘わらず、新規参入電力会社(PPS)のシェアは低い。しかし、かといって、無理に一般電位事業者9社(沖縄を除く北海道から九州まで)の発電所を分離していくと、1)で書いたような原子力問題の解決が直ちに必要となる。
2011年4月から2012年3月までの沖縄電力を含めた10社と新電力(PPS)及び自家発電の電力供給量は、次の表の通りであった。
更にこの新電力PPSの電力会社別の内訳を見てみる。資源エネルギー庁の電力統計が2013年1月データまで発表されているので、2011年4月から2013年1月までの毎月のPPS各社の電力送電端供給量をグラフに書いた。
PPSと称する電力会社の数は、2013年1月の統計で34社存在するが、上のグラフでは赤で示したエネットが2013年1月でも2011年4月から2013年1月までの全期間でも50%のシェアを持ち寡占状態にある。エネットのホームページは、ここにある。NTTファシリティーズ、東京ガス、大阪ガスの3社を親会社とする会社であり、上場されておらず、会社内容はほとんど公開されていない。エネットの発電所には、東京ガス扇島パワー(810MW)、東京ガス川崎発電所(800MW)、大阪ガス泉北発電所(1,100MW)等がある。ガス会社の発電所であり、LNGを燃料とした火力発電であり、実態としては、発電設備が少し小さいので、一般電気事業者より発電コストが少し高いと思われる。それでも他のPPSよりずっと大きな設備であり、他のPPSと比較すると発電コストは安い。
自由化したが、結局はガス会社のみという皮肉な結果なのだと思う。但し、競争原理は既に存在するわけで、これを合理的に発展させるにはどうするのかを検討すべきである。例えば、空売り、空買いが生まれたり、約束した電力量と実際の供給電力量に差が生じ、その結果は、停電が多くなったりする可能性がある。供給・消費を含め契約と実際の差に対する罰則規定の問題等もある。
現状では、エネットは、原子力という負債を持っていない分、会社としては安いコストが出せる。一般電気事業者には、kWhあたり2円弱の原子力負担費用がある。これを、PPSを含め電力のユニバーサル原子力負担費用とすべきかも知れないと思う。
3) 送配電事業
送配電事業と言うが、単に電線があれば、事業が可能と言うことではない。例えば、誰が新規投資をするかは、市場が存在し、事業投資とリターンが見合えば投資が成立すると言えるが、土地価格が高い日本で、それがうまくあてはまるのか疑問があると思う。
現在は発電所への給電指令と送電線の運用は一般電気事業者の中央給電指令所が実施している。送電網を拡充するにしても、技術的に複雑な面もある。例えば、中部電力と北陸電力が繋がっている500kVの送電線が存在するが、共に60Hzであるにも拘わらず、300MWの交直変換器が南福光連系所に設置されており、直流を通じての連係である。理由は、関西電力を経由した電力とのループを断ち切るためである。このあたり、交流であることと電力が流体のようにバルブで流量調整をすることができないことが関係していると思っていただければよいのではと思う。
新規住宅団地の開発をして、そこへの配電線は、ディベロパーがすることになるのだろうと思う。ところで、自由化は電力が安くなることかと言えば、基本的には強い者はより強く、弱い者はより貧しくなるはずである。2000年と2001年に米国カリフォルニアで電力危機が生じ、停電が頻発したが、その原因についてWikiは、caused by market manipulationsをあげている。現在の日本の電力取引市場において実施されているのは、翌日物の現物取引である。
また、電力自由化により市場価格が不安定になったことから、発電事業者と電力消費者または配電事業者が直接に長期契約を締結し、市場外の長期電力取引の方が、取引電力量では多くなっている国が大部分であるとの話を聞いたこともある。
マスコミ報道には、一部の例外的な場合を伝えることもある。その内容自身は、間違いではないが、それを全体像であると思うと、誤解になることがしばしばある。日本には、日本のやり方がある。そして、その際には、外国でのルールや現状は参考になる。自由化と言っても、様々な選択肢が存在する。あせって実施することが賢明と言えないかも知れない。根本の所は、停電がないことと安いことである。
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