2023年10月27日 (金)

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律についての最高裁違憲判断

10月25日の最高裁判所大法廷決定は、この裁判所のWebページ にあり、全36ページの長い文書であるが、9ページの結論を書き出すと、この言葉となる。

「よって、本件規定は憲法13条に違反するものというべきである。」

本件規定とは、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条1項4号のことであるが、第3条1項を書き出すと次の通りである。

第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

4項の「生殖せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にある」とは、生殖腺除去手術を受けることを要求することとなり、この要求は憲法13条の「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」で保障されている人格的生存に関わる重要な権利(自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由)を制約することとなる。

4項の規定は、現時点において、その必要性が低減しており、その程度が重大なものとなっていることなどを総合的に較量すれば、必要かつ合理的なものということはできないと最高裁は判断した。

第5項について

第5項についても、三浦守、草野耕一、宇賀克也裁判官が憲法違反・違憲無効であると反対意見を出しておられる。 第5項の「他の性別」とは、男の場合は女、女の場合は男である。 従い、男が女になるなら、外性器除去手術が、女が男になるなら、尿道延長手術及び陰茎形成手術が通常は必要となってしまう。 従い、第5項についても憲法第13条により保障されている権利を侵害するものであり、違憲であるとされている。 私も、同じように考える。外性器なんて、他人に見せたりしないじゃないか。

他人に迷惑をかけなければ、自分の選んだ生き方を、誰もがすることができる。 そのような世に暮らしてこそ、幸せがあると考える。

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2023年6月17日 (土)

LGBT法成立で考えさせられた

LGBT法成立で考えさせられたことがある。

日経 6月16日 LGBT法が成立「不当な差別」否定 自民の一部退席

法律の名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」というわけで、ジェンダーアイデンティティとは何のことやと思ってしまう。憲法第14条の「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」が私には、極めてすっきりする。性(ジェンダー)の区分(アイデンティティ)を複雑化(多様化)して訳の分からないことにするのかなとおもってしまう。

1) 訳の分からない修正がなされる国会

この日経ビジネスの記事にある松中権氏の指摘を読んで、酷い修正案が採択されたと同感した。「性同一性」を「ジェンダーアイデンティティ」と読み替え、訳の分からない日本語にしている以上に、松中権氏が懸念する第12条の追加である。気にしなければ、当然のことと思ってしまう。しかし、マイノリティー保護についての法律で、この条文があると、多数による少数のいじめ・圧迫・差別を助長する懸念を彷彿させる。憲法第14条のような差別禁止ではなく、これじゃ差別やむなしとなってしまう。その問題の12条とは、次である。

 この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする。この場合において、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとする。

この12条の追加修正案は、自民党・公明党で了承されたのであるが、この公明党のニュースを読むと、公明党ってそんな党なのねと思ってしまった。

2) オリンピック憲章における差別禁止

松中権氏は、オリンピック憲章の根本原則第6について触れておられる。オリンピック憲章も日本国憲法も差別禁止を謳っているのである。差別主義者には投票なんかしないぞと誓いたい。

このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない。
 The enjoyment of the rights and freedoms set forth in this Olympic Charter shall be secured without discrimination of any kind, such as race, colour, sex, sexual orientation, language, religion, political or other opinion, national or social origin, property, birth or other status.

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2022年7月 9日 (土)

安倍晋三元首相銃撃事件から思う銃規制

安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件は、まさかと思う衝撃の事件であった。次のニュースにもあるが使用した銃は手製の銃とのこと。

日経 7月9日 安倍元首相の死因は失血死 司法解剖終え、遺体は東京へ

銃の規制が厳しい日本では起こるとは思っていなかった事件である。殺傷能力を持つ銃が手製で簡単に作ることができるということを示している事件と思う。戦前のテロ社会のようになるとは思わないが、理由のいかんを問わず、他人を殺すことは正当化されない。

どのようにして今回のような事件を防止するかは、やはり銃規制しかないように思う。犯人は、どのような銃を使用したのか、爆薬はどうしたのか、銃弾はどうしたのか等を含め様々なことが分かれば規制に対する方策も見えてくるのではと思うのだが。

次の図は警察庁の銃器発砲事件の発生状況(これ )からであるが、令和3年において発砲事件10件のうち8件が暴力団等の関係であった。これまでとは違った分野の銃規制・取り締まりについても取り組んでいく必要があると考えた。

Gun20220709

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2021年2月 4日 (木)

新型コロナ対策特別措置法改正に関連して考えたこと

新型コロナ対策特別措置法、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)と検疫法の改正が成立した。

日経 2月3日 時短・入院の拒否に「過料」 改正特措法など成立

法律改正案が短期間に成立したのは、この1月28日のNHKニュース が報じている自民党と立憲民主党の修正合意が1月28日に成立したことがある。この修正合意により、感染症法72条の一年以下の懲役又は百万円以下の罰金から80条と81条の過料に修正されることになり成立した。

1月28日には、関連するもう一つの興味あるこのニュース(日経 1月28日 )がある。

「15日の厚生労働省の厚生科学審議会(厚労相の諮問機関)の感染症部会で、罰則を設けることに反対意見が多数出ていた。・・・共産党の小池晃氏は28日の参院予算委員会で、15日の感染症部会で「慎重意見が多数出ていた」と主張した。」

当該1月15日の第51回厚生科学審議会感染症部会 議事録は、ここ にある。参考となる次の様な発言が多い。読んでみると参考になることが多くある。

中澤参考人(全国衛生部長会 会長)の「報道では入院拒否で懲役や罰金刑という言葉ばかり目立ってしまうのですけれども、法の施行に当たっては、感染した患者さんやその周囲で感染拡大を心配している市民の皆さんに寄り添って対応していただくことを求めたいと考えております。それから、決して取締りや刑罰が先に立ってしまって法の趣旨がないがしろにされることのないように、社会にもきちんと説明をし、理解を得るように努めていただきながら見直しを進めていただきたいです。」

白井委員(枚方市保健所所長)「罰則規定について、特に保健所長の立場というか、保健所長会としても懸念をしているところではあるのですけれども、この対策の実効性が確保できるかといったところで、これが独り歩きするような形になると逆に保健所の仕事が増えるというか、どのようにどんな方に罰則というか、もちろん多数の方は協力していただける方が多いのですけれども、」

味澤委員(がん・感染症センター 都立駒込病院感染症科)「私は昔の伝染病予防法という時代から感染症をやってきたもので、伝染病予防法のときは、患者さんが病院から逃げますと法律上は交通封鎖までできるという法律だったのですが、実際に患者さんが逃げたらそれをしたかというと、そういうことはできなかったのです。むしろ患者さんを治ったから退院という形にしてしまったので、実際に今度は罰則規定をつくったときに、それをどう使えるか。なかなか非常に使いにくいのではないかと思うのです。伝家の宝刀というような意味はあるかもしれませんけれども、実質性を担保していくにはよく考えたほうがいいのではないかとは思います。その伝染病予防法の反省を踏まえて今の感染症予防法ができているので、その本質を生かしながらうまくやっていく方法を見つけるのがいいのではないかと個人的には思います。」

では、誰が刑事罰なんて言い出したのかであるが、地方自治体の首長達と思う。選挙民にアピールできるし、ダメなら保健所を初め部下に責任を押しつけられる。そんな構造を思ってしまう。

さて、ここ全国知事会の1月9日付新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を受けた緊急提言がある。そこには、次の様な表現もある。

感染拡大を防止するためには、保健所による積極的疫学調査や健康観察、入院勧告の遵守義務やこれらに対する罰則、民間検査で陽性となった本人による保健所への連絡の義務化、宿泊療養施設や自宅での療養の法的根拠及び実効性の確保、クラスター等複数の陽性者が発生した場合の知事の判断による施設の名称等の情報の公表等に関する感染症法の改正を行うこと

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2021年1月31日 (日)

印西市の老人ホームでの睡眠導入剤による殺人並びに殺人未遂事件

一審千葉地裁での裁判員裁判では殺人並びに殺人未遂罪で懲役24年であった。しかし、2019年12月の東京高裁での控訴審では差し戻しとなっていた。そして、1月29日の最高裁で千葉地裁の懲役24年が確定した。最高裁の判決文はここ にあります。

どのような事件であったか、最高裁の判決文から抜き出すと次の様になります。

2017年2月5日、老人ホーム事務室において、被告人波田野愛子は、同僚女性山岡恵子さんに対し、ブロチゾラムを含有する睡眠導入剤数錠をひそかに混入したコーヒーを飲ませた。山岡恵子さん は、午後3時頃になると、意識障害等を伴う急性薬物中毒の症状が生じ、普段とは違う口調で脈絡のない発言をするようになり、机に突っ伏して寝た。この様子を見ていた被告人は、山岡恵子さんに帰宅を促した。山岡恵子さん は、仮睡状態等に陥り、約100m走行した地点で車を脱輪させて鉄パイプの柵に衝突させた。被告人波田野愛子は、その現場に駆けつけ、上記鉄パイプの先端が車に突き刺さっているのを目撃した。山岡恵子さん は、本件物損事故の状況を説明できず、フェンスに背中をもたれて立ったまま寝ている様子であり、被告人波田野愛子が両頬を両手で叩いて声をかけても、黙ってぼう然と立ったままであった。山岡恵子さんは,ふらつきながら同事務室に戻り、机に突っ伏して眠り込んだ。被告人波田野愛子は、午後5時30分頃、車が走行可能である旨を告げて山岡恵子さんを起こし、運転して帰宅するよう老人ホームから送り出した。山岡恵子さんは、その後間もなく、急性薬物中毒に基づく仮睡状態等に陥り、約1.4㎞走行した地点で車を対向車線に進出させ、進行してきた普通貨物自動車に車を衝突させた。この事故により、山岡恵子さんは胸部下行大動脈完全離断等の傷害を負い、同日午後7時55分頃、搬送先の病院において死亡し、対向車線の車の人は全治約10日間を要する左胸部打撲の傷害を負った。

以上が第1事件であり、第2事件は2017年5月15日に発生した。この第2事件では別の同僚女性(当時69)について、その夫(当時71)が自動車で本件老人ホームに送迎していることを知っていた。被告人波田野愛子は5月15日午後1時頃から午後1時30分頃までの間に、老人ホーム事務室において、両人に対し睡眠導入剤数錠をひそかに混入したお茶を飲ませた。両人は、意識障害等を伴う急性薬物中毒の症状が生じ、午後2時頃以降夫は椅子に座ったまま眠り込み、その後両人とも体調が悪化して同事務室等で休んでいたが、被告人波田野愛子は、この様子を見ていた。被告人波田野愛子は午後5時30分頃、事務室で寝ていた両人に対し、帰宅時間である旨を告げて起こし、夫が自動車を運転してその妻である同僚女性と共に帰宅するよう仕向けた。夫は、車の運転を開始したが、妻である同僚女性と共に急性薬物中毒に基づく仮睡状態等に陥り、午後6時頃、約4.7㎞走行した地点において、車を対向車線に進出させ、対向進行してきた普通貨物自動車に車を衝突させた。この事故により、助手席の妻である同僚女性 は全治約1か月間を要する両側肋骨骨折の傷害を、夫は全治約10日間を要する全身打撲傷等の傷害を、対向車貨物自動車の運転手は加療約3週間を要する頸椎捻挫等の傷害をそれぞれ負った。

最高裁判決を読むと、睡眠導入剤等を飲ませて、車を運転させて帰宅させようとする行為が、殺人や殺人未遂であることは、常識的な基準と考える。東京高裁の判断である、被告人波田野愛子の行為により事故の相手方が死亡する危険性は低かったとする評価や、被告人波田野愛子には事故の相手方が死亡することを想起し難たかったという論理は私には奇妙に思える。

東京高裁の論理が否定されて良かったが、それが通れば、睡眠導入剤を飲ませて、どうなろうが、そこまでは思わなかった。想定外との答弁がまかり通ることになると思える。

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2020年12月20日 (日)

これも変な法律か?

阿部知子氏が12月19日の朝日新聞の私の視点に、生殖補助医療に関する民法特例法(生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律)について書いておられた。

法律の優生思想懸念 過ちを繰り返さない国会に 阿部知子 (会員記事だが、登録すれば読める)

11月20日参議院可決、12月 4日衆議院可決、12月11日に公布された。 公布を行った官報はここ にある。

次の第3条4項は、よく考えると差別を前提とした条文に思えてしまう。

4 生殖補助医療により生まれる子については、心身ともに健やかに生まれ、かつ、育つことができるよう必要な配慮がなされるものとする。

日弁連も11月12日にこの会長声明 を出し、 生まれた子の出自を知る権利などを含めた、子どもの人権の保障やその他の懸念を表明し、拙速の感も否めないとしていた。

阿部知子氏は法案に賛成した立憲民主党であるが、朝日新聞の私の視点の中で、 反対票を投じたとある。議員立法を主導した 秋野公造氏は公明党の医師。反対した政党は共産党。このブログ で書いた種苗法の改正もそうであるが、何故わけのわからない法律ばかり作るのだろう。国会議員は、是正・修正をする為の研究・検討を行い、修正すべく立法をすべきである。

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2020年4月18日 (土)

生活保護者への1人10万円の給付

一つ前のブログで高所得者も非課税で受け取れる1人10万円の給付と書いた。

生活保護者は、どうなるかであるが、10万円の給付は受け取れる。但し、一人10万円が収入認定され、支給を受けたことを報告し、その金額が保護費として支給される金額から減額されるであろう。

高所得者には、非課税で、生活保護者は100%政府(と地方自治体)に巻き上げられる。金額は、生活保護が世帯単位だから、4人家族なら40万円である。

そうだとしたら、弱肉強食と言うべきか、金持ち優遇と言うべきか、すごい政策である。

但し、今までの例で、災害に関する義援金の扱いについては、全額を収入認定しないということも行われてきた。災害の場合は、事故から、日常生活への復旧その他補修や臨時出費もあり得るので、取り扱いに関する厚生労働省内部通達で処理可能であったが、今回のコロナウィルスは、収入減が主体であり、地震、津波、台風、洪水等とは異なる。

さあ、どうするのだろうか?法律に生活保護世帯についての扱いを定めるのだろうか?

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2019年1月30日 (水)

最高裁判決vs朝日新聞vs読売新聞

最高裁は、1月23日に、性別変更の扱いを定めた現行法(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)を合憲であると判断したのだが、朝日新聞の記事を読むとすっきりしなかった。判決文、朝日の記事、読売の記事を掲げます。みなさんどう思われるでしょうか?

最高裁判決文 平成31年1月23日第二小法廷決定

朝日 1月24日 性別変更に必要な手術「合憲だが不断の検討を」 最高裁

読売 1月25日 性別変更、手術規定「合憲」…最高裁が初判断 同一性障害特例法

現行法の定めは次のようになっています。

第3条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 二十歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

3条2項は医師の診断書の提出義務についてです。争われたのは3条4項の妊娠したり相手を妊娠させる生物的能力を失っていることを条件とする現行法は憲法違反かどうかでした。最高裁は、「現在の社会的状況等を総合的に較量すると、この規定は、現時点では、憲法に違反するものとはいえない。」としたのです。

性同一性障害者に対して生殖腺除去手術を受けることを強制してはならない。一方、戸籍上の性別とは異なる性で生活することは自由である。

鬼丸かおる、三浦守の両裁判官の補足意見を私は次のように要約するが、判決文を読んで頂くのが一番良い。

卵巣又は精巣の摘出は、身体への強度の侵襲であり、本来その者の自由な意思に委ねられるものであり、身体への侵襲を受けない自由として憲法により保障されるものと解され、本件規定は、この自由を制約する面があるというべきである。本件規定に関する問題を含め、性同一性障害者を取り巻く様々な問題について、更に広く理解が深まるとともに、一人ひとりの人格と個性の尊重という観点から各所において適切な対応がされることを望むものである。

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2018年7月19日 (木)

西予市野村町肱川氾濫と野村ダムについての検証

愛媛県西予市にある野村ダムの操作が悪くて基準量の約6倍の放流され、ダムから約2km下流の野村町で肱川が堤防を越え、約650戸が浸水し、住民5名が死亡したとのニュースがあった。

ダムの操作が悪かったのか?浸水が予想されるにも拘わらず、避難が遅れ、被害を大きくしてしまったのか?検証をしてみる。

1) 野村ダム

野村ダムは国交省が保有・管理するダムであり、1973年建設開始、1982年完成のダムです。堤頂長300m、堤高60mで有効貯水量12,700千m3のダムです。目的は洪水調節ならびに農業用水と水道用水です。洪水調節ならびに農業・用水の利水目的として有効貯水量は12,700千m3である。洪水期の6月16日から10月15日の期間は利水目的でダムに貯水しておく水量は9,200千m3であり、他の期間(秋・冬・春)は11,900千m3となっている。

宇和島市、八幡浜市、西予市、伊方町のミカン農家と住民に対する水供給を担っており、各農協や市町役場との協定も存在するはずである。野村ダムは肱川のダムであり、肱川の河川は野村ダムからは東に流れ、北に折れた後、予讃線伊予長浜駅付近の伊予灘で瀬戸内海に流れ込む。しかし、野村ダムの利水の多くはダム本体から少し上流側の文治が駄馬の取水塔で取水されて西方に水路トンネルを通じて供給される。例えば、27.2kmの水路トンネルにより八幡浜市布喜川にある布喜川ダムに供給されたり、更にその先は佐田岬の先端に近い三崎にも供給されたりしている。

野村ダムの目的は、渇水時のための水供給源を確保しておくことであり、利水側の権利者としては最低でも野村ダムにを9,200千m3を貯水しておく権利を持っている。そこで、洪水調節として利用可能なのは、6月16日から10月15日の期間3,500千m3であり、それ以外の期間は800千m3である。

2) 7月6日から8日の野村ダム

7月6日、7日、8日の野村ダムの貯水量、流入量、放流量のグラフを書いた。

Hijikawa20187a

このグラフの貯水量(右軸)を見ると6日の午前1時頃は7,500千m3であり、通常の利水容量確保を考えた9,200千m3より貯水量を抑えて、洪水調整能力を高めていた事が分かる。(7月1日の貯水量は9,464千m3であり、通常の利水容量を確保していた。)

流入量は7月6日午後2時頃から急に増加し始め250m3/秒を超え、6日午後10時には300m3/秒を超えた。上のグラフには7日午前7時の最大1,593m3/秒があるため300m3/秒は、あまり大きいと思わないが、放流をしていない場合は、1時間値は1,000千m3であり、野村ダムの通常の洪水調整能力3,500千m3は3時間半で満杯になる。

流入量は7日午前4時から急増し、午前4時571m3/秒、午前5時716m3/秒、午前6時1074m3/秒、午前7時1593m3/秒となってきた。放流量は、午前6時頃までは、なんとか300m3/秒程度以下とする事でコントロールしてきたが、午前6時には貯水量が11,423千m3となってしまい、野村ダムの有効貯水量12,700千m3にほぼ達してしまった。ここで、コントロールは及ばず午前7時の1593m3/秒は、そのままダムから下流に出て行った。貯水量が12,700千m3に戻るのは、翌日の7月8日午前9時の事であった。

3) 教訓

2)に書いたようにダムは、見事にその役割を果たした。野村ダムが放流したから洪水を引き起こしたというような報道もある。しかし、野村ダムは精一杯限界まで頑張ったのである。

野村ダム(国交省野村ダム管理所)は、ダム情報を適切に伝えたかであるが、7月12日のこの47ニュースによれば、7日午前2時半に西予市へ、午前6時50分の満水予想を連絡した。それ以前のコミュニケーションがどうなっていたか不明であるが、もう少し、早い時点でダム満水の危険性が予知できたかも知れないと思う。野村ダムの洪水調整無能力告知を午前2時に突然受けても、西予市役所は困ってしまった可能性もある。7日の午前5時10分から防災無線を通じての避難指示を出し、同時に消防団が各戸巡回を開始したとの報道がある。

洪水調整能力3,500千m3というのは、ダムの中でも小さい方である。近くにダムがあれば、そのダムが洪水を防いでくれると思ってしまうが、自然の脅威の中では、ダムの力なんて小さいのである。そのことを念頭に置いた安全計画(LCP)を考えておく事が重要と思う。

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2018年5月22日 (火)

働き方改革

人口減社会、高齢化社会、そしてAI。これらが日本の社会に急激な変化をもたらそうとしている。社会の問題であると同時に個人の問題でもある。

そのような社会の変化に対して、働き方も変えていかなければ、世界の中で、日本は沈んで行く可能性がある。AIとは、地球規模の問題である。日本はAIなんて必要ではないとして、取り組まないでいたならば、おそらく日本の産業は競争力を失ってしまうだろう。

AIが人類のために色々考えてくれて、人類を幸せにしてくれる。ロボットはロボット憲章なるものを作って、人類に奉仕する事がロボットの役目であるなんてことは夢ではなく妄想であると普通の人なら思っているはず。ロボットが兵器として使われたら。兵隊ロボットを作れば、怖い者知らずになるのだろうか?相手も同じようなものを作るはずである。そう考えると悪夢の連鎖で眠れなくなる気がする。

AIの能力は、当分の間、限界がある。Singularity(技術的的特異点)と言われる、AIがAIを生み出せるような革新的な特異点は、当面来ない。しかし、AIが人類が行っている労働の分野を代替していくことは進む。この場合、AIに代替させる分野を決めることが、ビジネスで勝利する重要事項となる。AIを使って、コストを下げ、競争力を高め、他社よりも付加価値の高いモノとサービスを提供する。仕事の全てを理解し、AIの能力、人の能力や心を分かって、組織を組み立てていく事ができる人材こそ、求められる人材である。新時代の経営能力と呼べばよいのだろうか。

それやこれやで、今国会に内閣が提出した「働き方法案(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)」であるが、その脱時間給制度(高度プロフェッショナル制度)は、2015年の時とほとんど同じである。ちなみに比較を作成してみたので、興味がある人はここを見て下さい。

一番気に入らないのは「一年間の賃金の額が平均給与額の三倍を相当程度上回る水準以上」としている部分である。これじゃ年報1075万円で決めれば、好き放題働かすことができるのである。両者による合意が大前提であるし、他にも条件があり、そんな単純ではないが、それでも3000万円以上とか5000万円以上とか、働く事を楽しくさせ、希望を持たせるような内容にすべきである。

そんな中、「働き方法案修正で正式合意 自公と維新・希望 」 日経 5月21日というニュースがあり、こいつら何考えてんだ!社会の敵だなと思った。

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