« 憲法解釈 | トップページ | JR東海共和駅構内認知症患者の男性(当時91)死亡事件(その2) »

2014年5月10日 (土)

JR東海共和駅構内認知症患者の男性(当時91)死亡事件

4月24日に名古屋高裁で、JR東海共和駅構内認知症患者(当時91)の介護をしていた認知症の妻に360万円の支払いを命じる名古屋高裁の判決があった。その後、JR東海も妻も判決を不服として、双方とも最高裁に上告をした。

日経 5月9日 認知症事故訴訟、JR東海が上告 

日経 5月10日 認知症徘徊事故訴訟、死亡男性の妻も上告 

この事件は、決してJR東海やこの家族のみの事件ではなく、高齢化が進み、認知症の人が増加している現代社会の問題であると考えます。私の思うところを以下に書きますので、読んでください。

1) 一般の反応

政府は、日本においは長期入院患者が多いこともあり、在宅医療拡大の方向に行っている。同じように、在宅看護、在宅介護、在宅ケアがますます多くなり、こんな判決では、安心して自宅で介護ができない。介護の実情や今後の方向を無視した非常識な判決であるとの意見を多く聞く。

又、そのような意見は、実際に現場で介護に携わっている人や、高齢者のケアに関係されている医療関係者にも多い。

そのような中で、4月24日のこの東京新聞の記事「知症 事故訴訟(上) 介護の家族ら 動揺と不安」その下 は、判決前ということもあり、冷静な記事と思う。記事から引用すれば「どんな思いで出ていこうとしているのかとのを、本人の目線で考えなければいけないが、家族は介護にくたくたでその余裕がない」との井沢恵美子氏の話は、その通りである。

2) 民法

民法においては、(本当は民法なんてあろうがなかろうが当然の話として)709条に「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」とある。

社会の仕組みであり、社会を成立させるためのルールである。

更に付け加えねばならないのが、次の713条と714条である。読んで見てください。

713条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

714条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

② 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

責任能力がない人に責任は問えないとして、その責任無能力者を監督する義務がある者が損害賠償義務があるとしている。但し、監督義務を怠っていない場合や、義務を怠っていなくても生じた損害についての賠償義務まではないとしている。

社会通念とも一致するし、社会の原則と考えます。

3) JR東海共和駅事故4月24日判決

4月24日の判決やその前の一審判決も読んでおらず(Webを探したが見あたらず)想像が入るのですが、JR東海は死亡した認知症男性を責任無能力者であると考えたのだろうと思う。そこで、認知症男性の妻と長男を監督義務がある者として損害賠償を求めたのだと思う。

裁判所は妻を監督義務者であると認め、4月24日の判決になったと思う。(参考:日経 4月24日 二審は妻のみ過失認定 認知症徘徊電車訴訟で名古屋高裁

4) 我が身で考えれば

我が身で考えればと言った時に、マスコミ報道やブログ、ツイッター反応でも、全てと言っていいぐらい介護者(監督義務者)側の立場での考えです。

もし、被害者側であれば、どうなのだろうか?車を運転していて認知症の人が突然現れて事故を起こしてしまった。避けようとして、ハンドルを切り反対車線に侵入してしまい、大事故になってしまった。

もっとあり得ることとしては、お店で品物を盗んでしまう。店の人としては、事実関係を調べ、監督義務者に賠償を求めねばならない。代金のみならず、手間暇が大変である。

被害者にもなりうることも考える必要があります。

5) 対策

監督義務者は必要な対策をすべきであり、義務であると考えます。高齢者の高速道路の逆走なんてニュースがあったりするが、進行度の差はあれ、認知症なのだと思う。やはり、車のキイや車そのものを取り上げる対策を採らないと、その高齢者の身の安全が守れないかも知れないし、大事故を起こして他の人の財産に損害を与えたり、傷害や死亡に至ったら大変です。

家族は介護でくたくたなのですが、その人に対する対策は十分であるのか考えるべきです。高齢化社会は悪いことではない。しかし、高齢化社会や認知症の人が引き起こすリスクについてもやはり考えるべきです。

|

« 憲法解釈 | トップページ | JR東海共和駅構内認知症患者の男性(当時91)死亡事件(その2) »

コメント

なるべくみんなで個人賠償保険をかけるようにしましょう。
特約とかだとそんなに金額しないと思いますし、
鉄道事故だけとも限りませんから。

投稿: sonohigurashi | 2014年5月11日 (日) 13時06分

sonohigurashi さん
コメントをありがとうございます。

確かに個人賠償保険は有力な対策ですね。

しかし、約款をよく読むと、免責事項の中に「被保険者の心神喪失に起因する賠償責任」が含まれている個人賠償保険がありました。

個人賠償保険の被保険者には配偶者と同居の親族が含まれているとすると、認知症になった場合の対策になるのかどうか、保険会社とよく話をし確認をする必要があると思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2014年5月11日 (日) 13時56分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: JR東海共和駅構内認知症患者の男性(当時91)死亡事件:

« 憲法解釈 | トップページ | JR東海共和駅構内認知症患者の男性(当時91)死亡事件(その2) »