304人という多くの人が死亡・行方不明となった韓国のセウォル号が沈没して1年を経過したが、未だ、その事故原因の究明は不十分である。
日経 4月16日 韓国大統領、犠牲者を追悼 旅客船沈没事故から1年
以下が私なりの原因究明に関する推測である。
1) 船の浮力と重心の位置関係
船が横倒しとなって沈没した。船とは、どの様な時に横転するのか、あるいは何故浮かぶことができるのかを先ずは考える。
青の四角と赤の四角が船体で赤が傾いた状態である。傾いていない時は、船体の重力中心(重心)と浮力中心(浮心)は双方とも船体中央部で垂直関係にある。船体が傾くと(上の絵は右に傾いた時)傾いた方が沈み、逆が浮くこととなる。(絵では右が沈み、左が浮いている。)沈みが大きい方が浮力は大い。従い浮心位置は沈みの大きい方へ移動する。一方、重心の方も傾いた方へ移動する。重力は地球中心に向かっており、重心から垂直方向下向きである。一方、浮力は海水面に対して上向きの垂直方向である。浮心の水平移動距離が重心の水平移動距離より大きければ、復元力が働くこととなる。これが、船が海面上に安定して浮かんでいることができる重力と浮力の関係である。もっとも、傾きがない位置は復元力ゼロであり、傾くことにより復元力が出てくることから、傾きのない位置をゼロとするバネ状態であるとも言える。このバネが横揺れ(ローリング)と関係している。
2) セウォル号の復元力の推定
セウォル号は、全長146.6m、全幅22.2m、喫水6.26m、全高14.0mであると報じられていた。本来は、船形を表した図面がないと計算できないのであるが、全長100.00m、全幅22.2m、全高14.0mの直方体が喫水5.00mで浮かんでいると仮定する。そして、重心位置が船底中央より9.5mの場合、10mの場合と10.5mの場合の3通りについて傾斜角が変わっていった場合に重心と浮中の水平距離がどう変化するかのグラフを作成した。
船形を直方体に置き換えて計算した結果であり、想定の域を出ないが、それほど大きな差はないと考える。
重心位置が10mの場合は52度以上傾くと復元力がマイナスとなり元の状態に戻らない。重心位置9.5mの場合は、53度まで耐えられる。一方、10.5mと高かった場合は48度が限界である。最大復元傾斜は重心位置が0.5m動くと最大許容角度が3-5度程度変化する。
しかし、更に重要なのは復元力に相当する重心と浮心の水平距離である。重心位置が10mの場合は35度傾斜で水平距離0.88mである。重心位置が0.5m低い9.5mの場合は、36度で1.17mと計算される。しかし、0.5m高い10.5mに重心位置があった場合は、33度で0.60mとなる。10.5mの重心位置では、9.5mの重心位置の場合の復元力の51%であり、約半分になってしまう。
3) セウォル号の沈没原因
セウォル号に関する報道には、過積載であり、その為バラスト水を十分に積載できていなかったとする内容がある。セウォル号の場合は、過積載もバラスト水不足も重心位置を上昇させる。また、沈没寸前には相当急な急旋回をしている。10ノットの速度で19秒間45度旋回したとの話がある。もし、このような旋回をしたとなると、働く横Gは00.2Gである。転覆させるモーメントは、重心位置と浮心位置の垂直方向の距離に対する横Gであり、これに対する抵抗する力は傾斜した時の復元力モーメントである。
仮にセウォル号の復元力曲線が、上の想定曲線通りであったとすると、重心位置が船底から10.5mの場合の復元力モーメントは最大0.6Gmである。一方、転覆させるモーメントは浮心位置が船底から8mであったとして8m x 0.02G = 0.16Gmである。
復元力モーメントが0.6Gmあれば、0.16Gmより大きいので問題がないように思ってしまう。しかし、風による転覆モーメントが加わった時や波の影響によりローリングをしていた場合には、転覆の危険性は高くなる。更には、セウォル号のようなフェリーの場合には、積み込んでいるトラックの固縛がはずれ傾斜した方に貨物が偏ってしまう可能性もある。セウォル号の場合、中央にあった100トンの貨物が横に10m移動したとすると0.1GMの転覆モーメントが生じると予想する。上の想定曲線のように、重心位置が船底から10m程度であれば、0.9GMの最大復元力も期待できるので、大丈夫と思う。しかし、重心位置が船底から10.5m以上あると、危険性は非常に大きくなる。
4) 原因究明の必要性
しかし、3)では原因究明をしたことにはならない。何故なら、セウォル号の船長も船会社も、セウォル号はどのような状態になった時に転倒するかをよく知っていたはずであるからである。沈没寸前の急旋回にしても、何かを回避しようとしてしたのか、そうであれば、それは何であったのかを究明する必要がある。
過積載にしても、バラスト水不十分にしても、その原因は何であるのかである。船長は、過積載を拒否できる。この関連で思うのは、Korean Airナッツリターン事件である。もしかして、韓国には悪徳オーナーの傲慢独裁犯罪が多く、その為に安全無視が多いのかも知れないと思ってしまう。もし、そうであれば、韓国が発展するためには、悪徳オーナーの処罰・撲滅が必要である。
船は、重心位置を比較的容易に計測できる。判明している重量物(バラスト水でもよい)を右から左に移して船の傾斜角の変化を計ることにより重心位置が計測できる。船長は、沈没に対して大きな責任があるが、船長も横転すると思っていなかったはずである。科学的に事実解明をすることが必要であるが、一方で死刑を求める声がある場合に、どこまで解明が進むのかと思う。
救助活動も十分であったのか、船内放送も含め、検証すべき事項は多い。しかし、進んでいないのは、何故なのだろうと思う。
14日の広島空港でのアシアナ航空機着陸失敗については、ボイスレコーダーもフライトレコーダーも回収されており正しい原因究明が実施されるはずである。今後アシアナ航空は、原因究明を生かしてより安全な航空輸送を確立していくことを期待する。
(お詫び)
本記事の「3) セウォル号の沈没原因」の文章の中で0.02Gとすべき数字が0.2Gとなっており、「3) セウォル号の沈没原因」については、一部文章を訂正いたしました。(2015年5月3日)
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