あたり馬券の所得税に関係する大阪地裁判決
5月23日に大阪地裁で所得税法違反で懲役2月・執行猶予2年の刑事判決があったが、この判決を不服として検察庁は控訴した。
読売 5月31日 外れ馬券判決 地検控訴へ「課税根幹に関わる」
この大阪地裁の判決が裁判所のWebに公開された。
平成25年05月23日 大阪地方裁判所 所得税法違反被告事件
判決文を読んだのであるが、興味を引いた。そして、思ったことは、大阪地裁判決は筋が通っており、国税庁は地裁判決の考え方を採用して課税するのが合理的であると思った。なお、所得税法241条は、正当な理由がなくて確定申告書等を提出期限までに提出をしない場合は、一年以下の懲役又は50万円以下の罰金とすることを定めており、まさにこれを理由として執行猶予付き懲役2月の判決となったのである。この部分については異論はない。
1) 馬券配当所得について政府・国税庁の課税扱い
国税庁の馬券配当に関する所得税の扱いは、所得税基本通達34-1の(2)として競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等は一時所得に該当するとなっており、一時所得扱いである。一時所得とは、他の所得に該当せず、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない所得と所得税法でなっている(34条)。
一時所得の所得金額は、年間ベースで一時所得に係る収入金額からその収入を得るために支出した金を控除し、さらに一時所得の特別控除額50万円を控除した金額となる。そして、他の所得と合算する際に2分の1とする。
一時所得の扱いの場合、50万円を控除して更に2分の1とした金額が課税ベースになるのであり、不合理とは言えない。但し、50万円以外に控除できるのは収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限られるのであり、馬券配当の場合は、その馬券を購入した金額のみである。すなわち、他のレースの外れ馬券については控除できない。
競馬の勝馬への投票は、趣味、嗜好、娯楽であり、馬券の購入費用は楽しみ賃であり、個人の趣味、嗜好、娯楽に対する支出は所得税の計算に影響を与えるべきではないとする考え方である。
2) 馬主の場合の所得についての扱い
馬は動産であり、譲渡をすれば譲渡所得になる。一方、懸賞金は保有に係わる事業所得または雑所得として扱われる。(参考:所得税法施行令200条、所得税基本通達27-7)事業所得または雑所得となった場合、50万円の控除や2分の1にする扱いは受けられず、必要経費のみが控除できることとなる。複式帳簿をつけて青色申告をすれば青色申告控除も受けられるが事業所得の場合に限られる。
同じ競馬でも馬券購入者と馬主で課税の扱いが異なると言うのもおもしろいのですが、馬主の場合は、支出を税務署もほぼ把握できる。一方、馬券配当の所得を雑所得として扱うと、ハズレ馬券の購入費も必要経費であるとの主張が出てくる。しかし、ハズレ馬券をいくら見せられても、その人が購入したかどうかが明確ではない。もし、ハズレ馬券が必要経費となるなら、競馬場で拾ったり、安く他人から買い受ければよいのである。
3) 日本中央競馬会PAT
1)と2)に書いたことは、これまでの常識であったのですが、世の中は変わるのです。インターネットで馬券が購入でき、配当が受けられるA-PATと即PATという制度を日本中央競馬会がやっているのです。参考:ここ
大阪地裁の事件の被告(Aさんとしておきます。)は、PATを使って馬券を購入し、配当は自分の銀行口座に振り込まれるようにしていたのです。取引記録は全て電子的に残り、明朗会計が実現したのです。その記録は、判決文によれば、次の通りであった。
2007年 馬券配当 7億6778万円 馬券購入額 6億6735万円
2008年 馬券配当 14億4683万円 馬券購入額 14億2040万円
2009年 馬券配当 7億9518万円 馬券購入額 7億8177万円
雑所得として扱い、ハズレ馬券の購入額をも差し引くかどうかで、2分の1になるどころではなく、まるで金額が異なってくる。Aさんは、非常に多数・多額の馬券を買っており、現在の株価乱高下の一因として言われているコンピューター自動取引のようにPATで馬券取引をしたのです。全競馬場の新馬戦及び障害レースを除く全てのレースにおいて馬券を購入し、競馬開催日1日当たり数百から多いときには1000を超える買い目について馬券を購入し、その購入金額は1日1000万円以上に上ることがほとんどであったと判決文にある。継続性、恒常性があり、一時所得には該当しないと大阪地裁は判断した。
大阪地裁の判断は、合理性があるように思う。但し、PATを使わず、昔通りの方法で馬券を購入し、払い戻しを受けた場合は、継続性の判断ができず、一時所得として扱うことでよいと思う。同じ所得でありながら、PCで行う場合と、PC以外で扱いが異なるのは、おかしいとの考え方も生じる。しかし、所得は全て正しく申告され課税されるのが本来の姿であると考える。PATの場合、銀行口座経由となり、全ては中央競馬会のコンピューターにも記録される。株式の取引の場合に、専用口座の申告書類を証券会社が用意するように、中央競馬会がPAT取引顧客に用意し、かつ税務署にも情報を提供するようにすればよいと考える。
Aさんの場合は、税務申告をしなかった。勿論、税務申告をしたところで、税務署は否認し、結局は裁判で争うことになる。しかし、その場合は、刑事裁判ではなく、税務に関する裁判である。弁護士費用・裁判費用も馬券で得た利益の範囲内に収まったはずである。
本件については、法改正をすればよいと考える。法改正して、国民が正直に税金を申告し、納付できるような制度にすることが最も重要と考える。
4) 宝くじは?
ところで、宝くじの賞金が気になるのであるが、宝くじは大丈夫である。何故なら、「等せん金付証票法」により発行・運営されており、13条に「当せん金付証票の当せん金品については、所得税を課さない。」と定められているからである。
| 固定リンク
コメント
記事を拝読しましたが、諸国申告しなくていいのは、宝くじなどごく一部のみと考えるのは妥当です。
投稿: 懸賞応募 | 2013年7月11日 (木) 10時58分
先ほど投稿した内容に誤りがありました。ここで訂正文を公表し、お詫び申し上げます。
誤:諸国申告
正:所得申告
以上です。
投稿: 懸賞応募 | 2013年7月11日 (木) 11時01分
懸賞応募さん
コメントありがとうございます。
日本の場合、所得申告をしなくて良いのは、(扶養者控除や基礎控除を差し引いたネット残額)所得がゼロかマイナスの場合になります。
ところで、消費税アップを機会に、所得がマイナスの場合は、申告をすると、所得のマイナスX税率分の税が還付されるようにすれば良いと思うのです。そうすれば、年末調整されていなければ全員申告となるし、他に雑所得があれば申告する必要が生じる。
ついでに相続税と贈与税を廃止して、相続や贈与には、所得税で対応することも検討して良いと思うのです。
投稿: ある経営コンサルタント | 2013年7月11日 (木) 12時30分