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2018年9月30日 (日)

旧優生保護法を考える

旧優生保護法(1948~96年)下での不妊手術強制について1100万円の国家賠償損害を求める訴訟の第1回口頭弁論が28日、札幌地裁であった。

朝日 9月28日 強制不妊「57年苦しんだ」 原告が意見陳述 札幌地裁

朝日の記事には、『「57年間、手術のことを誰にも言えず、一人悩み苦しんできた。裁判で勝っても私(の人生)が戻ってこない。国の誤った法律で人生を狂わされる被害者を出さないためにも、国に責任を認めて謝罪してもらいたい」と声を震わせながら、意見陳述した。』とある。

本当に、この意見陳述の通りだと思う。一方、本問題は、多くの問題を含有しており、多面的に、見る必要があると考える。

1) 国家賠償

国家賠償法では、国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する定めている。公務員は、法に従って職務を実施する。立法院の国会議員も公務員に含まれる。

本件の場合の過失とは何であり、国家賠償の対象になり得るのかを考える。

このことについての一つの参考が「らい予防法」違憲国家賠償訴訟と考える。熊本地方裁判所の判決では、遅くとも昭和35年には、らい予防法の隔離規定の合理性を支える根拠を欠く状況に至っており、その違憲性が明白となっていた。遅くとも昭和40年以降に新法の隔離規定を改廃しなかった国会議員の立法上の不作為につき、国家賠償法上の違法性及び過失を認めるのが相当であると認定し、国のハンセン病患者に対する政策の誤りを認め、国に対して損害賠償を命じた。

大阪泉南アスベスト訴訟では、平成26年10月9日の最高裁判決において、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間、国が規制権限を行使して石綿工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことが、国家賠償法の適用上、違法であると判断された。厚生労働省は、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事した和解手続を進め、損害賠償金を支払うこととした。(厚生労働省の発表

国家賠償の対象となる可能性はある。しかし、そのような判決が得られるとは限らない。

2) 任意手術と強制手術

このブログの文末に優生保護法の抜粋を掲げた。法律では、特定の場合に限り、人工妊娠中絶は指定医により可能としたのである。1948年の終戦直後のベビーブームの最中に議員立法により制定された法律で、当時は妊娠手術の結果、母体の生命が失われることもあったようである。

なお、現在母体保護法があるが、現在の母体保護法とは優生保護法の改正結果であり、法律の名前も母体保護法と改名されたのである。現在では、出生前診断をする人もあり、その結果、場合によっては人工妊娠中絶を選ぶ人もいる。この場合も、母体保護法による人工妊娠中絶であり、旧優生保護法第3条の任意手術に相当する。

現在国家賠償で争われているのは、優生保護法第4条による強制手術の場合である。悪質疾病の遺伝防止と母性保護のためには、医師の判断と地区優生保護委員会の決定により、本人の同意を得ずとも人工妊娠中絶が実施できるとした。

3) 本人の同意

第4条の強制手術により、本人の意向とは無関係に人工妊娠中絶の申請ができた。しかし、第5条には申請があったとき及び手術の決定がなされたときに、申請者及び優生手術を受くべき者に通知すると定められている。

この手続きが正しくなされていなかったのだろうかとの疑問がわく。都道府県優生保護委員会で事務手続きをしていたのは、都道府県の公務員であった。公務員は、実直に職務をこなしており、通知がなされなかったとは考えがたいのであるが。

おそらく、親が申請をし、親宛に通知が手渡された。子供は、知らされていないというのがあるのではと思う。日本の社会が、特定の価値観に支配され障害児・障害者に冷たく、親のたたりが・・・のような悪質遺伝は絶つべきであるとの考えで、障害児を持つ親に対して無言のプレッシャーを与えていたと思う。有言プレッシャーも中にはあっただろうし、福祉制度が充実していないと、親族・近隣への依存も大きく、その中にはトンデモ発言をする人もいただろう。

4) 守秘義務

現在の母体保護法にも27条に守秘義務があるが、優生保護法も同様であり、都道府県優生保護委員会が関係していることから、義務が課せられる人も多く、その職を退いた後においても守秘義務が継続する。

法律による守秘義務により真実解明・実態解明が難しくなっている面があると思う。だからこそ、国家賠償なのだろうと思うが。

5) 立法措置

立法措置による救済は考えられる。対象者の決め方を、どうするかはあるが、救済は可能と考える。障害の状態になった人には障害者年金が給付され、公的年金として支払われる。保険料を納付していることが給付の前提であるが、納付義務がない20歳未満に障害者となった場合でも、20歳前傷病による障害者年金が受け取れる制度がある。

損害を受けた賠償としてではなく、社会的な扶助制度としての措置である。立法措置が適切になされなかったとの議論は水掛け論が生まれるであろう。社会的な制度としての救済を講じるのが私は適切と考える。

6) 私の感想

私たちの社会には、判断の誤りが多くある。その時は、良かれと思ったことが、悪い結果となる。思ってもみなかった悪い結果が、一部には生じることは、多々ある。過去を正しく分析・評価して、将来に同じ失敗を起こさないことの重要性である。結果についても、単純に善し悪しを判断できないことも多い。あるいは、中途で見直しを行い、修正しなかったことの失敗もある。

旧優生保護法の不妊手術強制についても、歴史的な面からも多面的に分析・評価し、私たちの社会の将来に役立つ用にすべきと考える。

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優生保護法(立法時の条文)抜粋

(任意の優生手術)
第三条 
医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様な事情にある者を含む。以下同じ。)があるときはその同意を得て、任意に、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。  
(一号~五号は省略・・・特定の疾患の罹病、母体の健康への懼れ、暴行による姦淫・妊娠等・・)

(強制優生手術の審査の申請)
第四条 
医師は、診断の結果、別表に掲げる疾患に罹つていることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、前条の同意を得なくとも、都道府県優生保護委員会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる。

 

(優生手術の審査)
第五条
 都道府県優生保護委員会は、前条の規定による申請を受けたときは、優生手術を受くべき者にその旨を通知するとともに、同条に規定する要件を具えているかどうかを審査の上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を、申請者及び優生手術を受くべき者に通知する。
2 都道府県優生保護委員会は、優生手術を行うことが適当である旨の決定をしたときは、申請者及び関係者の意見をきいて、その手術を行うべき医師を指定し、申請者、優生手術を受くべき者及び当該医師に、これを通知する。

(再審査の申請)
第六条 
前条第一項の規定によつて、優生手術を受くべき旨の決定を受けた者は、その決定に異議があるときは、同条同項の通知を受けた日から二週間以内に、中央優生保護委員会に対して、その再審査を申請することができる。
 前項の優生手術を受くべき旨の決定を受けた者の配偶者、親権者、後見人又は保佐人もまた、その再審査を申請することができる。

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