4月16日未明の熊本地震本震により南阿蘇村で大きな被害が発生し、阿蘇大橋が崩落した。阿蘇大橋からほぼ西に1.5km離れた地点に九州電力黒川第一発電所の水力発電所の貯水槽があり、この貯水槽付近からも土砂崩れが発生し、住民2人が土砂崩れに巻き込まれ死亡した。
自治ドットコム 5月7日 南阿蘇村の発電所損壊=熊本地震、集落方向に水
写真は、このはフィントンポストの記事がよく写っています。
Google Mapは、4月16日以降撮影した震災被害がわかる上空からの航空写真がある。次がそれです。
説明図としては次を参照下さい。
4月16日未明の熊本地震本震は、土砂崩れを引き起こし、阿蘇大橋を破壊したが、同時に他の場所でも土砂崩れを発生させた。
九州電力黒川第一発電所は、説明図に貯水槽と書いてある地点に2,500m3程度の容量の貯水槽(ヘッドタンク)があり、ここから説明図左下付近の黒川第一発電所に水圧鉄管を通して水を流し、黒川第一発電所にある水車発電機(2基で最大42,200kW)を駆動する。貯水槽の海抜は約460mで水車位置は約205mであり、この落差255mを利用する。水圧鉄管の長さは908mある。貯水槽には、説明図の右上の沈砂池・調整池と書いた144,300m3の池から水路と水路トンネルにより流れ込んでくる。説明図では水路トンネルをブルーの実線で書いたが、3000m余り計5本のがあるようで、実際の詳細経路は必ずしも説明図の通りではない。この沈砂池・調整池には更に上流約800mにある取水堰で取り入れた黒川の水が水路を通って流入するようにしている。発電所が完成したのは1914年(大正3年)3月であり、当時は最大出力6,000kWであった。
黒川第一発電所は最大出力時に1秒間に20.3m3の水を流すので、貯水槽の水量は満杯の場合、最大出力で2分間あまりの発電量を蓄えている。発電時は、常に沈砂池・調整池から貯水槽に水が流れ込む形です。
冒頭に掲げた自治ドットコムの記事は「水力発電所の耐震性などの基準は65年の通産省(現経済産業省)省令で定められているが、同発電所の貯水槽は適用対象外という。」と書いており、貯水槽が耐震性不十分であったために水漏れを起こし、その結果2人死亡となる土砂崩れが発生したことを示唆しているようにも取れる。結論は、九州電力による調査結果も待って出すべきと考える。ここに九州電力5月10日発表の「黒川第一発電所における調査の実施について」がある。
今後の課題としては、次のようなことがあると考える。
1) 土砂崩れの原因
写真を見ると崩壊は貯水槽の上から始まっており、土砂崩れが貯水槽を破壊した可能性もありうる。逆に貯水槽が地震で崩壊し、その結果として土砂崩れが発生した可能性もあるが、解明が必要である。
土砂崩れが貯水槽を破壊したのであれば、貯水槽の耐震設計や耐震工事の問題ではないと思うのである。
2) 貯水槽の水抜き
報道には約10,000m3の水が流出したとあり、貯水槽の容量(2,500-3,000m3)より多い。これは、水路トンネル内の水が貯水槽崩壊後も流れ続けたからと思う。多分、沈砂池・調整池から水路トンネルへ向かう水については4月14日の地震以降流れ込まないようにゲートを閉じていたと思う。
貯水槽の水を完全に抜いておくことも可能であった。3本見える水圧鉄管のうち1本は余水路であり、余水路を使えば、発電しなくても貯水槽の水を空にできる。例え、土砂崩れの原因が貯水槽からの水漏れでなかったとしても、土石流の被害は小さかっただろうと思う。
九州電力は、何故貯水槽を空にしてなかったかは、土砂崩れと貯水槽崩壊を予想していなかったのだろうと思う。
3) 土石流の予測
土石流の予測は、困難と思う。しかし、可能性があるかどうかの評価は可能である。黒川第一発電所貯水槽土石流も阿蘇大橋土石流と同じ山で発生したのである。阿蘇大橋土石流が予測が困難であれば、黒川第一発電所貯水槽土石流も予測は同じように困難であったと思える。
しかし、黒川第一発電所貯水槽は、限定された場所に設置されていたのであり、土石流対策はありえたのかも知れないと思う。貯水槽から山の方にセンサーを幾つか設置して動きを監視し、異常があれば貯水槽の水抜きをするというような対策の可能性も含めてである。
黒川第一発電所は、水力発電所として比較的規模が大きい発電所である。発電にCO2を発生させない水力という再生可能エネルギーの利用である。発電所があることにより被害を起こしたり大きくすることはあってはならない。黒川第一発電所については、調査結果を公開し、他の電力会社の同様な水力発電に関しても調査結果を反映し、必要なら対策が講じられるようにして欲しいと考える。
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