女性の年金問題
NHKが「私の年金足りますか? 女性の“老後リスク”にどう備える」というのをクローズアップ現代で放映していました(この番組 )。
NHKは、受け取る年金の月額平均が男性14万1,000円、女性9万8,000円と述べているが、この機会に考えてみます。
厚生年金保険とは、厚生年金保険法により政府が管掌する年金保険制度であり、法人の事業所又は事務所で働く人あるいは国、地方公共団体で働く人はすべて厚生年金保険の被保険者であります。 NHKの番組で述べている年金とは、厚生年金保険の老齢年金のことであります。 なお、個人事業主は厚生年金保険の被保険者に該当しないことから、国民年金法の国民年金被保険者となります。
厚生年金の保険料は、給与収入に対して一定の保険料率(現在は18.3%であり、事業主と折半なので被保険者負担は9.15%)を掛けた金額です。 このことから、厚生年金に関する統計により、加入者の給与水準を推定することができます。 図1は、男性加入者の給与水準毎の加入者数です。
グラフの右が跳ね上がっているのは、上限額が650千円であり、上限額を越えた場合は一括して650千円となっているからです。 650千円以上は人数ベースでは9.1%です。 なお、2019年以前は620千円が最高額でありました。 一般男子としているのは、船員のカテゴリー(全体の0.1%)を含んでいないことからです。
次の図2が女子の場合です。
男と女とでは、カーブが随分違っているのです。 なお、2008年頃と比較すると、女性の働く人の人数は増加しています。 2008年では、女性の厚生年金被保険者合計数は12百万人であったが、2022年では16.5百万人へと40%近く増加している。 2022年についての男と女の月額報酬毎の被保険者数を比較したのが次の図3です。
厚生年金保険・国民年金事業統計からすると、女性の場合は月給22万円で働く人が一番多い。 男の場合は、月給30万円が一番多い。 厚生年金保険・国民年金事業統計を使っての計算であることから、月給65万円以上の人は65万円での計算になるが、男の2022年の平均月給は365千円であり、女は255千円となる。
女性の賃金は男性より低いと、厚生年金保険・国民年金事業統計から言えるのであるが、過去と比べて格差の解消に向かっているのかを見たのが次の図4です。
縮小傾向ではあるが、2008年の0.647から2022年の0.700まで14年で5.3%の縮小であり、年間では0.3%-0.4%の縮小でしかない。 女性が活躍しておらず発展の阻害となっていると考えるより、女性の活躍を阻害していることから、日本が低迷状態にあると考えるべきであろうと私は思う。労働市場における低賃金の有能な労働者の存在は、労働市場全体の価格水準を下げることにつながり、正常な労働市場(マーケット)の形成は資本主義、市場経済主義における発展において重要と考える。
図3の元データから男の平均月給が365千円で、女の平均月給は255千円と計算でき、これに年間ボーナスを3.5月とすると、年間給与額15.5月となります。 この結果を、次の式で65歳まで働き、65歳以後に受給する年金額(年額)を計算しました。 計算した結果は、年間年金受給額が男210万円、女170万円でした。
なお、計算は次の式で行いました。 式の第1項は老齢基礎年金このページ(老齢基礎年金)であり、第2項は報酬比例部分このページ(報酬比例部分)です。
22歳から働き始め、65歳まで働き、給与水準は43年間一定と仮定しています。 20歳、21歳の時は、働いていなくても国民年金の加入義務があるが、これについては無視しています。 計算式で分かるように、年金に男女差はないのです。 給与水準に差があり、その結果が報酬比例部分の年金受取額に差が出ているのです。
なお、NHKが述べている、受け取る年金の月額平均額男性14万1,000円((年額万169円)、女性9万8,000円(年額118万円)は、私の計算結果の80%(男)と70%(女)の年金額になっています。 理由は、NHKの年金額は「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)このページ」の年金額の将来見通し (令和6(2024)年財政検証 年金額分布推計)からの数字です。
所得代替率と称して年金受取額が給与額の何パーセントになっているかを見る指標があります。 年間年金受給額が男210万円、女170万円について計算するとボーナスまで含めた場合は男37%、女43%であり、月給のみでの場合は男48%、女55%です。 将来の公的年金の財政見通し(財政検証)を見ると、2024年度61.2%と書いてあります。 厚生労働省の大粉飾決算は、どのようにして実施したかを見ると、専業主婦世帯で専業主婦は無収入で年金保険料は支払わないが、式の第1項の老齢基礎年金は受給するとしている。 分子は大きくし、分母は小さくし、所得代替率の計算ではこれがモデルケースと宣伝する。
3号被保険者に該当する専業主婦モデルの人が、どれだけ存在するかを見たのが次の図5です。
フリーランスは国民年金の被保険者であり、毎月16,980円を支払う必要があります。 配偶者に3号の適用はなく、同様に16,980円を支払わねばならない。 3号被保険者になれば、保険料を納付せずして、老齢基礎年金を受給できる。 何故なら、他の人が負担するからです。
私は、3号被保険者制度は、女性の働き方を制限し、足を引っ張り、賃金を安く抑える働きをしていると考えています。 どのような職業、どのような職種、どのような働き方を選択しようと個人の自由であり、且つどのような選択をしようとも同じベネフィットを享受でき、義務も公平であるべきです。 図3のグラフに関連して、男女の賃金格差について述べました。 男女格差の一因が3号被保険者制度にあると私は思うのであり、3号被保険者制度の撤廃を求めます。 サラリーマン世帯の主婦も国民年金に加入すれば良いのです。 フリーランスとして働いても良い。 自分の得意とする分野や芸術・研究分野等も含め、様々な働き方を求めていけば良いと考えます。 女性の年金問題を解消することにつながると思います。
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