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2023年9月11日 (月)

黒部ダム (5) 水力発電

黒部ダムは高さ186mの発電用ダムであります。 黒部ダムで貯水し、発電する水力発電の概要を考えてみます。

1) 黒部ダムの貯水量

7月21日のブログに次のグラフを掲げました。

Kurobedamcapacity

黒部ダムは、ダム基礎岩盤から186mの高さがあり、水深高180mから120mまでの水深差60mが設計利用水深となっている。 標高では、基礎岩盤が1268mであり、最低水位は1388m、最高水位は1448mとなる。 設計有効貯水量は最低水位の時はゼロ、最高水位の時は148,800,000m3である。

2) 黒部ダムの水による水力発電

黒部ダムの水による水力発電と言うと、黒部第四発電所と考えてしまいがちであるが、実際には下流にある全ての水力発電所を含めて考える必要がある。 しかし、多少複雑であることから、今回は、黒部第四発電所のみを対象として考える。 

黒部第四発電所の場所は次の地図の赤丸点にあり、黒部ダムからは直線距離約9km北方の位置である。 発電所は地下にあり、水平面で回転する発電用ペルトン水車の羽根の位置は標高858.5mである。 ダムの最高水位は1448mなので、水力発電の最大総落差は589.5mである。

水車発電機を回転させた水は仙人谷ダム貯水池・黒三沈砂地・連絡水槽を経由して黒部第三発電所と新黒部第三発電所へ供給される。 仙人谷ダムは黒部第四発電所の約850m北西の黒部川下流に位置し、仙人谷ダムの最高水位は黒部第四発電所の水車中心から7.5m低い標高851mである。 次の地図上で黒部第四発電所を赤点で示した。 河川断面図で示すと、その下の図となる。

Photo_20230907233101

Photo_20230907233801

現在の黒部川第四発電所の最大発電出力は、この2022年3月1日付電気新聞の記事にあるように337,000kWであり、この出力は72m3/秒の水をダムから水車に供給した場合に得られる。 最大総落差の589.5mに対しては発電効率81.02%であり、記事記載の有効落差545.5mに対しては発電効率は87.55%となる。 総落差と有効落差の差は、ダムから発電水車までの水路トンネルや水圧鉄管を通っての発電水供給であることから、それらによる損失である。 なお、黒部川第四発電所完成時の発電所出力は258,000kWで、水量は54m3/秒で、水車・発電機3基であった。1973年6月に4号機の増設が完成し、出力と使用水量が増加した。 

3) 黒部ダムから黒部第四発電所の発電水車への水供給

水車発電機はダムからの水量を調整することにより出力のコントロールを行っている。 一方、ダムへ流入する水量は自然の流れであり、一定ではない。 流入水量は、ダムより上流における降雨量により変化し、黒部ダムの場合は上流地域の融雪からの水もある。 融雪以外にも涌き水も関係する。 黒部川の河川流量であるが、1964年5月号の発電水力70「黒四特集号」19ページに昭和3年度~昭和24年度平均の毎月の黒部ダムの地点における自然流量の数字が掲載されており、これを図示したのが次である。

Kurobeflow_20230910001201

2月は最も流量が少なく、20,000,000m3にもならない。一方、6月は2月の8倍以上の160,000,000m3を越える。グラフには月間流量を単純平均した1秒間の流量も右のスケールとして表示した。 54m3/秒で黒部ダムから水車発電機に水を流せば258,000kWの出力が得られ、40m3/secなら191,000kW、30m3/secnなら143,000kW、20m3/secなら95,000kW、10m3/secなら47,000kWの発電出力となる。 

上のグラフの1月から12月の月間流量を合計すると年間流量831,237,000m3となり、年平均は26.4m3/secとなる。

4) 黒部ダムによる流量調節

流入する水量を、発電用に供給するのに、月ごとの変動をなるべく小さくなるように調整をすることとして、シミュレーションを行ってみた。 シミュレーションの前提として、流入量は上の図の通りとし、ダムの貯水量は148,800,000m3であり、これ以上の貯水は不可能とする。 この前提でシミュレーションを行った結果の毎月の発電供給水量とダム貯水量のグラフは次図となった。

Kurobeflow_20230911015301

11月から翌年3月にかけては流入量より発電供給水量の方が大きく、特に1月-3月は流入水量が少ないためダム貯水からの発電水の供給が大きく、ダム貯水量は減少する。 上図は青線が流入水量で、黄線が発電供給水量であることから、青線が黄線より下にあれば、差分がダムからの水供給であり、逆に青線が上にあれば、差分がダムへの貯水量の増加となる。 なお、100,000,000m3/月は、平均38m3/秒程度になり、発電出力では175,000kW程度、50,000,000m3/月なら20m3/秒程度であり、発電出力94,000kW程度である。

5) 黒部ダムは日本一高いダム その高さを変えてみた

ダムの位置はそのままで高さを高くすれば貯水量は増加し、低くすれば減少する。 高くした場合、低くした場合を考えるため、ダム高さに対する有効貯水量を次の表のように推定した。

Kurobedam20239a

ダムへの流入水量は4)の通りであるとして、有効貯水量が上表のようになった場合の発電用水の供給を、ダムの貯水量の限度が上表の有効貯水量になるとして、4)と同じシミュレーションを実施してみた。 各ダム高さの場合の結果について発電供給水量のグラフで比較したのが次図である。

Kurobedam20239c

貯水量が少ないと、流入量カーブと発電供給水量のカーブは、その差が小さい。 一方、現在の黒部ダムの高さ186mを196mへと10m高くしても、効果はそれほど大きくなく限定的と思える。 196mのダムにすれば、環境への負荷は増加する。 また、建設費も増加する。やはり、186mで有効貯水量148,800,000m3の黒部ダムが適切であるように思える。

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