福島第一原発のトリチウムについては、様々な報道がある。福島原発事故関係のブログを書いたからには、やはりトリチウムについても書いておかねばと思った。
1) トリチウムとは
Wikiはここ にあり、三重水素とも呼ばれる。あの燃料自動車にも使われる元素番号1の水素である。自然界の水素の多くは陽子が1つで電子が1つであるが、トリチウムは陽子は1つと中性子2つが原子核であり、電子が3つある。いかにも不安定な感じであるが、放射性崩壊のベータ崩壊をして電子を出して、中性子が陽子になり、元素番号2のヘリウム(He)になる。半減期が12.32年で1崩壊あたり18.6keVの崩壊熱を出す放射性元子である。
トリチウムが水素であると言うことは、大部分は水として存在する。水、すなわちH2Oの”H”であるが、トリウムがある水とは、2つある水原子”H”のうちの一つがトリチウムであり”T”で現すとTHOという化合物の水である。仮にそんな水を電気分解して水素と酸素を得たならば、水素はHとTが混合した状態である。この”H”と”T” が混じった水素を”H”と”T”に分離することは、できなくはないが、とてもやっかいである。
2) 福島第一原発のトリウム
福島第一原発に存在するトリチウムも水として存在する。トリチウム単体だったと仮定したならば、トリチウム”T”は普通の水素”H”より重いがヘリウム”He”より軽いので、空の上に拡散していく。福島第一原発1~3号機合計でどれだけの量があるかと言うと、2019年10月31日で856兆ベクレル(Bq)と言うわけで、重量にすると私の計算では2.4グラム(g)である。但し、トリチウムが含まれている水の量は、この東京電力のグラフ のように2021年1月で126万m3と言うことである。ここ にグラフがあるが、2月末-3月初めでは1日あたり100m3増加している。 この水の量は雨水の流入と地下水である。
地下水流入はやっかいな問題である。流入してきた地下水はくみ上げざるを得ない。くみ上げなければ、放射性物質を含んだ水が地下水にまぎれて外部に流出する恐れがある。安全の為には地下水が常時流入するようにポンプアップを続けねばならない。「黒部の太陽」という小説・映画でトンネル工事が破砕帯を抜けるにあたり苦労した話がある。しかし、破砕帯の水は外部に、排出する際に処理は不要であり、また切り羽部分の空気圧力を高くして、水の流入量を減少させることも可能であった。福島第一原発は、逆で地下水は外部に漏出できない。地下水対策で実施していることは① 地下水バイパス揚水として発電所西側で地下水をくみ上げ、発電所へ流れる地下水を減少させること、② サブドレインと称している発電所外側近辺で地下水をくみ上げること③ ①の地下水バイパスの発電所側に凍土方式の陸側遮水壁を建設し凍結して地下水進入防止を図っていることと④ 地表をアスファルト等で覆って雨水の地中への浸透を減少させることをしている。
福島第一原発1~3号機の現状は、事故時の核燃料がデブリとして原子炉格納容器の底部に個体として存在する。このデブリは核分裂はしていないが、核崩壊はしており熱を発している。この熱を進入してきた地下水を利用し、循環させて冷却をしている。使用済み核燃料プールの役割を、破損した原子炉格納容器が果たしている。循環水には大量の放射性物質が入る訳で、セシウムやストロンチウム等の放射性物質を除去(分離)している。流入した地価水相当の量は循環から外に出さねばならず、ALPSと呼んでいる装置で水に含まれている多核種のほとんどを除去しているが、トリチウムはALPSで除去できない。このトリチウムが含まれている水の貯蔵量が126万m3と言うわけである。
3) 対処方法
126万m3は、20万トンのタンカー6隻分に相当する訳で、やはり多い。ダムの貯水量からすると少ないが、ダムには貯蔵できない。何故なら、蒸発させられないから。トリチウムがTHOになっていて、H2OのなかにTHOが混じっている。重量比では1兆分の2がHTOである。HTOの量は重量では小さいが、放射性物質として放射線を発する量としてのベクレルで計測すると126万m3の水はH2Oがゼロベクレルであるのに対し、HTOは856兆ベクレルである。蒸発とは水が気体になることで、気体の中にTHO、すなわちトリチウムが含まれることとなる。なお、H2Oの水素としてではなくHあるいはトリチウムとして溶けているものもある。
処理方法としては、① 気体(水蒸気)として放出する、② 気体(トリチウムを分離した単体)として放出する、 ③ トリチウムを分離しトリチウム単体として気体保管する、④ 地下深く高圧注入する、⑤ 海洋放出する方法と ⑥ タンク管理を継続する方法の6種類ではないかと思う。
放出せずにタンクを増設し、保管量を増やすことも不可能ではない。但し、どこかで一杯になる。安全性を考えると敷地の外には保管したくない。輸送をする場合は、タンクローリーであれパイプラインであれ事故の危険性はある。大型タンクにすると万一の漏出事故の対策を考えると適切な大きさにせざるを得ない。どこまでタンク増設が可能か私には不明だが、検討・研究の価値はあると思う。
なお、トリチウムは半減期12.32年の放射性物質であることから12.32年経過すれば半分の量となり、半分はヘリウムに変化する。トリチウムの放射線量の経年変化を図示すると次のグラフとなる。福島第一原発の汚染水のトリチウムは、崩壊により減少はするが、一方で新たに壊れた原子炉配管や燃料デブリから発生するものもある。差引、どうなるのか私には分からない。
トリチウムの①の気体として放出すること並びに⑤の海洋放出は、実は世界中の原発で行われているのである。次は、2020年2月10日の多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会の報告書にある図6である。
日本についても数字がある。福島第一 2010年液体放出2.2兆ベクレル、気体放出1.5兆ベクレル。日本のBWR平均液体放出316億-1.9兆ベクレルで気体放出が770億-1.9兆ベクレルとあり、更に日本のPWRの場合は平均値として液体放出18兆-83兆ベクレル、気体放出4400億-13兆ベクレルとなっている。
PWR(加圧水型原子炉)の方が、トリチウムの発止量・放出量が多いのであるが、この原子力産業協会の放射線に関する基礎知識(118) によれば、ホウ素(ボロン)の使われ方が、PWRとBWR(沸騰水型原子炉)とで使われた方に差があるためトリチウム発生量が異なると言うことである。また、次の日本の原発別の年間トリチウム海洋放出量の図がある。
トリチウム海洋放出に対する反対が根強いと聞く。しかし、1979年に福島第一原発におけるトリチウム海洋放出量は年間22兆ベクレルという基準値が設定されたとのことである。もし、この22兆ベクレルの海洋放出をするなら、856兆ベクレルの保管中のトリチウムを含む水は33年で処分可能ということである。
なお、上の図からすれば、PWRなみの排出量を認めれば、年間80兆ベクレル程度まで海洋放出可能であり、10年強で処理が終了する。常磐ものというブランド魚という話がある。ここ にふくいお魚図鑑がある。若狭湾には、PWR原発が5発電所あり、いずれも福島第一原発より多くのトリチウムを海洋放出していた。もし、常磐もの魚を消費者が敬遠するなら、若狭もの・ふくいお魚は、どうなるのだろうと思う。
福島第一原発のトリチウム問題を調べていくと、報道されない重要なことの存在に気がつく。福島第一原発の廃炉は、誰もやったことのないことをやっているのであり、行程通りには進まないのが当然であり、その中で安全第一を最重要事項として進めている。この安全第一とは、工事の事故もそうであるが、それと同等あるいはそれ以上に放射性物質の放出リスクに気を付けなくてはならない。福島第一原発事故が起こったときもそうであったが、今も人気取りをもくろんだ間違った政治家の発言がある。関係者の方々は、雑音に惑わされることなく、自らが信じる良心を大事にして任務を続けていただきたいと思う。
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