何が改正されたのか、2025年年金改正法
年金改革の関連法は6月13日に参議院で可決され、6月20日公布された。 長い法律名「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」である。 しかし、その内容は疑問が多いのである。
1) 社会保険の加入対象の拡大
厚生労働省の説明はこのページにあるが、まず(1)として「社会保険の加入対象の拡大」が記載されている。 3号被保険者は、3号として加入しており、考慮不要とするなら、大いなる間違いである。
日本年金機構は、3号被保険者の保険料についてこのページ で「ご自身で保険料を納付する必要がありません。」と説明している。 正しいのであるが、現行の制度下でのことであり、合理的であるかは別である。 すなわち、その続く文章では「第2号被保険者が全体で負担しているためです」となっている。
短時間労働者の加入要件の見直しにより130万円の壁はなくなり100万円の人も厚生年金に加入し、保険料を支払うこととなる。 しかし、同時に「第2号被保険者が全体で負担」することから、言わば、パート労働者も働かない3号被保険者の年金保険料を負担するのである。
本来的な筋論で言えば、3号被保険者に1号被保険者(国民年金の対象者)と同じ保険料の納付を求めるべきである。 子育て支援制度が不十分であった時代には3号被保険者の意義はあったかもしれない。 今や、外国人労働者への依存を高めている人手不足時代であり、働くことを奨励して当然と考える。 働く者を優遇するのが当然であり、働くことが困難な人は、それなりの必要な支援を差し伸べるべきである。
現代において、働かなくて、基礎年金を満額受給できる3号被保険者制度を残すことは、不正義と思う。3号被保険者でない人たちに負担が行っているのであり、それは働く人たちであり、税が半額負担となっているので、全員が3号被保険者の半分を負担していると言える。 ちなみに、1号被保険者(国民年金加入者)の保険料は令和7年度月額17,510円である。 外国人も日本で給与支払いを受ければ、厚生年金2号被保険者となり、給与所得がなければ1号被保険者として国民年金への加入義務が発生し、毎月17,510円支払わねばならない。
2) 標準報酬月額の上限引き上げ
厚生労働省の説明(4)には「賃金上昇の継続を見据え、世代内の公平のためにも、上限に該当されていた方に、本来の賃金に応じたご負担をいただき将来の給付を手厚くします。」と説明している。
現行制度では、厚生年金の保険料について報酬額が月65万円以上は全員65万円として扱うことになっている。 これを、68万円。71万円、75万円の3段階を追加するのである。但し、それぞれ2027年9月、2028年9月、2029年9月からの実施である。 なお、75万円とはボーナス込みで年間1,200万円程度である。
75万円となった場合に65万円の時と比較すると、厚労省は月9,100円の負担増で、10年払い続けて年金で月5,100円の受け取り年金増加と言っている。 毎月9,100円とボーナス払いを含めて年15月分とすると年間136.5千円。 10年なら137万円である。 受領する年金は5,100円の12ヶ月であるから61,200円/年。 これを納付した137万円と対比すると22.38年となるわけで、年金受給開始を65歳とすれば87.38歳以上生きれば、元が取れる計算である。
87.38歳をターゲットにするなら、やむを得ないと感じる人もいるかも知れない。 しかし、実際には払い込んでいる年金保険料は雇用主負担が同額ある。 雇用主負担を考えれば、44.76年となり、109.76歳まで生きないと元が取れない。 ほぼ全員マイナスのリターンになると思う。
年金の恐ろしさである。 複雑すぎて誰も簡単には計算できない。 悪い政治家と悪い官僚がタッグを組んで攻めてこられると防衛がしんどいのである。 最近は、それに更に選挙の嘘つき票集めのポピュリズムが絡んで複雑怪奇になっている。
3) 将来の年金水準について
説明が厚労省の年金改正の全体像(ここ )の14ページ(最後のページ)にあるが、最高に訳がわからない部分である。
極めてわかりつらいのであるが、日本の公的年金制度は恩給制度、共済組合制度、労働者年金保険制度・厚生年金保険制度、国民年金制度等の過去の制度を統合し、統合による被保険者・受給者の不利益解消にも配慮してきた経緯があり、矛盾も抱えている。 その矛盾は、経済情勢の変化によっては、今後拡大する可能性も含んでいる。 それが、上図の右側で、好調な場合は25.0%+34.4%であり、好調ではない場合は24.6%+27.2%と将来について予想している。 好調な場合は、59.4%であり、そうでない場合は51.8%と、差は7.6%と言っている。
実は、59.4%や51.8%は、厚生年金の場合であり、基礎年金のみの受給となる国民年金の場合は、34.4%と27.2%なので、その差は7.2%である。 年金受給額で考えると、好調ではない場合、好調時の79%からはその幅20%以上の年金受給額が目減りする予想となっている。 国民年金のみなら21%の目減りである。 なお、左側の25.0%+36.2%(合計61.2%)は2024年度のことであり、経済好調時でも59.4%へと1.8%ダウンで目減り率は2.9%である。
人口の高齢化、すなわち受給者の増加と年金保険料納付者の減少は、その要因として大きいのであるが、他にも要因は少なくない。
A) 国民年金と厚生年金での保険料の差
国民年金は令和7年度で1月あたり17,510円である。 一方、厚生年金は給与額の9.15%を被保険者と雇用主が負担するので合計18.3%を厚労省に支払う。 従い、月収96,000円以上の場合は、国民年金より厚生年金被保険者の方が常に多くの保険料を納付していることとなる。 報酬月額75万円の人は、雇用主負担を含めると年間200万円以上の保険料を納付することとなり、国民年金の人の9.5倍もの保険料を納付する。 しかし、一方で、受け取る年金額は年間354万円と予想され、国民年金受給額83万円の4.2倍にとどまる。 年金受給期間何年で払込保険料に一致するか、言わば元が取れるかを計算すると、22.5年を要し、国民年金の10.1年に対し2倍以上になる。
保険料を支払っていない3号被保険者が年金を受領することを可能とする原資を厚生年金加入者が負担していることも、国民年金と厚生年金の保険料と受給額のアンバランス要因である。 全員が妻帯し妻は全て専業主婦であれば、全員が同一条件となるが、婚姻や労働は個人の自由であり、公的年金制度が個人の生き方により利益・不利益を生じさせる制度は改正すべきである。 この点を今回の2025年改正は全く考慮していない。
B) 厚生年金の積立金を国民年金の給付に充当する案が出てくる不思議さ
次の図2は、2019年度から2023年度の各年度末における年金積立金がその年度における年金給付金額の何倍になっているかを示したチャートである。 基礎年金勘定は、積立金を持たない制度なので無視すればよい。 厚生年金・共済組合は年間給付額の6倍近くの積立金を保有しているが、国民年金は3.7倍の積立金しか保有していない。
次図は、国民年金保険料、厚生年金保険料と基礎年金額の金額(名目)を2017年を1.0として2024年までの推移をチャート化したものである。
国民年金保険料は、物価変動と賃金変動によって決まり、基礎年金額は、それらにマクロスライドが加わる。 厚生年金保険料は賃金の18.3%と料率で決まっていることから、2017年を1とした賃金指数の変動が名目ベースの保険料金額となる。 上図は、そのようにして作成したのであるが、制度の矛盾が現れていると思う。
C) 自民・公明・立民3党で年金法案修正に合意し基礎年金を底上げと言うが?これなに?
この5月27日の日経新聞の記事 等多数のメディアで報道されていました。 しかし、本当は何なのでしょうか。 実は、3党合意でなされたのは附則3条の2を追加することです。
その追加された附則3条の2は、何が書いてあるかというと、6月20日官報号外137号の34ページ(ここ )にあるのですが、何を言っているのか、どのような論理構成になっているのか、頑張って読もうとしても、理解不可能であるし、報道されているような解釈が私には出てこない。
D) 今の年金の制度を根本から改めるべきと思う
保険料の支払いを前提としている基礎年金制度があり、それに加えての報酬に比例する厚生年金がある。 単純なようであるが、少子高齢化というか、社会全体の高年齢化があり、抜本的改革をしないと歪みが大きくなりすぎて制度が自己崩壊してしまうように思える。 政治家に任せれば、上のC)に書いたような意味不明の改革が出てくる。 こんなのに乗っかってては沈没してしまう。 抜本的改革を考えるべきである。
そこで私の提案であるが基礎年金は全額税負担とするのである。 実は、すでに50%は税負担となっているのである。 その税負担額は2023年度で12兆円強である。 なお、基礎年金としての給付額合計は25.1兆円である。 もし、基礎年金を全額税負担とするなら追加で13兆円をまかなえば良いのである。
13兆円の税収とは、消費税の税収予想が令和7年度25兆円であるので、その50%である。 消費税率を50%上げればよい。 現在の(地方税分を含まないで)7.8%から3.9%-4%を引き上げれば良い。 反対が多いと心配せねばならないだろうか? 国民年金保険料は納付する必要がなくなる。 厚生年金保険料の料率は下がる。 誰が得するわけでもないが、あえて言えば、国民年金保険料の徴収等の事務管理費用の削減は期待できると思う。 また、富裕層ほど、消費額が多いとすれば、今の国民年金保険料の様に一定額負担ではなく、消費支出に対しての比例負担となる。
かつて日本に国民年金制度を導入したときは、消費税の制度はなかった。 ちなみに年間500万円を消費するとして、その4%は20万円である。 一方、国民年金保険料は月17,510円なので、年間21万円である。 年収500万円-600万円の人は、消費税に切り替わった方が、有利となる。
年金制度は重要である。 事故、障害等により活動や労働が制限された場合、障害年金を受け取れる。 働きやすい、生きていて楽しい世界を実現していきたいと思うのである。
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