トヨタは何故燃料電池関連の特許実施権を無償提供するのか
すこし驚くような発表をトヨタが行った。
日経 1月6日 燃料電池車、トヨタ「陣営」作り 特許無償公開
トヨタの発表は次の所にある。
1月6日 発表 トヨタ自動車、燃料電池関連の特許実施権を無償で提供
トヨタは、燃料電池自動車(FCV)の普及に向けた取り組みの一環として、約5,680件の燃料電池関連の特許(審査継続中を含む)の実施権を無償で提供すると発表している。企業が保有している特許実施権を他社が使用することについて、使用料の支払いを求めないということで、英語のNews Release(こちら)には”royalty free”との言葉がある。完全な無条件とはしておらず、英語のNews Releaseでは”Companies interested in Toyota’s fuel cell-related patents will negotiate individual contracts with Toyota. Additional details, including licensing terms and application process, are available upon request.”との文章が最後にある。
それでも、何故なのか、考えてみた。
1) 燃料電池自動車(FCV)の欠点の多さ
将来はいざ知らず、現時点においては、やはり欠点は多いのである。車体価格がトヨタのMIRAIは消費税込み7,236,000円である。プリウスの2,232000円と比べると、3倍以上の価格である。乗車定員は後部座席が2名のため運転手を入れて4名。車のサイズは、全長 4,890mm × 全幅 1,815mm × 全高 1,535mmであり、プリウスの 4,480mm ×1,745mm × 1,490mmより、全ての面で図体がでかい。価格が高く、図体でかく、乗車定員は少ない。
燃費は、MIRAIの一充填走行距離(参考値)が約650kmで、水素タンク内の圧力10MPaからの充填とのことであり、タンク内容積122.4Lを65MPaまで充填したとすると、水素量は約6kgである。kg当たり1100円とすると6600円である。即ちkm当たり10.1円である。プリウスの燃料消費量をL当たり30.4kmとすると、ガソリン150円でkm当たり5円、ガソリン200円でkm当たり6.6円である。仮に、一般的な車の燃費としてL当たり20kmとするとガソリン150円で7.5円である。
燃費性能が悪く、その上車体価格は3倍以上で、燃料補給ステーションは限られている。そして、5人乗車ができない。趣味で買うとしても、一般の人にはお勧めできない。将来の夢であり、その頃には、軽自動車は、もっと進化しているかも知れない。ハイブリッドも電気自動車もディーゼル車も、進化しているはずである。
2) 環境性能は決して良くない
トヨタのWebには、FCVのCO2指数はハイブリッド車の600に対して500であり、20%優れていると記載がある。
私が把握している天然ガス水蒸気改質法のCO2排出量は80g-CO2/MJ程度である。FCVが6kgで650km走行するとする前提でkm当たりのCO2排出量を計算するとkm当たり105gとなる。一方、プリウスのガソリン消費量をL当たり30.4kmとすると、CO2排出量はkm当たり76gである。L当たり20kmの車のCO2排出量は、115gと計算されるので、FCVのCO2性能はごく普通の自動車並である。
トヨタの嘘つきとまで言わないが、トリッキーであるとは言わせて貰う。前提条件を記載しないのは、犯罪行為であると。なお、天然ガス水蒸気改質法による水素製造は、現状で最も安く水素製造を行える方法である。工場から自然漏出している水素があるなら、それはCO2排出ゼロと言えるが、それでもしっくりとはしない。なお、再生可能エネルギーで発電して電気分解により水素をCO2排出なしで入手する方法はあるが、洋上風力に可能性があるとしても、ほど遠い話である。
3) 道路財源
中央高速天井板落下事故ではないが、老朽化している橋梁があるし、道路はメンテナンスを必要とし、道路の改良や新設も必要である。現在ガソリンには1L当たり48.6円の揮発油税が課せられている。プリウスの燃費で考えれば、km当たり1.6円の道路負担費用を払っている事になる。
FCVの車体重量はMIRAIで2,070kgであり、プリウスの1,675kgより重いのである。応分の負担としてMIRAIにもkm当たり1.6円の道路負担費用を払っていただくことにすると、水素1kg当たり173円の道路水素税を課さねばならない。1回に水素6kgを充填する場合は、1,040円の税である。
日本では現状水素は無税である。しかし、FCVの台数が増加すると、放置できない。ヨーロッパは、どうするであろうか?FCVの推進策を採用しないなら、応分の道路税負担が当然である。米国では、そもそもガソリンに対する道路税が存在しないので、燃料費の観点で、初めからFCVは対象外と思う。
4) トヨタの策略
ここまで書くと、私にとっては、FCVの販売は当面見込めないとの結論に達してしまった。販売が見込め、他メーカもFCVに乗り出すなら、特許使用料で収入が期待できる。しかし、製品の市場販売の見通しが暗ければ、研究開発費を支出しただけである。相当先の技術なら、その時点で皆は、どの技術を採用するか考える。或いは、その頃には、他社が新規技術で更に有効・有用な技術を開発しているかも知れない。
このように考えると、トヨタの考え方について私なりに納得がいった。FCVが今後どうなるか興味深く見つめたい。なお、技術開発を全ての会社は推進すべきである。トヨタのFCVが今後どうなるか分からないが、技術開発がトヨタに残したものは大きいと思う。
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