2023年10月11日 (水)

頭が混乱の年収の壁

次は、9月25日の岸田首相による「経済対策についての会見(このWeb )」の中での発言ですが、これが理解ができた人は、知識・造詣が相当深い人だと思います。

130万円の壁」については、被用者保険の適用拡大を推進するとともに、次期年金制度改革を社会保障審議会で検討中ですが、まずは「106万円の壁」を乗り越えるための支援策を強力に講じてまいります。具体的には、事業主が労働者に「106万円の壁」を超えることに伴い、手取り収入が減少しないよう支給する社会保険適用促進手当、これを創設いたします。こうした手当の創設や、賃上げで労働者の収入を増加させる取組を行った事業主に対し、労働者1人当たり最大50万円を支給する助成金の新メニュー、これを創設いたします。こうした支援によって、社会保険料を国が実質的に軽減し、「壁」を越えても、給与収入の増加に応じて手取り収入が増加するようにしてまいります。政府としては「106万円の壁」を乗り越える方、全てを支援してまいります。このため、現在の賃金水準や就業時間から推計して、既に目の前に「就労の壁」を感じておられると想定される方々はもとより、今後、「壁」に近づく可能性がある全ての方が「壁」を乗り越えられるよう機動的に支援できる仕組みを整え、そのための予算上の措置を講じてまいります。

1) 106万円の壁

パート労働者が年収106万円を超えると社会保険(厚生年金と健康保険)の適用となり、社会保険料の負担により収入ダウンになるという話であります。 何故収入が減少するかというと、社会保険料の負担からです。 事業所所在地が東京である場合には、保険料率は厚生年金保険料(18.3%)と健康保険料(協会けんぽの場合10%(40歳以上は11.82%))です。 この保険料の負担は、雇用者と労働者が50/50の折半です。 もし、年間給与額が106万円を超えると費用負担が発生する。 仮に、110万円だと、雇用者も労働者も155,650円の負担増であり、106万円で費用負担なしの時と比較すると、収入総額は4万円増加しても、手取りは944,350円であり、115,650円減少する。時給1,000円だとすると116時間分も損をする計算になる。 一方、雇用者にとっても155,650円の負担増となり人件費は1,255,650円となる。

もし時間給単価が同じだとするなら106万円の手取り給与を得るためには、1.165倍働く必要が出てくる。今まで8時間働いていたなら9時間20分働かないと同一賃金額が得られない。

2) 106万円の壁の根拠

労働者は全員が社会保険(厚生年金、健康保険、労災保険、雇用保険)のカバーを受け、雇用主は社会保険の付保義務がある。本来なら、パート労働者も社会保険の対象であるが、週20時間未満で賃金月額8.8万円未満であれば、厚生年金と健康保険の適用対象外となり、保険料納付の必要がないとなる。8.8万円を年間分とするため12倍にすると、105万6千円で、106万円という訳である。

3) 130万円の壁

現在は106万円の壁が適用されるのは、500人超の事業所であり、2024年10月に50人超の事業所となる。現在500人以下の事業所では、1週間の労働時間および1月の労働時間が正社員の4分の3未満のパートやアルバイトの短時間労働者は厚生年金・健康保険の適用対象にならない。 短時間労働者の場合であっても、正社員の4分の3未満の短時間労働でないなら、社会保険の対象となる。

では、130万円の壁とは、何かであるが、3号被保険者(国民年金法第7条1項3号)の対象者が恒常的な収入が130万円未満となっていることである。130万円以上の収入があっても、厚生年金で対象外となれば国民年金に加入し年金保険料を納付する必要が生じる。 毎月16,520円の保険料である。 130万円の年収の場合、厚生年金保険料は19,825円であるが、労働者分だけなら半額の9,912円で済む。 国民健康保険料は、市区町村により異なるが、月々10,000円以上になるのではと思う。年130万円の給与なら、協会けんぽで年153,660円だから、労使折半なら76,830円であり、本人負担は年12万円より安い。

この計算では、130万円の壁は、おそろしく大きく、国民年金と国民健康保険の保険料の年間負担は318,240円であり、24.5%になり、結構大きな壁である。 厚生年金と協会けんぽの場合の、労働者負担額は130万円の場合、183,950円(40歳以上で介護保険料も加算される場合195,780円)である。 

4) フリーランスの場合

フリーランスの場合は、どのようになるか考えてみたいと思います。 20歳以上は国民年金1号被保険者であり、国民年金の加入義務があり、3)で書いたように毎月16,520円の保険料を支払う必要がある。 但し、前年の所得に応じて、保険料免除を受けることは可能である。 例えば、前年所得が32万円以下は全額免除、168万円以下は25%免除。 免除を受けた場合、免除額に相当する将来受給を受ける年金額は減少するが、それでも50%以下にはならない。 何故なら、国民年金は50%が税金を財源として支払われることになっているからである。

国民健康保険料について、3)で月々10,000円以上と記載したが、住民税の課税所得の10%程度と思う。 最高保険料は年100万円程度である。 保険料率は、協会けんぽと比較すると、雇用者・労働者の合計額では安いが、労働者負担額で比べると国民健康保険の方が高いと、言える。

フリーランスや個人自営業者は、雇用主が存在しないわけで、全額自己負担になる。法人化しても、雇用主のオーナーが自分であれば、合算すればかえって費用は高くなると言える。

5) 厚生年金の受給額予想

健康保険の場合、その医療費カバー率は同一と考えれば、差は保険料である。 一方、年金は国民年金の場合、65歳から年間795,000円の年金を受給できる。 厚生年金の場合は、年間795,000円に加えて、次の計算式で計算した金額との合計額が年金額となる。(クリックで拡大)

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10万円、20万円、30万円、40万円、50万円を報酬の月額とし、ボーナスは年間3月相当額が支払われ、加入月数を480月とすると次の様になった。(クリックで拡大)

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年金受給期間を85歳までとしたのは、25歳の時の平均余命男55.2年、女61.8年からすれば、男80.2歳、女86.8歳となるが、これを男女の区別なく85歳までの受給とした。

6) 国民年金の受給額予想と厚生年金との比較

国民年金の保険料支払い義務は20歳から60歳までであり、毎月16,520円を12月・40年間払うと総額7,929,600円となる。受取年金額は厚生年金の基礎年金額と同じ795,000円。 65歳受給開始で85歳まで21年間受け取ると合計は16,695,000円になり、払込総額の2.1倍に相当する。

国民年金は保険料が高いが、給付される年金額は高くなく不十分との感覚を持ってしまうが、実際に計算をすると、極めて高利回りの投資と言える。 何故、そんな高利回りになるのかと言えば、保険料と同額が税金で補助されるからです。 NISAよりも、はるかに高利回りで、リスクも低い投資と言える。

それでは、厚生年金は月額報酬が高くなるほど、受給額へのリターンが悪くなるが、これは何故か? 一つは、定額支給となる基礎年金と報酬比例年金の2つの合計であり、基礎年金は報酬がゼロに近くても満額支給となるからである。 (なお、実際には年1500時間程度の労働になると思うので、時間1200円として年180万円(月15万円程度かと思うが)

もう一つの理由が、3号被保険者である。 3号被保険者は、保険料の負担がなく、基礎年金を満額受領できる訳で、投資ゼロで毎年795,000円が受け取れる。 (厳密には2号被保険者の配偶者なので、配偶者でなかったときは、国民年金保険料か厚生年金保険料を納付していることが必要である。)

保険料を払わずとも、年金を支払えるようにするには、誰かの分を減額するしかない。 厚生年金の中の高額所得者の受給額を減額して、それを保険料を支払わない3号被保険者の年金支払いに回しているのである。 専業主婦の場合の配偶者が高所得者であれば、丁度辻褄が合うようにも思える。 しかし、男女平等社会において、3号被保険者制度は配偶者の一方(多くの場合は女)の働き方に制限を加えることとなっている。 これこそが、大問題と言える。 また、配偶者を持っている場合は、配偶者が3号被保険者制度の恩恵を受けるが、配偶者がなければ恩恵は得られない。 独身者は106万円、130万円の壁に無縁であるだけでなく、壁のために調整している3号被保険者の年金資金まで負担しているのである。

なお、自営業者(やフリーランス)は国民年金であるから、その配偶者は3号被保険者とはなれず、夫婦でそれぞれ年金保険料を納付する。

7) 3号被保険者という悪制度が生まれた理由

1980年(昭和60年)改正で3号被保険者制度が創設された。 それ以前、専業主婦は国民年金任意加入であり、加入しない人もいた。 離婚をすると、無年金の恐れあり。 この解消とも言われているが、基本的には当時の社会は、国民全員が支える国の年金制度として歓迎したと思う。 夫はモーレツ社員で妻は専業主婦のスタイルが支持を集めていた時代には、そのようなスタイルを支援する制度が共感を得、支持される。 それが、3号被保険者制度が生まれた理由であると私は考える。

多様化した現代に3号被保険者制度は合わない。 多様化する社会、グローバル化で国境を越えて分業・競争が行われ、下手をすると簡単に取り残される。 1980年から半世紀近くになる現在、社会の仕組みをどしどし変えていかなくては、我々の生活を維持できなくなると考える。 どう改革すべきか、議論が必要である。

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2023年6月22日 (木)

ウラジオストク港利用が可能となった中国

次の様なニュースがありました。

5月29日 47NEWS 中国、極東ウラジオ港利用へ 物流でロシアと関係強化

こちらのタイトルは、衝撃的な表現です。

東洋経済 6月20日 中国がロシアの港を奪還? 極東権益を侵食中 ウラジオストク港の使用権を165年ぶりに回復

ウラジオストク港の使用権を165年ぶりに回復とは、愛琿条約が1858年5月であったので、1858年は今から165年前となる。しかし、ねえー、と思うわけです。

アムール川流域にはもともと狩猟と牧畜を営むシベリア先住民である遊牧民が住んでいた。そして、川の南側(右岸)にはさまざまなモンゴル族や満州族がいた。1689年にネルチンスク条約が清とロシアで締結され、アムール川流域は清(中国)領とすることで合意された。しかし、それ以前の17世紀頃からロシアの探検家や商人がアムール川以北の地域に入り始め、アムール川以北(西岸)で定住するロシア人もいた。

1858年の愛琿条約でウスリー川の東(右岸)は中国とロシアの共有となり、その2年後の北京条約でロシア領となった。当時の国力では、自然な結果と考える。戦争があって、決まった国境ではない。清(中国)にすれば、国力の差により認めざるを得なかった国境を確定する条約ではあったが、川口や海岸を調査し、ウラジオストクが天然の良港であることを発見したのはロシアであった。

今回の中国のウラジオストク港利用権取得は中国のウクライナ戦争でのロシアに対する支持の結果との見方があるが、逆に何故今まで利用できなかったのだろうかと思う。ウラジオストク港は軍港であったため、1992年までは外国船はおろか外国人も立ち入り禁止であった。だから、シベリア抑留者の帰還もナホトカ港からであった。

このブログ日露戦争 その5 中国・ロシアの関連で思ったことです。

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2023年3月12日 (日)

21世紀に入ってからは長期低落の日本経済

一つ前のブログ「税と社会保障の国民負担」(このブログ )で、日本の国民所得(NNI:Net National Income)はOECD統計によれば、OECD35カ国中24位であることを書きました。(OECD統計には、EU諸国とEuro諸国という分類もあるが、これらEU諸国とEuro諸国は除外しての順位です。)35カ国中24位とは、上位、中位、下位で分けたなら、下位グループの先頭と言うような感じです。

果たして今後中位から上位、さらには上位グループの先頭に並べるくらいに発展することができるのか、30年前の1990年からの国民所得の各国比較をしてみました。比較する対象は、税と社会保険料合計の比較をした9カ国としました。結果は、次のグラフの通りです。

Oecdnni20233a

一番上の突出しているラインは米国であり、1990年では10,000ドルに満たなかったが、順調に増加してきたのは韓国です。日本は、1990年の時点では悪くなかった。グラフを見ると2000年位までは悪くはなかった。2008年9月にリーマンショックがあったのですが、21世紀に入って日本経済はだんだんと低迷状態となり、リーマンショックではどの国も落ち込んだのであるが、日本はいよいよ落ち込んだ。その後、多少の回復はしたが、低迷は続き、イタリアより2013年-2015年は少し上であったが、2016年にはイタリアより下位となり、2017年には韓国に並ばれて、その後は9カ国中では最下位となっている。

失われた30年なる言葉があり、バブル崩壊後の1990年頃から現在までの約30年間を指すようであるが、実は2000年まではそれほど悪くはなかったと言える。実は2000年からの森内閣、小泉内閣の頃から日本経済は低迷したと言えるように思う。規制改革と言って、市場競争を取り入れるのは良いが、行きすぎた面があれば、成長を阻害する。社会として保護をして、発展に結びつけるような誘導策も必要ではなかったかと思う。日銀の異次元緩和も経済発展には寄与しなかったのではないか。種々の政策を各国の政策と比較し、日本の政策では取り込んでいないものは何か、取り込んでいたらどうなっていたか等を研究し、その研究成果が発表されることを期待したい。

103万円の壁とか130万円の壁と言う言葉を耳にすることが多い。収入を得ても、税と社会保険料を支払わなくて済むという奇妙な特権を残していては、日本社会の経済発展を阻害すると思える。これが正しいとは誰も思わないはずが、存続を希望する人がいると報道されている。誰が、利益を得ているのか?パート労働の女性だと思うかも知れないが、実は低賃金労働により利益を得ている産業が最大の受益者であると思う。一方、日本経済全体で考えてみれば、低付加価値産業から高付加価値産業への転換を阻害していると思う。その結果が、国民所得低位低迷になっている一因と言える気がする。調査・研究をした報告を待ちたいと思う。

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2023年3月 9日 (木)

税と社会保障の国民負担

ポピュリズム政治が進むと政府によるバラマキが増加する。或いは、所得(生産物)の国民への配分を合理的なものにし、社会を発展させるには政府の必要な関与は不可欠であると言える。さあ実態は、どうなのかと言うことで、先日の2月21日に次のニュースがあった。

日経 2月21日 国民負担率、23年度は46% 国民所得拡大で2年連続低下

財務省の発表は、このページです。

1月15日にOECDデータによる税の国際比較というブログを書いたのですが、1月15日のブログでは図3で日本の税と社会保障の負担率は2020年33%とした。今回の負担率は46%となっている。その原因は、母数であり、1月15日はGDPに対する割合を示したのですが、今回の財務省の割合は国民所得(Net National Income)に対する割合で計算していることからの差であります。

GDPが国民所得より大きいのですが、その理由は国民所得の場合、固定資本減耗(すなわち固定資産の減価償却費)を差し引いているからです。それ以外には、国外との利子配当の受取・支払を含んだのが国民所得となるが、金額的にはほとんどが固定資本減耗です。財務省の発表ページに推移を示したこのページ へのLinkがありますが、2021年度を例にとると国民所得は395.9兆円でGDPは550.5兆円。差は154.6兆円です。2021年度の固定資本減耗は138.7兆円でした。差の15.9兆円が海外からの利子・配当金受取純額となる。

33%が正しいのか、46%が正しいのかと言えば、減価償却費相当額を差し引いた国民所得に対する割合が、財務省発表に基準としているように正しいと考えます。昔で言えば、ほぼ五公五民。共産主義なら十公零民かと言えば、全員が公務員だとすれば、公務員給与やボーナスがあるわけで、その分が民になるのであり、五公五民ぐらいかなとも思える。公に分配された分も、社会資本、福祉、教育他民のために使われるのであり、表面的な数字より実態を踏まえた合理的な分析・評価・研究により決定されるべきです。

1月15日のブログはGDPに対する税と社会保険料の割合を示したグラフであったので、OECDデータによるGDPと国民所得に対する割合のグラフを作成しました。

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ところで国民所得(NNI)が所得を表し、重要であることから、OECD加盟国の一人あたり国民所得のグラフを作成しました。日本は24位です。成長戦略をまじめに取り組んでいく必要性を痛感します。(韓国は、日本より上位です。)

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2022年7月14日 (木)

参議院選挙終了、新しい資本主義へと向かうのか

7月10日の第26回参議院選挙は、自民63議席、公明13議席を獲得した。この与党合計76を、野党の獲得議席数49と比べると、与党獲得は60.8%である。衆議院では、自民261、公明32なので、63%が与党である。ちなみに、自民党議員のみを対象とした場合は、参議院48%、衆議院56%である。

岸田文雄首相は、議会での十分な多数を得ることができた。2021年6月に発表された新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画(これ )が、岸田首相が力を入れようとしている新しい資本主義の考え方と理解する。2ページ目の冒頭には、次の様に書いてある。

「課題を障害物としてではなく、エネルギー源と捉え、新たな官民連携によって社会的課題の解決を進め、それをエネルギーとして取り込むことによって、包摂的で新たな成長を図っていく。」

政府も国民も協力して日本経済・社会の多様性を担保しつつ、発展を図っていく。安定的な多数を得られた岸田首相は、新しい資本主義に向けて尽力をして欲しいと思う。官民連携の基本は、国民の意見を取り入れて国民のための政策を進めることであり、国民からの提案を受入れて政府政策を作り上げていくよういシステムを作り上げていくことと私は考える。間違っても、過去のバカな政権が言っていたような政治主導なんてことは絶対にすべきではない。

経済産業省が未来人材会議(このページ )というのを実施しており、5月31日に中間とりまとめを発表している。その11ページに次の表がある。

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次の図は、引用元のOECDのMeasuring and assessing talent attractiveness in OECD countries(https://doi.org/10.1787/b4e677ca-en)の図である。

Talentattractoecd202207

talent attractiveness「能力を活かすことができる魅力度」とでも言えば良いのでしょうか。就職活動をしていた時「何故女なのに収支を出たのだ?」なんて言われたと話してくれた女性がいました。日本の大学で修士を出た外国人女性がいましたが、日本で就職するかな、難しいだろうなと思っていたら、やはり米国で就職しました。勿論、米国人ではありません。2人とも何年も前の話です。親だとかの関係で日本を離れる事が難しい人もいるでしょうが、自分の能力を生かせ、やりたいことができるなら、魅力ある国で働きたいと思うのが当然です。日本人からも世界中の人からも働きたいと思える国にすること。極めて重要であり、そんな新しい資本主義の日本にしてもらいたい。自分も微力ながら、そのようにすべく努力したいと思います。

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2022年6月21日 (火)

アベノミクスの失敗

最近の外国為替市場の動きからは、アベノミクスの失敗を痛感してしまう。アベノミクスとは、通貨供給を増加し、日銀の政策金利をマイナスにしてまで通貨供給量を増大し、日銀による市場からの国債その他金融資産の買入れを実施する。マーケットには、大量の円通貨があふれることとなった。日銀発表に書いてあることは依然として強気発言である。しかし、アベノミクス低金利政策とは、通貨としての魅力をなくすことであり、その結果として、日本経済を破滅に導く導火線の役割を果たすと思うのである。私の考えについて、以下述べてみたい。

1) 最近の米ドル・円為替相場

次が3月1日以降の米ドル為替のチャートである。あれよあれよという間に17%の円安(米ドル高)になってしまったのである。

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本来なら17%も為替が動けば、大騒ぎのはずが、随分平穏である。日銀は、政策金利の引き上げを発表し、外国為替レートを落ち着かせ、物価上昇から国民や日本経済を守姿勢を示して良いはずが、アベノミクス継続を発表する。

2) 1米ドル360円時代からのチャート

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1969年は1米ドルが360円の固定相場の時代であった。1987年に135円となった時があった。しかし、当時はバブル期。今とは違い、日本人・日本景気は活力と夢を持っていた。力があった時代である。今は、日銀の低金利でゾンビが生き延びており、ゾンビと共生している日本経済のような気もしてしまう。本来はゾンビなんかではない若者が非正規雇用の労働者となり社会を支える。奇妙な姿である。アベノミクスの前の2011年頃には80円を切る70円台であった時代があった。

3) ユーロや人民元との比較

米ドルと円の為替のみではなくユーロとも比較するのが適当であり、更には人民元とも比較するチャートを見る必要がある。そこで作成したのが次のチャートである。円、ユーロ、人民元が何ドルに相当するかを計算し、3年強以前の2020年6月1日の数値を1として比較をした。ドル相当を単位としているので、円高に振れれば1より大きく、円安になると1以下となる。

Exchanger202206c

チャートを見れば、円安が一目瞭然である。アベノミクスを続けていれば、日本は破滅に向かう気がするが、参議院選が終わらないと方向転換できないだろうなと思う。

4) 穀物相場

日本は世界の中の日本である。世界経済の中の日本経済である。アベノミクスを止めることは、国債の暴落を招き、国債を大量に保有する地銀等は大損失を計上し、金融不安につながる。しかし、一方で世界の中の日本を認識しないと日本全体の破滅となりかねない。次のチャートは2016年以降の米国小麦相場であるが、2021年以降の価格上昇は激しい。日本は、無関係とは行かない。アベノミクスをアホノミクスと呼んだ人がいたが、それはそれとして、今後の日本における経済政策は、どうあるべきかと言えば、アホノミクスではないとしても、非常に難しい課題だと思う。ゾンビ退治とある種の脱皮なのだろうか?

Chart

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2022年6月12日 (日)

強制貯蓄-日銀預金統計の分析 : 衆院財務金融委員会での黒田東彦日銀総裁の発言撤回に関して(その2)

前の6月10日のブログで書けていなかった部分が、強制貯蓄に関する発言であり、これこそ問題視して、民主政治が解決せねばならない問題と考える。「きさらぎ会」での講演で強制貯蓄に触れつつ話をした黒田発言の部分を抜き出すと次である。

ひとつの仮説としては、コロナ禍における行動制限下で蓄積した「強制貯蓄」が、家計の値上げ許容度の改善に繋がっている可能性があります。いずれにせよ、強制貯蓄の存在等により、日本の家計が値上げを受け容れている間に、良好なマクロ経済環境を出来るだけ維持し、これを来年度以降のベースアップを含めた賃金の本格上昇にいかに繋げていけるかが、当面のポイントであると考えています。

「強制貯蓄」とは、聞き慣れない言葉であるが、貯蓄者の自由意志によってなされる自発的貯蓄や、法律等に強制される強権的貯蓄でもなく、社会的・経済的理由で非自発的に貯蓄となってしまった貯蓄である。黒田発言の具体的な意味は、コロナ禍で止むを得ずに貯蓄に回ってしまった貯蓄である。

そのようなコロナ強制貯蓄が日本経済を動かすほど、あるのかと多くの人は疑問に思うはず。これぞ庶民感覚からかけ離れた黒田発言である。コロナ禍で収入が減少し、貯蓄を取り崩している人が大勢いる。感染拡大防止の取り組みとして、旅行や飲食を控え、その費用をアフターコロナのために貯蓄に回した人もおられると思う。しかし、そんな貯蓄は、今来ている物価上昇により、すべて吹っ飛びそうでもある。

一方で、大金持ちは、どうだろうかと言うことで、日銀の預金統計を分析した。いったい国内の個人による銀行預金は幾らあるかというと、2022年3月末で539兆円である。預金残高階級別の預金金額は次の円グラフの通りである。

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預金残高が2018年3月以降、どう推移したかを見たチャートが次である。残高3百万円未満の預金では、ほとんど変化がないが、全ての預金を合計した残高で、2018年3月から4年間で1.17倍、1億円-3億円の預金は1.47倍になっているのである。預金残高の増加は、預金の運用利回りによる部分もあるが、他の資金運用や投資、給与や個人事業所得あるいは法人への不動産売却収入等による増加もあるので、単純ではない。しかし、2018年3月から2022年3月までの4年間で個人預金の総額は459兆円から539兆円へと80兆円増加したことを日銀統計は物語っている。

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増加額80兆円のうち2020年3月から2022年3月までに増加したのが55兆円であり、コロナ禍の期間の預金増加額がコロナ前の2018年3月から2020年3月への増加額25兆円よりはるかに大きいのである。コロナ禍は、黒田説の言うように強制預金を生むと言っても良いのかも知れない。しかし、そうなると、それは大口預金を持つことができる富裕層に限られるように思う。そして、これが正しいのなら、富裕層から一般庶民への所得再配分の仕組みを構築することを目指さねばならない。所得税増税を実施するか、消費税インボイス制度を利用して高所得者の脱税摘発の強化をはかるのかな?消費税減税なんて、とんでもないように思う。

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2022年6月10日 (金)

衆院財務金融委員会での黒田東彦日銀総裁の発言撤回に関して(その1)

このブログのタイトルを書いていて、良い表現になっていないと自分でも思う次第です。撤回したのは、8日の衆院財務金融委員会であるが、当該発言は6月6日の共同通信の「きさらぎ会」という講演での発言である。6月6日の講演会に於ける黒田発言については、この日本銀行のWebから全文をダウンロードできる。

発言撤回については、この6月8日のNHKニュースの報道のように「「家計が苦渋の選択として値上げをやむをえず受け入れているということは十分に認識している。誤解を招いた表現で申し訳ないと思っている」と、改めて陳謝し、そのうえで黒田総裁は「家計が値上げを受け入れているという表現は、全く適切でなかったということで撤回する」と述べ、発言を撤回しました。」と言うことである。

撤回した発言とは、どのような発言であったのか、日銀Webから抜き出すと(9ページ後半以降)

このように、企業の価格設定スタンスが積極化している中で、日本の家計の値上げ許容度も高まってきているのは、持続的な物価上昇の実現を目指す観点からは、重要な変化と捉えることができます。この点について、東京大学の渡辺努教授は、興味深いサーベイを実施されています(図表9)。・・・・・


渡辺教授は、許容度とは述べておらず、値上げに対する耐性と述べていると黒田氏も認め不適切発言とした。ところで、値上げに対する耐性とか許容度とかは、何を根拠にしている発言かというと、次の渡辺教授の2022年4月のアンケート調査の結果である。2021年8月と比較して「その店でそのまま買う」と「他店に移る」の比率が43:57から56:44へと変化した。当然、様々な理由が考えられるのである。私なんかにすると、重要なことは、耐性とか許容度という言葉の問題より、どのようにして産業(経済)の発展による人々の幸福を追求するかが重要と考えるのである。値上げは悪いこととは限らず、値上げが産業(経済)を発展させ、人々を幸福にするなら良いことである。

Prices20220610


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2021年10月17日 (日)

低賃金を打ち破って将来の日本を開拓しよう

日経が次の記事を掲げていた。

日経 10月16日 日本の年収、30年横ばい 新政権は分配へまず成長を データが問う衆院選の争点

有料会員限定となっており、次の日米英ドイツの4カ国比較のグラフが有料部分にある。なお、私はOECD統計データからグラフを作成したが、日経記事にあるOECD平均という数字を見つけることができなかったので、次のグラフでは省略した。

Wage202110

1990年以後まったく上昇がない日本の賃金であります。情けなくなるわけですが、賃金に分配する前の各国の利益(付加価値)に相当するGDPを見てみる必要があります。今度は、IMFのWorld Economic Outlook 2021年10月版から比較をしている4カ国について同じ期間である1990年から2020年までの米ドル換算したGDPの推移グラフを作成しました。国としてのGDPではなく、人口で割算をした一人あたりのGDPとしています。

Gdpcapita202110a

グラフの形が賃金とGDPでまるで異なるのです。日本の賃金は今の倍であってもおかしくないと思えるような感じです。最低賃金は2000円であってもおかしくないと思える。減税とかバラマキなんて言わずに、賃金倍増を図るとの政策を今からでも掲げてくれないかと思います。応分の税金を当然払うので、目こぼしが出てしまう人々には政策的な配慮・支援を行って欲しいと思います。

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2021年6月22日 (火)

日本社会はガラパゴス経済

ガラパゴス経済とは、うまい表現かなと思った。次の日経記事からです。


日経 6月22日 世界一律価格、日本に押し寄せる ネトフリ13%値上げ 安いニッポン・ガラパゴスの転機(1)


日米でのiPhone 12 Pro Max 512ギガバイトの販売価格を月収金額との比率で表すと日本45%に対して米国25%になるとある。日米2019年の平均月収は記事に37万円と5500ドルとある。iPhone 12 Pro Max 512ギガバイトの販売価格はAppleのWebを探せば分かる。日本では165,880円(ここ )、米国では1,399ドル(ここ )であり、日経記事の通り日本45%と米国25%となった。


Appleの価格が適正かどうかは難しいところであるが、日経記事が指摘している「日本では賃金が伸びていない」は事実である。日本マーケットをどう考えるかより、Appleにとっては世界戦略が重要であり、日本は世界の中の一部である。


日経記事は『消費も伸び悩み企業収益も低迷する悪循環が続いている。連合の神津里季生会長は「今の構造のままだと、社会全体での賃上げは難しい」ともらす。』と述べている。その通りと思う。是正に向けての改善ができていない。3号被保険者制度がなくならない。その結果、主婦の低賃金パート労働が存続し、全体の賃金水準の伸びを抑えている。放置している結果は、力の強い者が大きな配分を得る結果となる。努力した結果として報われるのは悪いことではない。しかし、合理的な制度となっており、公正な状態を実現できているかどうかは、常に見直しが必要である。


世界に取り残されてもつまらない。 日本社会・日本経済がガラパゴス化していないかを常に検証し続けつつ発展するようにすることは重要である。

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