自治体水力の重要な役割
自治体水力は貴重な資源であると思うのだが、朝日新聞は、東京地区では1面トップで次の記事を掲げていた。
朝日4月1日 自治体の売電、入札広がらず 水力発電持つ25自治体
1面トップでなく、単に事実を述べているのであれば、反発を覚えないのだが、大新聞が1面トップで報道するには、問題がありすぎると思った。
1) 各自治体とも合理的な価格で販売しているはず
東京都は、この3月15日の発表で、株式会社F-Powerと2015年3月末までkWh当たり14.50円で販売する2年間の契約を締結したと発表した。他の自治体個別の水力発電の電力販売価格を知らないが、Webで探すとこの公明党石川県議員団は金沢市水力発電所を視察 には、「発生した電気は1kwあたり15〜20円で北電に送電」とある。そうなると、東京都は、これより安く売っていることになる。
東京電力をぶったくりバーとの表現もあったが、違約金については、その契約に関する特別な事情があったのかも知れず、契約内容を知らない以上、コメントを差し控えざるを得ない。民事裁判で決着して欲しいと思う。
2) 河川水の利用
1)の公明党石川議員団のWebに「ダムに入る水は洪水調整などを除き発電所を通過、上水道やかんがい補給に利用」とあるが、河川水は、農業、生活用水、工業用水として使われる。また、洪水調整においてダムは重要な役割を果たす。発電とは、水を流すことであるが、発電の都合のみでダムからの放水を決定することはできない。多くの場合、水利用や洪水調整の都合で流量が決まるのであり、発電は付随的である。
例として利根川上流にある群馬県企業局奈良俣発電所の2012年の発電実績を、国土交通省のダム諸量過去データから推定すると、次のグラフとなった。
2012年の年間発電推定量は47,000,000kWhであった。奈良俣発電所の最大出力は12,800kWなので、年間稼働率は約42%に相当する。しかし、上のグラフにあるように、季節による差が大きいのである。1・2月は3・4月の融雪による増水を見越してダムからの放流量が多く、農業用水を放流する5・6月も比較的放流が多く、8月末からの台風シーズンに向けてはダム水位を下げるための放流がある。一方、9月以降は、2012年は降水量が少なかったこともあり、ほとんど放流はなかった。なお、放流=発電と考えれば良く、発電せずに放流することは、まれであり例えば、洪水に備えてのゲート開放のような場合に限られる。
奈良俣ダムは、水資源機構のダムであり、そこに群馬県が水力発電所を設置しており、この発電パターンの電力をユーザーに直ちに売れるかというと、無理であり、他の電源からの供給と合わせ供給するサプライヤーがミックスしてエンドユーザーには販売せざるを得ないのである。
水力発電所には、様々な水力発電所がある。例えばJR東日本には千手、小千谷、新小千谷という3発電所(合計出力449,000kW)がある。これらは調整池式であり、出力調整が容易というべきか、電車の運行・走行にあわせて発電できるのである。それぞれ電力価値も異なるし、素早い応答性から周波数安定や電圧安定という電力システムの安定に寄与し、停電を防いでいる水力発電所も存在するのである。(自治体水力では、神奈川県の城山発電所(揚水発電所)が、この種の発電所である。)
3) 水力発電所の優位性
100年以上大きな事故もなく運転されている実績があるのは水力発電所です。発電にCO2は発生せず、世界中で最も大きな割合を占める再生可能エネルギーです。(水力発電のことを日本以外のほとんどの国々では再生可能エネルギーと呼んでいます。)
朝日新聞の批判でスタートしたが、朝日の自治体リストには抜けがある。この金沢市企業局のWebにあるように、金沢市は犀川と内川に5カ所の水力発電所を保有している。犀川でも内川でも、多目的(洪水調節、かんがい用水、上水道用水、工業用水、発電)であるとしている。このような場合、電力で収入増を図るより、時には更に重要な役割を果たさねばならないことがある。
全てを総合判断の上、決定すべきである。勿論、発電について条件や制約を示し、入札で決定しても良いし、その土地の一般電気事業者と交渉で決めても良い。50%はA社、50%はB社という選択もあるかも知れない。卸電力市場取引で販売しても良いのである。
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