米サンオノフレ原発廃炉決定から考える原子力リスク
米サンオノフレ原発の廃炉決定は、不自然とは思えず、むしろ当然である気がする。
時事ドットコム 6月8日 米加州原発、再稼働断念=三菱重工に賠償請求-放射能漏れ
サンオノフレ原発(San Onofre Nuclear Generating Station 略称SNGS)の78.2%を所有しているSouthern California Edison (上場会社は、親会社・持株会社のEdision International:NYSE略称EIX)の発表は次です。
2号機と3号機の廃炉ですが、1号機は既に廃炉の工事中です。1992年に運転を停止し、1993年に燃料抜き取りを完了。廃炉工事の終了は現時点では2030年末の予定です。
1) 三菱重工への損害賠償
損害賠償裁判を提起することは間違いないと思う。勿論、裁判前に和解の可能性が全くないわけではないが、話がつくとすると、感覚でしかないが、1000億円以上の金額になる可能性もあると思う。そして、他社からの同様な賠償要求が加われば、三菱重工の企業存続困難な可能性もある思う。
三菱重工に対して損害賠償がなぜ起こされるかというと、2号機と3号機双方の蒸気発生器(各2基で合計4基)を2009年と2010年に三菱重工が交換したからである。このNY Times June 7, 2013 Nuclear Power Plant in Limbo Decides to Closeによれば、Those parts, called steam generators, cost more than $600 million.とあり、600億円以上のビジネスであったのでしょうか。なお、SNGS2号機・3号機は三菱重工が納入したのではなく米Combusion Engineeringであり、同社は原子力から撤退しているので、蒸気発生器を同社から購入できない。従い、三菱重工から購入したのですが、当然高く売りつけることができたと思います。
但し、本当に高く売れたのか、損をしなかったのかは、損害賠償問題がどうなるかで決まってくる。
ちなみに、上に掲げたNY Timesの記事の表現はおもしろい。損害は誰が、負担するのか、株主か、電気料金か、保険会社か、三菱重工か、未だ決まっていない。
Division of costs between Edison’s shareholders and ratepayers, its insurers and Mitsubishi Heavy Industries, which supplied the heat exchangers, has not been determined.
2) 加圧水型原発蒸気発生器問題
SNGS3号機は、2012年1月31日に蒸気発生器細管からの漏れによる放射能を検知して緊急停止をした。SNGS2号機は2012年1月9日より定期補修により運転停止中であったが、蒸気発生器細管を検査したところ、同様な損耗問題が発見された。2号機については、蒸気発生器細管のうち損耗が発見された6管に加え186管にも栓をして、結果として出力を70%程度に下げて運転に入る予定であった。しかし、その2号機についても70%出力での運転見通しが立たず、3号機と共に廃炉を決定した。参考:NRC Confirmation Action Letter March 27, 2012
加圧水型原発の蒸気発生器は、事故がこれまでも生じている。日本でも関西電力美浜2号機は蒸気発生器の取り替えをしている。世界中でも、蒸気発生器の取り替えを実施した、または既に発注済みという原発が少なくないと聞いている。
蒸気発生器は、福島のような沸騰水型原発にはなく加圧水型原発の装置である。しかし、だから加圧水型は危険であるとまでは言えず。同様に、三菱重工の蒸気発生には欠陥があるとまでは言えない。B787のバッテリー問題も同じような部類と考えるが、完全に解明できているとは言えず、リスクがつきまとう。リスクとどうつきあうかが重要と考える。
なお、SNGS2号機・3号機は原子炉熱出力3,438MWであり、電気出力1,100MW程度である。
3) 日本での原子力リスク
まず三菱重工は、損害賠償が発生した場合の、賠償保険を付保しているだろうか?何らかの保険を付保していると思うが、原子力に関連する保険や相手先の逸失利益に対する保険は付保できていない可能性もあると思う。
そして思いが及ぶのは、トルコ他への原発輸出(参考:三菱重工 2013年5月7日 発行 Press Information)である。安倍首相がバックアップしているが、将来事故が起こり、トルコ政府や企業から損害賠償を求められたら、どうするのだろうか?企業が、自らの判断でビジネスをすることに問題はないと考える。しかし、政府が絡むと、複雑になる。三菱重工が払えないなら、日本政府が払うべきであるとならないかという点である。
日本の税金が損害賠償に使われることを日本国民は、どう思うだろうか?福島原発事故では、税金が使われ、電気料金が高くなることに間違いはないと思う。その根拠については、追って書いてみたいが、あまりにも国民は原子力リスクに不感症になっていると思う。大飯3号機・4号機を運転し、他は運転をしていないが、その理由がよく分からないし、今後どうするのか全く分からない。多分、敦賀2号機は廃炉だと思うが。(参考47ニュース 6月6日 )
リスクが低く大丈夫であると判断されれば、運転してよいだろうと思う。しかし、誰が判断するかと言えば、国民である。そのための必要な情報の開示はなされなくてはならない。なお、リスクについては、核燃料サイクルと使用済み核燃料および廃棄物処理の問題も含むのである。
福島事故は、原子力災害賠償法で、東京電力のみに責任を押しつけたが、それが社会や産業の発展のための正しい選択であるのだろうか?原子力災害賠償法第3条改正の検討必要性はどうだろうか。製品の欠陥は、誰が責任を持つべきか?責任を負担すべき者が負担することで、市場経済が成立し、市場経済による正しい発展が期待できる。
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コメント
まぁ、その国民というのが一番信用ならないので。
問題が起これば、一部の責任に押し付けて、被害者の砦に逃げ込み、籠城闘争をもしくは逃走してしまう。裁判所は無知、無能なら問われないとの判断をくだすし。管厚生大臣には拍手を送り。菅総理大臣へは、罵倒で報いる。安部先生を血祭りに上げて歓喜する。
破棄物にしても、福島に押し付けて、おしまいにしょうとするし。ベネフイットは懐にいれて、リスク、ハザードは他人に押し付けて終わりにしたい。
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/zak641_645.html#zakkan643
投稿: omizo | 2013年6月12日 (水) 20時44分
omizoさん
コメントをありがとうございます。
私は、福島事故で感じたのは、「安全神話」なる言葉がマスコミ報道でよく使われていることでした。スリマイル事故より後ですから。あれで、神話は崩れたし、それに以前から米海軍の原子力空母寄港反対運動もあった。現実に日本でも原子力船むつの事故があった。むつなんて1回も運航されずに終わったのですから。
リスクを正当に評価できない国民性なのでしょうか?プルトニウムのリスク評価についてはお寒い限りと思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2013年6月13日 (木) 00時43分