福島第一原発政府対応の反省すべき点
直前のブログで原発再稼働にあたっては政府のBCPが必要とすることを書いた。そこで、私が考える福島第一原発事故への政府対応の反省点を書くこととする。
1) 緊急事態への自衛隊の派遣
福島第一原発によるこの発表によれば、3月11日16時36分に原子力災害対策特別措置法第15条1項の原子力緊急事態発生に関連する通知を経済産業省に発した。原子力緊急事態の発生を認め、原子力緊急事態宣言そのものを発するのは、首相になるのであるが、19時30分に原子力緊急事態宣言となった。その時の官房長官記者発表はこれであるが、予防的措置とも述べ原子炉そのものに今問題があるわけではないと発表している。
しかし、実際には非常用発電機の源源はおろかバッテリー電源も失われたのであるから、原発は糸の切れたタコ状態になっていたのである。どのようなことかと言えば、原発は炉心近くに人間は近づけない。放射線量が高いからである。そもそも原発の運転とは炉心の反応等を計器等により計測した結果にもとづき実施しているのである。まして地震の後で全ての電源が失われていれば、計器は信頼できず、破損した配管があれば、そこから放射性物質を含む蒸気が出て、近づけない場所もある。そもそも電気がないのだから真っ暗である。大量の放射性物質が存在する原発で、このような危険な状態になっているにも拘わらず当時の官房長官発表のようなことを言っていて良いのだろうかと思う。現状把握ができないことは、同時に適切な対策を講じることができないことである。
仮に、官房長官発表はパニックを回避するための国民へのまやかしとするなら、それもあり得るかも知れない。もし、そのような事情なら、後日その旨の発表をして国民に謝罪すべきである。しかし、実際にはなかった。とすれば、やはり現実を直視せず国民の不幸を招いたと考える。
本来なら16時36分の福島第一原発からの通報を受けて、17時ぐらいには原子力緊急事態を宣言して欲しかった。そこには内閣のみならず経産省の責任も存在する。原子力緊急事態であれば、首相命令で自衛隊を派遣することは可能と考える。自衛隊には、夜間でも離着陸可能なヘリコプターが存在ているはずである。夜間離発着可能なヘリコプター部隊が存在するなら、その支援によりあの水素爆発はせめて防げたのではと思うからである。
福島第一原発の発電設備は交直全ての電源を失った。しかし、免震重要棟には自家発設備もあり、また福島第一原発と東電本店との間はテレビ電話が使えた。本当は、福島第一原発の緊急事態総責任者を首相が任命して東電本社に派遣して、完全にその人に全権をあずけて対応すべきであったと思う。多分、その人は、東電では動かすことのできない警察や自衛隊の救援を求めただろうと思う。政府部内に衛星携帯電話がいくつあるか知らないが、ある程度の数を原子力緊急事態用として使用して、誰かが正確な情報管理をする体制を作れなかったのだろうかと思う。福島第一原発の現場には衛星携帯電話があったと思うが、追加を自衛隊が運搬することも可能であったし、あるいは発電所のアンテナ等が破損して十分に使えないのであれば、非常用の通信装置を自衛隊が設置して、通信手段を確保することも可能であったと思う。もっとも、吉田調書によれば非常用通信回線は福島県と大熊町にはつながっていたとのこと。しかし、相手は電話に出れる状態になかった。これも少し通信関係の人が細工をすれば、福島第一原発と官邸間の電話ホットラインにもなったと思う。重要免震棟と各原子炉1~6との間のコミュニケーションも容易ではなかったようであるが、自衛隊の通信部隊が臨時的通信設備を設置したらなら、相当の効果も期待できたと思う。
ところで福島第一原発の場合は、炉心緊急停止には成功しており核分裂反応は起こっていない。しかし、放射性物質のα崩壊やβ崩壊による安定した物質への壊変による熱発生は続いているのであり、何としても冷却する必要がある。大部分の熱は核燃料棒からであり、これが水の中にあれば、水の温度より少し高い温度で安定する。この水の冷却の継続は必要であり、冷却できなければ、蒸気が多く発生し、300℃以上になると原子炉圧力容器の圧力限界(圧力容器8.62MPag+格納容器の設計圧0.43MPag)を越える圧力が発生するし、900℃以上になると水素の発生が生じる。燃料棒の一部が水面上に出てしまったら、水面上での周囲は水ではなく蒸気であり、冷却効果が低くなり、直ちに高温となる。水と接する部分では水素が発生した。壊変熱は酸素が不要であり、壊変は人間がコントロールできない物理現象なので、やっかいである。
圧力容器の水を電力がなくとも冷却を継続できる装置が1号機のICや2・3号機のRCICであった。又、電力がなくとも圧力容器の圧力以上の圧力で水を注水できるポンプがHPCIである。しかし、バッテリーの直流電源もない場合は、長時間運転は望めない。(電発ではないあるプラント設計の関係者から「安全装置を設計する場合、最後の信頼を置くのが直流です。」と聞いたことがある。)吉田調書には、吉田氏の次のような発言も記録されている。
絶望していました。基本的には、私自身で、すね。シビアアクシデントに入るわけですけれども、注水から言うと、全部のECCSが使えなくて、ICとRCICが止まって、HPCIがありますけれども、それらが止まった後、バッテリ]が止まった後、どうやって冷却するのかというのは、検討しろという話はしていますけれども、自分で考えても、これというのがないんですね。 |
全てが使えなくなると外部から水を入れざるを得なくなる。全電源を失った直後から、その準備に福島第一原発は入った。消防ポンプは吐圧力は0.5MPa程度であり、圧力容器のバルブ(SRV)を開け、格納容器に蒸気を出す。今度は格納容器の耐圧が問題となるから、外部へベントせざるを得ない。ある程度の放射性物質がベントスタックから排出されるのは、非常時につきやむなしとの考える。
しかし、ベントやSRV開放と言っても電動弁(MOV)や圧搾空気を動力源とした空気弁(AOV)であり、放射線量が高い場所にあると同時に人力で簡単に動く訳ではない。高放射線レベルで作業時間も限られた中、照明はなくMOVやAOVを開けると言っても、これぞと思う配線や配管を引っぱがしつなぎ替えて持参したバッテリーやエンジン式コンプレッサーにつないで弁を開けるのである。高放射線レベルでの限定された作業時間でもあり、暗い中でもあり時間を要した。結局1号、3号は水素爆発となり、3号からの水素と思われるが4号建屋も爆発した。
もしも少しでも多くのバッテリーが現場にあったならと思う。バッテリーとエンジン充電器なら自衛隊は、ある程度持っていただろうし、各号基の真っ暗な操作室を明るくする非常照明も持っていただろうと思う。「一義的には東京電力に責任あり。」なんてことばかり言わずに、可能な支援を政府は提供し、国民を災害から守り、国民の損失を防ぐことを努力して欲しかったと思う。
2) 無意味な自衛隊ヘリコプターの水まき
3月17日から自衛隊ヘリコプターが3号、4号に水まきをした。必要な時に出動せずに、復旧のじゃまをした。次の「福島第一原発事故7つの謎(講談社現代新書)」は、3月17日午前10時から所内の電源復旧に取りかかり、夕方までには配電部門が持ち込んだ移動式の電源盤までケーブル敷設をおける計画であったと書かれている。(296ページ)無意味なヘリコプター水まきにより工事は中断せざるを得なくなり、電源復旧は1、2号3月20日、3、4号3月22日となってしまった。電源を普及させ、ポンプによる確実な冷却を実現するという王道を邪魔したのである。
3) 撤退防止のための首相東電本社訪問
東電本社訪問自体で現場が迷惑した訳ではないが、実情を理解することができない人がやはり存在するという点であり、理解することの重要性です。単純に、吉田調書からの引用を掲げる。この話そのものは、絶対伝わってこない。しかし、そのような状態で仕事をしていることを理解していないと、リーダーはつとまらない。この話は、福島第一原発2号でSRVもベント関係の弁も開いたが、圧力低下が確認できなかった時です。もし圧力が低下しないと、水蒸気爆発が起こることになる。
廊下にも協力企業だとかがいて、完全に燃料露出しているにもかかわらず、減圧もできない、水も入らないという状態が来ましたので、私は本当にここだけは一番思い出したくないところです。ここで何回目かに死んだと、ここで本当に死んだど思ったんです。 これで2号機はこのまま水が入らないでメノレトして、完全に格納容器の圧力をぶち破って燃料が全部出ていってしまう。そうすると、その分の放射能が全部外にまき散らされる最悪の事故ですから。チェルノブイリ級ではなくて、チャイナシンドロームではないですけれども、ああいう状況になってしまう。そうすると、1号、3号の注水も停止しないといけない。これも遅かれ早かれこんな状態になる。 そうなると、結局、ここから退避しないといけない。たくさん被害者が出てしまう。勿論、放射能は、今の状態より、現段階よりも広範囲、高濃度で、まき散らす部分もありますけれども、まず、ここにいる人間が、ここというのは免震重要棟の近くにいる人間の命に関わると思っていましたから、それについて、免震重要棟のあそこで、言っていますと、みんなに恐怖感与えますから、電話で、武藤に言ったのかな。1つは、こんな状態で、非常に危ないと。操作する人間だとか、復旧の人聞は必要ミニマムで置いておくけれども、それらについては退避を考えた方がいいんではないかという話はした記憶があります。 |
4) 参考資料のリンク
福島第一原発事故は終わっていない。今後何十年経って分かる部分もある。未だ分析・検討・研究は十分と思わないし、課題は多い。今後の為にも報告書等のリンクを以下に書きとめる。
民間事故調の報告書はWebではダウンロードできず、一般の書籍として発行されている。
吉田調書他政府事故調のヒアリング記録はここでダウンロード可能です。
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