原発輸出
ベトナム向け原発輸出に関して日経が記事を掲載していました。
日経 8月2日 政府、三菱重・アレバ連合の原発推奨 ベトナム向け輸出で
原発という事故の可能性がある危険なものを、日本政府が後押しして輸出するなんて、トンデモないとの考えもあると思います。しかし、これほど複雑なビジネスもないと言えるのであり、それを少しでも知ることは、おもしろいと思う。連続して原発の話になってしまいました。
1) ベトナム原発は特別か
ベトナムに限らず、原発の建設計画を検討している国は少なくない。World Nuclear AssociationのこのWebは、新たに原発建設を検討中の国が45あり、その中で、先頭を切っているのは、UAE、トルコ、ベトナム、ベラルーシ、ポーランド、ヨルダンと述べている。東南アジアで名前が出ているのは、ベトナム以外にインドネシア、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、ミャンマー、オーストラリア、ニュージーランドそして北朝鮮の名前もある。
日本から輸出するかどうかは別にしても、それぞれの国の判断でエネルギー政策の中に原発を組み込むのは主権に属することであり、他国が干渉できることではない。リスクについて、説明し、安全性の高い設備とすることを推奨することは干渉ではないし、福島事故の経験についての情報提供は必要と考える。
2) イラン核合意について
7月14日に中国、フランス、ドイツ、ロシア、英国、米国の6カ国とイランの間で核問題について合意した。(日経 7月14日 イラン核協議 最終合意 制裁解除で原油輸出拡大へ )この合意文書の全文はこのWashington PostのWeb等で読むことができる。
xii項に”Technical details of the implementation of this JCPOA are dealt with in the annexes to this document.”とあり附属書を読む必要があり、原発関連としては次のような項目が附属書Annex Iにある。
14. イランは不必要な重水を保有せず。
18. イランは15年間核燃料再処理をしない。
28. イランはウラン濃縮度3.67パーセントまでとする。
Annex IIIは中国、フランス、ドイツ、ロシア、英国、米国の6カ国によるイラン原発への協力となっている。原発(軽水炉)建設、核燃料提供、放射性廃棄物処理、廃炉等を含め様々な協力をすることが書いてある。6カ国による原発輸出基本合意のような感もある。
3) 原発と核兵器は紙一重
イランの核合意を読むと原発と核兵器は紙一重であることをあらためて思い知らされます。原発はエネルギー供給源であると同時に核兵器産業と密接な関係を持っている。イラン核合意も6カ国及びIAEAの査察をイランが継続的に受け入れることが枠組みとして組み込まれており、査察こそが核兵器開発につなげないようにする仕組みとなっている。ウラン濃縮度に制限を設け、核燃料再処理を禁止する。核燃料再処理とは、使用済み燃料中のプルトニウムを分離することであり、ウランもプルトニウムも核爆弾の主材料である。
日本もIAEAの査察を受けて核燃料再処理を進めようとしているが、六ヶ所村の設備は動くのだろうかと思う。もっとも、日本も再処理なんかヤーメタという手もあるかも知れませんが。
4) 日本の会社の関与
冒頭の日経記事には、「日本政府がベトナム政府に三菱重工業―仏アレバ連合の新型炉を推奨していることが明らかになった。」とあるのですが、この場合、三菱重工業はアレバの下請けみたいなものかと私は思ってしまう。何故なら、フランスは核不拡散条約の核保有国だからです。核保有国は核兵器の独占を継続しようとする。原発に関しても、最重要事項は絶対に外国人・外国企業には教えないはず。
それでもドイツはおもしろい国だなです。自国では脱原発政策を採り、一方でイランへの輸出では関与しようとする。EUでの大国の力を発揮したのでしょうか。
| 固定リンク
コメント
ベトナムへの原発輸出の前提条件として、使用済み核燃料を日本が引き取ることになっているはず.
フランスの核燃料の再処理は、全てフランスで行われておらず、一部の工程がロシアのクラシノヤルスクヘ送られて処理されている.
ちなみに、フランスもイギリスも再処理工場の廃液は海に流されています.
投稿: rumichan | 2015年8月12日 (水) 23時31分
rumichanさん
コメントをありがとうございます。
ベトナムへの原発輸出の前提条件として、使用済み核燃料を日本が引き取るなんて、にわかには信じがたい面もあるし、ありうるかなとも思う。
しかし、使用済み核燃料とは高放射能物質であり、原子炉から取り出した直後は1京Bq/kg程度、1年後で1000億Bq/kg程度ですから、これを日本で保管することに国民は賛成するのでしょうか?8000Bg/kgでも、埋め立て処分地確保に関係者は苦労をしている。
原発輸出のために、使用済み核燃料を引き取るなら、国民の理解が必要と思います。ところで、情報源はどこでしょうか?もし、書いても良いのであれば、教えてください。
投稿: ある経営コンサルタント | 2015年8月13日 (木) 09時51分
ロシアがトルコで進めている原発の計画は、ロシアとトルコが合弁会社を設立し、ロシア側が過半数の株式を持ち、建設、運営、燃料供給、廃棄物処理、使用済み燃料の処理、事故が起きたときの損害倍賞、全てに責任を持つ契約だそうです.
ベトナムでも、ロシアの原発計画が平行して進んでいます.ベトナムとロシアの契約が、トルコの契約と同じであれば、日本とベトナムとの契約も同様であろうと推察されます.
1.少なくとも、使用済み燃料の再処理を引き受けなければ、契約が纏まるとは考えられません.
2.部品を納入した三菱はアメリカから訴えられ、契約内容以上の莫大な損害賠償を求められました.
今後は、事故が起きたときは、契約にかかわらず莫大な賠償を請求されることになると考えられます.
3.具体的な表現を明記しなかったにしても、『未解決の諸問題に関して、日本側が責任を持って解決する』、このような文言が契約に含まれ れば、将来、日本は使用済み燃料を引き取ることになると思われます.
ロシアとの契約は置いておくとしても、『使用済み燃料処理は日本は責任を持たない』では、契約が纏まるとは考えられません.間違いなく、『未解決の諸問題に関して、日本側が責任を持って解決する』、と言う内容の契約になると思いますがどうでしょうか?
使用済み燃料の問題に前向きに対処しようとしないのは、原発輸出の金儲けに目がくらんでいる日本だけで、今時、使用済み燃料の問題に対して何らかの道筋を付けなければ契約が纏まるとは思えません.
企業にしろ政府にしろ、真っ黒に塗りつぶした資料しか公開しないようでは、何も認めることは出来ません.
投稿: rumichan | 2015年8月13日 (木) 17時16分
rumichan さん
たくさん書いていただいてありがとうございます。
今や世界では、建設、運営、燃料供給、廃棄物処理、使用済み燃料の処理、事故が起きたときの損害倍賞等全てにプラント(原発)供給者が責任を持たないと輸出が成立しない可能性は高いでしょうね。それなのに、何故三菱重工、東芝、日立なんて熱心なんでしょうね。東芝はWHを買ってまで。
1960年代に日本が英国から原発を輸入し東海一号を建設し、その後関電と東電がそれぞれ米国WHとGEから原発を輸入したときは、輸出者を免責にしないと売ってくれなかった。それ故に、損害賠償は全て電気事業者が負担するという原子力賠償法を制定した。結果、菅政権は、これを利用して一義的に東京電力に責任があるとして、政府の責任逃れに使った。最も、それ以前においても、政府は原子力賠償法があるから、最後の所は無責任体制でいたと思います。
使用済み核燃料の問題については、日本の原発からについても、国際的な取り決めである自国処理という以外に、絵空事の核燃料サイクルとしか決まっていない。それにも拘わらず、他国の使用済み核燃料を引き受けることは、トンデモないことと考えます。技術機密、テロ対策で黒塗り資料しか公開しないことについては、それでよいと考えるが、他国の使用済み核燃料引き受けは、公開して国民に賛否を問うべき問題です。そうだとすれば、誰かがすっぱ抜いて国会で指摘してくれないかと期待します。
投稿: ある経営コンサルタント | 2015年8月13日 (木) 17時52分