« 2013年11月 | トップページ | 2014年1月 »

2013年12月27日 (金)

安倍首相靖国参拝の景気への影響

安倍首相が靖国神社へ参拝したことが、長期的には、景気・経済に対して悪い影響を与えることを心配します。中国・韓国以外でも多くの国で快く思わない人がいると思うからです。その結果、日本品の不買運動までは起こらないだろうが、起こっても短期的なはず。しかし、長期的には、日本への不信感が幾分か残ったとするなら、ほんのわずかであれ、日本企業との取引より他の国との取引を、同条件であれば選択することになることを懸念するのです。

米国の反応について報道があるが、手っ取り早いのは、米国の新聞報道を知ることであり、NY TimesとWashington Postの記事を掲げます。

NY Times December 26, 2013 With Shrine Visit, Leader Asserts Japan’s Track From Pacifism

Washington Post December 26 Japanese prime minister’s visit to Yasukuni war shrine adds to tensions in Asia

Washington Postが書いている米国大使館の声明”Japan is a valued ally and friend, Nevertheless, the United States is dis­appointed that Japan’s leadership has taken an action that will exacerbate tensions”は、私の冒頭の懸念とほぼ同じと思います。

Washington Postの記事には”Japan’s emperors have quietly boycotted it since 1978, when the war criminals were enshrined.”との文章もある。富田メモのみならず幾つかの史料で、昭和天皇はA級戦犯が靖国神社に合祀されたことに強い不満を持っていたことを保坂正康氏は「昭和史の深層」で書いておられる。

 

村山談話が、この外務省のWebにあり、「遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたことが述べられている。A級戦犯とは、戦争の指導者・首謀者であった人達である。東京裁判を受け入れ、東京裁判の結果、判決に基づき刑の執行がなされたことにより、終了した。民主国家となった。そのことで、日本は国際社会に復帰したと考える。ドイツは、ナチスによる行為を否定することにより、近隣諸国とつきあい国際社会に入り成功した。

戦前の大東亜共栄圏とは、一等国としてピラミッドの頂点に日本が存在する構造であり、それ故、アジアの国々で反発を招いた。A級戦犯を合祀する靖国神社に首相が参拝することで、反発を招くのはほぼ同じ構造と思う。その結果は、したたかな欧米企業によるアジア進出を容易にし、実はほくそ笑んでいるのは欧米企業だろうと思う。同じ投資をして、進出してくるなら、欧米の方が好まれるとしたなら、どうなるだろうか?戦略として何が正しいか、心に訴えかけることも重要なのである。

日本の技術が進んでいるなんて事は、私は信じない。日本企業が優位とされる分野でも、他の先進企業とほとんど差はないと思う。もしかしたら、ガラパゴス化し、日本で有効な技術もグローバルな競争では役に立たない、競争力がない状態になっていることが多いと思う。グローバル競争の時代に狭い視野に立って考えては負けるのである。

余談ながら、首相談話には「靖国神社に合祀されない国内、及び諸外国の人々を慰霊する鎮霊社にも、参拝いたしました。」とあるが、鎮霊社とは何だろうかと調べるとこの靖国神社のWebにある靖国神社境内の中にある慰霊の社である。やはり、説得力を持たないなと思った。

| | コメント (3) | トラックバック (0)

2013年12月24日 (火)

OECD統計による国別の税負担

OECD(経済協力開発機構)は、12月17日にOECD諸国の税負担についての統計を発表しました。

17/12/2013 Tax revenues continue to rise across the OECD

Table Aとして、このOECD発表に掲げられている表を見るとGDPに対する割合で見た税負担はほぼ全ての国で、発表の表題が述べているように”continue to rise across the OECD”であり、上昇しています。

この表(Table A)の2012年の部分をグラフにしてみました。なお、日本、オーストラリア、オランダ、、ポーランドは集計データが不足しているために数字がないが、この4国については2011年の数字をグラフでは使用しました。又、見やすくするため、税収入(税負担)が高い比率の順に並べました。日本の28.6%は、34国中25位で、最大税負担のデンマーク48.0%の60%であり、OECD34国の加重平均34.6%の83%です。

Oecdtax2013a

税率ではなく、GDPに対する比率であるが、OECD統計によれば、日本は税負担の低い国です。良い国と考える人もおられると思いますが、逆に支出がその倍あるとすれば、いつの日か均衡より税収が多い債務縮小に向かう健全状態を作らねばならず、日本は実質50%を越えるのではと危惧します。別の考え方として、1000兆円の政府債務と高齢化社会を考えると日本の税負担は増加せざるを得ない状態と思えます。

この税負担を、更に税の種類別に分解してみました。なお、日本では通常は税として扱わない年金保険料や医療保険(民間医療保険は除く)がOECD統計では税の中の項目として扱われています。(種類別のデータが存在するのは、2011年のため、2011年のデータによるグラフです。)

Oecdtax2013b_4

どうでしょうか、各国とも社会保険料の負担が大きいと言えます。更に詳細を眺める場合のために、数字を記載した表も以下に掲げます。(クリックすると拡大して表示されます。)税目の中にPayroll Taxというのがあり、直訳すると給料税となりますが、日本には存在しない税であり、給料に対しての税であるが、所得税ではなく、雇用者が負担する税です。年金・医療の財源に主として使われるが、目的限定税ではないと理解しています。

税がどうあるべきかは、どのような社会や政府を作るべきかを考える際に非常に重要です。これらを参考としてください。無責任な政治家を信頼したり、任せたりせぬ事が重要と思います。XX年金基金のように国全体がなってしまうことは、恐ろしいと思います。

Oecdtax2013c_3





| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年12月23日 (月)

無能なリーダーの見本なのかな

諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門の開門調査が期限内に実施できない事は、日本が法治国家ではないことを示していると思え、極めて残念であり、この事態を生んだ菅直人とは、無責任きわまりない人だと思いました。

日経 12月21日 国の無策で袋小路に 諫早開門判決、履行できず

諫早湾干拓事業が、無駄な公共投資であるかどうかについては、具体的に事実を確認しつつ検証する必要があり、その議論には触れないこととします。(私も、そこまで、検証できていないのが実情です。)又、福岡高裁も潮受け堤防の高潮時や洪水時の防災機能については認めたのであり、判決確定の日から3年間の排水門の開放猶予を相当とし、排水門の開放後、干潟生態系が淡水域から海域の生態系に移行するための2年間と、気象の変動を考慮した複数年の調査を必要として、開門は5年間に限って継続することを認めるとした。(2010年12月7日福岡高裁判決要旨は、この日経Webにあります。但し、読むには登録が必要。)

最高裁まで争うことはあり得た。12月21日の日経記事のように、農林水産省は上告を最後まで主張したが菅直人首相の決断により、上告せず高裁判決が確定した。それなら、潮受け堤防排水門による恩恵を受けている長崎県諫早の農業者に補償を含め真摯な対話による解決をすべきであった。首相の決断には、誰もが従うべきだのような独裁的リーダーがいたことが、悲劇の始まりだったのだろう。農林水産省の事業として諫早湾干拓事業は実施されていたのであり、干拓について無意味と断言できるのではなく、現実に農業従事者もいた。諫早湾を含む有明海は明治の前から干拓による農地拡大が行われていたのであり、佐賀県にも熊本県にも干拓地も干潟も存在する。

福岡高裁判決の政府対応としては、最高裁まで争い、最高裁判決の結果を基に、農業者または漁業者に適切な政府支援を実施することが、最も容易な対応であったはず。そうではない福岡高裁判決を受け入れ、高裁判決を確定させる決断は英断であったと言える。しかし、交渉や事務作業を初め膨大な仕事量を生む決断であり、リーダーが力を持っていない限りできない決断であった。しかるに、現実には、無能リーダーの見本を示した。法を遵守しない、コンプラができない政府なんて聞いたことがないよと言いたい。なお、政権交代は何の言い逃れにもならない。

しかし、実は、このような無能リーダーは、世の中には、結構存在するのである。一見、格好がよいが、張り子のリーダーで、芯がない。企業経営者や企業の管理職についておられる方々も菅直人を反面教師として、自分の行動・言動・決断に無責任な面がないか、これを機会に考えてみることも必要でもあるかなと思いました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

年末年始の株価予測?

2013年末から2014年初頭の株価の動きは、どうなるのでしょうか?

株式売却益の税金が2014年から現行の10%から20%へと増税となる影響があり得ます。参考として、次の日経の「投資の知恵袋」の説明が詳細にわたっているので、掲げます。

日経 12月19日 株の年内売却は得か損か 税優遇、25日約定まで

2013年末で経過措置としての10%特例税率適用が終了するのです。但し、上場株式等の譲渡が12月31日までに行われた場合であり、決済と譲渡が同時なので、約定日ではなく、日経の説明のように、12月25日までに売買が市場で成立する必要がある。市場を通さずに知人間の相対取引等は、初めからこの10%の特例税率の対象外です。適用条文は、租税特別措置法の平成20年4月30日附則第43条です。(厳密には、同日の地方税法もあります。)

1) 税金の参考計算

取得購入時が百万円であたっとして、売却価格が150万円から200万円であった場合の、税引き後の手取金額を計算したのが次の表です。

Stocktax201312a

実際には委託手数料が経費となり税額が少し減少すると共に、手取額も手数料分少なくなる。又、復興特別税もかかる。

節税方法としては、24日と25日の2日間の勝負ですが、売却して直ちに購入すれば、新規購入額が次の所得価格となるので20%税率の対象額は小さくなる。更なる値上がりを期待して保有する場合(通常はそうでしょうが)は、一旦売却の方が賢いこととなる。但し、同額で再取得できるかは不明です。

逆に多くの人が節税目的で売りをかけて市場では売りが多くなれば当然値下がりする。大暴落が発生する可能性もあります。朝から市場閉鎖まで一本調子で下がるとすれば、逆に安値で取得できるのでチャンスかも知れない。又、100万円まで非課税のNISAに乗り換えれば、税の上ではもっとも賢い選択となります。

もしかしたら、24・25日は大波乱の株式相場かも知れません。逆に、26日以降新年は、売りが少ない相場展開になる気がします。そうなると、値上がりでしょうか?

2) 2013年の株式相場

2013年の日経平均株価チャートを作成しました。通常のチャートに加え、右目盛りを使って米ドル換算の日経平均も描きました。

Stocktax201312b

2013年年明けの日経平均株価は10600円ぐらいでスタートし、12月20日は15870円で終了しました。もし、この平均株価で年明けに購入し、年末に売却していれば5270円の売却益であり、このあたりを上の1)の計算の参考例としました。

米ドルのチャートを加えたのは、これが外人投資家の日本株評価になるからです。円高に振れれば、株価が一定でも米ドル換算は上昇するので、利益です。逆に円安に振れれば損失となるのですが、2013年は輸出企業の利益回復により株価上昇の方が大きく、外人投資家にとってもHappy Yearだっただろうと思います。これが続くのかどうか、もう一つのチャートを見てみます。

3) 米ドル為替

次のチャートは、2013年の米ドル為替レートです。

Stocktax201312c

株価チャートと極めて似ています。輸出企業が先導した2013年の株式市況であったと言える気がします。アベノミクスと関係ないと言えるし、アベノミクスの結果円安相場の基調が生まれて株価が上がったとも言える気がします。

これ以上の円安為替があり得るのかと言えば、1年半程前の2012年8月頃は1米ドルが80円を下回る円高であったのであり105円は30%以上の円安であり、これ以上の円安はなく、逆に円高に振れ始めれば、円高の進行もあり得ると思う。そうなると株価暴落もあり得るのではと思います。

以上、すべて無責任な市況評価ですので、投資判断(売りも買いも)は自分の責任で実施ください。なお、チャートは、正確なデータに基づいていますので、参考にしても構いません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年12月13日 (金)

自民・公明の税制大綱の消費税軽減税率

自民、公明両党は、2014年度与党税制改正大綱を正式に12日に決定した。その中で、消費税の軽減税率は注目を集めている一つの事項である。

日経 12月12日 自公、14年度与党税制大綱決定 軽減税率導入、実施年月明示せず

その消費税軽減税率に関する記述は次の通りであり、与党税制改正大綱の6ページに記載がある。(自民党WebのDownloadページはここ

(4)軽減税率
消費税の軽減税率制度については、「社会保障と税の一体改革」の原点に立って必要な財源を確保しつつ、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。
このため、今後、引き続き、与党税制協議会において、これまでの軽減税率をめぐる議論の経緯及び成果を十分に踏まえ、社会保障を含む財政上の課題とあわせ、対象品目の選定、区分経理等のための制度整備、具体的な安定財源の手当、国民の理解を得るためのプロセス等、軽減税率制度の導入に係る詳細な内容について検討し、平成26年12月までに結論を得て、与党税制改正大綱を決定する。

消費税の複数税率について、経団連他は11月20日にはこの意見のように複数税率制度は導入せず、単一税率を維持すべきであると述べていた。しかるに、与党税制改正大綱が出ると経団連会長コメントはこれ(12月12日)のように「財源の確保、対象品目の厳格な絞り込み、事務負担軽減に係る十分な配慮、導入時期などに関し、さらに慎重に検討すべきである」となり、トーンダウンし、法人実効税率のさらなる引き下げが欲しいとの態度になってしまったように思う。

私の意見は、インボイス制に移行するなら、複数税率も賛成するが、そうでなければ反対である。理由は次の通り。

1) 軽減税率の低所得者への恩恵は少ない

多くの人が述べており、あまり述べる必要なないと考えるが、食料品を軽減税率の対象にするとしても、切り詰めて生活をしている人は、食料品の支出金額も少ないのである。

2) 給付付き税額控除や福祉年金を低所得者対策として活用すべき

本当に支援するなら、所得税で低所得者を対象とした減税を実施するか、減税額が税額に達していない人には差額の給付をするか、非課税世帯には福祉年金として給付を実施するのが消費税の逆進性対策としては効果的と考える。

実は、消費税が8%である1年半の期間については、住民税非課税世帯に対し、一人1万円を1回、支給することが10月1日の閣議で閣議決定となっているのです。この閣議決定はこの財務省のWebからDownloadできます。そして、この秋田市の案内「消費税率の引き上げや地方消費税の導入などに伴い 臨時福祉特別給付金が支給されます」のように多くの市町村ですでに案内を出しています。

国民と企業の番号制が導入されれば、給付金の二重払いや支給漏れを防ぎ、確実に制度が運用できる訳で、給付付き税額控除や福祉年金を優先して検討すべきです。与党税制改正大綱は、軽減税率を税率10%時に導入すると書いており、8%時から後退しており、考え方がおかしいのである。

消費税や付加価値税がない米国でも勤労者に対する給付付き税額控除が存在する。勤労者給付付き税額控除とは、働いていることが条件ですが、給付付き税額控除を働けば、受けることができる。日本のあるべき税制を考えずして、やたらと見せかけの人気取りに政治家が走ることに嫌悪感を覚えます。

3) 複数税率を導入するならインボイス制に以降すべき

インボイス制では、事務作業が煩雑になる。即ち、仕入れ税額控除を受けるには課税事業者のインボイスが必要となるからです。一方、インボイス制であれば、売りサイドも仕入れ再度もインボイスに記載されている消費税の合計金額であり、不正がなくなります。消費税の税務申告に際して消費税インボイスを添付することとすれば完璧です。そして、これは、もう一つ効果があります。法人税や個人事業者の法人税や所得税の課税所得金額把握につながるからです。ヨーロッパで、何故インボイス制の付加価値税が多いのか、私は、所得の把握手段、脱税防止に役に立つとの考えが背景にあると思っています。そもそも、国境を越えた取引が多く、また国境をなくした国際取引を拡大し、ヨーロッパ全体を含めた産業成長を目指すことが大前提にあります。国境通過の自由と仕入れ税額の控除には、インボイスを必要とすることについて、私は関連性があると思います。

インボイス制を導入せずに複数税率を導入すると、軽減税率で仕入れた物品を普通税率で高く仕入れたとして差額脱税が増加すると思います。簡単に税務調査ができればよいのですが、そう簡単ではないと思います。正直者が馬鹿を見る制度は作るべきではありません。又、取り締まりが困難な制度も作るべきではありません。

もう一つの問題として、農業を例として考えます。現在年間1千万までは非課税です。おそらく、多くの農家は非課税と思います。(兼業農家でも給与所得は事業ではないのでカウントしない。)この人達は、売上収入が軽減税率の見合いとなり、減少します。しかし、農業機械や肥料は税率アップで支出増です。

なお、実際に紙のインボイスではなく、電子状態で発行し、電子状態で税務申告する制度を採用することが考えられる。個人と企業のすべてに番号が与えられる番号制度が始まれば、可能と思います。従い、税率10%時に導入するのではなく、番号制度移行時に導入するであれば賛成です。この場合は、住宅の貸し付けや医療保険制度適用の医療費も非課税ではなく税率ゼロにすればよいのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

生活保護法の一部を改正する法律が公布された

本日12月13日付けで、改正を含む14の法律が公布された。(12月13日官報号外 第272号)その中には、11月15日の勘当は許されないのか 生活保護改正で書いた生活保護法の一部を改正する法律も含まれている。

この生活保護法の一部改正とともに生活困窮者自立支援法も公布されたのであるが、生活保護法の問題点は、適切に保護が実施できているか、適切な保護の実施はどうすべきかにあると考える。

ちなみに、以下に掲げた青字の文章が今回の「生活保護法の一部を改正」の政府の法案提出理由である。不正の防止を含め適切な保護を実施するのに足りる合理的な市町村、社会福祉事務所、民生委員他の人員が確保されているのか不安に思うからである。予算の支出削減のプレッシャー下において福祉に携わる方々の活動が十分にできなっており、その結果として不正の防止が不十分になっている可能性。必要な保護がさしのべられていない可能性である。

本来は、決定に際してのより実効ある不正の防止も必要であろうが、決定後の保護の実施において不正があれば、それを発見できる体制になければならないし、保護の実施を適切に行い、自立支援を必要にしていれば、発見できるはずと思う。不正を見抜くことが困難だから、決定に際しての審査で絞り込むでは、方向が違うと考える。

予算のことは、背景として、からんでいると考える。予算に関する一番の問題点は「生活保護法75条の国の負担及び補助」であり、政府は75%を負担するが、何故100%の全額負担としないのかと思う。市町村や都道府県に押しつけることが、合理的なのだろうか?地方により経済状況が異なり、生活保護者の割合も異なる。しかし、それは市町村や都道府県の地方自治が良い、悪いとの因果関係に結びつけることは良くないと考える。同じ日本であり、憲法第25条にある健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の実現とすれば、国家政府がその予算で実施すべきと考える。

保護の決定に際してのより実効ある不正の防止、医療扶助の実施の適正化等を図ることにより、国民の生活保護制度に対する信頼を高めるとともに、被保護者の就労による自立の助長を図るため、保護の決定に係る手続の整備、指定医療機関等の指定制度の整備、被保護者が就労により自立することを促進するための給付金を支給する制度の創設等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年12月11日 (水)

民法改正が公布された(子どもは平等)

嫡出でない子の相続分も、嫡出である子と同一とする民法改正が本日公布されました。公布された改正法は平成25年12月11日付官報号外(第269号)の5ページにあります。

改正内容は、改正前の条文(900条4項)に上書きすると次の通りです。

子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

兄弟姉妹各自の相続分は相等しいこととなったので、相続分に関して子どもは平等になりました。(なお、母親が異なった子どもの母親は、あくまで、その子どもの母親であり、養子縁組をしていない限り、認知された父親の配偶者からの財産相続に関する権利はありません。

「父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は・・・」の意味については、被相続人(亡くなった人)に子どもがなく又直系尊属(親・祖父母)もない場合で、配偶者と被相続人の兄弟姉妹で相続をする場合のことです。

9月5日に最高裁の決定の後にこれを書いたことからの続きです。公布と同日から施行であり、さらに最高裁の翌日である2013年9月14日以後に開始した相続について適用するとの附則があります。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

雪国まいたけの有価証券報告書虚偽記載は課徴金2250万円

雪国まいたけの有価証券報告書虚偽記載について証券取引等監視委員会の課徴金納付命令勧告は2250万円であった。

日経 12月10日 雪国まいたけに課徴金2250万円 監視委が勧告

証券取引等監視委員会の発表は、ここにあります。

証券取引等監視委員会の発表の「3.課徴金の額の計算」に2250万円の課徴金の計算内訳が書いてあります。13億円の虚偽記載に対して、課徴金は2250万円です。少ないと見るか、訴訟もあり得るかも知れず、課徴金のみで済む訳でもなく又支払いが不可能な額を徴収することもできず、よく分かりません。

当第2四半期連結会計期間の第2四半期報告書は、虚偽記載を訂正済みの正しい財務諸表を雪国まいたけは発表しています。その報告書によれば、2013年9月末の連結純資産額は4億2400万円です。しかし、株主が払い込んだ実質の資本(資本金と資本剰余金の合計から自己株式を差し引いた金額)は23億5300万円です。これに累積損失である利益剰余金のマイナス15億1400万円を差し引くと2億3100万円になります。13億円の虚偽記載は、この会社を評価するにあたり、誤解をあたえる金額であったと思います。

11月6日に雪国まいたけ事件から学ぶべきことを書いたことから、今回の証券取引等監視委員会の課徴金納付命令勧告について少し書きました。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年12月10日 (火)

第185臨時国会の閉幕

第185臨時国会は12月8日に終了した。

日経 12月8日 「安倍色」強め維新・みんな取り込み 臨時国会8日閉幕

政府提出31法案のうち27法案が成立した国会であった。成立した法案には、9月4日の最高裁の決定を受けての「嫡出でない子の相続分の相続分を二分の一とすること」を削除した法改正もある。

不思議なのは、12月7日と8日は国会審議がなかったのである。6日の金曜日にわざわざ土日の2日間の延長を決定し、金曜深夜に強行採決をして土日は審議なしとしたのは、私の国民感覚からすれば裏切り者と思う。

上に掲げた日経記事に、『「次」に見据える集団的自衛権の行使容認や憲法改正への布石』とあるが、そこまで読んでおくのが正解(政界)なのかも知れないと思う。

そもそも、特定秘密保護法とは、よくわからない法律である。米国から機密情報が欲しいとして、特定秘密保護法が日本にないから拒絶されるとしよう。では、特定秘密保護法があったら、どんどん機密情報を米国が渡すのかと言えば、本当は不明である。米国政府が日本政府を利用したいなら、渡すであろう。本当に利用するなら、特定秘密保護法がなくても渡すはずである。国際政治とは、そのような冷酷なものと思う。

例をあげると、9月1日にシリアを軍事攻撃すべきではないを書いた。この中で米国の調査によればシリア政府軍の毒ガス使用が判明したと、日経記事を引用して書いた。即ち、米国からのシリア政府軍の毒ガス使用は機密情報ではなかった。機密情報があるとすれば、情報源に関することのはずである。正確な情報があったとすれば、反政府側を含め双方が毒ガスを使用しているということあったであろうと思う。

機密情報とは、単純ではない。本当に機密なら、誰にも流さない。機密情報だと言って、流して、流した相手を利用する。特定秘密保護法が有効かどうか、少なくとも政府高官が言うような、国民の生命と安全を確保するために必要とは全く思えない。方便であり、都合の悪いことを隠すために利用すると考えるのが正解なのであろう。10年の懲役については、裁判所が正当な判断をし、特定秘密であることが立証できないのであれば、刑事裁判であることから被告人に有利なように、また証拠なしで刑事罰に該当しないように判断をすればよいと考える。

日経記事にあるように集団的自衛権の行使容認や憲法改正への動きが、これから強まる可能性はある。集団的自衛権については、国連活動であるPKOに際して、共に行動する他国の軍が攻撃を受ければ、そのPKO活動のなかの一部として自衛行動に出るのは、同意できる。しかし、集団的自衛権の範囲を広げることについては、問題があり、多くの国民の考えに従うべきである。憲法改正も同様であり、改正しなければならない不都合はないはずである。憲法違反にならずに自衛隊を保有し、防衛省が日本政府に現に存在する。小選挙区制という国民の意見と議席数が異なった国会において、憲法改正を発案することは、正しくないと考える。もし、憲法改正を発案するなら、国会選挙の小選挙区制を廃止してから後にすべきである。ちなみに、2012年12月衆議院選挙の結果の議席数は、自民・公明合計で325であり3分の2の320を5議席上回った。一方、得票率では自民・公明合計で小選挙区44.4%で、比例区39.4%である。自民・公明合計としたのは、選挙協力があるため、合計数字の方が実態と考えるからである。公明の小選挙区得票率は1.4%しかないが、立候補者がない選挙区の公明支持者は自民に投票したとし仮定しての計算である。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2013年12月 4日 (水)

普天間・辺野古問題(キャンプ・シュワブへの移設)

米軍普天間飛行場移設について自民党沖縄県連は、「危険性除去と早期返還・固定化を阻止するため、辺野古移設を含むあらゆる選択肢を排除しない。」と「辺野古移設を含むあらゆる選択肢を排除しない。」との部分を追加する決定を行った。自民党沖縄県連のこの追加に関する発表はここにあります。

普天間は宜野湾市にあり、辺野古は名護市にある。名護市の市長選挙が2014年1月19日にあり、複雑な選挙戦であるようです。(時事ドットコム 12月4日 自民沖縄、末松氏を推薦=島袋氏は一本化拒否-名護市長選

誰も言い出さないのですが、辺野古(キャンプ・シュワブ)へ移設するが現キャンプ・シュワブの敷地内に止め、埋め立てはしないという案は浮かび上がってこないのでしょうか?4月8日にこれを書いたのですが、オスプレイを使えば、500mの滑走距離で離陸可能であり、現キャンプ・シュワブの敷地内で800m位の滑走路は建設可能であると思うからです。

次の図が私が示した案で、青線の敷地がキャンプ・シュワブであり、紫線が沖縄高専です。Yahoo地図もその下に出しておきます。

Campshwab20134

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年12月 2日 (月)

燃料電池車(FCV)の評価

第43回東京モーターショーは12月1日に終了した。話題の一つは、トヨタがコンセプト車を出展した燃料電池車(FCV)であった。

日経 11月5日 トヨタ、15年発売の燃料電池車コンセプトを出展へ

トヨタのFCVに関するWebは、ここにある。今回はFCVについての全体的な評価を私なりにしてみたい。

1) FCVとは

ハイブリッド車のガソリン・エンジンが燃料電池に置き換わったようなイメージでよいと考える。燃料電池の燃料は、水素である。水素の反応は、燃焼ではなく、電池の燃料極で水素の電子が燃料極(陰極)に入り、この電子が回路(電動機)で仕事をして空気極(陽極)に回る。その結果、燃料の水素と空気極の酸素が化学反応をして水が生まれる。燃焼ではなく、水が生まれるだけである。

しかし、考えれば、水素が燃焼する場合も、水素と酸素の反応で水が生成されるのであり、CO2は発生しない。結果は全く同じである。水素を燃料とするエンジンを開発しても、同じである。詰まるところ、水素は、燃焼してもCO2は発生せず、水のみの生成である。

ガソリン・エンジンの水素燃料車があったとして、それはクリーン・カーである。従い、燃費(エネルギー効率)で評価すべきと考える。

2) ガソリンエンジンと燃料電池

ガソリン・エンジンの燃料消費量であるが、最良の条件で熱効率35%(燃料消費量では240g/kWh)である。

燃料電池の燃料消費量であるが、上記のトヨタのFCVのWebには「航続距離が830kmに延長(10・15モード)」とあるのみで、ページの下のテクノロジーファイルを見てもそれ以上の詳細は見あたらなかったが、固体高分子型燃料電池と記載がある。そこで日本電気工業会の燃料電池の比較表を探し出した。これによれば、固体高分子型燃料電池は30%~40%と記載されている。

ほぼ互角と言えるが、燃料電池の特性が私にはよく分かっていない部分があるが、ガソリンエンジンについては最良の条件でと書いたように、ガソリンエンジンは回転数とトルクにより動力(kW)あたりの燃料消費量が相当大きく変動する。例えば、停車時には、アイドリングに少しの出力しか出していないが、燃料はある程度消費する。停車時は、kWあたりで考えれば、効率は非常に悪い状態である。しかし、電気であれば、停車時は完全に消費をゼロにできる(実際には、メーター他コントロール関係や安全装置、時にはエアコンで動力を消費するが)。もっとも、ハイブリッド車は、アイドリング時はエンジンが停止しており、わざわざFCVにする必要があるのかとの疑問は残る。

将来的には、燃料電池のエネルギー変換効率が上昇することも期待できると思う。FCVを含め研究はすべきである。

3) 燃料タンク(水素容器)

水素は、液化しようとすれば氷点下260℃以下に冷却しなければならず、液体窒素(-210℃)やLNG(-162℃)より更に低温にする必要がある。液化して貯蔵する場合は、断熱材に容積が取られるため、車で水素を貯蔵するには高圧タンクになる。トヨタのWebには、タンク容量が書かれていないが、70MPaの高圧水素タンクとある。70MPaとは、大気圧が0.1MPaのので700倍の高圧である。そのような高圧のタンクとは、肉厚が相当厚い、従い重いタンクにならざるを得ない。

トヨタの高圧水素タンクを推測するにあたり、エコカーのこのWebに2008年にトヨタが発売したFCVであるトヨタFCHV-advのデータがあり、高圧水素タンク70MPaで156Lとある。第43回東京モーターショーのFCVコンセプト車は、FCスタック(燃料電池)の出力密度は3kW/Lにしたとあるが、高圧水素タンクは同じである可能性が高いと思う。

そこで圧力を70MPaとして球形高圧タンクを仮定し、肉厚25mmでタンク材に発生する応力を計算すると47kg/mm2となった。この場合のタンクは内径664mmで重量は270kgと計算される。応力が47kg/mm2だと普通鋼では強度不足であり、高張力鋼を使っても270kgというような重量になることを意味する。但し、実際は球形タンクではなく円筒形を使用している。外径400mmで長さ1,600mm程度のタンクを横方向に積載していると思う。相当な大きさであると同時に、重量も47kg/mm2の応力で収めるとして240kg程度と計算される。トヨタの説明には、タンクの外側にカーボンファイバー層を巻いていることも書かれてあり、軽量化され、ここまでの重量にはなっていないと思うが、それでもかなり重いはずである。(ちなみに、トヨタFCHV-advancedの車両重量は1,880kgなので、ガソリン車よりは、やはり相当に重い。)

では156リットルの高圧水素タンクに70MPaで水素を充填したとして、満タンでいくら入るかというと5.6kgか5.7kg程度の水素である。即ち容器重量200kgに対して、5.7kgが入るのみである。但し、水素の単位重量あたりの熱エネルギーは非常に大きい。142MJ/kgである。これに5.7kgを掛けると809MJとなる。一方、ガソリンの熱量は34.6MJ/Lなので、60Lのガソリンを充填した場合は、2,076MJの熱量となる。

809MJで850km走行できるなら、水素消費率は0.95MJ/kmである。ハイブリッド車の燃費を32.6km/Lとした場合は、消費率1.06MJ/kmに相当するので、ハイブリッドの約90%と10%低燃費のFCVが燃費競争でごくわずかに勝っていると考えられる。しかし、トヨタが11月20日に発表したハイブリッド車燃費37.0km/Lや、ホンダFITの36.4km/Lと比較すると、それぞれ0.94MJ/kmと0.95MJ/kmであり、高性能ハイブリッドカーにFCVは互角である。

FCVの車両価格は、ハイブリッドカーの10倍程度であると、ハイブリッドカーに完敗と思える。しかし、考えればハイブリッドカーは、ずいぶん優秀と言える。

3) 水素充填ステーション

水素充填は3分程度とトヨタは説明している。なお、156リットル高圧水素タンクの満タン5.7kgは、0℃大気圧状態では、63.8m3である。(0℃大気圧状態の1m3を1Nm3と表す。)

70MPaの高圧水素タンクに充填するためには、70MPa以上の圧力で押し込まないと充填できない。このためのコンプレッサー動力が必要である。この動力エネルギーは、次の式を使用した計算結果でも水素1kgあたり22MJ必要である。

Compressionequation

水素充填ステーションでも既に35MPaや70MPaでの高圧圧縮貯蔵をしているのが通常であり、この22MJ/kg-H2は必ずしも水素充填ステーションで発生するとは限らない。例えば、圧縮水素運搬タンクローリーは現状最大20MPaであり、充填ステーションでこれを貯蔵時またはFCVへの充填時に70MPaにする。そして、水素製造所では、貯蔵および運搬タンクローリーへの充填のために20MPaに圧縮する。

なお、水素充填ステーションへの輸送及び貯蔵を氷点下260℃の液体水素にして行う方法がある。この場合、水素製造所において液化する事となるが、その液化にはエネルギーを必要とする。現在水素液化のための必要エネルギーは50MJ/kg-LH2程度のようである。大型化して効率を上げたとしても30MJ/kg-LH2を下回ることは困難なようである。

水素を製造してからFCVに充填するまでの間に50MJ/kg-H2程度のエネルギー消費は、どのような手段を講じても発生が避けられないと考える。水素の燃焼エネルギー143MJ/kgと比較すると35%が損失になる訳で、水素エネルギーの利用は合理的であるのか、十分考える必要がある。

氷点下260℃の液体水素を利用している輸送手段が一つある。それは、ロケットである。ロケットの液体燃料は、液体水素であり、発射前に充填作業を行っている。ロケットは、143MJ/kgという水素の重量あたりのエネルギーの大きさを利用しており、軽量にすることが重要である特殊な例であると言える。

4) 水素製造

水素の製造方法は大きく分ければ、炭化水素(ガス、石油、石炭)を分解して水素を取り出す方法と水を電気分解して水素を得る方法である。

4-1) 天然ガスからの水蒸気改質

現在もっともコストが安いとされているのが、天然ガスを原料とする水蒸気改質法(Steam Reform)であり、米国では90%がSteam Reformingにより水素が製造されているようである。なお、容積ベースでは1m3の天然ガスから2.1m3-2.8m3程度の天然ガスが生産できるが、エネルギー・ベースで考えると、生産される水素のエネルギーを1.0として、グラフで表すと次の通りである。

Steamreformh2_2

重量では、水素はメタンの元の重量の25%-35%になる。メタン中のすべての水素分が水素ガスになったとしても、メタンの化学成分CH4に含まれている炭素(C)は、水素にはならない。炭素(C)は、温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2)になる。そこで、CO2排出量の計算をしてみた。

水素1m3の生産に必要な天然ガス量を0.4m3とする。0.4m3をすべてメタンとした場合は、その質量(重量)は286グラムであり、そのうちの炭素分は215グラムである。この炭素CがCO2になると、788グラムとなる。水素1m3の熱量は12.76MJなので、排出係数は61.7g-CO2/MJとなる。そして、これに水蒸気改質によるエネルギー消費分により排出したCO2を加える必要がある。30%増加するとして、80g-CO2/MJ位の排出係数となる。

(実際には、メタン中の水素分がすべて生産される水素となる訳ではなく、水蒸気改質の水の水素分からも生産される水素となる部分がある。但し、合計して考えると、現在の標準的な天然ガスの水蒸気改質による水素生産の原単位、エネルギー必要量、CO2排出量は、ここに掲げた数字に近いはずである。)

水素生産のCO2排出を80kg-CO2/MJとして、FCVのCO2排出を計算する。FCV走行水素消費率が0.96MJ/kmなら、CO2排出は76.8g-CO2/kmとなる。ハイブリッド車の燃費を32.6km/LとしてCO2排出を計算すると、71.2g-CO2/kmが計算できる。FCVは、ハイブリッド車よりCO2を多く排出する自動車となった。更には、貯蔵と運搬のためのCO2排出を加える必要がある。上の3)において、圧縮のためのエネルギーは22MJ/kg-H、液化のためのエネルギーは50MJ/kg-LH2と書いた。これを、すべて電力を動力としたとして電力のCO2排出係数を400g/kWhを使用して計算をすると、圧縮の場合は、17g-CO2/MJ、液化の場合は39g-CO2/MJとなる。即ち、水素利用の場合のCO2排出量は合計97g-CO2/MJまたは119g-CO2/MJとなった。

4-2) 水の電気分解による水素生産

水の電気分解による水素生産の電力源単位は水素1Nm3あたり4.8kWh程度である。天然ガスを燃料としたコンバインドサイクル火力発電の熱効率を55%として、計算すると1m3の水素生産に必要な天然ガス量は0.79m3となり、水蒸気改質法0.4m3の2倍近い量の天然ガスを消費することとなる。CO2排出量も生産だけで、150g-CO2/MJで水蒸気改質法の2倍近いCO2排出となる。

但し、再生可能エネルギーからの電力で水の電気分解を行えば、生産に関して直接的に排出されるCO2はゼロとなる。但し、高いコストの水素となる。仮に、太陽光電力を40円/kWhとすれば水素1Nm3は192円となる。米国でシェールガスを含めHenry Hubの現在の価格mmBTUあたり4ドルでガスを調達し水蒸気改質法で水素生産したならば、水素は熱量ベースで3倍以下と言われており、水素はmmBTUあたり12ドル以下のコストで生産できる。これは、1Nm3あたり0.145ドル、すなわち15円である。輸送費等も関係するが、15円で生産できるモノを192円で生産することは考えられない。将来的に、再生可能エネルギーの発電コストが現在の半分になったとしても、96円である。LNGの輸入価格がmmBTUあたり20ドルであったとしても、水蒸気改質による生産で0.6ドル/Nm3、すなわち65円である。再生可能エネルギーで発電できるなら、送電線に流し、電力として利用することが合理的である。将来、再生可能エネルギーの余剰が発生した場合に、余剰電力による水素生産はありうると考える。

4-3) その他の方法による水素生産

日本に副生水素が存在する。例えば、製鉄所のコークス炉から発生するコークス・ガスには水素が含まれている。コークス・ガス中の水素を取り出して純度を高めれば、FCVの燃料として使用できる。しかし、コークス・ガスは製鉄所内で加熱用他に燃料として使用されており、また発電所の燃料として利用されている。大型コークス炉が存在するほぼすべての製鉄所には○○共同火力(例えば君津共同火力)が存在し、発生する水素はすべて有効利用されている。精油所、石油化学プラントにおいては、水素が発生する。しかし、精油所、石油化学プラントは、水素を原料として必要とするプロセスもあり、ナフサを水蒸気改質等で製造している。従い、余剰水素は基本的には存在しないと考える。

但し、能力100%で操業している訳ではなく、水素生産能力に余力が存在する場合はある。しかし、これを短絡的に余力があるから水素を生産すべきとはならないと考える。日本では、省エネが進んでいると言われる。それは、副次的に生産される副生物や廃棄されていたモノまで、徹底的に有効利用を図っている結果でもある。副生水素を利用すべきとの見解があるが、廃棄されたり、有効利用されていない副生水素が存在するのか、何が有効であるかは、十分検討する必要がある。

最後に、バイオから直接水素を取り出すこともあり得る。まだ将来の利用の可能性追求の研究段階である。そして、もう一つ、原子力による水素生産がある。これは、高温状態の金属が水と接触した際の水素発生反応の利用である。なぜ、原子力かは、そのような高温が化石燃料では得ることが困難であるからである。但し、この高温は、軽水炉では達成できない。福島第一原発が水素爆発を起こしたことは誰でも知っているが、あの水素発生メカニズムである。軽水炉は、火力発電より低い温度の蒸気としている。温度が高いと、危険度は増加すると考えるし、高温ガス炉原子力を使うとしても、その安全試験はどうするのか、課題は多いと考える。

5) コスト

これまで書いたところで、一番安く水素をFCVに充填できるのは、天然ガスを原料とする水蒸気改質法で水素を生産し、液化せずに圧縮水素として輸送、貯蔵する方法である。LNGから水素1Nm3あたりの生産コストを65円とし、圧縮コストを電力kWhあたり20円で計算すると11円/Nm3となる。貯蔵費用が発生し、超高圧タンクの設備費用で相当高いと考えるが、とりあえずゼロと仮定する。その結果は、FCV充填の水素コストは76円/Nm3である。

2)のところで、FCVの水素消費率は0.96MJ/kmとした。0.96MJを水素に換算すると0.075Nm3であり、金額では5.7円/kmである。ガソリン価格を150円/Lとし、ハイブリッド車の燃費を32.6km/Lとすると、ハイブリッド車は4.6円/kmとなる。やはり、ハリブッド車の方がお得な結果となった。現在のLNG価格mmBTUあたり20ドルは高すぎるとの考えもあるはず。しかし、貯蔵コストを初め、水素の流通コストを考慮すると、水素価格76円/Nm3は妥当と思える。

更には、ガソリン価格には揮発油税及び地方揮発油税合計53.8円/Lが含まれている。水素にも、これに対応する税の徴収をしないと、不合理が生じる。即ち、道路にも保守費用は発生するのであり、トンネルや橋の崩落を防ぐ費用は、応分の負担を公平にすべきである。

6) 感想

水素の世界や燃料電池車(FCV)の可能性について、当面の間は経済的合理性を見つけることは、困難であると考える。米国においては、天然ガスを水蒸気改質により水素を生産し、発生するCO2は地下貯留(CCS:Carbon Dioxide Capture and Storage)とするクリーンエネルギーを目指す動きがある。米国では、日本と比較し、天然ガスは安く、CCSに適する地下地層も得やすい。FCVの実現も、日本よりは米国の方が早いと思う。だからこそ、トヨタもホンダもFCVの研究に力を入れているのだと思う。

今回、比較対象としたのは、ハイブリッド車である。ハイブリッド車とは、燃料消費の優れた車である。10・15モードが必ずしも、実走行の状態ではないが、同じ基準での比較をする場合に、一定の合理性があると考える。ハイブリッド車でない車の燃料消費も良くなっている。4)で再生可能エネルギーによる発電による水の電気分解からの水素生産を書いた。これと比較すべきは、再生可能エネルギーで発電した電力の蓄電池貯蔵とする電気自動車であると思う。水素充填時間と電気自動車充電時間の差とか、様々な違いはあるが、将来どのようになるか分からない。

水素が、水のみしか排出しないと言うのは、一面的な見方である。水素の将来が明るいのかどうかも不明である。しかし、将来の可能性は十分あるのであり、研究は継続すべきと考える。

7) 参考

水素とメタンの質量と発熱量(HHV)の表を参考として掲げる。計算等の細部に省略した部分もあり、質問がある方は、コメントに書いていただければと存じます。

H2ch4

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2013年11月 | トップページ | 2014年1月 »