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2021年3月28日 (日)

石巻市立大川小学校の悲劇を繰り返さない (その2)

石巻市立大川小学校の悲劇を繰り返さない (その1)とは、2011年の津波から3月が経過する頃に書いた次のブログです。

2011年6月 5日 石巻市立大川小学校の悲劇を繰り返さない

2011年3月11日に大川小学校を襲った津波では、児童は108名中74名が、教員は13名中10名が死亡という死亡率なんて考えたくないが69%-77%が死んだ悲しい事故があった。2011年6月5日にブログを書いた当時から、避難は可能であり、全員が助かったはずとの思いであった。児童23人の遺族は、市と県に損害賠償を求め、2016年10月第一審仙台地裁、第二審仙台高裁で遺族側が勝訴。市と県は上告したが、最高裁は2020年10月10日上告を棄却し、高裁の判決が確定した。日経の記事はここ にあります。仙台高裁の判決文はここ にあります。

この裁判で、遺族側の代理人を務めた吉岡和弘弁護士のインタビュー記事『大川小訴訟で「組織的過失」を勝ち取った弁護士の戦い 〜弁護士が見た東日本大震災から10年〜』を弁護士ドットコムタイムズがここ に掲載された。助かったのは30%で、死亡したのは70%だが、運と不運か、いかなる原因であったか、何故という問が解明される必要がある。私は吉岡弁護士の説明を読んで、多くの疑問が解けた。

1)デタラメに作成されたマニュアルがあった

私の2011年のブログは大川小学校の校庭は海抜1m程度と書いたのですが、吉岡弁護士は1.1mと言っておられます。防災行政無線からは高さ10メートルの津波からの避難を指示する放送が流れていた。それなのに、海抜1.1mの校庭に非難するバカはいないと思うが、いたのである。

危機管理マニュアルでは「まず校庭に避難し、津波が発生するかどうかの様子を見ながら、近くの空き地や公園に避難する」と、山梨県の学校で使われていた危機管理マニュアルを参考に作成されていた。大川小学校の近くに空き地や公園なんてないのに。また、大川小学校は津波の避難場所に指定されていた。ここまでのデタラメがあって良いのだろうかと思う。

30%の助かった人は、校庭に止まらず非難した人達だった。

2)政治家は遺族の気持なんて無関心

2011年6月に行われた遺族への説明会で、当時の石巻市長は「(児童が亡くなったのは)自然災害における宿命」と発言したとのこと。2011年4月から2014年3月にかけて10回にわたり開催された説明会では、市や学校側はその場しのぎの対応をするばかりであった。津波ハザードマップの欠陥をさておいて、学校が避難場所に指定されていたことなどから、「津波は予見できなかった」と市と学校側は主張。

第一審判決の翌月11月22日の週刊女性PRIMEの記事『大川小津波裁判 納得できない勝訴「知りたいのは裏山に避難できなかった“理由”」』がここ にありますが、市長が控訴を提案し市議会では賛成討論がなしでも、可決。議員も市民の意見なんて聞く耳は残念ながら持っていない。市長に賛成して身の安全を計るんですね。

吉岡弁護士には敬服します。しかし、腐った市長、市議、市職員、教育関係者がほとんどなんだなと思います。せめて誰か、正義を目指して堂々と戦う政治家や公務員はいなかったのだろうかと思います。ハザードマップの誤りを訂正せず、それを元に計画したら無茶苦茶ですよね。

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2021年3月25日 (木)

原発批判 朝日社説への反論

朝日社説への反論とのタイトルだが、内容の間違い指摘ではない。視野が幾分か狭く、真に考えるべきことが抜けていると思った。ちなみに次の社説である。

朝日社説 3月24日 柏崎刈羽原発 東電に運転資格はない

では、誰がどこの団体・会社が運転するのだと言っても、その答えは難しい。様々な観点から検討を加えて、日本における原発保有・運転・廃棄核燃料と放射性物質管理者をどうすることが最適かを考えねばならない。東電を批判することは簡単である。東電に資格はないという発言には同時に、誰であるべきか、具体的な固有名詞はなくても方向性か何かが示されるべきと考える。そこで、浅はかながら。少し考えてみる。

1)最近の不祥事・問題点

柏崎刈羽原発で社員によるIDカード不正使用という事件があった。その原因分析・改善措置概要がここ にある。あってはならないことだが、どこにでも起こりうる問題である。不正をした社員の責任追及のみならず、制度・システムの責任も追及されなくてはならない。顔認証・指紋認証等も組み込んで厳格性をあげることも考えられたと思う。人間の善意のみを信じては失敗する可能性がある。

柏崎刈羽原発で核物質防護設備である侵入検知装置の損傷や故障という問題があった(新潟日報の記事 東電HD発表による概要 )。どのような検知装置で核物質防護設備とは何かと言っても詳細は発表することにより当該部分の防護が薄くなりかねず、余り発表されないのではと思う。軽微なことかも知れないが、核物質という重大な事項故原子力規制庁が動いたと言うことなのかよく分からない。ひとまずは、原子力規制庁を信頼したい。

ところで、これら不祥事・問題発生を理由として是正措置命令の結果、東電が柏崎刈羽原発を運転できなくなったとしても、核燃料が発電所内に存在し、放射性物質も同様に存在する。本質的な問題解決ではないのである。運転している原発がない福島県もこの発表 のように核物質防護措置に万全を期すように東電に3月16日に申し入れている。

2)株式会社組織自体の問題点

株式会社が原発を保有・運転し、廃棄核燃料と放射性物質管理者としての義務を果たすことの制度上の問題を考えねばならない。原発という安全性を最優先とする基準と株式会社という利益追求組織の整合性である。株式会社は、出資者たる株主は取締役を選任し取締役が経営に携わる。取締役の業績評価と会社の利益が大いに関係する。利益が大きければ、PERは一定としてEが大きくなれば、その分株価Pも高くなる。PBRも同様で、利益が大きければBが大きくなり株価Pも高くなる。そして株主は配当金も受けとれる。

原発を利益追求組織である株式会社が保有・運転することの問題点をよく考える必要がある。そして、このことは使用済み核燃料や高濃度から低濃度までの放射性物質の廃棄とその管理の段階になると、利益を生まず、費用のみが発生する事業となる。株式会社は、収益貢献がない事業においては、コスト削減が最大の関心事となるわけで、安全と言ったって地震、津波、テロのリスクなんて、どの程度まで対策するかと言えば、どうしたってコストを中心に考えてしまう。福島第一原発のトリチウムを含む126万m3の汚染水にしても、大地震によりタンクが破損し大量流出なんてことにならないとは限らない。東電の責任とだけ述べていても始まらないはず。

1955年に原子力基本法等が制定され、原発に積極的な姿勢を示す電力9社と電源開発の対立もあったが、電力、電源開発、メーカーなどの共同出資で1957年11月に日本原子力発電株式会社が設立された。その後、関西電力、東京電力他も原発を保有することとなった。当時、原子力平和利用と言われ、将来的には原子力は低コストのエネルギー源になると期待されていた。

2011年福島第一原発事故を経験した我々には原子力の安全な平和利用は課題が多い、相当先の話であり、安全を達成するための膨大な費用があることを認識したと思う。原発の安全を確保する。そのためには、どのような組織が保有・運転・廃棄をすべきか考えるべきである。私は、特殊法人と思うが、そのためにはその法制定の研究だけでも相当の時間を要し、一刻も早く検討をすべきと考えている。なお、仮に新しく日本で原発を建設しなくても、現存する原発の廃棄物処理で数百年を要するのであり、よく考える必要がある。

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2021年3月19日 (金)

同性婚は?

同性婚について札幌地裁の判決が3月17日にあった。

日経 3月17日 同性婚認めないのは違憲、賠償請求は棄却 札幌地裁

報道には裁判所は違憲と判断したが、原告が訴えた賠償請求は認めなかったと言うことで、頭が混乱する面がある。

判決文はないかと探すと、MarriageForAllJapanという一般社団法人があり(Home Pageはここ ) 、支援をしておられる。この法人の3月17日付けお知らせ「【歴史的判決】代表理事からのご挨拶」(ここ )のページ中に判決文のリンクがあり、判決文をあげておられる。興味ある方は、判決文を読んで頂くと良いと思います。

この判決文を読むと、結論部分の文章は次である。

本件規定は, 前記3(4)で説示した限度で憲法に違反するものとなっていたといえるものの,これを国家賠償法1条1項の適用の観点からみた場合には,憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。
したがって,本件規定を改廃していないことが,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないというべきである。

なお、「本件規定」とは、判決文2ページ目にあり、婚姻制度を定める民法及び戸籍法の諸規定が全体として異性間の婚姻(以下「異性婚」)のみを認めることとし,同性間の婚姻(以下「同性婚」)を認める規定を設けておらず,これら民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定を総称して「本件規定」と呼んでいる。

分かり辛いが、同性婚に関する制度がないことは憲法の規定に違反するが、ないことによる国家賠償を受けることはできないとしている。それでは、どうなるの?と言うわけで、 次の朝日の記事がおもしろいと思った。

朝日 3月17日 同性婚訴訟判決「画期的」「混乱つながる」 各党温度差

そして裁判を提起した原告は、国会に速やかな立法措置を促す必要があるとして、控訴の予定も明かしたと弁護士ドットコムニュースは伝えています。

弁護士ドットコムニュース 3月17日 同性婚訴訟、「立法措置促す」と原告側は控訴へ 違憲判決には「画期的判断」と高評価

結婚に関して、選択的夫婦別姓を、望んでいる人の数は、同性婚より多いはずです。何故、結婚したらどちらか一人は姓を変えねばならいのか、強制はおかしいと思います。

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2021年3月15日 (月)

福島原発事故から10年の課題 トリチウム

福島第一原発のトリチウムについては、様々な報道がある。福島原発事故関係のブログを書いたからには、やはりトリチウムについても書いておかねばと思った。

1) トリチウムとは

Wikiはここ にあり、三重水素とも呼ばれる。あの燃料自動車にも使われる元素番号1の水素である。自然界の水素の多くは陽子が1つで電子が1つであるが、トリチウムは陽子は1つと中性子2つが原子核であり、電子が3つある。いかにも不安定な感じであるが、放射性崩壊のベータ崩壊をして電子を出して、中性子が陽子になり、元素番号2のヘリウム(He)になる。半減期が12.32年で1崩壊あたり18.6keVの崩壊熱を出す放射性元子である。

トリチウムが水素であると言うことは、大部分は水として存在する。水、すなわちH2Oの”H”であるが、トリウムがある水とは、2つある水原子”H”のうちの一つがトリチウムであり”T”で現すとTHOという化合物の水である。仮にそんな水を電気分解して水素と酸素を得たならば、水素はHとTが混合した状態である。この”H”と”T” が混じった水素を”H”と”T”に分離することは、できなくはないが、とてもやっかいである。

2) 福島第一原発のトリウム

福島第一原発に存在するトリチウムも水として存在する。トリチウム単体だったと仮定したならば、トリチウム”T”は普通の水素”H”より重いがヘリウム”He”より軽いので、空の上に拡散していく。福島第一原発1~3号機合計でどれだけの量があるかと言うと、2019年10月31日で856兆ベクレル(Bq)と言うわけで、重量にすると私の計算では2.4グラム(g)である。但し、トリチウムが含まれている水の量は、この東京電力のグラフ のように2021年1月で126万m3と言うことである。ここ にグラフがあるが、2月末-3月初めでは1日あたり100m3増加している。 この水の量は雨水の流入と地下水である。

地下水流入はやっかいな問題である。流入してきた地下水はくみ上げざるを得ない。くみ上げなければ、放射性物質を含んだ水が地下水にまぎれて外部に流出する恐れがある。安全の為には地下水が常時流入するようにポンプアップを続けねばならない。「黒部の太陽」という小説・映画でトンネル工事が破砕帯を抜けるにあたり苦労した話がある。しかし、破砕帯の水は外部に、排出する際に処理は不要であり、また切り羽部分の空気圧力を高くして、水の流入量を減少させることも可能であった。福島第一原発は、逆で地下水は外部に漏出できない。地下水対策で実施していることは① 地下水バイパス揚水として発電所西側で地下水をくみ上げ、発電所へ流れる地下水を減少させること、②  サブドレインと称している発電所外側近辺で地下水をくみ上げること③ ①の地下水バイパスの発電所側に凍土方式の陸側遮水壁を建設し凍結して地下水進入防止を図っていることと④ 地表をアスファルト等で覆って雨水の地中への浸透を減少させることをしている。

福島第一原発1~3号機の現状は、事故時の核燃料がデブリとして原子炉格納容器の底部に個体として存在する。このデブリは核分裂はしていないが、核崩壊はしており熱を発している。この熱を進入してきた地下水を利用し、循環させて冷却をしている。使用済み核燃料プールの役割を、破損した原子炉格納容器が果たしている。循環水には大量の放射性物質が入る訳で、セシウムやストロンチウム等の放射性物質を除去(分離)している。流入した地価水相当の量は循環から外に出さねばならず、ALPSと呼んでいる装置で水に含まれている多核種のほとんどを除去しているが、トリチウムはALPSで除去できない。このトリチウムが含まれている水の貯蔵量が126万m3と言うわけである。

3) 対処方法

126万m3は、20万トンのタンカー6隻分に相当する訳で、やはり多い。ダムの貯水量からすると少ないが、ダムには貯蔵できない。何故なら、蒸発させられないから。トリチウムがTHOになっていて、H2OのなかにTHOが混じっている。重量比では1兆分の2がHTOである。HTOの量は重量では小さいが、放射性物質として放射線を発する量としてのベクレルで計測すると126万m3の水はH2Oがゼロベクレルであるのに対し、HTOは856兆ベクレルである。蒸発とは水が気体になることで、気体の中にTHO、すなわちトリチウムが含まれることとなる。なお、H2Oの水素としてではなくHあるいはトリチウムとして溶けているものもある。

処理方法としては、① 気体(水蒸気)として放出する、② 気体(トリチウムを分離した単体)として放出する、 ③ トリチウムを分離しトリチウム単体として気体保管する、④ 地下深く高圧注入する、⑤ 海洋放出する方法と ⑥  タンク管理を継続する方法の6種類ではないかと思う。

放出せずにタンクを増設し、保管量を増やすことも不可能ではない。但し、どこかで一杯になる。安全性を考えると敷地の外には保管したくない。輸送をする場合は、タンクローリーであれパイプラインであれ事故の危険性はある。大型タンクにすると万一の漏出事故の対策を考えると適切な大きさにせざるを得ない。どこまでタンク増設が可能か私には不明だが、検討・研究の価値はあると思う。

なお、トリチウムは半減期12.32年の放射性物質であることから12.32年経過すれば半分の量となり、半分はヘリウムに変化する。トリチウムの放射線量の経年変化を図示すると次のグラフとなる。福島第一原発の汚染水のトリチウムは、崩壊により減少はするが、一方で新たに壊れた原子炉配管や燃料デブリから発生するものもある。差引、どうなるのか私には分からない。

Tritium20213

トリチウムの①の気体として放出すること並びに⑤の海洋放出は、実は世界中の原発で行われているのである。次は、2020年2月10日の多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会の報告書にある図6である。

Tritium20213w

日本についても数字がある。福島第一 2010年液体放出2.2兆ベクレル、気体放出1.5兆ベクレル。日本のBWR平均液体放出316億-1.9兆ベクレルで気体放出が770億-1.9兆ベクレルとあり、更に日本のPWRの場合は平均値として液体放出18兆-83兆ベクレル、気体放出4400億-13兆ベクレルとなっている。

PWR(加圧水型原子炉)の方が、トリチウムの発止量・放出量が多いのであるが、この原子力産業協会の放射線に関する基礎知識(118) によれば、ホウ素(ボロン)の使われ方が、PWRとBWR(沸騰水型原子炉)とで使われた方に差があるためトリチウム発生量が異なると言うことである。また、次の日本の原発別の年間トリチウム海洋放出量の図がある。

Tritium20213j

トリチウム海洋放出に対する反対が根強いと聞く。しかし、1979年に福島第一原発におけるトリチウム海洋放出量は年間22兆ベクレルという基準値が設定されたとのことである。もし、この22兆ベクレルの海洋放出をするなら、856兆ベクレルの保管中のトリチウムを含む水は33年で処分可能ということである。

なお、上の図からすれば、PWRなみの排出量を認めれば、年間80兆ベクレル程度まで海洋放出可能であり、10年強で処理が終了する。常磐ものというブランド魚という話がある。ここ にふくいお魚図鑑がある。若狭湾には、PWR原発が5発電所あり、いずれも福島第一原発より多くのトリチウムを海洋放出していた。もし、常磐もの魚を消費者が敬遠するなら、若狭もの・ふくいお魚は、どうなるのだろうと思う。

福島第一原発のトリチウム問題を調べていくと、報道されない重要なことの存在に気がつく。福島第一原発の廃炉は、誰もやったことのないことをやっているのであり、行程通りには進まないのが当然であり、その中で安全第一を最重要事項として進めている。この安全第一とは、工事の事故もそうであるが、それと同等あるいはそれ以上に放射性物質の放出リスクに気を付けなくてはならない。福島第一原発事故が起こったときもそうであったが、今も人気取りをもくろんだ間違った政治家の発言がある。関係者の方々は、雑音に惑わされることなく、自らが信じる良心を大事にして任務を続けていただきたいと思う。

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2021年3月12日 (金)

福島原発事故から10年の教訓(3)

2011年3月11日に福島原発事故は発生した。この事態に関する、東京電力福島第一原理力発電所の3月11日発表(これ) は次の様なことを伝えている。

  • ・・・福島第一原子力発電所1号機、2号機および3号機は、午後2時 46 分頃に宮城県沖地震により、原子炉が自動停止。
  • 外部電源が確保できない状態となり、非常用ディーゼル発電機が自動起動。
  • 午後3時 41 分、非常用ディーゼル発電機が故障停止し、これにより1、2および3号機の全ての交流電源が喪失、午後3時 42 分に原子力災害対策特別措置法第 10 条第1項の規定に基づく特定事象が発生したと判断し、第1次緊急時態勢を発令するとともに、同項に基づき経済産業大臣、福島県知事、大熊町長および双葉町長ならびに関係行政機関へ通報した。 今後、非常用ディーゼル発電機が停止した原因等を調査し復旧に取り組む。
  •  1号機および2号機の非常用炉心冷却装置について、午後4時36分に、原子力災害対策特別措置法第15条第1項の規定に基づく特定事象が発生したと判断し、経済産業大臣、福島県知事、大熊町長および双葉町長ならびに関係行政機関へ通報(1号機については第15条第1項を一旦解除したが、再度午後5時7分に適用)

次の文章は国会事故調報告書143ページからの抜粋です。

地震発生から約50分後に来襲した津波によって、多くの非常用ディーゼル発電機や冷却用海水ポンプ、所内配電系統設備、直流電源設備等が浸水した。
以上の結果、1、2、4号機では全電源を、3、5号機では全交流電源を喪失するに至った。さらに、3号機も3月13日2時42分には直流電源が枯渇し、全電源を喪失した。

1) 事故の深刻さ

福島第一原発は地震と津波で大きな被害を受けたが、直流電源(バッテリー電源)を失ったことは、致命傷だった。原発とは、原子炉の中に運転中に人は入れない。温度、水位、圧力等の計器を現場で見れない。電線や途中の中継器を伝わってきた信号が運転室・制御室の計器に表示・記録される。更に一部の重要な機器(例えばバルブ)は、複数の手段で操作が行えるようになっている。直流電源も喪失した事の意味は、お手上げ状態になったことと等しい。

福島第一原発の原子炉の核分裂の継続は停止することができた。その意味では最悪の事態の回避は地震直後の14:46に達成した。残るは、核分裂の結果蓄積されている放射性物質の崩壊熱の除去を続けることである。核分裂もそうであるが、崩壊熱も空気なしの密閉状態で発生するので、冷やされていないと温度は天井知らず。2000°C以上にもなるし、核燃料まで融解してデブリとなっているので3000°C以上にもなったのではと思う。また、水素爆発の水素も高温金属が水と反応して発生したのである。

私は今でも思っているのがが、自衛隊を何故災害派遣により、福島第一原発へバッテリーや電源車を運搬することと福島第一原発の最低限度の作業エリアの津波・地震がれき撤去をしなかったのかと残念である。1号機水素爆発の発生までは、放射線量も高くはなかった。

参考まで、国会事故調報告書の同じ143ページには次の様にある。

電源喪失によって、適時かつ実効的な原子炉冷却も著しく困難になっていた。なぜなら、原子炉冷却、すなわち、高圧注水や原子炉減圧、低圧注水、格納容器冷却又は減圧、最終ヒートシンクへの崩壊熱除去といった、冷温停止へ向けた各ステップの実行とその成否は、電源の存
在に強く依存しているためである。また、前述した発電所構内のアクセス性の悪化は、消防車による代替注水や電源車による仮設電源、格納容器ベントのライン構成及びそれらの継続的な運用において、大きな障害になった。

2) 関係者の義務

当時、政府の原子力災害対策本部長であった首相は3月12日に福島第一原発にヘリコプターで自ら飛んでいくという必要性・有効性を考えるのではなく大衆アピール性を考える人であったし、当時の与党は「政治主導」と言って、役人の言うことを聞かない人達であった。不幸な時代であったと思う。今年も国会議員選挙があるが、投票基準は「政権交代」であってはならない。本質的な「国民のために働く人を選ぶ」を基準にすべきである。

さて、最近公務員の辞職が相次いでいる。本当は、「政治主導」と言っていたバカ内閣での公務員だって、事業仕分けと言ってつるし上げられていた公務員だって、自ら正しいと思うことは、国民のためなら自らの主張を通すべきである。 結果、冷や飯を食わされるかも知れないし、辞職に追い込まれることになるかも知れない。公務員は、憲法12条2項を貫いて、自らの職務において国民に奉仕する者であるべき。

なお、東京電力で原子力に関係した人も同じである。例えば、非常用ディーゼル発電機を地下以外に敷地内の屋外に増設しておけなかったか、或いは電源車をスタンドバイとして敷地内に置いておけなかったか。福島第一原発は、当時としては米GEの設計指針に依存せざるを得ず、津波には弱い面があるレイアウトとなっていたと私は思う。しかし、途中改造は東京電力がすれば良いのであり、どのような検討がなされていたか私は興味がある。

吉田調書には「官邸のバカヤロ」てきな発言があるが、官邸と東京電力との間はどうだったのだろうか?電力会社でも人により政府に頭が上がらない人もいるし、その逆もいる。しかし、福島第一原発事故のような場合には、電力会社としても、これは実現して欲しいということもあると思う。会社を辞める事になっても良い。

3) 危険な原発だからこそ

原発は危険である。だからこそ、運転するなら、廃炉をするなら、廃棄物処理をするなら、危険性を考えて業務・仕事をして欲しい。

原発は危険であると述べた。しかし、考えれば多くの側面を持っている。原爆であり、水爆の元である。原発無くして、原爆無し。核保有国は皆原発を持っている。原発はCO2を発生しないと言うが、厳密には核分裂に酸素も炭素も必要ないのでCO2とは無関係。しかし、建設やウラン採掘、運搬、保守の時には化石燃料を使っている。CO2もリスクであるが、放射性廃棄物もリスクである。核分裂がCO2を出さないとして優れていると単純には言えない。

やはり、様々なことを考えざるを得ないようです。

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2021年3月11日 (木)

福島原発事故から10年の教訓 (2) 責任問題

2021年2月19日国と東電双方に賠償を命じる判決が東京高裁であった。(参考 日経記事

国の責任と言った場合、国とは何であるのかも考える必要がある。国家賠償法の国とは政府のことである。しかし、政府に故意や過失はない。故意や過失は、人間が犯すものであり、国家賠償法では「公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」となっている。 しかし、これは政府と地方自治体のみにあてはまるのではない。民間企業でも同じであり、意思を持ち、判断するのは人間である。損害賠償に関しては、政府や企業をして賠償金を支払わせる必要がある。しかし、事故の原因究明・再発防止・調査/研究にあたっては真摯な取り組みが求められる。

1) 原発は危険であることが顧みられなかった

直前のブログで原発とは危険なものであることを書いた。 ところが、多くの人達は原発の安全性を信じていた。 信じてはいなくとも、危険であると声高に主張することは、はばかれた。関係者の多くは、5重の壁とか5重の安全性と主張し、素人からの批判を相手にしなかった。原発専門家とは、原発があることにより仕事や職を得ている人であり、そうである限りは批判は困難であった。政治家も全く同じ。

ローマクラブが「成長の限界」と言う報告書を出したのが1972年であり、地球上の資源の有限性を警告した。1973年末近くから第1次オイルショックが始まり、原油価格は3年後の1975年末には3倍以上となった。原子力が脚光を浴びて当然であり、燃料資源の輸入国である日本にとって原子力が重点施策となるのは当然のことであった。発電に関しては、国産エネルギーである水力は、当時既に可能なポテンシャルの大部分は開発済みであった。原子力は、コスト面からは燃料費の割合は低く、建設やメンテナンスで国内企業に発注される割合は大きい。

世の中の流れに警告を発することは容易ではない。しかし、誰かが危険性・安全性リスクに関して強い警告を発していても良かったのではと思う。

2) 津波

津波の予見可能性と対策に関しては、裁判で論点になっている(参考:福島民有新聞 2020年5月11日記事 )。2002年の地震調査研究推進本部の「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」という報告書はこれ と理解するが、この報告書で大津波を予見することができ、津波対策を取る責任があったとまで言えるのか、読んでみて私は相当疑問に思った。

原発は危険である。従い、津波対策は万全でなくてはならないとことは明白である。では、福島第一原発1-4号機の場合に何メートルの津波を想定すべきかは、答えられない。国策として原発を推進しているなら、国の機関として津波の基準を定め、各原発の津波対策を評価して合格・不合格を判断すべきである。電力会社による独自判断で対応させ、失敗すれば所有・運転している電力会社であるという論理構成は無責任と考える。

3) 原発実施者

1955年に原子力基本法が制定され、日本の原子力・原発は、この法律により実施されている。原子力利用に関する政策は内閣府の原子力委員会が企画し、審議、決定することとなっている。

原発を保有・運転しているのは上場会社である民間企業である。私は、これに違和感を感じざるを得ないのである。上場会社は利益を追求せねばならない。上場会社は株式会社であり、意思決定機関を構成する取締役等の任期は2年とかであり短期である。そんな組織が計画から運転まで10年。運転期間50年。廃炉何10年。廃棄物処理100年以上といったような長期の業務を果たすのにふさわしい組織とは思えないのである。核燃料サイクルまで考えれば、300年-1000年と言った期間ではと思ってしまう。そして、取りかかったら、止められないのである。止められない例が、電源開発の大間原発だろうと思う。

日本の原発を今直ちに運転を止めても、今後100年以上見守る必要がある。企業で言えば、収入がないのに、支出が100年以上続くのである。特別な法律を制定し、特殊法人を設立して、問題の無い原発体制を構築する以外に方法はないだろうと思う。逆の言い方をすれば、現在日本で原子力発電所を保有している北海道電力、東北電力、東京電力ホールディングス、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、日本原子力発電、電源開発の11社が原発事業を譲渡して合理的な原発事業を実施できる特殊法人を作ればよいのだろうと思う。なお、原発事業とは発電事業のみを意味するのではない。原発の廃炉事業や廃棄物処理事業も極めて重要な事業である。

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2021年3月 9日 (火)

福島原発事故から10年の教訓(1)

2011年3月11日の東日本大震災の日から10年になろうとしている。東日本大震災の災害・事故で忘れられないことは、東京電力福島第一発電所の津波被害とそれにより引き起こされた放射性物質の拡散・汚染事故である。東電の責任 である。同時に、国の責任であるとしたところで、将来に向けて、我々は何をすべきかが見えてこないと考える。やはり、事故から10年を機会に根本問題を考えてみたいと思う。

1)原子力発電所(原子炉)は、安全か

このそもそもの問に答えるのが第一歩である。そして、その答えは、「原発は危険」となる。例えば、原子炉の最高温度はATOMICAにあるこの表 によれば柏崎刈羽原子力発電所の場合、1710°Cの超高温となっている。PWRの場合は、燃料最高温度を二酸化ウランの溶融点2800°C未満にすると言うことであり、他の原発原子炉でも同じような温度だと思う。原子炉の熱はウラン235が核分裂する際に発生する熱(エネルギー)を蒸気で取り出して蒸気タービンで発電機を駆動して電力を得る。熱は核分裂から発生するが、燃料たるウラン235は運転中の原子炉内にあり、ウラン235の核分裂を制御することにより運転するべき出力(発電)を得る。そして、このウラン235の核分裂とは熱(エネルギー)を発生し、同時に放射性物質を生み出す。(参考: 原子核分裂核分裂でできた物質の片割れはどこに?核分裂原子炉内の生成物 ) 1kgのウラン235 は、核分裂により1kgの他の物質(核分裂生成物)が生まれ、これらは放射線を出す放射性物質である。ちなみに、100万kWの原発を1年間運転したとすると、補充する必要があるウラン235は約1,200kgであり、5%濃縮ウランだと核燃料ベースで24トンの取り替えである。ウラン235 が核分裂生成物になるのであるが、核分裂生成物を燃料棒の内部に完全に閉じ込めることは無理である。5重の壁とか5重の安全性を備えているとしても100%安全にはならない。

2)100%安全の誤解(神話)

福島原発事故を生んだ大きな要因の一つが安全神話(信仰)であったと考える。神話や信仰などと言う言葉は使いたくない。人間は神をつくってはいけない。人間は謙虚であるべきです。真実を見つめ、真実を謙虚に受け止め、努力することが重要です。福島事故の教訓がもたらしたことに、原発近辺の住民避難計画・訓練がある。福島事故以前に誰も言い出せなかった。考えた人はいたと思うが、関係者は口にできなかった。

原発近辺の住民が原発の立地を受け入れていただいていることにより、我々は原発で発電した電気を使える。使うことができた。そう考えたなら、原発近辺の人々が非難するために利用できる高速道路やバス等の輸送手段を受益者の負担により整備することも当然のことのように思える。

今回は、ここまでとします。言いたいことは多くあり、できる限り続けようと思います。

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2021年3月 7日 (日)

コロナワクチン接種でアナフィラキシー

コロナワクチン接種でアナフィラキシーを起こした人が2人おられるようです。

日経 3月6日 コロナワクチン接種でアナフィラキシー、国内2例目

1例目は、次の厚労省のWebでの発表にあります。初めてのワクチンであり、副反応の疑いがあれば、安全性の評価のために、偶発的な症状も含め、広く収集し、接種に関連するアナフィラキシーの報告を受けた際には公表するということは正しいと考えます。

厚労省発表 3月5日 新型コロナワクチン接種後にアナフィラキシーとして報告された事例について(1例目)

アナフィラキシー (Anaphylaxis) とは、何か?極めて短い時間のうちに全身にあらわれるアレルギー症状のことです。アレルギーの原因物質に触れる、食べる(飲む)、吸い込むことで引き起こされますが、血圧の低下や意識障害などを引き起こし、場合によっては生命を脅かす危険な状態になることもありえます。このWeb が参考になると思います。

なお、ワクチン接種によりアナフィラキシー ではないが、 腫れ、痛み、頭痛、発熱、だるさ等々の副反応が出る人は多く(もしかしたら半分以上)おられるようです。もともとからアレルギー体質の人はワクチン摂取は避けた方が良いのかも知れません。医師に相談ください。通常の場合は、ワクチン接種のリスクとCOVID-19に罹患するリスクを自分でよく考えて決めれば良いと思います。

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