富裕層の税貢献
合理的な規制緩和や市場主義は経済発展を促進し、社会を豊かにする。但し、一方で格差拡大に向かう面もあり、行き過ぎを避けると共に、低所得者層や弱者に対する適切な支援と格差解消政策も欠かせない。税は、所得再配分の機能があると共に、支援を初め様々な政府政策を実施する為の財源であり、税制は重要である。
さて富裕層に対する最近の税制改正及び改正案は、注目してよいと考える。
1) 所得税と相続税の富裕層課税
2013年3月の改正での富裕層に対する税率アップが2015年の所得から適用され、来年の所得税確定申告において2億円を越える課税所得額(収入総額ではなく必要経費や控除を差し引いた残額)の場合には、2億円を超えた金額について昨年までより5%アップする。
2013年3月の改正では相続税の税率もアップとなっており、遺産額から基礎控除額を差し引いた残額を法定相続人の数によりあん分した額が2億円を越えた場合には、税率が超えた額の5%アップする。(3億円から6億円の範囲内で少しアップ率が低い場合もある。)なお、相続税も2015年1月からであるが、相続時を基準とするため既に適用となっている。又、基礎控除の額の見直しもあることから、アップ率は実質少し大きい。
それでも所得金額が2億円を越えるような人はやはり富豪だと思います。土地の売却益は分離課税で10年以上保有は20%であり、対象外です。又、相続税にしても相続人1人あたりで2億円ですから、3人なら相続財産が6億円以上ある訳で、やはり富豪だと思います。
2) 富裕層の財産債務調書の提出
現行では、合計所得金額が2千万円越える場合、所得税法232条により財産債務明細書の提出の義務がある。今年の改正案では「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」の中に、6条の2として財産債務に係る調書の提出の条文が追加され、所得税法232条は削除となっている。
この改正結果は、合計所得金額が2千万円を超え、かつ、年末時点において3億円以上の財産又は1億円以上の有価証券等(未決済デリバティブ取引の権利を含む。)を保有する場合は、確定申告期限までに、財産債務調書を提出しなければならないとしている。その上で、財産債務調書に過少申告や無申告があれば加算税が課せられるとしている。もっとも、提出の必要がなくなった人の方が数の上では多いはずです。
確定申告さえまじめにしていれば良かったのだが、富裕層にとっては、財産債務調書の提出が義務付けられ、その結果として所得の捕捉度は上がり、所得税と相続税の申告は正直にならざるを得なくなる。マイナンバー制が加わり、税の公平度が進み、正直者がバカを見るような状態が解消されるのは望ましいことと考える。
3) 国外転出をする場合の有価証券の譲渡所得の特例
所得税の改正で60条の2他が挿入されたりしている。この改正で想定しているのは、やはり富裕層である。即ち、国外転出とは、海外旅行ではなく、住民票を日本から抜き、居住地を外国にすることです。
所得税は、居住地で税を納付する制度であり、所得税法も「居住者は、この法律により、所得税を納める義務がある。」とし「非居住者は、国内源泉所得がある場合に、所得税を納める義務がある。」としている。従い、住民票を抜き、税が安い外国に一時的であれ移住し、そこで有価証券等を売却すれば、その国の税を納付すれば良いこととなる。含み益のある有価証券を保有していれば、合法的節税が可能となる。これを封じようとしている改正である。外国に住所を移してまで節税をするのは、節税額がそれに見合う人であり、やはり富裕層です。
従来だったら、日本株や外国証券投資信託だって日本の証券会社に売買委託をする形であり、私はそれほど詳しくないが、住民票を抜いたって、非居住者の国内源泉所得として扱われ節税は難しかったと思う。しかし、今やグローバル化時代であり国境を越えて金融商品は取引されている。デリバティブなんて差額決済だから、国境なんて薄い壁と思います。
この特例は、国外転出をする場合に保有している有価証券等を、国外転出時の時価で売却または決済したとみなして所得税を課す制度である。なお、この特例は保有している有価証券等の時価が1億円未満の人には適用されず、富裕層で住民税を抜いてと考えている人以外はほとんど関係なしです。万一、多額の金融資産を保有している人が海外転勤となる場合は、納税猶予を一定の手続きで受けることも可能です。
4) アベノミクスと富裕層課税
アベノミクスで貧富格差が拡大したとの批判があるが、個人に対する税制を見れば、所得再配分にも配慮は行われていると感じました。
なお、法案は財務省Webでも見ることができるし、衆議院の法案のWebでも見ることができます。
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コメント
富裕層の所得の大半は株の配当金であり、配当金に対する税率は、所得税+住民税、10%で、この点を是正しなければ、貧富は拡大するばかりである.
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それはそれとして、一つお聞きしたいのですが、
株でもうけた場合は、もうけた人はお金を手にするのですが、損をしたとき、そのお金はどこへ行くのですか?
投稿: rumityan | 2015年3月21日 (土) 21時47分
rumityan さん コメントをありがとうございます。
ご指摘の配当金の所得税+住民税10%は、平成25年12月31日までで、昨年1月からは所得税15%及び復興特別所得税0.315%ならびに地方税5%の合計20.315%となっています。参考:https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1330.htm
上場株式の売却益(売却損があれば、損金を差し引いた利益額。但し、売却損が売却益より大きい場合は、差額の損失を3年間持ち越せます。)
株で損をした時のことですが、株の損とは、売却値が購入値より低かった時でキャッシュで買ったとすれば、少ない額のキャッシュしか戻らないこととなります。資産が目減りしたのと同じですが、通常の資産よりキャッシュに容易に変えることが可能です。
株、預金、投資信託に対する税制ですが、基本的には20.315%の税です。(ゴルフ会員証などは、違います。)金融については、累進税を適用すると、(特に金持ちによる)投資が金融に向かわず、土地等に向かう恐れや、その他変な方向に向かうことが懸念されます。そうなると資金を必要とする産業に適正な金融が手当てされず、産業や社会の発展を阻害する恐れがある。グローバル化時代の金融税制は各国とも同じような税制でないと、資金の流れもゆがむ恐れもあります。金融に対する税制は、複雑な面があります。
金融税制も低所得者に対しては、総合課税の適用を認め、預金の利息税は20.315%でなくて、その人の所得水準の税率が適用されるようにすればよいと私は考えます。マイナンバー制になれば、可能なはずです。
投稿: ある経営コンサルタント | 2015年3月21日 (土) 22時52分