2025年7月 1日 (火)

生活保護費に関する最高裁判決

6月27日に生活保護費の減額を巡る裁判で、最高裁は争われた減額について違法であるとの判断を下した。 判決文は、次の最高裁Webにあります。

(A) 名古屋高裁判決の上告審 (名古屋高裁は減額を違法と判断し、市が上告していた。 一方、第一審では受給者の請求は棄却されていた。)
(B) 大阪高裁の上告審 (大阪高裁は市による減額を合法と判断し、受給者側が上告していた。 一方、第一審では受給者の請求は認容していた。)

最高裁は、(A)について上告を棄却し、(B)について被上告人・市の控訴を棄却した。 本裁判に関しては、この日経の6月27日の記事かよく書けていると思います。すこし頭が混乱しそうですが、いずれにせよ最高裁は(A)、(B)いずれの訴訟でも、減額は生活保護法3条、8条2項に違反して違法であったと判断した。 

1) デフレ調整

生活保護費を消費者物価指数の変動に準じて調整し、デフレにより消費者物価指数が下がっている場合、消費者物価指数に準じて生活保護費を減額するのがデフレ調整です。

デフレ調整そのものは、物価下落・すなわちデフレがあれば、最低限度の生活の需要を満たすための金額は減少するわけで、デフレ調整があっても当然である。

しかし、厚生労働省がは、総務省の消費者物価指数(CPI)ではなく、独自に計算した生活扶助相当CPIなる指数を使った。 生活扶助相当CPIのWikiはここにありますが、今回の最高裁判決文では、総務省CPIを用いると物価下落率は2.35%であり、生活扶助相当CPIを用いると物価下落率は4.78%と2倍以上になる(大阪高裁上告審の判決文21ページから。)

本件のデフレ調整による引下げは、3年間にわたり最大10%(年平均6.5%)、総額670億円に及び、期末扶助手当70億円も削減されたので、総額740億円(年平均7.3%)という大規模な減額であって、多人数世帯や子育て世帯ほど削減率が大きかったが、激変緩和措置として減額幅の上限を10%に設定したため、激変緩和措置の対象となった被保護者世帯は約2%にとどまり、被保護者世帯の期待的利益に可及的に配慮するという観点からも裁量権の逸脱・濫用と判断される可能性は否めないと思われる。(宇賀克也裁判官の補足意見で名古屋高裁上告審の判決文26ページから)

2) 支援団体

Webを探すと「いのちのとりで裁判全国アクション」という団体があり、支援をしておられることを知りました。 Home Pageはここです。 

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2025年6月21日 (土)

何が改正されたのか、2025年年金改正法

年金改革の関連法は6月13日に参議院で可決され、6月20日公布された。 長い法律名「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」である。 しかし、その内容は疑問が多いのである。

1) 社会保険の加入対象の拡大

厚生労働省の説明はこのページにあるが、まず(1)として「社会保険の加入対象の拡大」が記載されている。 3号被保険者は、3号として加入しており、考慮不要とするなら、大いなる間違いである。

日本年金機構は、3号被保険者の保険料についてこのページ で「ご自身で保険料を納付する必要がありません。」と説明している。 正しいのであるが、現行の制度下でのことであり、合理的であるかは別である。 すなわち、その続く文章では「第2号被保険者が全体で負担しているためです」となっている。

短時間労働者の加入要件の見直しにより130万円の壁はなくなり100万円の人も厚生年金に加入し、保険料を支払うこととなる。 しかし、同時に「第2号被保険者が全体で負担」することから、言わば、パート労働者も働かない3号被保険者の年金保険料を負担するのである。

本来的な筋論で言えば、3号被保険者に1号被保険者(国民年金の対象者)と同じ保険料の納付を求めるべきである。 子育て支援制度が不十分であった時代には3号被保険者の意義はあったかもしれない。 今や、外国人労働者への依存を高めている人手不足時代であり、働くことを奨励して当然と考える。 働く者を優遇するのが当然であり、働くことが困難な人は、それなりの必要な支援を差し伸べるべきである。

現代において、働かなくて、基礎年金を満額受給できる3号被保険者制度を残すことは、不正義と思う。3号被保険者でない人たちに負担が行っているのであり、それは働く人たちであり、税が半額負担となっているので、全員が3号被保険者の半分を負担していると言える。 ちなみに、1号被保険者(国民年金加入者)の保険料は令和7年度月額17,510円である。 外国人も日本で給与支払いを受ければ、厚生年金2号被保険者となり、給与所得がなければ1号被保険者として国民年金への加入義務が発生し、毎月17,510円支払わねばならない。

2) 標準報酬月額の上限引き上げ

厚生労働省の説明(4)には「賃金上昇の継続を見据え、世代内の公平のためにも、上限に該当されていた方に、本来の賃金に応じたご負担をいただき将来の給付を手厚くします。」と説明している。

現行制度では、厚生年金の保険料について報酬額が月65万円以上は全員65万円として扱うことになっている。 これを、68万円。71万円、75万円の3段階を追加するのである。但し、それぞれ2027年9月、2028年9月、2029年9月からの実施である。 なお、75万円とはボーナス込みで年間1,200万円程度である。

75万円となった場合に65万円の時と比較すると、厚労省は月9,100円の負担増で、10年払い続けて年金で月5,100円の受け取り年金増加と言っている。 毎月9,100円とボーナス払いを含めて年15月分とすると年間136.5千円。 10年なら137万円である。 受領する年金は5,100円の12ヶ月であるから61,200円/年。 これを納付した137万円と対比すると22.38年となるわけで、年金受給開始を65歳とすれば87.38歳以上生きれば、元が取れる計算である。

87.38歳をターゲットにするなら、やむを得ないと感じる人もいるかも知れない。 しかし、実際には払い込んでいる年金保険料は雇用主負担が同額ある。 雇用主負担を考えれば、44.76年となり、109.76歳まで生きないと元が取れない。 ほぼ全員マイナスのリターンになると思う。

年金の恐ろしさである。 複雑すぎて誰も簡単には計算できない。 悪い政治家と悪い官僚がタッグを組んで攻めてこられると防衛がしんどいのである。 最近は、それに更に選挙の嘘つき票集めのポピュリズムが絡んで複雑怪奇になっている。

3) 将来の年金水準について

説明が厚労省の年金改正の全体像(ここ )の14ページ(最後のページ)にあるが、最高に訳がわからない部分である。
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極めてわかりつらいのであるが、日本の公的年金制度は恩給制度、共済組合制度、労働者年金保険制度・厚生年金保険制度、国民年金制度等の過去の制度を統合し、統合による被保険者・受給者の不利益解消にも配慮してきた経緯があり、矛盾も抱えている。 その矛盾は、経済情勢の変化によっては、今後拡大する可能性も含んでいる。 それが、上図の右側で、好調な場合は25.0%+34.4%であり、好調ではない場合は24.6%+27.2%と将来について予想している。 好調な場合は、59.4%であり、そうでない場合は51.8%と、差は7.6%と言っている。

実は、59.4%や51.8%は、厚生年金の場合であり、基礎年金のみの受給となる国民年金の場合は、34.4%と27.2%なので、その差は7.2%である。 年金受給額で考えると、好調ではない場合、好調時の79%からはその幅20%以上の年金受給額が目減りする予想となっている。 国民年金のみなら21%の目減りである。 なお、左側の25.0%+36.2%(合計61.2%)は2024年度のことであり、経済好調時でも59.4%へと1.8%ダウンで目減り率は2.9%である。

人口の高齢化、すなわち受給者の増加と年金保険料納付者の減少は、その要因として大きいのであるが、他にも要因は少なくない。

A) 国民年金と厚生年金での保険料の差

国民年金は令和7年度で1月あたり17,510円である。 一方、厚生年金は給与額の9.15%を被保険者と雇用主が負担するので合計18.3%を厚労省に支払う。 従い、月収96,000円以上の場合は、国民年金より厚生年金被保険者の方が常に多くの保険料を納付していることとなる。 報酬月額75万円の人は、雇用主負担を含めると年間200万円以上の保険料を納付することとなり、国民年金の人の9.5倍もの保険料を納付する。 しかし、一方で、受け取る年金額は年間354万円と予想され、国民年金受給額83万円の4.2倍にとどまる。 年金受給期間何年で払込保険料に一致するか、言わば元が取れるかを計算すると、22.5年を要し、国民年金の10.1年に対し2倍以上になる。

保険料を支払っていない3号被保険者が年金を受領することを可能とする原資を厚生年金加入者が負担していることも、国民年金と厚生年金の保険料と受給額のアンバランス要因である。 全員が妻帯し妻は全て専業主婦であれば、全員が同一条件となるが、婚姻や労働は個人の自由であり、公的年金制度が個人の生き方により利益・不利益を生じさせる制度は改正すべきである。 この点を今回の2025年改正は全く考慮していない。

B) 厚生年金の積立金を国民年金の給付に充当する案が出てくる不思議さ

次の図2は、2019年度から2023年度の各年度末における年金積立金がその年度における年金給付金額の何倍になっているかを示したチャートである。 基礎年金勘定は、積立金を持たない制度なので無視すればよい。 厚生年金・共済組合は年間給付額の6倍近くの積立金を保有しているが、国民年金は3.7倍の積立金しか保有していない。

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次図は、国民年金保険料、厚生年金保険料と基礎年金額の金額(名目)を2017年を1.0として2024年までの推移をチャート化したものである。

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国民年金保険料は、物価変動と賃金変動によって決まり、基礎年金額は、それらにマクロスライドが加わる。 厚生年金保険料は賃金の18.3%と料率で決まっていることから、2017年を1とした賃金指数の変動が名目ベースの保険料金額となる。 上図は、そのようにして作成したのであるが、制度の矛盾が現れていると思う。

C) 自民・公明・立民3党で年金法案修正に合意し基礎年金を底上げと言うが?これなに?

この5月27日の日経新聞の記事 等多数のメディアで報道されていました。 しかし、本当は何なのでしょうか。 実は、3党合意でなされたのは附則3条の2を追加することです。

その追加された附則3条の2は、何が書いてあるかというと、6月20日官報号外137号の34ページ(ここ )にあるのですが、何を言っているのか、どのような論理構成になっているのか、頑張って読もうとしても、理解不可能であるし、報道されているような解釈が私には出てこない。

D) 今の年金の制度を根本から改めるべきと思う

保険料の支払いを前提としている基礎年金制度があり、それに加えての報酬に比例する厚生年金がある。 単純なようであるが、少子高齢化というか、社会全体の高年齢化があり、抜本的改革をしないと歪みが大きくなりすぎて制度が自己崩壊してしまうように思える。 政治家に任せれば、上のC)に書いたような意味不明の改革が出てくる。 こんなのに乗っかってては沈没してしまう。 抜本的改革を考えるべきである。

そこで私の提案であるが基礎年金は全額税負担とするのである。 実は、すでに50%は税負担となっているのである。 その税負担額は2023年度で12兆円強である。 なお、基礎年金としての給付額合計は25.1兆円である。 もし、基礎年金を全額税負担とするなら追加で13兆円をまかなえば良いのである。

13兆円の税収とは、消費税の税収予想が令和7年度25兆円であるので、その50%である。 消費税率を50%上げればよい。 現在の(地方税分を含まないで)7.8%から3.9%-4%を引き上げれば良い。 反対が多いと心配せねばならないだろうか? 国民年金保険料は納付する必要がなくなる。 厚生年金保険料の料率は下がる。 誰が得するわけでもないが、あえて言えば、国民年金保険料の徴収等の事務管理費用の削減は期待できると思う。 また、富裕層ほど、消費額が多いとすれば、今の国民年金保険料の様に一定額負担ではなく、消費支出に対しての比例負担となる。

かつて日本に国民年金制度を導入したときは、消費税の制度はなかった。 ちなみに年間500万円を消費するとして、その4%は20万円である。 一方、国民年金保険料は月17,510円なので、年間21万円である。 年収500万円-600万円の人は、消費税に切り替わった方が、有利となる。

年金制度は重要である。 事故、障害等により活動や労働が制限された場合、障害年金を受け取れる。 働きやすい、生きていて楽しい世界を実現していきたいと思うのである。

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2025年4月 2日 (水)

2つの第三者委員会の調査報告書

興味ある第三者委員会の調査報告書が発表されました。 一つは3月31日に発表されたフジテレビ第三者委員会報告書であり、もう一つは、その少し前の3月19日に発表された兵庫県の文書問題に関する第三者委員会の報告書です。

1 兵庫県の文書問題告発問題に関する第三者委員会の報告書

報告書は、この兵庫県のWebページからダウンロードすることが可能であり、全部で4つの報告書があります。

文書とは元西播磨県民局長が2014年3月に作成した兵庫県斉藤知事の行為に関する告発文書です。

報告書の内容の一部ですが、告発されている贈答品に関する贈収賄については、兵庫県に対する贈与か使用貸借であり、膏藤知事個人への贈与ではなかったとの判断を行っている。 一方、斉藤知事のパワハラに関しては、16項目中10項目をパワハラに該当するとしている。

なお、告発文書の作成・配付行為に関しては、公益通報の妥当性を具備していると判断しており、メール調査と元西播磨県民局長らへの事情聴取や公用パソコンの引上げ行為、懲戒処分等を違法行為としている。

報告書の内容については、長いのですが、読む価値はあると思います。 報告書の中の次の文章を紹介しておきます。

膏藤知事にはパワハラや不適切な言動に当たる行為が認められた。また、本件文書問題に対する県当局の対応は、公益通報者保護の見地から見て違法、不当なもので、あった。

2 フジテレビ第三者委員会報告書

この報告書も全て入れると394ページあり、膨大です。

現在このページからダウンロード出来るのですが、直リンクアドレスは、次です。

https://www.fujitv.co.jp/company/news/250331_4.pdf

https://www.fujitv.co.jp/company/news/250331_2.pdf

https://www.fujitv.co.jp/company/news/250331_3.pdf
https://www.fujitv.co.jp/company/news/250331_1.pdf

フジテレビでの問題の一つはある女性アナウンサーが中居正広に性暴力を受けたことですが、このことに関して、報告書は次の様に述べている。

その結果、当委員会は、2023年6月2日に女性Aが中井氏のマンションの部屋に入ってから退室するまでの間に起きたこと(本事案)について、女性Aが中井氏により性暴力による被害を受けたものと認定した。

中居正広とは、ジャニーズ出身だそうで、ジャニーズって、すごい集団だなと思う。 フジテレビも、これじゃ無茶苦茶ねと思う。 人権が人権として扱われない、世の中で最低の会社みたいと感じる。 フジテレビから電波の利用権を取り上げるのが良いだろうと感じました。

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2025年3月12日 (水)

年金130万円の壁問題への対応

130万円の壁とは、国民年金3号被保険者制度に関する壁である。 保険料を支払わずに、年金を受給できるのは、何かおかしいと感じてしまうが、これは普通の感覚と思う。 経済同友会と連合も、第3号被保険者制度の廃止を求めるとこの日経記事 は伝えており、社会保障制度は働き方や生き方に対して中立的であるべきとの考え方に私も賛成です。

本ブログ記事では、多面的な分析を行い、ともすれば複雑と思える年金制度について正しく分析を行い、私の意見を伝えると共に、読んで考えていただく際の正確な情報提供の役目も負うべきと考えた結果、長文のブログ記事となってしまいました。 そこで、目次を作成し、少しでも読み易くと思い、各目次へのリンクを張りました。 また、ブログ中の全ての図表は、クリックで別窓表示されます。

1 まえがき
1-1) 国民年金3号被保険者とは
1-2) 3号被保険者の特権

2 日本の公的年金
2-1) 日本の公的年金の概要

2-2) 現制度においての1号、2号、3号の年金受取額の比較計算

2-2-1) 支払う必要がある保険料
2-2-2) 受け取れる年金額
2-3) 日本の公的年金制度の財政・収支の概要

2-4) 基礎年金、基礎年金拠出金、国庫補助金(国庫負担金)について
2-4-1) 国民年金1号被保険者に対する国庫補助
2-4-2) 厚生年金被保険者と3号被保険者に対する国庫補助
2-5) 年金給付
2-5-1) 基礎年金の給付について
2-5-2) 厚生年金(報酬比例部分)の給付について
2-6) 年金積立金

3 3号被保険者制度について
3-1) 3号被保険者の実質保険料負担者
3-2) 3号被保険者制度導入時と現在の比較
3-3) 3号被保険者世帯と共稼ぎ世帯の年金額の比較
3-4) 3号被保険者制度による悪影響
3-5) 働き方の選択肢は個人にある
3-6) 経済成長・発展の阻害
3-7) 年金受給者の視点
3-8) 3号被保険者制度の再構築について

4 更に進む少子高齢化への対応

1 まえがき

1-1) 国民年金3号被保険者とは

国民年金は、国民年金法により定められた公的年金であり、政府が管掌し、国民の老齢、障害又は死亡に関して給付される。 国民年金法において、1号、2号、3号の3種類の被保険者がある。 1号被保険者とは2号又は3号でない20歳から60歳未満の者であり2号とは厚生年金保険(公務員共済組合等を含む)の被保険者であり3号とは2号の配偶者であって且つ2号被保険者の収入により生計を維持する者である。

企業であれ個人事業主であれ雇用されている場合は、2号被保険者に該当し、2号被保険者の配偶者であり、その配偶者が被扶養配偶者であり、被保険者の収入により生計を維持している場合には、その配偶者は3号被保険者となる。

[注] 厚生年金法は、4種類の被保険者を定めている。 1号は1号厚生年金被保険者、2号は国家公務員共済組合の組合員たる厚生年金保険の被保険者、3号は地方公務員共済組合の組合員たる被保険者、4号は私立学校教職員共済制度の加入者たる被保険者である。 本記事に於いては、特に断らない限り、厚生年金保険1号から4号加入者を全て厚生年金加入者として区分する。 国民年金法に1、2,3号があり、また厚生年金法に1、2、3,4号があり、混乱しそうですが。

本ブログ記事においては、単に1号、2号、3号と記述する場合は、国民年金法の1、2、3号を指すこととする。

1-2) 3号被保険者の特権

3号被保険者であれば、保険料を支払わなくて、65歳から年金を受け取れる。 年金だけではなく、医療保険も保険料を支払わずとも、3割負担で済む。

3号被保険者制度を良しとするか、どうかは社会・国民が、この3号被保険者制度を支持するかどうかであり、3号被保険者制度について、以下に分析と検討を行っていきたい。なお、3号被保険者制度を考える場合、公的年金制度全体についても考える必要はあり、可能な限り広範囲に検討を行うこととする。

2 日本の公的年金

2-1) 日本の公的年金の概要

国民年金法と厚生年金法が、日本の公的年金制度について定めている法律である。 国民年金法88条は「被保険者は、保険料を納付しなければならない。 」と定め、厚生年金法82条1項は「被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する。 」とし、さらに82条2項で「事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う。 」との定めにより、保険料の被保険者と雇用主の50%づつの負担としている。 なお、国民年金と厚生年金の保険料を二重納付する必要はなく、国民年金法94条の6において、2号被保険者または3号被保険者である期間については、国民年金の保険料納付の必要はないとしている。

2-2) 現制度においての1号、2号、3号の年金受取額の比較計算

2-2-1) 支払う必要がある保険料

1号(国民年金)の場合は、月額16,980円の保険料を毎月支払わねばならない。 夫婦だと33,960円である。 2号の厚生年金保険の場合は、毎月の給与と賞与に18.3%を掛けた金額が保険料である。 なお、保険料は雇用主と50%づつの負担であることから、個人負担は9.15%となる。 3号は、負担ゼロである。

但し、国民年金の場合、保険料免除の制度がある。 扶養親族がおらず、前年所得が67万円以下であれば、保険料全額が申請により免除される。 78万円~158万円の範囲内であれば、3/4、2/4、1/4の納付免除が受けられる。 また、扶養親族の数により免除条件は緩和される。 なお、生活保護受給者の場合には、納付義務はない。

2-2-2) 受け取れる年金額

受給できる年金は、1号、2号、3号共通の基礎年金816千円(年額)、と2号のみが受給できる老齢厚生年金の報酬比例部分がある。 基礎年金は、20歳以降60歳までの加入年数が40年より短ければ、期間に応じて減額され、1号、2号、3号のいずれであれ共通で、加入していた期間は加入年数に通算となる。 3号被保険者は、保険料を負担しないが、基礎年金を受給でき、その受給額の計算においては3号被保険者の期間は保険料を納付したとして算出される。

2号被保険者(厚生年金)が、基礎年金に加えて受給できる老齢厚生年金(報酬比例部分)は、被保険者であった期間中に受けとった給料・ボーナス(報酬額)の合計額に対する比例計算となる。

参考として、2号(厚生年金)と1号(国民年金)の場合の年金保険料と受取額の試算予想を表1として掲げる。 3号被保険者の受取年金額は、1号被保険者と同一である。 なお、3号被保険者であっても、過去の期間に1号や2号であったこともあり得るし、2号被保険の場合でも、転職等により一時的に1号であった期間もあり得る。

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国民年金(1号被保険者)の場合は、20歳加入で60歳まで払い続け、65歳から86歳まで年金受給を受けたとすると、年金受給総額は払込保険料総額の2.1倍になる計算である。

厚生年金の場合は、保険料負担がパーセンテージ(現行18.3%)であり、受給する年金は基礎年金(国民年金と同額)と老齢厚生年金(報酬比例部分)の合計である。 更に、保険料は雇用主との折半であることから、被保険者(労働者)の観点から損得勘定を考えれば、表1の右端の欄(隠れているので、表をクリック下さい)のように保険料負担に対して年金受給予想額のリターン率は大きくなる。(また、低賃金ほどリターン率は大きくなる。) 投資のリターン率(Internal Rate of Return)で評価すると、年率で国民年金は2.1%、厚生年金の場合は被保険者観点の評価で10万円の場合4.6%、20万円の場合3.3%、30万円2.7%、40万円2.3%、50万円2.0%となる。

1号被保険者(国民年金)の場合は、定額制で毎月16,980円の保険料を払い続ければ、基礎年金が受領できる。 2号被保険者(厚生年金)の場合は、収入額の9.15%(雇用主負担を別として)を払い続ければ、基礎年金と老齢厚生年金(報酬比例部分)が受領できる。

3号被保険者については、負担がゼロであるので、3号期間のみでは∞になる。 但し、配偶者による扶養が前提であるので、結婚前や離婚・死別後の期間、1号あるいは自身が2号の厚生年金被保険者であった期間に於いては保険料を納付していると考えられ、合算され、2号と3号あるいは1号のミックスとなる。 3号は婚姻をしており配偶者の収入で生計を維持し、生活費の為の収入は配偶者に依存していることが前提であり、この前提がなくなれば3号に該当しなくなる。

健康保険については、1号の場合は市町村国保への加入となり、市町村により差はあるが、概ね住民税所得金額の10%と理解する。 2号で協会けんぽの場合は、給与総額の約10%であり、大きな差はないと思われるが、雇用主と半額ずつの費用負担である。 健保組合の場合は、基本的には協会けんぽより保険料は安い。 3号被保険者は、健康保険料の負担はない。 なお、国民健康保険の場合、雇用主による保険料の半額負担はないので、基本的には年金2号保険者より高い。

2-3) 日本の公的年金制度の財政・収支の概要

令和4年度と5年度における日本の年金財政の収支状況の概要は次の表2の通りである。

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表2に記載したように、公的年金財政において、収入で大部分を占めるのは被保険者が納付する保険料と国庫による補助金であり、支出では年金給付です。 2023年度について、保険料、補助金と給付金を図で表現したのが図1です。

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2023年度に支払われた保険料は国民年金の被保険者からが1兆3352億円で、厚生年金被保険者と雇用主分が合計40兆4157億円であり、保険料の合計収入は41兆7509億円であった。 2023年度の国庫補助金収入は国民年金で1兆8036億円、そして厚生年金で10兆2998億円であり、その合計は12兆1034億円であった。 これら保険料と補助金の合計は53兆8543億円(収入)であった。

支払われた2023年度の年金額は国民年金及び基礎年金で24兆6945億円であり、厚生年金・報酬比例部分で29兆1971億円であり、合計53兆8916億円であった。 

2-4) 基礎年金、基礎年金拠出金、国庫補助金(国庫負担金)について

基礎年金勘定は、国民年金と厚生年金に共通な基礎年金を、各制度が分担して負担する制度として設けられている。 国民年金事業に関しては国庫負担を2分の1とすることが国民年金法85条に、厚生年金保険で基礎年金拠出金の2分の1を国庫負担とすることが厚生年金法80条に定められている。 基礎年金とは、1号、2号、3号共通の制度であり、資金の流れを通して、分担に関して考えてみる。 

2-4-1) 国民年金1号被保険者に対する国庫補助

国民年金1号被保険者に対する補助金額を算出する基礎は、被保険者数であるが、保険料の納付が前提となる。 但し、申請をしての免除者となっている場合は、補助金対象者となる。 表3が国民年金(1号)被保険者の人数である。

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免除を受けていない場合、保険料の納付が年金受取の前提である。 1/4、1/2、3/4免除者は、免除後の保険料を納付すれば満額に相当する年金額の50%プラス3/4、1/2、1/4を受領できる。 申請全額免除者の年金額は国庫補助分のみなので、2分の1となる。 年金を受給できない法定免除者は、補助金対象とはなっておらず、その大部分は生活保護者と推定される。 なお、保険料免除については所得条件があり、また、申請がなければ国庫補助金相当の50%年金給付を受けられない。

現状における国民年金の保険料納付率は約80%であり、この前提で国民年金が納付されていると見做される被保険者(全額免除者を含め)の数を表3の最下欄の行に記載した。

表4は、国民年金1号被保険者について払い込まれた保険料、国庫補助金、基礎年金拠出金について2019年度から2023年度までの5年間について記載した表である。 被保険者一人あたり補助金月額の計算は、納付率80%と仮定しての金額である。

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払い込まれた保険料と国庫補助金を比較すると、国庫補助金が保険料の1.3~1.4倍である。 その理由は、補助金対象者数が納付者数より多いからである。 保険料と国庫補助金の合計額が、基礎年金拠出金となる。

2-4-2) 厚生年金被保険者と3号被保険者に対する国庫補助

厚生年金(共済組合関係を含む))について国庫補助金及び基礎年金拠出金について記載したのが表5である。 なお、3号被保険者は厚生年金被保険権者の配偶者であり、年金会計において3号被保険者分の基礎年金拠出金は、厚生年金の中から拠出される。 基礎年金拠出金に拠出された後の残額が、厚生年金の報酬比例部分の割り当てとなる。

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5年間の年間1人当たりの平均国庫補助金と平均基礎年金拠出金は、月額換算で、表4の国民年金の場合は国庫補助金の平均は15,917円であり、基礎年金拠出金の平均は27,837円となる。 表5の厚生年金の場合は、17,440円と33,633円となる。 国民年金と厚生年金で、一人あたりの金額の金額を比較すると、国庫補助金についての差は1,523円であるが、基礎年金拠出金での差は5,796円である。 国庫補助金については、両者の差は大きくない。 しかし、基礎年金拠出金ではその差が広がる。 基礎年金拠出金は、保険料と国庫補助金の合計であり、国民年金の場合は、保険料減免者が存在するので、減免者の保険料分は基礎年金拠出金が少なくなる。

国庫補助金の額を基礎年金拠出金で割り算すると0.51-0.52と言うような数字であり、基礎年金拠出金への供出は、わずかではあるが、国庫補助金の額は厚生年金保険料より多い。 厚生年金の保険料は雇用主が被保険者(労働者)より給与やボーナスから差し引いて徴収し、雇用主負担分と併せて納付する制度であり、納付率は高く99%である。

2-5) 年金給付

表4の基礎年金拠出金と表5の基礎年金拠出金が国民年金と厚生年金の基礎年金給付の財源となる。 厚生年金(共済組合関係を含む)については、表5の基礎年金拠出金が国民年金と同様に基礎年金給付の財源となり、保険料収入から基礎年金給付額を差し引いた残額が報酬比例部分の年金財源となる。 もう少し、詳細を見ると以下の通りである。

2-5-1) 基礎年金の給付について

基礎年金について基礎年金拠出金が、基礎年金として年金受給者に支給される収支を示したのが、次の表6である。 表6の1行目「国民年金からの基礎年金拠出金」は表4の最下欄「基礎金拠出金」と同額であり、表6の2行目「厚生年金からの基礎年金拠出金」は表5の「基礎金拠出金」と同額である。

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3号被保険者は、1号被保険者と同様、基礎年金のみが受給できるのであるが、その財源は2号の被保険者が払い込んだ保険料と国庫補助金の合計である。 表4の一人あたり補助金額と表5の一人あたり補助金額で大きな差はない。 補助金と保険料の合計が基礎年金拠出金として拠出され基礎年金として受給者に給付されている。

3号被保険者について、もう少し説明を加えると、表4の国民年金と表5の厚生年金で、一人あたり国庫補助金額について年度によりバラツキは多少あるが、ほぼ同額である。 表5において、一人あたり国庫補助金額を計算するにあたり、厚生年金では被保険者数として2号被保険者と3号被保険者の合計としており、3号被保険者についても、1号被保険者や2号被保険者と同額の国庫補助金が供与されている。

更には、表5において(B)/(A)が0.5強であり、国庫補助金は基礎年金拠出金のほぼ半額であることを示している。 残る半額は、厚生年金の保険料から拠出されていることを意味するのであり、この保険料とは2号被保険者が納付した保険料(雇用主負担を含め)であるが、基礎年金拠出金の計算では2号被保険者の人数と3号被保険者の人数を合算していることから、3号被保険者の保険料は2号被保険者が負担していると言える。 但し、3号被保険者を配偶者として有していない2号被保険者も負担している状態になっている。

表6では、基礎年金受給中の人数を記載しているが、この人数は基礎年金を受給している1号、2号及び3号を含む基礎年金の全受給者数である。

2-5-2) 厚生年金(報酬比例部分)の給付について

厚生年金(共済組合関係を含む))について、まとめたのが表7である。 保険料収入に国庫補助金が加わり、国庫補助金のほぼ倍額が基礎年金拠出金として供出される。 供出後に残る金額が厚生年金の報酬比例部分年金としての給付財源となる。

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表7の最下行に一人あたりの報酬比例部分の平均年金月額を記載したが、通常発表されている金額より低い金額である。 そこで、分類を細かくして年金平均額を計算したのが表8である。

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老齢厚生年金とは、65歳から受け取れる厚生年金である。 通老相当25年未満厚生年金とは、受給開始年齢を65歳以前として選択した場合、65歳以前の受給額は、原則基礎年金は受け取れず、報酬比例部分のみに減額となる。 厚生年金受給者数が基礎年金受給者数より多いのは、このことが関係していると考える。

なお、基礎年金を加算した場合の、一人あたりの老齢厚生年金の受取額は2019年度から2023年度の平均値で月額154千円となる(表6の基礎年金57,718円と表8の97,015円の合計)。

2-6) 年金積立金

2-1)~2-5)において述べたように、公的年金の保険料収入および国庫補助金収入は、ほぼ年金給付に充当されている。 しかし、収入と給付が常に合致するものではなく、差額は年金積立金への積立となったり、取り崩しとなったりする。 表9に、2019年度~2023年度における公的年金の収入・給付の差額と資金運用損益および積立金を記載した。

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国民年金と厚生年金の積立金については、GPIF(年金積立金運用独立行政法人)が管理・運用しており、国家公務員共済、地方公務員共済、私立学校教職員共済については、各共済組合が管理・運用している。 基礎年金勘定は、基礎年金の必要額を国民年金と3つの共済組合を含む厚生年金から受領し、基礎年金の給付を管理することが目的であることから、収支差は原則生じない。 公的年金全ての積立金合計は304兆円になる。 但し、積立金は各年金の被保険者が納付した保険料と年金給付の差が積み立てられ、運用された結果であるので、制度を超えてミックスすることは、ふさわしくない面もあると考える。

表9の最下2行に5年間平均の年金収支差と運用損益を記載しており、毎年の年金収支差よりも運用損益額が大きい状態である。 それぞれの期末年金積立金がその年度の給付金の何倍になっているかを図2に表示した。

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図3に、各年度の運用損益が期末積立金の何パーセントに相当しているかを表示した。 -5%から25%の間であるが、運用成績に年金毎の差はほとんど見受けられない。

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年金積立金が給付年金額の5倍以上となっていることに関する評価は、更に進むと予想される年金受給者の増加とそれを支える被保険者の負担緩和を考える必要がある。 評価方法は、シミュレーションの実施によらざるを得ないと考えるが、本ブログ記事の中では実施しないこととする。

3) 3号被保険者制度について

3号被保険者制度については、次の様なことを思うのです。

3-1) 3号被保険者の実質保険料負担者

3号被保険者は、保険料の負担はないが、基礎年金を受給できる。 第2章においても記載したが、もう一度整理し、再度記述する。 3号被保険者分の基礎年金拠出金は幾らであり、誰が負担しているかの分析を試みたのが表10である。

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基礎年金拠出金への拠出額合計(3行目)が基礎年金の給付額合計(4行目)とほぼ同額である。 実際には、当該年度の基礎年金の支給額を予測し、これを基礎年金拠出金で賄うため、その拠出を国民年金と厚生年金とに配分している。 配分の際の考え方は、被保険者一人あたりの金額であるが、国民年金については払い込まれると予想される保険料と国庫補助金の合計額とし、厚生年金については3号被保険者を加えた被保険者数に国民年金の場合の全額納付者と同じ係数(2分の1国庫負担の原則)を適用して決めている。

もう少し追加説明をすると、5、6、7行目が厚生年金(共済組合分を含む)の被保険者数である。 8行目から12行目が国民年金の被保険者数についてであり、生活保護免除者、学生免除者、申請免除者が存在し、基礎年金拠出金の計算のための被保険者数は修正の必要があり、修正を行った被保険者数が12行目である。 修正とは、例えば全部免除者は、基礎年金の受給額は50%であり、基礎年金拠出金も50%相当で計算する。

13行目が国民年金の基礎年金拠出金単価の計算結果であり、13行目は参考値として国民年金保険料を記載し、拠出金と保険料との対比を15行目に記載しており、50%国庫負担であるので、約50%となっている。 16行目と17行目は厚生年金に関する基礎年金拠出金単価の計算結果であり、基礎年金拠出金の額は被保険者と3号被保険者の合計被保険者数で評価すると、国民年金とほぼ同じ水準である。

次の表11は、3号被保険者の制度は存在せず、3号被保険者は国民年金に加入するという制度とした場合の想定計算である。 影響としては、厚生年金からの基礎年金拠出額が減少することがある。 しかし、一方で、国民年金は年金保険料収入が増加すると共に基礎年金拠出金も増加する。 このシミュレーションを実施したのが表11である。

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3号被保険者が1号の国民年金被保険者となっても、年金全体としては基礎年金拠出金の総額に、影響なし。 また、同様に総額では国庫補助金額にも影響なし。 2行目の被保険者数は3号被保険者を含んでいない人数であり、3号被保険者数の減少分、厚生年金の基礎年金拠出金は減少する。 その50%が厚生年金財政に余裕が生まれることから、これを厚生年金保険料の料率を下げることが可能となる。 この計算結果が6行目である。

一方、基礎年金の収支は3号被保険者数(表10の7行目)の増加に伴い保険料収入が増加する。 同時に、基礎年金拠出金が増加するが、その2分の1は国庫負担であり、保険料と国庫負担で拠出金増加額を賄うことになり、収支差は生まれない。 3号被保険者の移動による国民年金からの拠出金増加と保険料収入の増加を計算したのが、7行目と8行目である。

3-2) 3号被保険者制度導入時と現在の比較

2-4-2)の(表5 (2-4-2) に2019年~2023年における厚生年金被保険者数(1号と3号)を記載しているが、3号被保険者の制度は、昭和60年(1985年)の法改正で生まれ、昭和61年(1986年)4月から施行された。 1986年から2023年までの厚生年金被保険者数と3号被保険者数の推移は、図4の通りである。 厚生年金被保険者のうちで3号被保険者を有する割合を黒カーブ(右スケール)で表している。 1986年当時の3号被保険者数は、約11百万人で、1995年には12.2百万人となったが、その後減少し、2023年には6.9百万人と1995年の56%である。

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3号被保険者の男女内訳は、2023年においては女6,728千人、男129千人であり、パーセンテージでは、98.1%が女性で。その大部分が専業主婦と推定される。 専業主夫は1.9%と少ない。 しかし、制度が発足した1986年当時の男女の比率は、99.7%対0.3%であった。

2023年における厚生年金被保険者数は46,718千人であり、3号被保険者数は6,856千人である。 保険料の負担なしで年金受給を受けられる恩恵は、世帯単位として夫婦合算すれば、3号被保険者の相方の配偶者にも及ぶと考えられる。 世帯単位で厚生年金の受給を考えると、厚生年金被保険者数46,718千人のうち6,858千人は3号被保険者の配偶者であるので、恩恵を受けている。 しかし、残る約4千万人(39,860千人)は3号被保険者の恩恵を受けられずにいる。 異なった観点としては、厚生年金からの基礎年金拠出金は3号被保険者を含めた厚生年金被保険者数で決まることから、独身者等を含め約4千万人と推定される厚生年金被保険者は、高い保険料を払っている制度と言える。

この4千万人の人達について考えるにあたり、令和2年(2020年)国勢調査結果を参考にし分析してみる。 国勢調査結果での20歳から64歳の人口は67,305千人であり、2023年における厚生年金被保険者数と国民年金被保険者数の合計に更に3号被保険者数を加え総合計被保険者数を求めると67,445千人で、国勢調査結果とほぼ同一である。 そこで、国勢調査結果の20歳から64歳の男女別人口を国民年金被保険者相当の男7,307千人と女6,564千人を控除して、厚生年金被保険者数と3号被保険者の男女別人口構成と配偶者有無の人数を推定した。 この方法により推定した2024年3月の厚生年金保険の被保険者の分布は図5の通りである。 図5は、人数をベースにしていることから、婚姻中の世帯(共稼ぎ世帯と専業主夫世帯の双方)は世帯数の人数ベースでは2倍としている。

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次の図6は、1980年以後の日本のサラリーマン世帯における共稼ぎ型と専業主婦型の推移である。

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なお、図6において共稼ぎ世帯数は60%を越えている。 一方、図5の割合57%(25%+32%=57%)と少し差がある。 その理由としては、労働力調査において労働とする対象範囲と3号被保険者と認定する場合の労働時間等についての基準の差によるものと思う。

3-3) 3号被保険者世帯と共稼ぎ世帯の年金額の比較

現時点においては図5や図6のように、共稼ぎ世帯の方が、専業主婦型の世帯より多い。 そこで、現状における3号被保険者がいる専業主婦世帯と共稼ぎ世帯について、支払った年金保険料と年金の受給額予想額を世帯ベースで比較する表12を作成した。 世帯単位の比較表としているが、表1(2-2-2)の補足でもある。

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前提として、年金の受給期間を65歳から85歳までの21年間としている。 3号被保険者世帯の場合は、共稼ぎ世帯と比較して、年金受給予想額は85%から65%程度である。 しかし、払い込んだ保険料は1人分であり、言わば半分(3号被保険者が婚姻以前に払い込んだ保険料を無視すれば)である。 3号被保険者世帯は、払い込んだ保険料総額に対しては2.3倍から5.5倍の年金受給が予想され、1.9倍から4.4倍の共稼ぎ世帯より有利となる計算結果である。

自営業やフリーランス業等の1号被保険者に該当する場合は、一方の配偶者が専業主婦(夫)の場合でも、保険料の納付は義務である。 もし、納付しなければ、その分、受け取る年金が減少する。 表12の1行目の国民年金世帯は 2人分の金額としている。 保険料納付免除制度はあるが、夫婦2人の場合で、前年所得(収入マイナス必要経費)が102万円以下で全額免除となるが、前年所得が250万円以上だと4分の1免除さえも困難かも知れない。 通常の納付義務世帯の場合、夫婦二人で年間40万円強の保険料納付である。 国民年金保険料は1人・毎月という制度なので人頭税みたいだから、弱者には厳しい。 3号被保険者は優遇されていると、ねたまれるような状態になっていると思う。

年金保険料の払込と受給額・リターンの比率関係は、共稼ぎ世帯と独身世帯は同一である。 人口比では4分の1である3号被保険者世帯を優遇する合理的な理由は見当たらないと考える。 130万円の壁を崩して、全員に公平な年金制度にすべきと考える。

3-4) 3号被保険者制度による悪影響

3号被保険者の年金保険料支払免除が厚生年金保険料の料率を押し上げている点があることを、3-1)に記載した。 3号被保険者の配偶者は間接的な利益は受けているが、3号被保険者ではない共稼ぎ世帯や独身者は高い保険料を払っていると言える。

3号被保険者は、保険料負担を嫌って、短い労働時間で働き、低報酬単価を受け入れる傾向になる。 この結果は、労働市場をゆがめ、経済発展を阻害している面があると考える。 3号被保険者制度は、女性の労働報酬単価の水準を引き下げ、また3号被保険者について98.1%が女性である現実からすると、女性全体の活躍を阻害している面はあると思う。 即ち、本来であれば、3号被保険者制度がなければ、女性の社会進出はもっと多くなって来ており、高度な能力を発揮し、社会の発展が進んでいた可能性があると思うのである。

3-5) 働き方の選択肢は個人にある

働き方は多様化しており、サラリーマンの専業主婦(夫)世帯を優遇することは、現在においては社会に良い結果をもたらさない。 政府の成長戦略には、新しい働き方として兼業・副業やフリーランスなどを定着させ、リモートワークによる地方創生の推進、DXを進め、分散型居住を可能とする社会を実現すると述べられている。

また、女性活躍・男女共同参画の重点方針2024 (女性版骨太の方針2024)等では、女性活躍による企業価値向上や、女性活躍推進に資する様々な情報の普及、また、正規雇用の女性の就業継続の支援や妊娠等を契機に非正規雇用となった女性の正社員転換するための取組、企業や地域において活躍する女性人材の育成、専門性の向上と言った様なことが述べられている。

専業主婦(夫)世帯の優遇ではなく、1億総括役時代への取り組みにより日本を発展させ、より豊かな社会をつくっていこうとしているのが現在である。 専業主婦(夫)世帯の選択はあって良い。 個人の自由である。 その専業主婦(夫)世帯の年金保険料は、3号被保険者制度のよに他人に依存することではなく、自分で保険料を負担すべきである。 自営業や農業、あるいはフリーランスやギガワークの人達の世帯は3号被保険者の優遇は受けられない。 夫婦は2人分の国民年金保険料を払わねばならない。

表12 の一番上の行が自営業であり、払った保険料の2.1倍の年金しか受け取れず、5.47~2.33倍の年金が受け取れる3号被保険者世帯とは大きく異なる。 同じ日本人に対して、こんな不公平な公的年金制度を強いるのは、正しくないと考える。

制度は中立であるべきである。 制度がニュートラルであれば、正常な競争社会が形成され、社会の発展が期待される。 多少の有利・不利については止むを得ないことはあり得る。 しかし、3号被保険者制度は是正すべき制度である。 

3-6) 経済成長・発展の阻害

3号被保険者において、受け取る賃金の9.15%が厚生年金保険料として給与天引きされ、実質賃金が下がるとして、年間受取給与額を130万円以下とするように調整する人がいる。

一方、雇い主・雇用者の観点で考えると、18.3%の保険料の半分は雇用主負担であるので、3号被保険者は保険料の負担なしで利用できる安い労働力である。 3号被保険者の保険料は2号被保険者全員の負担となるわけで、雇用主にとっては安価な労働力となる。

安い労働力は、社会や経済にとって有益だろうかと言う疑問です。 技能の高い3号被保険者を低コストで利用できる状態は、結果として低成長・低発展につながり、低成長から抜けだせない要因になっているように思います。 

3-7) 年金受給者の視点

受給者について見てみる。 図7は老齢基礎年金受給者に関しての5歳毎の年齢階級チャートである。 同様に、厚生老齢年金の受給者について5歳毎の年齢階級チャートを作成したのが図8である。

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基礎年金について75歳以上は、図7が示しているように、ほぼ全ての人が基礎年金を受給中である。 なお、人口との対比を把握するために人口を塗りつぶしなしのブロックで図7に表示した。

老齢基礎年金は65歳から受給資格が得られ、65歳以上は人口比80%-85%の人が基礎年金を受給し、80歳以上はほぼ全員が受給中と見受けられる。 この状態を線チャートで見たのが図9である。

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一方、図8の老齢厚生年金について見てみると、図7と比較して、老齢厚生年金受給者数は基礎年金受給者数より少なく、その減少度合いは女性の場合に大きい。 基礎年金受給中の人と、厚生年金を受給中の人との受給者数の対比をチャートにしたのが図10である。 老齢厚生年金の受給者は、全員が基礎年金も併せて受給しているとすれば、厚生年金が対象としているサラリーマン、会社員、公務員の割合が時代と共に高くなったことを示すと考える。 85歳以上は1945年以前の生まれであり、20歳になったのは1965年以前であり、サラリーマンではなく農業に従事しておられた方も20%程度であったのではと思う。

なお、女性については、老齢厚生年金を受給中の人は、基礎年金受給者に対して35%-30%である。 現在65歳-75歳の人は、3号被保険者制度が施行された1986年(昭和61年)において、当時26歳~32歳頃である。 3号被保険者制度導入の理由には、婚姻による離職・退職の結果として無年金となる人が増加することを防ぐことがあった。 その結果、図7にあるように、女性も多くの人が老齢基礎年金を受給できている。

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現在の保険料は、免除制度を除き、一律の国民年金保険料と収入に対して料率を掛ける厚生年金保険料の2種類しか存在しない。 配偶者が3号被保険者である場合の厚生年金保険料は、そうではない独身者や共稼ぎ世帯の被保険者より高い保険料とすることも可能である。 3号被保険者は、その配偶者が雇用主に届け出を提出することで3号被保険者になるのであり、一般と3号被保険者を有する被保険者に別料率を適用することは容易に実現可能である。

3-8) 3号被保険者の再構築について

保険料を支払わずに基礎年金を満額受給できる3号被保険者制度が発足した1986年当時においては、この制度も意義があったと考える。 しかし、現段階に至っては、3-1)から3-6)に述べたように、種々問題は存在するのであり、制度の維持ではなく、改良を加え、持続性を高めることの必要性を感じる。 3号被保険者制度再構築に関する案について、以下に述べる。

3号被保険者制度を廃止する方法としての一つは1号被保険者として国民年金への加入を義務とし、年間約20万円(毎月16,980円)の保険料の納付とすることである。

他の方法としては、3号被保険者の場合、その配偶者は2号被保険者であるサラリーマンや公務員であり、3号被保険者関係届を必ず提出する。 そこで、会社や役所等の雇用主が給与等から天引きして徴収する厚生年金保険料を本人プラス3号被保険者分とすることも可能である。 この場合、国民年金保険料と同額の月16,980円とするか、或いは本人と同様に、雇用主との折半を適用して半額の月額8,490円を個人負担とする方法もあると思う。 保険料の決め方として、厚生年金保険料を現状の収入額に保険料率を乗じる方法とし、3号被保険者を有する場合と、有しない場合で異なった保険料率を適用することも考えられる。

表13に本議論の整理を記述した。 いずれにせよ、被保険者・国民が払い込む保険料総額および年金受給者が支給を受ける年金の総額は現状と同額であることを前提としている。

表13 3号被保険者の保険料納付に関する案(整理)

実施した場合の影響
3号被保険者を単純に廃止し、1号被保険者(国民年金)への加入とする。

3号被保険者に月16,980円の保険料納付義務が発生する。

厚生年金被保険者と雇用主に、それぞれ0.3-0.35%程度の保険料引き下げが見込める。 表11参照(6行目)

3号被保険者の基礎年金分保険料をその配偶者が自己分と併せて厚生年金保険料として納付する。

2号被保険者である配偶者が3号被保険者関係届の提出で手続き完了とし、3号被保険者を有する場合の保険料は、月額8,490円または保険料率を2%引き上げる。 (2号被保険者の厚生年金であるので、雇用主との折半を前提として計算)
3号被保険者を持たない場合は、被保険者と雇用主に、それぞれ0.3-0.35%程度の保険料引き下げが見込める。(注)

 (注) 下段の3号被保険者分の納付を保険料率の変更で実施する場合に、3号被保険者を配偶者とする場合と、そうでない場合で保険料率の上げ・下げ幅が異なるのは、3号被保険者を配偶者とする被保険者数6,856千人で、そうでない被保険者数39,862千人である対象被保険者数の差による。

表13は、3号被保険者をなくすのではなく、保険料支払いについてイコールフーティングとする案を記載した。 3号被保険者が既に獲得している権利を侵害することは、問題があると考える。 1986年の制度導入と同時に、専業主婦は国民年金加入が許されなくなった。 夫の収入で、子育て育児をこなし、自らは専業主婦として生活することは、合理的な選択肢の一つであった。 独身でいることも、結婚して共稼ぎを続けることも、出産・育児等の休業も、専業主婦・夫も、離婚もすべて個人の自由である。 公的年金制度が、生き方による有利・不利を生み出してはならない。

3号被保険者として現在受給を受けている権利は引き続き継続すべきである。 年金とは、長期間の契約である。 公的年金とは個人と国政府・厚生労働省との長期契約である。

4) 更に進む少子高齢化への対応

今回のブログ記事内では、触れていないが、検討すべき重要な事項として、少子高齢化への対応があり、この検討を避けることはできない。

できる限り早い時期に分析を実施し、本ブログで紹介したいと思います。 ちなみに、2024年の現時点の年齢階級別人口、10年後にあたる2034年の予測そして2044年の予測のそれぞれの人口ピラミッドを図11として掲げます。

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図11の元データから年金保険料を負担する世代として25歳から60歳世代の人口と年金を受給する66歳以上の世代の人口を比較したのが表14です。 20年先の2044年は、ともすれば随分先に感じるが、今50歳の人は70歳。

将来の問題ではなく、今の問題として考える必要があると思います。 問題発生の予想があった場合は、その緩和策の検討を重ね、早期に対策を実施することが重要と考えます。 早く書きたいとは思いますが、少し時間の猶予を頂きたいと存じます。

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本ブログを書くにあたり、参考とした資料は以下です。
・ 令和5年度財政状況ー国民年金・基礎年金制度ー
・ 令和5年度財政状況ー厚生年金保険(第1号)ー
・ 令和5年度財政状況ー国家公務員共済組合ー
・ 令和5年度財政状況ー地方公務員共済組合ー
・ 令和5年度財政状況ー私立学校教職員共済制度ー

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2024年11月19日 (火)

103万円の壁を考える

所得税の103万円の壁をなくすという変な議論がある。

1) 103万円の壁とは

1-1) 基礎控除48万円

所得税には、基礎控除という概念がある。 基礎控除の金額は、48万円であり、経費を差し引いた後の所得金額が年間48万円以下であるならば、申告納税する必要はない。 従い、所得金額が50万円の場合はとなると、(50万円-48万円=)2万円X5%=1千円が所得税の額となる。 復興税を無視しています。

1-2) 103万円とは

他者(他人であれ会社や法人、役所であれ)から給与の支払いを受けて、働いている場合には、給与所得の扱いとなり、給与所得控除が適用される。 給与所得控除は年間給与額が162.5万円以下なら、55万円である。 年間給与額55万円なら給与所得額ゼロとなる。 100万円なら45万円となるが、50万円の基礎控除があるので、所得金額としてはゼロである。 103万円なら給与所得控除55万円を差し引いて48万円となるが、これから基礎控除が差し引かれるとゼロになる。

1-3) 給与所得110万円の場合

55万円と48万円が差し引かれるので、所得金額7万円となる。 これに所得税率5%で計算して3500円が所得税となる。 すなわち、計算は180万円までは、(給与所得総額-103万円)X税率5%であり、壁のように立ちはだかるわけではない。 103万円を超えた分について5%の税率で所得税がかかるのである。

給与所得総額358万円までは税率5%であり、103万円の位置に大きな壁があるわけではなく、給与所得控除も給与が増加するにつれ大きくなり、358万円の場合は給与所得控除額は115.4万円である。 これに、基礎控除48万円が加わると控除額は合計163.4万円となり、給与総額358万円から163.4万円を差し引いた194.6万円に所得税率5%を掛けた94,500円が所得税額である。

2) 過去の基礎控除と給与所得控除

1975年以後の基礎控除と給与所得控除の額の推移を描いてみた。 図1がそれである。

202411

50年前と比べてどうか? 1975年の消費者物価指数は53.1であり2023年は105.6であり、1.99倍になっている。 しかし、10年前、20年前の2013年や2008年と比べると、消費者物価指数はそれぞれ8.3%と10.6%増加している。 しかし、図1を見て私が思うのは、デフレの日本経済という判断である。1995年からの10年間でマイナス0.4%、2005年からの10年間でマイナス0.6%、2013年からの10年間でプラス11.2%である。 しかし、この10年間で11.2%とは、年率にすると1%である。

年率1%の是正のために基礎控除や給与所得控除の見直しが必要とは思えないのである。 そんなことをするなら、通常の所得税を2.1%多く徴収する復興特別所得税を廃止すべきである。 2014年の改正で導入された税制であるが、法人については2年間で終了した。 個人については2037年までなので、まだ14年間継続する。 金額が細かく源泉徴収事務等をされている方の事務作業も大変である。 税制は合理的であるべき。

3) 103万円に壁がある人

給与収入が103万円を越えると負担が増加する人も存在する。 それは、19歳、20歳、21歳または22歳の子どもを持ち、その子どもを扶養している場合である。 特定扶養親族となり、所得控除としての扶養控除が一人につき63万円受けられ、税率10%なら6.3万円低くなる。 

なお、18才以下の子どもの扶養に関しては、2020年から扶養控除は見直し・廃止された。 理由は、子ども・児童手当毎月一人1万円・・や高校授業料無償化の拡大であり。 所得税や住民税の調整ではなく、必要な人に妥当・合理的な金額を政府・自治体が支給するという方法は間違っていないと考える。

特定扶養親族に対する扶養控除も廃止をし、大学・専門学校・職業学校・各種学校を含め高校卒業後に専門分野・技能・能力開発等を目差す若者を支援する制度をつくるべきと考える。

4) 130万円の壁は3号被保険者制度廃止での対応を求める

3号被保険者であり続けたいと思っておられる女性は、どれほどおられるのだろうか。 働けるなら、働きたいと思っておられる方が大部分であると思うのである。 女性の年金問題としてこのBlogを書いたので、今回は余り触れないが、3号被保険者制度廃止により女性は何も損をしないのである。

制度は複雑になれば、制度の網を破って抜け駆けをしようとする人が出てくる。 というか、複雑な制度になってしまうと、トリックのように抜け穴ができたり、作られたりする。 悪い奴らに騙されてはいけない。

5) バカな税である法人事業税の都道府県民税の外形標準課税は早急に廃止を求める

実にバカで不合理な税である法人事業税の外形標準課税である。 日本は、共産主義・全体主義でないはず。 法人には、利益に見合った税を課すべきである。 こんなバカげた税が日本をダメにしている。

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2024年10月25日 (金)

ボーイングのストに思う

昨日24日の日経は「ボーイング労組、35%賃上げ案を否決 スト継続へ」と伝えています。

ボーイング労組、35%賃上げ案を否決 スト継続へ

米国の労働関係に関する知識については、それほど持っていないのですが、思うところを少し書いてみます。

1) 労働組合

報道では「ボーイング労組」との名前になっているが、正式には「International Association of Machinists and Aerospace Workers(IAM))」(ホームページはここ )です。 組合員数は退職者会員を含め60万人。 ボーイング以外にロッキード・マーチンやハーレー・ダビッドソンで働いている会員労働者も存在する。 なお、ボーイングで働く組合員は33,000人。

2) 賃上げ35%拒否の理由

まずは、35%賃上げとは、日経の記事本文にあるが、4年間で35%の賃上です。 組合の要求は40%であるので、差は5%。 年率に換算すると、それぞれ7.8%と8.8%です。

現在の米国消費者物価指数の1年前から上昇率は2.3%であり、3年前からの上昇率では年率4.4%、5年前からだと年率4.1%となります。

35%賃上げでも良いではないかと思えるのですが、話は簡単ではないはず。 ボーイングの業績は2019年以後5年間連続の赤字続きであり、2023年は22.2億ドルの純損失でした。 世界的な航空機メーカーであり国防・宇宙関係も手がけているボーイングであり、存続することに疑問の余地はない。 しかし、不採算部門の売却・切り離し、あるいは米国だったら実施可能である人員整理は十分に考えられると思う。 なお、ボーイング・ワシントン州工場での雇用人数は2020年以降減少していない。 しかし、労使双方の予想・見解・もくろみからすれば、大変なしのぎあいがあると思う。

3) 確定拠出年金401K

これは、ボーイングの401(k)に関するチラシであり、ボーイングは確定拠出年金に年間4160ドル(60万円強)を拠出するとしている。 組合の主張は、401(k)から約10年前まで存続していた年金制度も選択適用可能にすることも含まれているようです。 401(k)は万能ではなく、労働者に不利になる場合も、当然存在すると考えます。

4) 雑感

日本では、ストライキという言葉をTV、新聞、その他マスコミで最近はほとんどお目にかかっていない。 ボーイング・ワシントン州工場を一つの企業だとするなら労働者33,000人の企業ですから、大企業のストライキ。 赤字続きで様々な問題あり。 労働者が賃上げを求め、権利を守ろうとストを実行し、既に1月と10日余り経過している。 

日本でも、このようなストライキがあっても良いと思う。 ストライキ(同盟罷業)を遠慮してしまう日本の風土を感じてしまうのである。 力と力がぶつかって、しのぎあって、発展していく。 それが正常であり、発展の原動力であると、その重要性を感じる。

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2024年9月11日 (水)

県の補助金なんて、知事の一声で、増額できるのかな?

次のニュースを目にしました。

YahooニュースAera 9月10日 【独自】兵庫・斎藤知事らの補助金キックバック疑惑で金融機関幹部が重要証言「補助金と寄付はセットだった」

Aeradot 4/13 兵庫・斎藤知事を揺るがす「告発文書」 阪神・オリックスパレードにも疑惑が

昨年の阪神タイガースとオリックスバファローズの大阪と兵庫での優勝パレードに、兵庫県内の信用金庫が寄附をしたとのこと。 パンフレットを見ると確かに兵庫県内の信用金庫、信用組合の名前が「ご協力いただいたみなさま」の中に掲載されています。

上のニュースによれば、11月14日の時点では、県の金融機関向けの「中小企業経営改善・成長力強化支援事業」による補助金は、補正予算で総額1億円だったが、16日には総額3億7500万円に増額され、最終的に斎藤知事の判断で総額4億円の補助金になったという。

これだと、知事の一声で、都道府県の補助金なんて、補正予算を積みまして、簡単に増額できるんですね。 一般的に言えば、補助金を増額して、キックバックも可能だろうな。 でも、刑法犯罪になるので、知事は辞任・退職しても検察庁から追及を受け、刑事罰となるのかな? そうだとすれば、バカな知事だなと思う。 実はもっと悪い共犯者がいる?

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2024年7月24日 (水)

日本の現状打開策

これで解決するという妙案や特効薬は簡単にはないが、せめて思うことを書きつらねます。

まず、日本の現状認識としては、次に書いた私のブログで取り上げた日本経済の伸び悩みです。

7月19日のブログ 実質賃金が伸びていない

5月14日のブログ IMF統計での一人あたり日本GDP第34位に思うこと

バブル崩壊以後、あるいは21世紀になり2000年頃から、ドル建てのGDPや実質賃金は、年によるバラツキはあるものの、ほとんど伸びていない。

1) 衆議院小選挙区・比例代表選挙が関係しているのではないか

1996年10月20日の衆議院選挙で小選挙区比例代表並立制選挙が始まった。 日本のGDPや実質賃金の伸び悩みが始まった時期と似かよっており、関係があるのではとの疑問を持つのである。

小選挙区制が導入された最大の理由は、政権交代が起こりやすくすると言う制度整備であったと理解する。 少数党では選挙で不利となることから政党は2大政党化する。 また、政権交代のためには相手政党批判もさることならがら、国民の利益に適合した政策を考え、立案し、政策をアピールすることが選挙で重要となり、政治の健全化が期待されたと思う。 そのような結果として、政治や日本の産業そして国民の生活が良くなると期待されたはずである。

しかし、世界のなかで比較をすると、日本の成長・発展 が取り残されていることは、残念ながら否めないと思う。 議会や議員にその責任の一端があるとしても、制度面について考えることも重要と思うのである。

日経ビジネスに「チガサキから世間を眺めて」という連載を書いておられる松浦晋也氏が、6月28日の選挙をおもちゃにする人々が教えてくれることで、日本には中選挙区制が合っていたのではと疑問を投げかけておられた。  朝日新聞7月11日のインタビュー記事(全文は読めませんが) 小選挙区制が招いた政治の劣化 田中秀征さん語る「中選挙区連記制」において、同氏は中選挙区制を提唱しておられた。

私が思う小選挙区制の欠点は、小選挙区制では、個人の力だけでは当選可能な得票数の獲得はハードルが高すぎ、政党からの支持・応援を必要とすることである。 中選挙区制でも、政党なり支持団体なり相当程度の人々の支援を受けていなければ当選はできないのであるが、小選挙区制の場合は、選挙民・国民と対話をするよりは、政党からの公認取り付けに時間と労力を割く必要が生じる。

議員活動は、企業勤務とは異なる。 企業勤務なら、その企業の為に働くが、議員は所属政党のためではなく、第一の目的は国民のためであり、政党は手段である。 小選挙区制では、大政党の力は大きい。 その結果、ボス・実力者の力が大きくなりすぎ、歪みが生じることがあると思う。 例えば、政党の党首・総裁がワンマン主義であった場合、党内対立派には選挙で公認を与えず、刺客候補を立てるなんて変なことも生じる。

2) 政党交付金も廃止して議員個人宛に支給

政党交付金の交付は1995年に始まった。 令和4年分政治資金報告の概要がこの総務省のWebにあるが、政党交付金の総額は、315億3千7百万円です。 交付金受領額が一番多いのは自民党で160億円、第2位は立憲民主党67.9億円、第3位は維新の会31.7億円となる。 特記すべきは、政治家女子48党というNHK党が名称を変更した党(今は更に別の名称)で、1億98百万円の政党助成金が交付されている。 都議選で24人の候補者を擁立し、ポスターで物議を醸し出した政党である。

政党に交付金が交付されると、政党の中で権力を持つ者程、配分の際にその決定に関与できることになるはず。 本来、団体や政党は意思も感情も持たない存在であり、意思や感情は人間である個人が持っている。 個人一人では、力の弱い場合もあり、同じような考えの人が集まって行動することは多い。 政党の分散・離合や仲違い、再集合等は政治活動の自由を尊重せねばならず、禁止することは不適切である。 本来の姿は、個人による思想、主義、主張が出発点である。

従い、政党交付金は、政治活動支援金として議員個人に交付することにすれば良いと考える。 議員一人あたり年間3千万円以上となる。 基本的には、政策研究に使われるべきと思うが、政党本部への寄附に使っても良いし、政策研究のために研究秘書を雇用したり、コンサルタントやシンクタンク等外部へ政策研究を委託しても良い。 研究結果の報告書を発表し、自分が実現したい政策を研究結果を発展、展開して行ってもらえばと思う。

なお、議員個人に対する政治活動支援金は、税の対象とすれば良い。 そして、委託費を含め研究活動やその他議員活動の為として認められる支出は経費として認めれば良いのである。 課題解決や問題点の鋭い指摘を行った報告書を公表した議員は高い評価を受け、その結果、次の選挙では高い得票率が得られ当選する可能性が高くなるはずである。 好循環が生み出せるのではと期待する。

3) 選挙における投票は個人の重要な政治参加

NHKが7月14日午後9時からNHKスペシャル「永田町”政治とカネ”の攻防 ~改革のゆくえは~」という番組を放送していた。

この番組の中で、二階俊博氏がインタビューに答えて、次の様に述べていた。

『今度選挙に出るそうだけど、どういう政策に力点を置こうとしてんのか』って、そんなこと聞く人誰もいないんだよ。 みんな『金があるか』

地縁・血縁何でもありが、現実の選挙とすれば、収賄・贈賄は刑事罰になるが、政治活動を支援する純粋の寄附は支援者の夢や希望の実現手段である。 政治資金規正法では、政治活動に関する寄附について、企業や団体からの寄附は、政党等以外には禁止されている。 一方、個人による寄付は禁止されておらず、自由である。 但し、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く)に関する寄附は禁止されている。 公職の候補者とは選挙で候補者として届出があった者である。

日本の政党政治の現状は、現与党の自民・公明と共産以外は離合集散を繰り返している。 言ってみれば、人と政党はなじめないことがしばしばあると言うことだろう。 政治家を志し、自分の夢を人々のために実現したいと思ったなら、その時々協力できる人達と政党や仲間を結成し、目標の実現に向けて努力を続けるという生き方が賛同を得ても良いはず。 選挙では、政党ではなく、この人ならと信じる人に投票する人物主義の選択でも良いと思う。 このような場合、中選挙区制が、なじむと思う。

4) ポピュリズムから脱出

冒頭に書いたバブル崩壊以後、あるいは21世紀になった頃からの日本経済の低迷には、ポピュリズムに陥った日本の政治が関係していると思う。 本当に必要な政策を実施するのではなく、与党は次に控えている選挙で勝つための政策を主導してしまう。 政権交代が生じると与党議員達は、冷や飯を食わざるを得なくなる事態を避けねばと、必至になって政権与党であることを死守する。 その方法は、ポピュリズム・バラマキであり、八方美人政策である。 本質的問題解決からは遠ざかり、解決はおざなりとなる。 やはり、中選挙区制の採用だろうと思うのである。

日本の国の成り立ちを考えると、国の行政機関・執行機関である内閣を頂点とした組織である行政府とその執行についての定めをつくる立法機関である国会が大きな骨格である。 税の支出を定める予算は、国会の議決に基づかねばならない。(憲法83条、85条)

ところで、内閣総理大臣について考えると、その権限も大きいのである。 国会への議案提出権権(憲法72条 )と予算提出権(憲法73条5項)を保有する。 衆議院で多数を占めると、内閣総理大臣の指名(憲法54条)と予算の議決(憲法60条)においては、参議院に優越するので、衆議院で過半数を制すれば、相当なことは実行できると考える。 (注: 議員立法は可能であるが、国会法で賛成者の人数の定めがある。)

衆議院で多数を占めると、相当なことは実行可能である。 政権喪失の懸念、恐れから良い政策を追及することにつながれば良いのだが、現実は政権喪失を恐れて、ポピュリズムに陥っている。 長期的視点からの立て直しや改革は重点施策にはならず、世界の中で発展から取り残されているのが現状ではないかと危惧するのである。

5) オープンガバメント、デジタルガバメント

米国で2009年1月にオバマ大統領が就任し、1月21日にTransparency and Open Governmentと題したMemorandum(ここ にあり、日本語では覚書と呼ばれている)を発表した。 このMemorandumでは、下記のようなことを述べている。

”Government should be transparent. Transparency promotes accountability and provides information for citizens about what their Government is doing. Information maintained by the Federal Government is a national asset. ”(政府は、高い透明性を持つべきである。 透明性は説明責任を促進し、政府が何をしているかについての情報を国民に提供する。 政府が保有する情報は国の資産である。)

”Government should be participatory. Public engagement enhances the Government's effectiveness and improves the quality of its decisions.”(政府は参加型であるべきだ。 国民の関与は政府の効率性を高め、決定の質を改善する。)

”Government should be collaborative. Collaboration actively engages Americans in the work of their Government.(政府は協働型であるべきだ。 政府の業務に国民の積極的な関与を得る。)

オバマさんの提唱したオープンガバメントの3原則に私も賛成する。 開かれた政府、誰もが参加できる政府が未来の目差すべき政府であり、その構築に向けて努力をしたい。

日本でも、インターネットを活用して政府を開かれた国民参加型を目差して改革してきていると考える。 オープンガバメントの動きは世界の多くの国や国際機関でも取り組まれている。 オープンガバメントは、デジタルツールの発展と共に、現在の制度や姿を補完し、よりよい未来社会の発展に向け寄与していくと期待する。

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2024年7月 8日 (月)

東京都都知事選小池氏が当選だが、ふるさと納税は、どうなるか?

東京都都知事選は小池百合子氏が当選と報道された。

この2023年12月8日のブログで、東京都、その特別区および市町村は連名で、総務大臣に対して、ふるさと納税制度の見直し要請を2015年12月4日に提出したことを書いた。 連名の要請とはこの文書のことである。

選挙戦では語られなかったと了解するが、方針変更は何も聞こえてきておらず、知事は当然ふるさと納税見直しを引き続き求めることと了解する。

問題点の第1は、30%相当の返礼品とその手数料は10%以上であることもあるようであり、誰が潤うか、地方自治体に癒着した業者が利益を確保する仕組みになっている。 そもそも、返礼品があるなんて、寄付金ではない。 寄付金とは、見返りを求めない純粋な人の心である。 神社、寺、教会、モスク等に寄附をする人は信者を初め多くおられる。 願い事を叶えて欲しいと寄附をされる方も、おられるが、直接的な返礼品が欲しいとして寄附される人は基本的にはいない。 返礼品とは、求めてはならない見返りを求める賄賂行為である。

問題点の第2は、住民税所得割の額の20%迄の金額のふるさと納税は2千円の自己負担で済む点である。 住民税所得割の額の20%とは、分かりにくいが課税所得額の10%の20%と考えれば、ほぼ等しいはずである。 所得控除等を差し引いて500万円の人なら、10万円程度であろうか? しかし、2000万円の課税所得の人は40万円の寄付金で40万円のほぼ全額(2千円の負担のみ)が戻ってくるとしたなら、通常は何かおかしいと感じるはずである。 まじめに働く人を卑しめる制度である。 2千円の負担で、返礼品を受領するとなるとキチガイ制度である。

第3は、善意を踏みにじっている制度であること。 即ち、地方交付税法により国税である「所得税」の33.1%、「法人税」の33.1%、「酒税」の50%、「消費税」の19.5%と「地方法人税」の100%を都道府県と市町村に配分されるのである。 地方自治体の財政、運営、地方自治のサポートが目的であり、基準財政収入額が基準財政需要額を下回った場合、差額が各都道府県と市町村に普通交付税として配分される。なお、基準財政収入額は標準税率の75%相当としている。 基準財政収入額が基準財政需要額を上回れば、普通交付税は、上回った自治体には配分されない。

都道府県では、東京都が基準財政収入額が基準財政需要額を上回わるのであり、市町村では1719のうち79が上回る。 東京23区は、上回る団体であり、普通地方交付税の交付は受けていない。

ところで、ふるさと納税についてであるが、税減収となった地方自治体は基準財政収入額に税減収がカウントされるので75%は地方交付税で補填されるのである。 一方、ふるさと納税で寄付金を受領した自治体は寄付金は基準財政収入額にカウントされないので丸儲となる。

狂人の制度としか言いようがないのだが、東京都と79市町村以外には、反対の声はあげにくい。 いや、こんな制度で悪行を働いている自治体は、廃止なんて絶対言わない。 モラル上も極めて悪質であり、日本は、このようなことで滅ぶのかなと思う。

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2024年5月31日 (金)

2人を殺害したが、死刑にはならず

次の5月27日の最高裁判所の上告棄却決定です。結果、仙台高裁判決通りの無期懲役となった。

最高裁判所第一小法廷 窃盗、道路交通法違反、殺人被告事件 棄却決定

事件については、この福島民友の記事 2024年05月30日が、参考になると思います。 2020年5月31日朝、盛藤吉高被告(54)は、福島県三春町の国道脇で清掃活動をしていた同町の橋本茂さん(当時55)と三瓶美保さん(当時52)を時速60~70キロではねて殺害し、逃げた。 被告は、殺害の2日前に出所したばかりで、刑務所に戻りたいと考え、トラックで2人ほどの歩行者に衝突させて逃げようと計画し、実行した。

こんな男にひき殺されたら、たまったものではない。 一審は裁判員裁判であり、被告には死刑判決が下された。 仙台高裁は、無期懲役とし、最高裁は上告棄却を決定し、無期懲役が確定した。

最高裁は、その動機は身勝手かつ自己中心的であり、刑事責任は誠に重いものの、死刑を選択することが真にやむを得ないとまで言えるかとして、仙台高裁の無期懲役を支持した。 上の福島民友の記事には、2人と共に「桜川をきれいにする会」で活動していた会長の影山初吉さんの、こんなひどいことをして無期懲役なのはおかしいとの無念さの訴えも書かれている。 

しかし、何が何んでも死刑という考え方が正しいのかと考えることも必要だとの思い。 人間が人間を裁く際の限界や死刑制度についても考えなくてはと思った。

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