JR北海道函館線大沼駅構内で貨物の列車脱線事故があった。
日経 9月21日 JR北海道、レール幅基準超え放置 脱線事故現場
5月27日には、JR北海道の石勝線で、スーパーおおぞら14号がトンネル内で火災を発生した事故があり、79名が負傷した。そんなことが頭に浮かぶが、いやはや更に97カ所でレール幅の広がりや高低差他の許容値の放置があると報道され、関係者は認識していたはずと思うと、驚いてしまう。
北海道新聞 9月22日 レール異常放置97カ所 特急走る本線も JR北海道社長が謝罪
1) 大沼駅構内貨物列車脱線の直接原因
日経の記事には「昨年10月の検査で脱線現場のレール幅が20ミリ広がっていた。今年6月の検査で25ミリに拡大。社内規定では19ミリ未満なら許容され、超えると検査から15日以内に補修することになっている。」とある。
即ち、技術基準のコンプラ違反であり、レール幅が基準を逸脱していることは、自動車で言えば、道路が通行危険になっていることと同一であり、異常を放置できないはずである。異常事態を放置した重大なミスである。
レール幅の広がりが何mmになるとレールから外れるのかであるが、レール位置はJRのレール幅(Gauge)1067mmの半分であるので、中心から533.5mmにある。ここがレールの内側であり、レールの外側はレール幅65mmが加わり中心から598.5mmの位置となる。車輪の位置は、中心から560mmにあるので、レールとの相対位置は、内側で26.5mm、外側で38.5mmある。車輪厚は120mm~150mmであり、フランジ厚を40mmとすれば、車輪踏面の幅は80mm以上ある。これだけを考えると、19mm、20mm、25mmの広がりは直ちに線路から外れるような危険ではないように思える。特に、高速走行をしない引き込み線で徐行運転の車両通過に限られる場合は、そう思える。
しかし、事故が発生したことは、事実であり、実走行では振動が加わり、動きは複雑である。それ故、線路幅が19mm以上基準より広がった場合は、発見から15日以内に補修することを決めていたはずである。
2) JR北海道
JR北海道は、国鉄分割民営化により1987年4月に発足した。当初の親会社は、旧国鉄の名称変更後の日本国有鉄道清算事業団であった。この国鉄清算事業団は1998年10月に廃止・解散となりJR北海道の株式は日本鉄道建設公団に引き継がれ、更に日本鉄道建設公団は2003年10月に解散となり、現在の株主である独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構に引き継がれた。
JR北海道の歴史は、そういう事であるが、最近の業績は次の通りである。
驚くなかれ、鉄道事業のみで考えた場合(全事業でも、ほとんど変わらないが)、5年間平均で売上100に対して37の営業損失であり、この2013年3月期は売上100に対して43の営業損失であった。運賃や特急料金を50%値上げしないと、会社として存続不可能な状態である。いや、本当はもっと深刻で、有利子負債がほとんど無いのであるが、親会社からの無利子負債が2200億円あり、更に設立時の株主資本(現在の純資産額もほぼ同じ)が8753億円ある。但し、経営安定基金資産が7327億円と親会社の特別債券が2200億円ある。結局は、この基金の収益と債券の受取利息により、売上に対して5%程度の純利益を計上している。取引の結果を正確に財務諸表に表示しており、粉飾決算ではないが、親会社から赤字全額の以上の補填を受けているのが実態である。但し、親会社鉄道建設・運輸施設整備支援機構の財務諸表を見ても、経営安定基金資産の運用については説明がつかない部分が存在することからが、どうであるかの完全な解明は私もできておらず、手の込んだごまかしがなされている可能性はあると思う。
3) JR北海道の体質
2)に書いたように、JR北海道とは政府(税金)により存続している国営企業である。財政的に本格的な新規投資は無理であり、南千歳~釧路間、旭川~名寄間の高速化事業他に伴う鉄道線路や特急車両は、北海道と釧路市他の地方自治体による第三セクターの株式会社である北海道高速鉄道株式会社が保有し、JR北海道に貸付を行っている。
このようなJR北海道の状態とJR北海道の事故多発や許容値放置と関係があるのではないかと言うのが、今回の推理である。即ち、現場の技術者は危険性を認識している。しかし、上層部は金が必要なことを許さない。
事故につながる場合は、技術者の良心が動く。しかし、安全性に問題ありと言えても、安全性には余裕値が盛り込んであることから、1)に書いたような疑問も生じる。内部告発にまで踏み切るには、抵抗がある状態かも知れない。経営者は、社内ルール違反が常態的に生じているような企業状態を絶対に作ってはならない。
しかし、JR北海道では社内ルール違反が常態的であったと、現在の報道では推測される。トンネル内火事も、その結果引き起こされた可能性がある。考えれば、国鉄には、かつて「遵法闘争」なる労働組合のストライキのようなことがあった。ストライキとは、労働組合の団結権の行使として職場放棄をするのである。即ち、労働義務違反である。一方、遵法とはコンプラであり、組合がコンプラすることを雇用者は歓迎こそすれ、対立することはない。「遵法闘争」とは、地球をひっくり返したような理解不可能な言葉である。言ってみれば、それほどまでに、労使対立が激しかったのである。
本来であれば、国鉄民営化で労使対立は消滅するはずであった。しかし、JR北海道では、どうもその名残が残っているのではないかと思う。もし、現場と経営者そして中を取り持つ管理職層のコミュニケーションがあったならば、このようなことは発生しなかったのではないか。これが私の答えであり、このとについて検証をしないと将来に向けての解決が得られないように思う。
4) 国鉄分割民営化
国鉄分割民営化とは、政治家のごまかしであったかもしれないと思う。本当に民営化されたのはJR東日本、JR東海、JR西日本の3社のみでJR北海道、JR四国、JR九州、JR貨物は鉄道建設・運輸施設整備支援機構が株主であり、国営企業であり、民営化されていない。民営化するにしても、国鉄全体を一つの株式会社とし、その株式を少しずつ市場売却する手法が優れていると私は思っている。単純な姿が、実態を知るには最適である。実態が分かりやすいことにより、問題が発生しても対応策の検討が容易なのである。複雑な組織ほど、手が付けられなくなる。
東京電力の一時国営化の意見も存在する。しかし、国営化には私は反対である。倒産による事業消滅を避けるための政府資金投入は増資であれ、貸し付けであれ、補助金であれ、どのような形態であっても構わないと思うが、採算を確保し、存続性(Sustainability)が重要な場合には、政府全株保有や○○機構を初め、政府特殊法人は避けるべきである。
それからするとJR北海道もJR東日本に売却し、同様にJR四国とJR九州はJR西日本へと、JR貨物はJR東海へと売却するのが現状では妥当なように思える。その上で、政府補助金の額について話をすれば良いのだから。少なくとも、現状のような税金投入額があるにも拘わらず、解明が容易でない状態は避けられる。
最近のコメント