太平洋戦争開戦(その4)日米交渉
太平洋戦争開戦(その3)ハルノート でハルノートを紹介しましたが、ハルノートは日本側の暫定協定案に対するカウンター・プロポーザルであったのです。
即ち、在米日本大使館の要旨報告(第1189号)では、次の部分です。(外務省の日本外交文書デジタルコレクション からです。 )
「ハル」ヨリ茲数日間本月二十日日本側提出ノ暫定協定案(我方乙案)二付米国政府ニ於テ各方面ヨリ検討スルト共ニ関係諸国ト慎重協議セルモ遺憾乍ラ之ニ同意出来ス結局・・・
原文(英語)では、
On November 20 the Japanese Ambassador communicated to the Secretary of State proposals in regard to temporary measure to be taken respectively by the Government of Japan and by the Government of the United States, which measures are understood to have been designed to accomplish the purposes above indicated.
では、11月20日に提出した日本側提案の乙案とは、次でした。
(一)日米両国政府ハ執レモ仏印以外ノ南東亜細亜及南太平洋地域ニ武力的進出ヲ行ハサルコトヲ確約ス
(二)日米両国政府ハ蘭領印度ニ於テ其必要トスル物資ノ獲得力保障セラルル様相互ニ協力スルモノトス
(三)日米両国政府ハ相互ニ通商関係ヲ資産凍結前ノ状態ニ復帰スヘシ米国政府ハ所要ノ石油ノ対日供給ヲ約ス
(四)米国政府ハ日支両国ノ和平ニ関スル努力ニ支障ヲ与フルカ如キ行動ニ出テサルへシ
(五)日本国政府ハ日支問和平成立スルカ又ハ太平洋地域二於ケル公正ナル平和確立スルカ又ハ現二仏領印度支部ニ派遣セラレ居ル日本軍隊ヲ撤退スヘキ旨拘束ス。
5-2) The Government of Japan declares that it is prepared to remove the Japanese troops now stationed in the southern part of French Indo-Chaina to the northern part of the daid territory upon the conclusion of the present agreement.
5-2)が英語になっているが、乙案は数度変更されており5-2)として追加した部分は英語でしか見当たらなかった。(5-2追加と同時に6)と7)を削除している。)
乙案の提出に関して東郷外務大臣から在外公館長宛てに打った電報(合第2414号)を掲げます。
昭和16年11月25日東郷外務大臣より各在外公館長宛(電報)
日米交渉進渉状況につき通報
本省 11月25日
合第二四一四号(大至急、館長符号)
日米交渉近況
一、野村大使ハ「ハル」「ハル」国務長官及「ルーズベルト」大統領ニ対シ従来ノ我方案ニ新内閣成立後多少修正ヲ加ヘタル新提案ヲ提出シ交渉ハ本月初旬以来華府ニ於テ「ル」大統領及「ハ」長官ト野村大使間ニ行ハレ(来栖大使モ十七日ヨリ参加)オルノミナラス東京ニ於テモ本大臣ヨリ米英大使二対シ急速解決ノ要アル旨力説シツツアル処米側ハ右案ニ対スル諾否ヲ明ニスルニ先チ帝国政府ノ平和的意図ニ関スル確言ヲ求ムルト共ニ其ノ他ノ原則的問題ニ付テモ予メ我方ノ約諾ヲ取付ケントスル等其態度ハ依然理論的原則論ニ促ハレ逐日急迫スル事態ニ副ハサル所甚シキニ依リ我方ハ二十日更ニ南西太平洋方面ノ事態ヲ緩和シ以テ目睫ニ迫リツツアル太平洋ノ危機ヲ回避スル為メノ我方最終案ヲ提示シ其後米国側ハ英、豪、蘭及支等ノ関係国トモ協議ヲ行ヒ右ヲ審議セル模様ナルカ近ク何等ノ回答アル手筈トナリ居レリ
然レトモ今日迄ノ米側態度等ニ鑑ミ米側カ此際猛省シテ二十日ノ我方最終案ヲ受諾スル見込極メテ少ク然ル場合局面ノ収拾ハ頗ル困難ニシテ近ク最悪ノ事態ニ直面スル危険アル次第ナリ
「我方最終案ヲ受諾スル見込極メテ少ク然ル場合」という悲観的な見方を伝えているが、一方で11月26日の東郷外相から野村大使宛ての次の石油輸入に関する電報は内容は具体的であり、興味あるところです。
昭和16年11月26日
東郷外務大臣より在米国野村大使宛(電報)
交渉妥結の際の米・蘭両国よりの石油輸入につき訓令
本省
11月26日後6時発
第八三三号(至急、館長符号)
往電第七九八号ニ関シ
我方新提案ニヨリ妥結ノ際ハ第二項及第三項ニ関連シ早速物資確保ノ必要アル処帝国カ焦眉ノ急トスルハ石油獲得ナルニ依リ交渉進捗ニ応シ取極調印前早目ニ我方ニ於テハ石油輸入ニ付米国ヨリハ年四百万噸(米国ヨリノ昭和十三、四、五年度ノ平均輸入量ニシテ其ノ内訳ハ航空揮発油ヲ含ミ資産凍結実施前ノ実績ニ準ス)即チ月約三十三万三千噸又蘭印ヨリハ従前交渉ニ於テ大体意見ノ纏リタル数量(蘭側ハ年百八十万噸ノ供給ニ同意セリ)ヲ基礎トシ年二百万噸ヲ希望スル旨御申入レ相成度ク話合成立ノ上ハ貴大使ト国務長官トノ問ノ文書交換等ノ方法ニ依リ右ヲ確約セシムルコトト致シ度シ
尚右数量ハ交渉上標準タルヘキ大約ノ数字ヲ表ハスモノナルカ(右カ絶対的最低ノ数字ノ謂ニハアラス)他方当方トシテハ今後通商恢復ニ伴ヒ右数量ノ漸次増加ヲ希望スル次第二付右御含ミノ上御折衝相成度シ
1941年11月26日の時点において日米交渉がまとまる可能性は、ある程度は、あると日本政府は見ていた。日本側も米国とは戦争をしたくなかった。乙案で第7)項は、提出前に削除したと上で書きました。第7)項には「米国ノ欧州戦参入ノ場合於ケル日本国独逸国伊太利国間三国条約二対スル日本国ノ解釈及之二伴フ義務履行ハ専ラ自主的二行ハレルヘシ」との文章があり、乙案から削除はするものの、米側に伝えて良いこととされていた。この部分の意味は、次に掲げた三国同盟第3条の解釈は日本が自主的に行う。米国がナチスドイツと戦争をしても、日本の米国に対する参戦義務は明確ではなく、日本の解釈を適用する。
日独伊三国同盟
第三条 日本國、「ドイツ國」及「イタリヤ國」ハ、前記ノ方針ニ基ツク努力ニ附相互ニ協力スヘキ事ヲ約ス。更ニ三締結國中何レカ一國カ、現ニ歐州戰爭又ハ日支紛爭ニ參入シ居ラサル一國ニ依リ攻撃セラレタル時ハ、三國ハアラユル政治的經濟的及軍事的方法ニ依リ相互ニ援助スヘキ事ヲ約ス。
| 固定リンク
コメント