安倍首相は、憲法改正に関して、22日の施政方針演説でも、憲法審査会において議論を深め前に進めていくことを期待するとの発言をしており、憲法改正に向けた議論が活発化する可能性があると思う。
憲法改正を考える場合、感情で考えてはならない。実質的な占領状態下で制定されたという理由ではなく、実質的な占領状態下であっても、当時の人たちが最善を尽くして制定した良い部分は守っていくべきであり、憲法の文章を理性で考え、一語一語を検討して考えることが重要である。
次の『ナチスの「手口」と緊急事態条項』を読んだが、参考となるべきことが多く書いてあると思った。お読みする事をお薦すめします。
この『ナチスの「手口」と緊急事態条項』を読んで、ナチスによるワイマール憲法の抜け穴の利用について学ぶことができました。ワイマール憲法は、1919年8月に制定、公布、発効した。ドイツが第1次世界大戦の休戦協定に調印したのは、その1年少し前の1918年11月であり、講和条約であるヴェルサイユ条約に調印したのは、1919年6月である。ドイツ帝国は崩壊し共和国になってはいたが、旧体制の権力者は影響力を持っていたし、1917年のロシア革命の結果は、ドイツでも当時勢力を増しつつあった共産主義者への対抗論があった。そのような状況下で制定されたのがワイマール憲法であった。
ワイマール憲法の訳文をNetで探してみると、英訳は、このページにありました。ヒットラーの権力把握に最初に使われた48条とは次の訳文になっています。
Article 48
If a state (8) does not fulfil the obligations laid upon it by the Reich constitution or the Reich laws, the Reich President may use armed force to cause it to oblige.
2 In case public safety is seriously threatened or disturbed, the Reich President may take the measures necessary to reestablish law and order, if necessary using armed force. In the pursuit of this aim he may suspend the civil rights described in articles 114, 115, 117, 118, 123, 124 and 154, partially or entirely.
3 The Reich President has to inform Reichstag immediately about all measures undertaken which are based on paragraphs 1 and 2 of this article. The measures have to be suspended immediately if Reichstag demands so.
4 If danger is imminent, the state government may, for their specific territory, implement steps as described in paragraph 2.
5 These steps have to be suspended if so demanded by the Reich President or the Reichstag. Further details are provided by Reich law.
この訳文で”state”とはドイツ国ではなく、国に属する州のことです。ドイツ国は”Reich”です。いずれにせよ、ドイツ大統領は、憲法により安全のためなら人権を制限できるし、場合によっては、議会を遠ざける道があり得た。
日本国憲法には緊急事態条項がない。そもそも大統領や首相に立法権と同等の権力を与える事は問題が大きすぎるからであるが、日本国憲法54条には、衆議院が解散された閉会中でも内閣は参議院の緊急集会を求めることができるとしている。59条1項により、法律案は、両議院で可決したとき法律になる。59条1項の但し書きに相当する「この憲法に特別の定のある場合を除いては」から、参議院の緊急集会における議決は法律と同一効力がある特別令を定めることが可能と私は解釈する。但し、54条3項により、臨時的措置であり、次の国会開会の後10日以内に、衆議院の同意がなければ、効力は失われる。行政は最大の権力である。憲法65条で「行政権は、内閣に属する。」としているのであり、緊急事態と雖も、立法権は国会に属する事を守るべきである。
『ナチスの「手口」と緊急事態条項』の「なぜドイツでは憲法改正を何度も行っているのか」の節には、日本国憲法は、規律密度が低く、憲法の条文の解釈や法律以下の立法を通じて問題を解決する余地が広いという記述がある。私も同じように思うのである。憲法の解釈も時代により変化して良い。時代に合わせて、憲法を読まれるのである。しかし、どのような時にも忘れてはならないのは、良心や憲法前文にある崇高な理想の追求であると考える。
そのようなことを考えて憲法改正は一語一語検討すべきである。又、現憲法を維持するという保守主義も重要であり、現憲法が守っている人権や理想が侵害されないようにせねばならない。
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