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2023年7月25日 (火)

子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種は進むのか

日経ビジネスに、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトからの転載とあるが「子宮頸がんワクチンは1回接種でも有効、がん撲滅に大きな後押し」との7月21日の記事(ここ )があった。

子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)に関しては、このブログでも何回か書いたことがある(例えば、このブログ )。現在どうであるのか、2022年4月より、自治体における定期接種の個別勧奨が再開されワクチン接種が進むと思うが、これを機会に調査してみた。

HPVワクチン接種は、残念な経緯をたどり、一旦は悲惨な状態になったのである。2010年11月26日から、子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業が開始され、2013年4月1日より、小学校6年生~高校1年生相当の女性を対象とした国の予防接種プログラムにHPVワクチンが定期接種として導入された。しかし、マスコミなどで広範な疼痛または運動障害といった症状が報告され、2013年6月14日に開催された厚生労働省の審議会で積極的な接種勧奨の一時差し控えが勧告された。

約8年半経過した2021年11月26日にこの厚生労働省健康局長の通知が出され、HPVワクチンの定期接種へと方向転換となった。

結果、HPVワクチン接種率は生まれ年度によってこの図のように生まれ年度により激しく異なる状態になった。日本は、子宮頸ガンの罹患率では他の国が減少傾向なのに、増加傾向という奇妙な状態にあるようだ(このグラフ )。現在の接種率は、どの程度かということで、2022年4月から9月の間のHPVワクチン定期接種の接種率はこの資料のように1回目30.1%、2回目18.8%、3回目7.1%ということである。

WHOのデータ(これ )を使って、先進国での比較をしてみた。日本は、たった1国で零付近を頑張っている。

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<追記>

7月28日に厚生労働省より”「HPVワクチンに関する調査」(理解度に関する調査、情報周知の実態に関する調査)の結果を公表”がありました(このページ )。 報道発表資料は、ここ にあります。

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2023年7月21日 (金)

黒部ダム (3)環境影響

黒部ダムの環境影響について、気になるのはダム湖。すなわち、ダム湖となり水没して失われた地域の自然・環境である。残念ながら黒部ダムが存在しなかった以前の状況は戻ってこないと考える。

1) 黒部ダム建設前のダム湖地域

黒部ダムの位置は黒部下廊下の上端位置であり、この地点から下流部分が下廊下となる。黒部ダムが満水となった場合は、その満水位標高は1448mであり、黒部川が標高1450mにある位置とは、黒部川が上廊下となる付近に近い。違った表現をすれば、黒部ダムとは、上廊下と下廊下に挟まれた部分を貯水池となるように建設されたダムであるとも言える。

ダム建設前のダム湖予定地域の写真を探したが私には見つけることはできなかった。 そこで、国土地理院(地理調査所)の黒部ダム建設以前である昭和30年7月30日発行の5万分の1地形図「立山」の謄本を入手して、観察した。次図がその謄本であり、中央付近で青の円弧で示したのが黒部ダム付近。中央下部で青円で囲んだのが平ノ小屋・平渡場付近である。

Kurobe1

ダム湖となったのは黒部ダムの上流(南)であり、満水時の湖面水位は1448mであるから、標高がこれより低い部分がダム湖となっている。ダム湖の上流端(南端)は、上の地形図では黒部川が図外となる付近である。ダム湖は黒部川の上廊下と下廊下に挟まれた部分であり、地形図で見ても廊下と呼ばれる垂直に切り立った渓谷ではない比較的穏やかな部分と推定される。

現在の地理院地図で計測した場合、黒部ダム湖が満水になった時、その上流付近はダムから直線距離で約7kmである。一方、下流にむいて直線7kmは十字峡の少し下流である。その川面標高は約940m。ダムの基礎面が標高1268mなので、ダムより下流に7km下がると標高は328m低くなる。一方、ダムより上流側は7km登って1448mなので、ダムの基礎面1268mとの差は180m。ダムから下流部分は1.8倍以上の急勾配・急流なのである。

満水位1448mに相当する黒部川川面地点に相当する上廊下の下流端付近から7km上流に遡った地点は薬師岳の金作谷が合流する付近であり標高1650m程度。上廊下も7kmで河川標高差202mである。ダム湖となっている黒部川の部分と比べると急流である。

2) 平の渡し

1956年(昭和31年)6月30日の厚生省富国第420号の黒部ダムに関する許可の第10項目は次であった。

十 針ノ木谷ー平ノ小屋間の歩道及び釣橋の代替として無料渡船を設けること。

無料渡船は関西電力が山小屋「平乃小屋」に委託して運営していると了解するが、平乃小屋の紹介は山の月刊誌PEAKSのこのページにありました。また、山のSNS Yamarecoに平の小屋に関しての投稿記事として黒部の「平の小屋」の元祖と、弥三太郎伝説がありました。この記事に、平の小屋付近は川幅が広がった「黒部平」と呼ばれていたと書かれている。

3) 黒部ダム湖

平の小屋から3km程上流に行った地点が黒部ダム湖の最上流部であり、そこから少し更に上流に行った地点付近から黒部上廊下が始まる。黒部ダムは黒部下廊下と上廊下の間に挟まれた直線距離で7km程度の黒部川上流でも急峻な渓谷ではない部分が貯水池となるようにダム位置が選定されている。そして、黒部ダムは高さ186mで、総貯水量199,300,000m3、利用水深60mで有効貯水量148,800,000m3を確保している。なお、満水位での湖水面積は1,489,000m2である。黒部ダムの湖面標高と貯水量の関係は次のグラフに近いと推定する。
Kurobedamcapacity

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2023年7月10日 (月)

黒部ダム(2)環境影響評価

黒部ダムの環境関連について、もう少し触れてみたいと思います。

1) 環境影響評価

黒部ダムが建設された当時は、環境影響評価や環境アセスメントに関する現行の制度は存在しなかった。しかし、ダムの建設および運用に関連して発生する環境への負荷や影響が無視されたわけではない。

環境影響評価法が日本で制定されたのは1997年であり、環境基本法のその4年前の1993年である。但し、1972年(昭和47年)6月に「各種公共事業に係る環境保全対策について」が閣議了解されて以来「公有水面埋立法」等の個別法、各省庁の行政指導、地方公共団体の条例、要綱等により環境影響評価か行われることになり、公共事業での環境アセスメントが導入され、1975年頃までには港湾計画、埋立て、発電所、新幹線についての制度が設けらていた。1972年以前に建設された黒部ダムは、環境影響評価の対象になり得なかったのであるが、建設地が国立公園内であり、国立公園法(注1)の適用対象となった。

昭和40年9月に関西電力株式会社により黒部川第四発電所建設史が発行されており、その中に資料として「黒四建設史年表」がある。この「黒四建設史年表」に『(1955年)30.12.15 黒四建設に係る諸行為につき、国立公園法に基づく許可申請書提出』とある。その4か月前となる部分に『(1955年)30.8.18 日本自然保護協会、黒四発電に関する反対陳情』とある。決して、反対運動がなかったわけではない。

国立公園協会発行「国立公園 81 AUG. 1956」に田中敏治氏が『黒部川発電問題の回顧』という文章を書いておられる。当時の黒部ダム建設に関する環境保護・自然保護に関する意見と考えることから、その一部を紹介する。


この計画が国立公園に及ぼす影響としては、黒部峡谷の核心である国際的規模を有する下廊下一帯の峡谷水を奪うことによって決定的な景観破壊が行われることが予想される重大問題であるので、昭和29年、30年の夏2回に亘り国立公園審議会委員の参加を願い、実地踏査を行い検討を重ねた。
昭和30年の12月15日関西電力株式会社から正式に黒部第四発電所建設に関する申請があり、同31年2月16日開催の国立公園審議会に本件に対する意見を求められ、特に電力関係特別委員会を設け慎重な検討を行った結果、回を重ねること10回6月14日に至って条件付き許可を適当とする旨の意見書が厚生大臣に提出された。

1956年(昭和31年)6月30日に厚生省からの許可が出て、建設省から1月ほど後の7月28日に河川法水利使用変更許可が、そして8月27日に河川法工事実施認可が出た。8月31日には、建設に関する工事請負契約が完了した。

2) 黒部川扇状地農業用水問題

黒部川扇状地では、古くから稲作が営まれてきたが、黒部川の水温が低冷であることから、稲作冷水温障害が発生することもあった。黒部ダム建設・運用により川水の温度が下がれば、冷水温障害の発生確率が高くなる恐れがある。

この冷水温障害に関して、「黒四建設史年表」には、(1959年)34.8.22に「令水害補償妥結」とある。村串仁三郎氏が書かれた中部山岳国立公園内の黒部第四発電所建設計画と反対運動」は、次の様に記載している。

 一方,黒部第四発電所建設計画に反対していた地元農民も,1956年8月15日の『富山新聞』によれば,「黒部第四発電所建設をめぐる冷水害問題は十五日の午前十時から県知事室で関電代表と地元代表の間で話し合いが行なわれ,関電側の譲歩により午後四時両者の間に仮調印,ここに今春いらいもんでいた難問は解決をみた。このため県ではちかく発電所の工事認可をあたえるもようである。」と指摘し以下のように報じた。

「この日,県側高辻知事,成田副知事,川崎総務部長,中田農地部長,県会側柚木農地委員長,地元代表笹島,古市,油谷三県議,荻野黒部市長,金森朝日町長,米澤入善町長,永口舟見町長,関電側から森副社長らが出席して,約七時間の長時間の秘密会議を開き知事のあっせん案を協議した。
その結果根本方針である食糧増産,電源開発の二点を双方の立場から解決することに急速に話がまとまり。
一,上流の貯水池で表面水を取る施設をする。
二,本流発電所の水とかんがい水を分離する。
三,流水客土事業に県も協力する。
の三項目の協定事項を了解し,森副社長と地元代表者の間に仮調印を行った。」

表面取水のための取水設備は、ダム湖右岸(東側)にあり次の写真(Google MapのStreet Viewで作成)の白丸部分の設備である。

Kurobeintaketower_20230709014801

表面取水とは、水は摂氏4度において比重が最大であることから、外部から熱が加わらない場合は、比重の大きな4℃の水が底部に滞留する。従い、ダム湖の湖水面付近が水温が相対的に一番高く、水面付近で取水するような方式の設備が表面取水設備である。

具体的には、上の写真の道路に見える部分がダムの堤頂であり標高1454m。黒部ダムの基礎岩盤面は標高1268mであり、基礎岩盤面から堤頂までのダムの高さ(堤高)が186mであり、日本一高いダムである。ダム湖の満水位は、堤頂から6m低い標高1448mであり、ダムの設計利用水深60mを差し引いた最低湖面位置は標高1388mとなる。取水した水は、延長10,317mの取水トンネル(ダム位置で標高1365m)を通って圧力鉄管の上部(標高1330m)まで流れる。従い、取水位置は標高1388mから1365mの間であるのが通常と言えるが、水面下最大70mになるかも知れず、低水温の取水となるかもしれない。

そこで取水位置を調整することができる設備を設置したのである。上からの写真(Google Map)は次である。
Kurobeintaketowera

(注1) 国立公園法(1931年(昭和6)年4月1日公布)は、1957年(昭和32年)6月1日に自然公園法が公布され、廃止された。

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