2011年3月の福島事故から13年以上を経過したが、日本の原子力発電の現状について、冷静に分析しておくことが重要と考えました。 分析と言っても、巨大な対象であり、金銭面を主体として分析を試みます。
1) 日本の原子力発電所
日本において原子力発電所を保有している会社は次の表1に記載の10社です。 そのうち、稼働状態にあり、現在発電を行っているの3社で6カ所の発電所です。(本ブログの表はクリックで別ページ拡大表示)
原子力による発電が、日本において占める割合を現したのが表2です。
表2の発電量は、発電機が発電した電力の量ではなく、発電所が送電した電力量としています。 揚水発電は水力に含めています。 また、自家発電による発電については、発電して自家消費した電力量と外部送電・供給した電力量の双方を含んでいます。 表2の電源構成割合を2015年以後について示す日本の電源構成の割合の推移グラフを作成しました。
再生可能エネルギーは、風力、太陽光、地熱、バイオマス、廃棄物による発電としました。 2023年度の再生可能エネルギーによる発電量は200,562,466MWhであり、原子力発電80,283,706MWhの2.5倍でした。
2) 保有会社の原発に関するコスト
表3が、表1に掲げた原発保有会社の原子力発電の発電費(発電原価)です。 上側の表3Aが直近の2023年4月から2024年3月までの1年間で、下側の表3Bは、その1年前の2022年4月から2023年3月までの1年間です。 これら発電費は、各社の有価証券報告書(日本原子力発電は会社概況書)からです。
様々なことが言えるが、幾つかについて以下に記述します。
2-1) 運転(発電)していなくても、高い維持費・固定費
上の表1の通り、日本全体で稼働している原発は3分の1。 運転・稼働している3社の原子力発電費合計は2023年度8195億円で、2022年度は6590億円である。 これを表1の発電量で割り算して発電コスト単価を計算すると、2023年度関西電力10.04円/kWh、四国電力13.39円/kWh、九州電力9.79円/kWhとなり、2022年度はそれぞれ12.65円/kWh円、10.15/kWh、12.61円/kWhとなる。
発電していなかった7社の原子力発電費の合計は2023年度1兆1270億円、2022年度8204億円である。 10社を合計して、日本全体で1社の原子力発電会社であると仮定して、その費用合計を発電電力合計で割り算して発電コストを計算すると2023年度24.2円/kWh、2022年度27.6円/kWhとなる。
なお、10社合計で2023年度の発電コストが2022年より高いのは、東京電力の原賠・廃炉等支援機構特別負担金2300億円(福島原発の賠償費関係)の影響が大きい。 このことについては、「3) 原賠・廃炉等支援機構負担金(福島事故の賠償支援) 」で更に記述する。
2-2) 原発の安い燃料費
原発とは、ウラン235やプルトニウム239が核分裂する際に発生するエネルギー(熱)を利用し、蒸気を発生させ、蒸気タービンを駆動させ、発電する。 燃料棒と呼ばれている燃料集合体は、原子炉の運転開始後約1年で、その4分の1~5分の1取り替える。 この取り替え分を、燃料費(核燃料減損)として計上しており、火力発電の燃料費に相当する。 取り替え分(減耗分)を金額で示したのが、核燃料減損費であり、火力の燃料費に相当する。 発電した電力量で除して燃料費相当額の単価を計算すると、2023年度関西電力0.79円/kWh、四国電力0.78円/kWh、九州電力0.86円/kWhとなり、2022年度はそれぞれ0.75円/kWh円、0.86/kWh、0.86円/kWhとなる。
参考として、火力発電の場合の、燃料消費量を算出してみる。
資源エネルギー庁の電力統計によれば、発電に使用した石炭は、2024年度湿炭で101,131,690トンであり、LNGの発電消費量は37,814,308トンであった。 石炭火力とLNG火力の発電量は、表2に記載の通り282,223,316MWhと295,206,203MWhであった。 この数字を使って、kWhあたりの平均燃料消費量を計算すると、石炭火力は321g/kWhであり、LNG火力は128g/kWhとなる。
価格については、石炭もLNGも全量輸入であり、通関統計から推定が可能である。 結果、本年(1月-8月)の燃料価格は石炭25,000円/トンであり、LNGは95,200円と得られる。 そうすると、石炭火力の321g/kWhとLNG火力の128g/kWhは、金額で表示すると石炭8.96円/kWhとLNG12.19円/kWhとなる。 燃料費のみで考えた場合、原子力は非常に安いのである。
なお、表3A、3Bで燃料費のすぐ下の行に「使用済燃料再処理等拠出金費」が、更にその2行下に「特定放射性廃棄物処分費」と表示されている。 これについて、2-3)及び2-4)で記述する。
2-3) 使用済燃料再処理等拠出金費
この費用は、電力会社が「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律」に基づき「使用済燃料再処理・廃炉推進機構 (NURO)」に対して支払った「使用済燃料再処理等拠出金費」です。 金額はこのように、拠出金単価の発表があり、毎年度決定されている。 NUROは、受け取った拠出金を日本原燃株式会社に全額支払っている。 日本原燃における核燃料再処理代金は、MOX燃料への再処理加工設備が、未だ完成しておらず、全額前受金として計上されている。 2024年3月末の前受金残高は1兆5382億円である。
日本原燃は株式会社である。 株主は表1の原発保有電力会社10社が約90%、その他74社が約10%である。 資本金と資本剰余金合計が5771億円であり、負債は合計2兆8536億円で、そのうち1兆5382億円が前受金である。 一方、年間再処理能力800トンUのMOX燃料加工設備は、2024年度上半期に完成予定であったが、2024年8月発表の結果、2028年3月末竣工・2028年夏頃からの操業開始と延期された。 株式会社ではあるが、核燃料サイクル用のMOX燃料製造を担う国策会社であり、日本の核燃料サイクルの方針の下での会社経営であり、通常の株式会社のようには運営できないことがほとんどと思う。
使用済燃料再処理等拠出金を拠出し、それを電力会社が原子力発電費用として処理することについて、その拠出資金単価の妥当性、あるいは核燃料サイクルへの疑問もあるが、情報公開を正しく継続して欲しい。
2-4) 特定放射性廃棄物処分費
この費用は、電力会社が「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」に基づき「原子力発電環境整備機構(NUMO)」に対して支払った拠出金である。 NUMOは、発電用原子炉の運転に伴って生じた使用済燃料の再処理等を行った後に生ずる特定放射性廃棄物の最終処分の実施等を行う法人であり、この法律により設立されている。
NUMOが受領した拠出金は最終処分業務の費用支出に充てるため指定法人となっている「公益財団法人原子力環境整備促進・管理センター」が資金管理を行っている。 その残高は2024年3月で1兆1241億円となっている。
特定放射性廃棄物とは、使用済燃料の再処理の際に有用物質を分離した後に残存する放射性廃棄物であり、高濃度の第一種とそれ以外の第二種に分類されている。 「最終処分」とは、地下300メートル以上の政令で定める深さの地層において、特定放射性廃棄物及びこれによって汚染された物が飛散し、流出し、又は地下に浸透することがないように必要な措置を講じて安全かつ確実に埋設し、処分することである。
一体、どれくらいの期間で安全と言えるレベルになるかですが、次の図は電気事業連合会の高レベル放射性廃棄物の地層処分というWebページにある図です。 天然のウラン鉱石が放出する放射線のレベルにまで達するには、数万年を要するのです。
特定放射性廃棄物処分費は、核燃料再処理の結果発生する廃棄物の処理費であり、再処理の対象でない原子炉や様々な機器・建物・構築物等の廃棄処分費はこれに含まれません。
特定放射性廃棄物処分費に該当しない費用は、表3の4行目の廃棄物処理費または、原子力発電施設解体費になると理解します。 次の工程図は、この東海発電所廃止措置状況の4ページ目にあった工程表ですが、2001年に廃止措置に着手してから20年以上経過するが、未だ原子炉本体の解体には至っていない状態である。 安全が第一であり、原発廃止は時間を要するが、同時に費用もかさむと言えます。
3) 原賠・廃炉等支援機構負担金(福島事故の賠償支援)
この負担金は、福島事故後の2011年8月に公布された「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」により設立された「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」への支払である。 法の第1条に目的が書いてあるが、(1) 1200億円を超える賠償が発生した場合に賠償のための資金交付等を行うこと、及び(2) 地震、火災その他の災害により原発の廃炉を実施をする際の支援が法の目的であり、機構が担う業務となっている。
法は、表1の原子力事業者10社と再処理会社日本原燃が、機構に一般負担金を納付することを義務づけられている。 表3Aで10社合計1923億円(2023年度)の原賠・廃炉等支援機構一般負担金がこの負担金であり、2011以後納付された金額は合計2兆1008億円である。 負担金等の収入の残余は国庫に納付することになっており、2011年以後に国庫へ納付された納付金合計は2兆8055億円となっている。 一方、国から4340億円の交付金も受けている。
原賠・廃炉等支援機構特別負担金は、東京電力のみ納付しているが、福島事故の賠償等の為に、機構から資金援助を受けたことによる。 2011年以後に東京電力が機構より受けた資金交付額は11兆945億円である。 一方で、負担した特別負担金は7800億円である。 東京電力は、機構に支払う負担金は費用としているが、機構からの交付金の受取は特別利益に計上し、それに見合う費用(特別損失)として原子力損害賠償費として計上したりで非常に分かり辛い。 なお、11兆945億円は巨額であり、東京電力より損害賠償費と除染費用として支払われたのであるが、毎年度の支払額を表4として掲げる。
11兆円を東京電力は、どのように使途したかであるが、機構の第四次総合特別事業計画(抄)(令和6年4月26日改定。令和6年9月10日軽微な変更) にある項目別賠償額を見ると、次の表がある。
賠償の支払いは、個人に対する賠償等で2.2兆円、法人や事業関係の賠償で3.3兆円、その他の賠償で2.0兆円であり、賠償額合計は7.6兆円。 これに、除染等で3.6兆円を支出し、2024年2月現在で合計11.2兆円となる。 2024年9月現在で、見込額合計は13兆4千億円となっている。
機構は機構法で設立された法人であり、設立に際して、政府と政府以外の者で出資するとされ、政府70億円と民間出資社12社(表1の10社に加え日本原燃と電源開発)で合計して140億円の資本金である。 機構は、株式会社でなく、株主総会は存在せず、運営委員会の議決により重要事項を決定する。 運営委員は主務大臣の認可を受けて任命される。 機構は、福島原発事故に関連する賠償金支払い支援と廃炉支援をしている。 東京電力ホールディングスに1兆円の出資・資本注入による資金の供与も行っている。 なお、この出資により機構の議決権割合は50.09%となっている。
4) 廃炉費用
「原賠・廃炉等支援機構負担金」は賠償と除染関係であり、廃炉費用は該当しない。 東京電力は原子力損害賠償・廃炉等支援機構に廃炉等積立金として、法55条の3~55条の10により、2018年より毎年積立を行い、同時に廃炉に必要な額を取戻している(参考令和6年9月27日の機構による発表 )。 2018年4月から2024年3月までの6年間に積立てた金額は合計1兆8234億円で、取戻した金額は合計1兆1861億円であり、6731億円が2024年3月末現在の積立金残高となっている。
1兆1861億円は、2018年4月から2024年3月までの6年間に東京電力と機構が適切と認めた金額であるが、2018年3月以前にも廃炉費用は発生している。 機構からの資本注入は、汚染水対策を含め廃炉関係に充当されたと思う。 廃炉、賠償、除染の総額で33兆円(2020年までの期間で11兆円、それ以後に22兆円)必要であるとする次図の概算予想もあった。 (文書のタイトルは第四次総合特別事業計画(抄)で2021年8月4日認定、2023年4月26日変更認定とあり、作成者は機構と東京電力)
総額33兆円の費用であり、日経 2023年12月15日や東京新聞 2024年3月4日の報道のような23.4兆円より10兆円多い33兆円と考えるのが妥当なのだと思います。
5) 感想
原子力発電について金額面から考えることも重要である。 イメージや感覚での議論で方向性が出されることは、良くない。 原発は、建設地を選定・決定することも容易でない。 しかし、2-4)で書いた特定放射性廃棄物処分のための最終処分地の選定は、それ以上に困難なのだろうと思う。 もしかしたら、処分地が決まらず、地下処分ではなく暫定保管地での保管となることもあり得るのかもと思う。 そうなると、万一事故があれば、福島第一の放射性物質飛散よりはるかに酷い事故がありうるのか、リスクも考えて適切な判断をすることが重要である。
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