年金のことをまじめに考える
金融庁の「老後2000万円」報告書についても、大臣が受け取り拒否をするのは変であるとの意見も最近では出されるようになった。いずれにせよ、年金についての現状・実情を正しく理解することが出発点である。そう考え、思いつくことを書いて見る。
1) 公的年金が老後の必要経費の全てをカバーすべきか?
その人の生き方や思想・哲学の問題だろうか?何歳まで、働き、何歳からは年金や預金等の取り崩しによる収入で生活するかは、人それぞれと言える。働いても、税金と年金・健康保険の保険料で余裕が全くないというよりは、少しでも貯蓄等に回せて、老後を含め備え・蓄えを確保するのが良いと言える。どうバランスを取るかは、個人の自由であるとするなら、ある程度の年金保険料。すなわち、国民が納得できる保険料水準とすべきである。
ちなみに変な計算をすると。人生90年、100年として、23歳から70歳まで働き、70歳から20年または30年の年金を受け取るとする。利息と物価上昇がイコールとすれば、20年または30年の年金 を47年間で払うのだから、年金の額を働いていたときの50%として、年金総額は100 x 20 (or30) x 50% = 1,000 (or 1,500)となる。これを 47年間で払うとすると、21.27 (or 31.91)となる。
21.27 (or 31.91) と言う数字は、大変な金額であり、年金のことを、政治家やマスコミは好き放題に批判しているが、まじめに考えるとウーンとうなる様なことになるのである。なお、年金を払わず、貯蓄もしない人ばかり出てしまうと、高齢生活保護者となるわけで、個人の問題として片付けず、年金制度を社会的問題としても扱う必要がある。
2) 現行の保険料と年金給付
2017年9月で料率アップはなくなり18.3%となった。1)の計算よりは、安いこととなるが、平均寿命や余命の取り方でも変わる。なお、18.3%は被保険者(個人)と雇用主(会社等)で50%づつの負担となるので、個人ベースでは9.15%である。すなわち、お得となっている。
さて年金給付額であるが、基礎年金(満額732,090円)と報酬比例年金額(加入期間の年収合計 x 0.005481)である。
ボーナス込み年収700万円で35年間が加入期間であるとすると、1626円 x 0.938 x 35年 x 12月 = 640,578円と700万円 x 35年 x 0.005481 = 1,342,845円の合計1,983,423円である。支払った保険料は、700万円 x 35年 x 18.3% (or 9.15%)なので、44,835,000円 (or 22,417,500円)である。 20年または30年の年金を受け取るとすると、39,668,460円または59,502,690円となる。ブレークイーブンポイントは労使合計の保険料で考えると、22.6年間年金を受け取った場合となる。
この同じ計算を年収500万円で行うと、年金額1,599,753円であり、20年または30年の年金額は31,995,060円と47,992590円となり、 ブレークイーブンポイントは労使合計の保険料で考えると、20.0年間となる。実は、日本の公的年金制度は、高所得者から低所得者に対して所得移動がなされ所得再配分がなされるように設計されているとも言える。
3) 年金の不公平
高所得者と低所得者は、払った年金の保険料と受け取る年金額を比較すると、高所得者が不利であると述べた。理由は、受け取るべき年金額の計算式の第1項は払った保険料額とは無関係であり、被保険者であった期間の年数のみの計算であるからである。実は、この第1項は基礎年金部分であり、国民年金部分に相当する。そして、この部分は、50%が政府(税金)負担となっている。
そこで、第1項の基礎年金部分を半額として計算するとブレークイーブンポイントは労使合計の保険料で考えると、700万円の場合27.0年間で、500万円の場合25.0年間となる。下のグラフは、第1項は半額としていない場合である。
なお、もう一つ高額所得者が年金の受領において不利になっている理由がある。それは、第3号被保険者である。 ちなみに第3号被保険者とは、国民年金法第7条第1項第3号の該当者であり、「厚生年金保険の被保険者の配偶者であつて主として被保険者の収入により生計を維持するもの」となっている。年金の扱いは、国民年金被保険者と同じであり、最大年間780,100円の年金を受給できる。この財源はと言うと、基礎年金なので50%は政府(税)であり、残る50%は他の厚生年金の被保険者の負担である。いわゆる専業主婦が大部分であり、その様な場合、夫が高収入である場合が多いと言える。そうなると、高所得者の年金は低くなって当然であり、世帯単位で夫婦合算すると話は少し異なる。
きわめて、複雑であるが、独身者や共稼ぎ世帯は、特に高所得になると、不利になっていると言えるように思う。
4) 年金だけで生活できるか
収入に合わせて生活費を工夫している面があり、答えは単純ではない。3)で述べたように、高所得者の年金受取額は負担した保険料と比較すると低くなる。厚生年金の場合は、上限額が月額63万円、ボーナス最大1回150万円なので、年収1000万円以上は、払う保険料も受け取る年金額も同じとなる。計算をすると、年間255万円以上の厚生年金を受領することはできない。そうなると、金融庁報告書の平均的な場合の支出額月263,718円を12倍すると316万円となり、不足するが、妻の基礎年金78万円を足し合わせると333万円であり、世帯ベースではクリアできることとなる。
でも、年収1000万円の場合の年間支払い年金保険料は915,000円であり、相当の負担であると言える。そうなると、受け取り年金額が低いと思う人は、貯蓄等をして備える以外に方法はない。貯蓄等を考える場合に、一番有利なのは、金融庁報告書にある年間40万円までの積立投資について運用益が非課税となるNISAと非課税扱いとなっている個人型確定拠出年金iDeCoが一番候補として考えられる。ここまで来ると、金融庁の報告書は正しいとなる。
5) 日本の公的年金制度の問題点
大きな問題と思うことを2点あげておく。
一つは、非正規労働で厚生年金に加入できておらず、国民年金となっている人についてである。満額でも年額780,100円である。月額にすると65千円。農家や商店のような個人事業主なら、何歳になっても働くことができるわけで、高齢となった場合の下支えとしての国民年金で機能した。しかし、非正規労働者となると、高齢化して良い仕事を得られると不安は大きいと思う。厚生年金問題としてより、非正規低賃金労働問題として取り組むべきと考える。
もう一つは、2)の厚生年金の計算で60歳まで35年間働いたと仮定した。実は、現行の制度は、60歳以上働くと、年金が不利になる制度となっている。例えば、国民年金法昭和60年5月1日改正の附則第8条第4項により「当面の間、60歳以降に支払われた保険料は基礎年金の計算期間に算入しない」となっており、これが続いている。60歳以降の保険料は料率が同じでもは、比例部分にしか反映されない。一方、60歳で受給資格を得るが、収入に応じて減額されるので、ゼロの人も多い。支給開始年齢が65歳や70歳に改定されるときに、この不公平な扱いは解消さえると思うが、実は余り誰も知らない不公平である。
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