無電柱化 耳障りは良いが実質は
都知事選で無電柱化の推進を訴えた候補者がいたとのニュースがあった。
朝日 7月16日 災害に強い東京、構築策は 都知事選の主要3候補訴え
電線を地中化すれば、景観が良くなり、電柱が倒れるリスクがなくなり、歩道は通行が楽になる。この日経 2016年2月1日 首相、電線の地下埋設に意欲 「東京五輪までに加速」 には、市区町村長の会長が首相に、全国的な電線の地下埋設の推進に向けた協力要をしたとある。
良いことずくめのようににも思えるが、甘い物ほど危険性が大きい可能性もあり、真実をよく知る必要がある。
1) 工事費及び保守経費
ここに、総務省が実施した無電柱化推進に関する2014年8月の「無電柱化対策に関する調査」の結果報告書がある。無電柱化(電線[電力・電話・光ケーブル・ケーブルTV同軸線等]の地中化)に関してのまとまった報告書である。
この報告書の18ページの表3に東京都における電線共同溝事業費の推移があり、20ページの表4に世田谷区の第6期電線類地中化計画概算事業費がある。これらからするとkmあたりの電線共同溝事業費は297百万円と223百万円と計算される。
この国土交通省のWebからVFM(バリュー・フォー・マネー)に関する簡易な算定の資料としての第3章 個別事業算定結果の中に、電線共同溝事業の結果があり、ダウンロードできる。その105ページに1000mで450百万円とある。規模を1000mとしたので割高となっている可能性もあるし、2005年の公表であり、その後に建設費を抑える工夫ができた可能性もある。
いずれにせよ、建設費は1kmあたり2億円程度は必要であると考える。メンテナンス・フリーはあり得ず、1000mで450百万円のすぐ下に「維持管理・修繕費: 400千円/年」とあり、建設費が2億円であれば年間0.1%の200千円は必要と考える。
仮に設備寿命を50年間とし、資金コストを年4%として、1kmあたりの年間コストを算出すると9,500千円となった。
電柱の場合のコストであるが、東京電力の共架についてを読むと、年額1,200円(税別)となっている。1kmあたりの電柱の数は40-45本程度であるので、45本を採用すると54千円である。
地中線は保守費でも年間200千円で、設備償却費等を考えると9,000千円を超えるとなっては、それなりの有効な意味がないと無駄使いとも思える。
2) 東京都の計画
2014年12月の東京都無電柱化推進計画がここにある。15ページの表3-2によると地中化済み819kmであり、整備対象は2,328kmと書かれている。18ページには、今後5年間で916kmを整備するとある。
1800億円が共同溝整備事業に使われるのあろうが、23ページの図4-5によれば55%が国交付対象事業費となっている政府補助金である。冒頭部分で、市区町村長の会長が首相に訴えたと書いたが、東京都に税金で補助するなら自分たちにも補助しなければ、理屈が立たないとなる。
3) 政治の闇の世界か、明るい未来か
政治の闇の世界か、はたまた、明るい未来かと思わせてくれる。公共性が高く、電柱が緊急車両の通行を妨げることがあってはならない消防署や災害拠点病院の近く等無電柱化を推進すべき所はある。従い、優先順位を付けて、合理的に無電柱化を推進することに賛成するが、何が何でも無電柱化が優れているとは思わない。
負担は、本来受益者であるべき。仮に無電柱化により地価が上がるのであれば、受益者はその地域の土地保有者である。国民全体が費用の55%も負担するのは行き過ぎと考える。
大内宿観光協会のホームページがここにある。大内宿は家屋の軒下に電線を通すことにより無電柱化を実現している。歴史的な美しい宿場の街並みがあり、電柱は目につかない。地中化よりも費用は安くついたと思う。
ディベロパーが住宅団地・宅地・戸建て住宅群を売り出す際に、無電柱の住宅団地として売り出すことも考えられる。その分高くなっているはずだが、美しい所に住むことは誰もが望んでいる。価格に対する満足度で決まるのが合理的であると考える。
東京都やそれ以外の無電柱化計画も全て都道府県道、市町村道の話である。自分の住む家の前の道路が無電柱化するとは考えない方が良さそうである。それを望むなら、最初からそのような環境の住宅に住むことである。
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コメント
あれだけ潤沢な税収のある東京都が、
その種銭でレバレッジを効かせて国の補助をもらって工事を進める事が異常な仕組み。
そんなカネがあるのなら地方の老朽インフラ改修補助に回すべき。
投稿: やまだ | 2016年7月18日 (月) 09時20分
やまだ さん コメントをありがとうございます。
その通りと思います。あらためて、次のブログを書きました。
投稿: ある経営コンサルタント | 2016年7月18日 (月) 17時35分
共同溝にして、老朽化した水道管の工事と一緒に進める方法があります.
1.掘り返し、埋め戻しのコストが不要になる.
2.電線単独で行う場合、既設のガス管、水道管の移設が必要になり、バカにならないコストがかかっている.
投稿: rumichan | 2016年7月19日 (火) 12時39分
rumichanさん
コメントをありがとうございます。
コスト(建設、敷設、撤去等ならびにメンテナンス費用)とメリットが数字として出ていないので、議論が進まないですよね。
私は、電力線単独ではあり得ず、電話線、光ケーブル、ケーブルTV線等現在電柱に架設されている線が全て対象になると考えます。同時に地中に埋設されているガス管、水道管、下水道管のことも考え、さらに各戸からのガス、水道、下水の配管もあり、干渉しないようにせねばならず、又工事の際に誤って切断とならないようにせねばならない。電力に関しては、現在電柱上にある変圧器の設置場所の確保問題も出てきます。
現状は歩道2m以上で共同溝でやっているのがほとんどで、役所はまず工事の実態を公表すべきと考えます。
投稿: ある経営コンサルタント | 2016年7月19日 (火) 22時24分