九州電力は需要の78%を再生可能エネルギーとは本当か
九州電力は2016年5月4日の午後1時、需要の78%を再生可能エネルギーによる発電を受け入れて系統の安定運用を行ったとの記事が環境保護NGOのWWFジャパンのWebにあった。
WWFジャパンの2017年3月3日の記事 78%の再生可能エネルギーを運用して見せた日本の技術力
にわかには、信じられない数字です。しかし、九州電力の系統運用担当者に取材をしたことが書いてあり、また写真も掲載されている。
日本の電力供給において再生可能エネルギーが占める割合について資源エネルギー庁の電力調査統計を見ると図表1及び図表2の通りである。
全発電に対して再生可能エネルギーが占める割合は次の図表3の通りとなる。
WWFの記事が伝える78%とは開きが大きすぎるのである。資源エネルギー庁の統計から再生可能エネルギーとしてピックアップしたのは風力、太陽光、地熱、バイオマスと廃棄物であり、水力は含んでいない。水力を含んだ場合、図表2で再生可能と水力の合計分となり、ほぼ15%~20%となる。一方、この水力には揚水発電や大型水力も含んでいる。なお、資源エネルギー庁の統計には、再生可能エネルギーの固定料金買取制度に係わる統計がある。そこで、図表1の再生可能エネルギーによる発電の内訳と固定料金買取制度による電力買取量合計を示したのが図表4である。
固定料金買取電力が水力を含まない再生可能エネルギー発電より小さくなっているが、その理由としては、電力会社が保有・運転し買取制度対象外の設備や、石炭火力発電所においての燃料として利用しているバイオマスがあったりする。(このような部分の2重計算は回避するようにして図表を作成している。)
電力調査統計も固定料金買取制度の統計も九州地方のみを対象とした発電内訳のデータが存在しない。但し、固定料金買取制度の統計には発電を開始している再生可能エネルギー発電設備の導入容量のデータある。九州地方の割合を計算したのが図表5である。
電力調査統計に都道府県別の電力需要統計があり、2016年3月から2016年11月を合計すると全国合計549,787GWhに対して九州7県の合計は54,670GWhであり、9.94%が九州地方の電力消費割合である。一方、再生可能エネルギーの全国に対する割合は19%程度であり、再生可能エネルギーの普及度は九州に於いて高い。全国平均の再生可能エネルギー割合が図表3であるとすると15%から20%が九州地方における割合となる。しかし、バイオマスや廃棄物については全国平均とあまり差はないと思える。一方、地熱発電は九州に多いので、そう簡単でもない。
固定料金買取制度の統計による太陽光発電の発電量は図表6である。図表5の設備割合を用いて、全発電量に占める九州地方の太陽光発電割合を計算した結果である。
4月から11月の太陽光発電の合計発電量は5,698GWhである。電力調査統計による全国の4月から11月の発電量は641,082GWhであり、この10%が九州地方であるとすると64,108GWhが九州地方の発電量。太陽光発電の割合は8.9%となる。再生可能エネルギー全体では15%程度であるかも知れない。全国平均より高い。しかし、WWFの数字とは未だ差が大きい。
実は、WWFは、2016年5月4日の午後1時という瞬間値の値を発表しているのである。2016年5月4日の刻々と移り変わる発電量は九州電力でんき予報の実績値を見る事により分かる。図表7が2016年5月4日のロードカーブであり、WWFのWebにあるこのグラフと一致する。
図表5にあるように九州地方の太陽光発電設備は6,800MWある。これらが平均で70%発電をしたなら4,680MWの出力となる。一方、午後1時の供給に対する必要発電出力は7,440MWであり、太陽光割合は62.9%であり、WWFの説明と一致する。
但し、太陽光発電は日の入りから日の出までは発電をせず、日の出や日の入りに近い時間帯は出力も低い。WWFのグラフの黄色部分が示しているように日中の正午前後に発電が集中する。太陽光発電単独での電気の供給は不可能であり、他の電源やバッテリーとの併用が必要である。他の手段と併用する事により、太陽光発電あるいは風力発電の割合をどこまで増加させる事ができるかが重要な課題である。WWFのグラフには必要発電量を超過している紫部分がある。これは、揚水発電において揚水動力として電力を消費、正確には揚水発電の上ダムに下ダムの水をポンプ・アップして消費した電力である。この水は19時-20時頃に上ダムから下ダムに水を発電目的で流して水力発電として電力供給に使われた。
揚水発電とは、大規模なバッテリーである。ちなみに九州電力の揚水発電所は図表8の通りである。
太陽光発電や風力発電は出力変動の大きな電源である。電気は電圧一定、周波数一定で供給されている。発電が刻々と変化する需要に対応しなかった場合、電圧一定、周波数一定が乱れる。家庭に於いて電圧や周波数の乱れに対応できない機器が出るであろうし、工場等に於いては、安全機器の不動作・誤動作その他危険な事態が発生する可能性がある。あるいは、その前に安全装置が起動して、ブレーカーが作動し、停電となることもあるし、大規模停電が更に大きな需給アンバランスを引き起こし、全停電となる恐れもなきにしもあらずと思う。
再生可能エネルギーによる発電の割合を大きくする一つの要素は揚水発電である。しかし、WWFのグラフからして九州地方に於いては太陽光発電もこれ以上の増加はあまり見込めない気がする。全発電量に対しては15%程度が限界なのかも知れない。一方、現在公表されている統計データは少ない。都道府県別の電源別発電量は公表されているが、このデータは事業者の発電のみであり、事業者外の数字は日本全体で一つの数字となっている。又、発電量=消費量・供給量という統計になっていない。発電しても発電所内で消費する所内動力があり、揚水動力、送電損失、配電損失が存在する。2016年3月までは一般電力会社の数字は発表されていた。しかし、電力は自由化されたとの理由かも知れないが、公表されなくなってしまったデータも多いのである。エネルギーや電気の供給を考える上に於いて様々な統計データは欠かせない。多くの統計データの公表を望むのである。
| 固定リンク
コメント
2006年ではなく2016年と思うが.....
図表2、日本の発電実績の割合のグラフを見ると、一度も再生可能エネルギーの割合が10%を越えていないのだが、その下の図表3では,,,,,
新電力全てが決して再生可能エネルギーでは無いと思う.
ゴミ発電で、生ゴミに重油をかけて燃焼させていたら、再生可能かどうか?
太陽光の割合が減る12月、1、2、3月を含まないデータで1年間を論じるのもいかがなものか?
--------------------------------
で、それはそれとして、ガスエネルギー、ガスヒートポンプの存在を忘れてはいけません.
電気を使う限り、再生可能エネルギーの費用負担と、原子力発電所の費用負担から逃れることは出来ません.
けれども、ガスに変えてしまえば.....
一般家庭ではエネファーム、企業(主に都市部のオフィス)ではガスヒートポンプの導入が行われています.
ガスヒートポンプ
ダイキン
http://www.daikinaircon.com/catalog/ghp/ghp/index.html
アイシン
http://www.aisin.co.jp/ghp/special/beginner/index.html
ダイキンのグラフでは、夏場のオフィスの電力の2/3以上が空調(冷房)によって消費される.
アイシンの数値でも、年間を通じた数値で、オフィスの電力消費の半分は空調である.
2011年以降、夏場の電力需要が減って来ているのはご存じの通りで、一般的には省エネが進んで居るように言われているが、全てが省エネに依る減少ではなく、エネルギー源がガスに移行した結果も含まれると考えるべきである.
火力発電所の電力が、電気を介さない方法のガスエネルギーに移行したとき、火力発電が減った分、相対的に再生可能エネルギーに因る発電が増えたように思えるが、残念ながら代替のガスが再生可能でないので、実際には再生可能エネルギーが増えたのではない.
投稿: rumichan | 2017年7月 7日 (金) 21時33分
rumichanさん
ありがとうございます。
図表のタイトル部分が2006年になっていますね。その通りです。2016年が正しい。追って、訂正します。
省エネや再生可能エネルギーを論じる場合は、一次エネルギーの消費量で論じるのが最適であるかも知れませんね。
投稿: ある経営コンサルタント | 2017年7月 8日 (土) 01時05分