2025年6月21日 (土)

何が改正されたのか、2025年年金改正法

年金改革の関連法は6月13日に参議院で可決され、6月20日公布された。 長い法律名「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」である。 しかし、その内容は疑問が多いのである。

1) 社会保険の加入対象の拡大

厚生労働省の説明はこのページにあるが、まず(1)として「社会保険の加入対象の拡大」が記載されている。 3号被保険者は、3号として加入しており、考慮不要とするなら、大いなる間違いである。

日本年金機構は、3号被保険者の保険料についてこのページ で「ご自身で保険料を納付する必要がありません。」と説明している。 正しいのであるが、現行の制度下でのことであり、合理的であるかは別である。 すなわち、その続く文章では「第2号被保険者が全体で負担しているためです」となっている。

短時間労働者の加入要件の見直しにより130万円の壁はなくなり100万円の人も厚生年金に加入し、保険料を支払うこととなる。 しかし、同時に「第2号被保険者が全体で負担」することから、言わば、パート労働者も働かない3号被保険者の年金保険料を負担するのである。

本来的な筋論で言えば、3号被保険者に1号被保険者(国民年金の対象者)と同じ保険料の納付を求めるべきである。 子育て支援制度が不十分であった時代には3号被保険者の意義はあったかもしれない。 今や、外国人労働者への依存を高めている人手不足時代であり、働くことを奨励して当然と考える。 働く者を優遇するのが当然であり、働くことが困難な人は、それなりの必要な支援を差し伸べるべきである。

現代において、働かなくて、基礎年金を満額受給できる3号被保険者制度を残すことは、不正義と思う。3号被保険者でない人たちに負担が行っているのであり、それは働く人たちであり、税が半額負担となっているので、全員が3号被保険者の半分を負担していると言える。 ちなみに、1号被保険者(国民年金加入者)の保険料は令和7年度月額17,510円である。 外国人も日本で給与支払いを受ければ、厚生年金2号被保険者となり、給与所得がなければ1号被保険者として国民年金への加入義務が発生し、毎月17,510円支払わねばならない。

2) 標準報酬月額の上限引き上げ

厚生労働省の説明(4)には「賃金上昇の継続を見据え、世代内の公平のためにも、上限に該当されていた方に、本来の賃金に応じたご負担をいただき将来の給付を手厚くします。」と説明している。

現行制度では、厚生年金の保険料について報酬額が月65万円以上は全員65万円として扱うことになっている。 これを、68万円。71万円、75万円の3段階を追加するのである。但し、それぞれ2027年9月、2028年9月、2029年9月からの実施である。 なお、75万円とはボーナス込みで年間1,200万円程度である。

75万円となった場合に65万円の時と比較すると、厚労省は月9,100円の負担増で、10年払い続けて年金で月5,100円の受け取り年金増加と言っている。 毎月9,100円とボーナス払いを含めて年15月分とすると年間136.5千円。 10年なら137万円である。 受領する年金は5,100円の12ヶ月であるから61,200円/年。 これを納付した137万円と対比すると22.38年となるわけで、年金受給開始を65歳とすれば87.38歳以上生きれば、元が取れる計算である。

87.38歳をターゲットにするなら、やむを得ないと感じる人もいるかも知れない。 しかし、実際には払い込んでいる年金保険料は雇用主負担が同額ある。 雇用主負担を考えれば、44.76年となり、109.76歳まで生きないと元が取れない。 ほぼ全員マイナスのリターンになると思う。

年金の恐ろしさである。 複雑すぎて誰も簡単には計算できない。 悪い政治家と悪い官僚がタッグを組んで攻めてこられると防衛がしんどいのである。 最近は、それに更に選挙の嘘つき票集めのポピュリズムが絡んで複雑怪奇になっている。

3) 将来の年金水準について

説明が厚労省の年金改正の全体像(ここ )の14ページ(最後のページ)にあるが、最高に訳がわからない部分である。
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極めてわかりつらいのであるが、日本の公的年金制度は恩給制度、共済組合制度、労働者年金保険制度・厚生年金保険制度、国民年金制度等の過去の制度を統合し、統合による被保険者・受給者の不利益解消にも配慮してきた経緯があり、矛盾も抱えている。 その矛盾は、経済情勢の変化によっては、今後拡大する可能性も含んでいる。 それが、上図の右側で、好調な場合は25.0%+34.4%であり、好調ではない場合は24.6%+27.2%と将来について予想している。 好調な場合は、59.4%であり、そうでない場合は51.8%と、差は7.6%と言っている。

実は、59.4%や51.8%は、厚生年金の場合であり、基礎年金のみの受給となる国民年金の場合は、34.4%と27.2%なので、その差は7.2%である。 年金受給額で考えると、好調ではない場合、好調時の79%からはその幅20%以上の年金受給額が目減りする予想となっている。 国民年金のみなら21%の目減りである。 なお、左側の25.0%+36.2%(合計61.2%)は2024年度のことであり、経済好調時でも59.4%へと1.8%ダウンで目減り率は2.9%である。

人口の高齢化、すなわち受給者の増加と年金保険料納付者の減少は、その要因として大きいのであるが、他にも要因は少なくない。

A) 国民年金と厚生年金での保険料の差

国民年金は令和7年度で1月あたり17,510円である。 一方、厚生年金は給与額の9.15%を被保険者と雇用主が負担するので合計18.3%を厚労省に支払う。 従い、月収96,000円以上の場合は、国民年金より厚生年金被保険者の方が常に多くの保険料を納付していることとなる。 報酬月額75万円の人は、雇用主負担を含めると年間200万円以上の保険料を納付することとなり、国民年金の人の9.5倍もの保険料を納付する。 しかし、一方で、受け取る年金額は年間354万円と予想され、国民年金受給額83万円の4.2倍にとどまる。 年金受給期間何年で払込保険料に一致するか、言わば元が取れるかを計算すると、22.5年を要し、国民年金の10.1年に対し2倍以上になる。

保険料を支払っていない3号被保険者が年金を受領することを可能とする原資を厚生年金加入者が負担していることも、国民年金と厚生年金の保険料と受給額のアンバランス要因である。 全員が妻帯し妻は全て専業主婦であれば、全員が同一条件となるが、婚姻や労働は個人の自由であり、公的年金制度が個人の生き方により利益・不利益を生じさせる制度は改正すべきである。 この点を今回の2025年改正は全く考慮していない。

B) 厚生年金の積立金を国民年金の給付に充当する案が出てくる不思議さ

次の図2は、2019年度から2023年度の各年度末における年金積立金がその年度における年金給付金額の何倍になっているかを示したチャートである。 基礎年金勘定は、積立金を持たない制度なので無視すればよい。 厚生年金・共済組合は年間給付額の6倍近くの積立金を保有しているが、国民年金は3.7倍の積立金しか保有していない。

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次図は、国民年金保険料、厚生年金保険料と基礎年金額の金額(名目)を2017年を1.0として2024年までの推移をチャート化したものである。

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国民年金保険料は、物価変動と賃金変動によって決まり、基礎年金額は、それらにマクロスライドが加わる。 厚生年金保険料は賃金の18.3%と料率で決まっていることから、2017年を1とした賃金指数の変動が名目ベースの保険料金額となる。 上図は、そのようにして作成したのであるが、制度の矛盾が現れていると思う。

C) 自民・公明・立民3党で年金法案修正に合意し基礎年金を底上げと言うが?これなに?

この5月27日の日経新聞の記事 等多数のメディアで報道されていました。 しかし、本当は何なのでしょうか。 実は、3党合意でなされたのは附則3条の2を追加することです。

その追加された附則3条の2は、何が書いてあるかというと、6月20日官報号外137号の34ページ(ここ )にあるのですが、何を言っているのか、どのような論理構成になっているのか、頑張って読もうとしても、理解不可能であるし、報道されているような解釈が私には出てこない。

D) 今の年金の制度を根本から改めるべきと思う

保険料の支払いを前提としている基礎年金制度があり、それに加えての報酬に比例する厚生年金がある。 単純なようであるが、少子高齢化というか、社会全体の高年齢化があり、抜本的改革をしないと歪みが大きくなりすぎて制度が自己崩壊してしまうように思える。 政治家に任せれば、上のC)に書いたような意味不明の改革が出てくる。 こんなのに乗っかってては沈没してしまう。 抜本的改革を考えるべきである。

そこで私の提案であるが基礎年金は全額税負担とするのである。 実は、すでに50%は税負担となっているのである。 その税負担額は2023年度で12兆円強である。 なお、基礎年金としての給付額合計は25.1兆円である。 もし、基礎年金を全額税負担とするなら追加で13兆円をまかなえば良いのである。

13兆円の税収とは、消費税の税収予想が令和7年度25兆円であるので、その50%である。 消費税率を50%上げればよい。 現在の(地方税分を含まないで)7.8%から3.9%-4%を引き上げれば良い。 反対が多いと心配せねばならないだろうか? 国民年金保険料は納付する必要がなくなる。 厚生年金保険料の料率は下がる。 誰が得するわけでもないが、あえて言えば、国民年金保険料の徴収等の事務管理費用の削減は期待できると思う。 また、富裕層ほど、消費額が多いとすれば、今の国民年金保険料の様に一定額負担ではなく、消費支出に対しての比例負担となる。

かつて日本に国民年金制度を導入したときは、消費税の制度はなかった。 ちなみに年間500万円を消費するとして、その4%は20万円である。 一方、国民年金保険料は月17,510円なので、年間21万円である。 年収500万円-600万円の人は、消費税に切り替わった方が、有利となる。

年金制度は重要である。 事故、障害等により活動や労働が制限された場合、障害年金を受け取れる。 働きやすい、生きていて楽しい世界を実現していきたいと思うのである。

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2025年4月17日 (木)

103万円の壁の現状

昨年11月19日に103万円の壁を考えるとのタイトルでブログを書いた。 令和7年の所得税法等の一部改正が国会で成立し、3月31日に公布された。 103万円の壁をなくした影響を計算をしてみると、その結果は、次表(クリックで拡大)の通りであった。

Incometax20254a_20250417232601

表からすると700万円-800万円の給与収入の人には約3万円の減税メリット(手取額増加)があり、900万円以上だと2万円強である。 しかし、表の範囲外であるが1100万円を超えると3.3万円の減税となる人も出てくる。 なお、本計算において、年金や医療保険料の社会保険料控除は考慮したが、それ以外の所得控除である生命保険料控除、医療費控除、寄付金控除や配偶者控除等は考慮していない。 図として示したのが次である。Incometax20254b

103万円の壁(基礎控除プラス給与所得控除)は、160万円に引き上げられた。 但し、その結果の税額メリットとしては、一人あたり2万円程度である。 表右端の「前年比増加額」が減税額である。 対象者の人数を厚生年金保険の被保険者数である4600万人として、2万円を掛けると総額9200億円である。 基礎控除の10万円増額は、自営業者や年金受給者にも適用されるので、国民全体での減税総額はもうすこし大きくなる。

なお、この1人あたり2万円の減税は、毎月の月給やボーナスでは適用されず、年末調整でドーンと返ってくる仕組みである。 

果たして、どう評価すべきであるか、本質的ではない、小細工の所得税法改正のように思える。 税を投入してでも、本当にすべきことは、未来への投資と思うが、肌寒い現状と思う。

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2024年11月19日 (火)

103万円の壁を考える

所得税の103万円の壁をなくすという変な議論がある。

1) 103万円の壁とは

1-1) 基礎控除48万円

所得税には、基礎控除という概念がある。 基礎控除の金額は、48万円であり、経費を差し引いた後の所得金額が年間48万円以下であるならば、申告納税する必要はない。 従い、所得金額が50万円の場合はとなると、(50万円-48万円=)2万円X5%=1千円が所得税の額となる。 復興税を無視しています。

1-2) 103万円とは

他者(他人であれ会社や法人、役所であれ)から給与の支払いを受けて、働いている場合には、給与所得の扱いとなり、給与所得控除が適用される。 給与所得控除は年間給与額が162.5万円以下なら、55万円である。 年間給与額55万円なら給与所得額ゼロとなる。 100万円なら45万円となるが、50万円の基礎控除があるので、所得金額としてはゼロである。 103万円なら給与所得控除55万円を差し引いて48万円となるが、これから基礎控除が差し引かれるとゼロになる。

1-3) 給与所得110万円の場合

55万円と48万円が差し引かれるので、所得金額7万円となる。 これに所得税率5%で計算して3500円が所得税となる。 すなわち、計算は180万円までは、(給与所得総額-103万円)X税率5%であり、壁のように立ちはだかるわけではない。 103万円を超えた分について5%の税率で所得税がかかるのである。

給与所得総額358万円までは税率5%であり、103万円の位置に大きな壁があるわけではなく、給与所得控除も給与が増加するにつれ大きくなり、358万円の場合は給与所得控除額は115.4万円である。 これに、基礎控除48万円が加わると控除額は合計163.4万円となり、給与総額358万円から163.4万円を差し引いた194.6万円に所得税率5%を掛けた94,500円が所得税額である。

2) 過去の基礎控除と給与所得控除

1975年以後の基礎控除と給与所得控除の額の推移を描いてみた。 図1がそれである。

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50年前と比べてどうか? 1975年の消費者物価指数は53.1であり2023年は105.6であり、1.99倍になっている。 しかし、10年前、20年前の2013年や2008年と比べると、消費者物価指数はそれぞれ8.3%と10.6%増加している。 しかし、図1を見て私が思うのは、デフレの日本経済という判断である。1995年からの10年間でマイナス0.4%、2005年からの10年間でマイナス0.6%、2013年からの10年間でプラス11.2%である。 しかし、この10年間で11.2%とは、年率にすると1%である。

年率1%の是正のために基礎控除や給与所得控除の見直しが必要とは思えないのである。 そんなことをするなら、通常の所得税を2.1%多く徴収する復興特別所得税を廃止すべきである。 2014年の改正で導入された税制であるが、法人については2年間で終了した。 個人については2037年までなので、まだ14年間継続する。 金額が細かく源泉徴収事務等をされている方の事務作業も大変である。 税制は合理的であるべき。

3) 103万円に壁がある人

給与収入が103万円を越えると負担が増加する人も存在する。 それは、19歳、20歳、21歳または22歳の子どもを持ち、その子どもを扶養している場合である。 特定扶養親族となり、所得控除としての扶養控除が一人につき63万円受けられ、税率10%なら6.3万円低くなる。 

なお、18才以下の子どもの扶養に関しては、2020年から扶養控除は見直し・廃止された。 理由は、子ども・児童手当毎月一人1万円・・や高校授業料無償化の拡大であり。 所得税や住民税の調整ではなく、必要な人に妥当・合理的な金額を政府・自治体が支給するという方法は間違っていないと考える。

特定扶養親族に対する扶養控除も廃止をし、大学・専門学校・職業学校・各種学校を含め高校卒業後に専門分野・技能・能力開発等を目差す若者を支援する制度をつくるべきと考える。

4) 130万円の壁は3号被保険者制度廃止での対応を求める

3号被保険者であり続けたいと思っておられる女性は、どれほどおられるのだろうか。 働けるなら、働きたいと思っておられる方が大部分であると思うのである。 女性の年金問題としてこのBlogを書いたので、今回は余り触れないが、3号被保険者制度廃止により女性は何も損をしないのである。

制度は複雑になれば、制度の網を破って抜け駆けをしようとする人が出てくる。 というか、複雑な制度になってしまうと、トリックのように抜け穴ができたり、作られたりする。 悪い奴らに騙されてはいけない。

5) バカな税である法人事業税の都道府県民税の外形標準課税は早急に廃止を求める

実にバカで不合理な税である法人事業税の外形標準課税である。 日本は、共産主義・全体主義でないはず。 法人には、利益に見合った税を課すべきである。 こんなバカげた税が日本をダメにしている。

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2024年9月 7日 (土)

河野太郎氏の発言は面白い。だから実現して欲しい。

自民党総裁選はおもしろいと思う。 普段は、党内の意見も気にしなくてはならないが、立候補者の発言だと、自由に意見を述べることができるようだ。 興味を引かれたのは、次の発言です。

日経 9月5日 河野氏、全員が確定申告案「税の使い道に厳しい目を」

9月3日のXの投稿とは、これのことと思います。

「年末調整を廃止しすべての納税者が確定申告する」と言うのは、現在実施できていない。 各自が自分の所得を計算し、その所得に対応する税を納付するのは、当然・あたまりまえの制度と考えます。 

君主が大権力を保有する君主国なら、君主や君主に仕える貴族・官吏が人民の税を決定し徴収する。 人民に税についての発言機会を与えるなんて、許せない。 共産主義・社会主義では、その国の生産物やサービスは人民に公平に分配されるので、税は不要である。 しかし、公平・公正になっているかは、貨幣価値か何か規準を使って検証する必要がある。 民主主義国家の政府活動を支えるのが税であり、税を納付するのが国民であり、税制は公平でなければならない。

日本に、確定申告の制度がある。 しかし、給与等の金額が2千万円以下、あるいは公的年金等の収入金額が4百万円以下等の場合は、確定申告の義務はない。 また、所得が課税所得の基準金額以下であっても、確定申告の義務はない。 もっとも、確定申告の義務はないが、医療費控除や寄付金控除等の適用を受けるために確定申告を提出される人は多い。 令和5年の場合、確定申告提出者2324万人のうち1350万人が還付申告であり、申告納税がある人は668万人であった。

預金利息に所得税15%(復興特別税は除外して)と地方税5%が課税されているのはご存じでしょうか? これが、累進税適用の所得扱いになれば、給与所得の人だと収入450万円程度以下なら通常の所得税の扱いの方が税が安くなる。 税率が15%+5%を越える高所得者にとっては税が高くなる話であるが、低所得者の預金利息に税を課す理由はないと考える。 上場株式に対する税も同様である。 売却損が発生し、その年は株式取引で損失発生なら、通常の所得から株式取引損失額を控除し、税が安くなって良いはずである。

国民全員がマイナンバーを持っているのだから、国民は税務申告必要データを然るべき先から入手し、申告書を作成し、申告すれば良い。 日本で土地等不動産を保有している外国人や外国企業やその他日本での所得があれば同様である。

税制改正は、税負担の軽減になる人と増加になる人が発生し、対立を生むことが常であるが、目差す将来の姿の実現に向けての税制改正は是が非でも必要である。 

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2024年8月12日 (月)

私も賛成です「ふるさと納税」の制度改定

日経が8月2日に次の社説を出していた。

ふるさと納税の膨張を改めるときだ

寄附をして返礼品がもらえるなんて、論理的におかしいのである。 所得税法78条が寄付金控除に関する定めであり、地方公共団体に対する寄付金は特定寄付金とされている。 しかし、「その寄附をした者がその寄附によつて特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く。」とされており、返礼品が約束されている寄附は、そもそも寄附ではないと考える。

総務省が8月2日に発表した「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和6年度実施)」がここにある。 令和5年度のふるさと納税は5895万件で1兆1175億円であったと記載されている。 平均では1件あたり1万9千円となる。 

ふるさと納税において、限度額はあるが、所得税と住民税の双方合計で2千円を超える額は戻ってくる。 その上、返礼品までもらえるなんて、道徳性ゼロ・倫理観ゼロの制度である。

寄附(ふるさと納税)を行った人が居住する市町村・都道府県は、住民税を低くすることから税収は減少する。 一方、寄附を受けた市町村・都道府県は寄付金収入を得るとともに返礼品関係の費用が発生する。

更に、地方交付金制度が関係するのであるが、地方自治体のほとんどは国から普通地方交付金を受領している。 各地方自治体の地方交付金の額を算定するにあたり、寄付金の受領は計算には関係しない。 一方、税収減は75%が普通地方交付金で補填されるのである。 市町村毎のふるさと納税に係わる収支が日経電子版の実質収支全国マップ ふるさと納税のリアルというマップ(地図を見るというボタンクリックが必要かも知れません)に掲載されていた。 

総務省8月2日発表の「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和6年度実施)」を使って、以下に、順位表等を作ってみました。

1) ふるさと納税受入額

令和5年度のふるさと納税の受入額を表にしたのが、次の表1であり、大きい順から30位までを記載し、最下欄は合計です。 寄附を受けた金額が受入額であり、1位は193.8億円の宮崎県都城市でした。 100億円以上受領したのが10市町あり、30位の佐賀県唐津市は54億円でした。 

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返礼品の金額(調達額)は寄附受入額の30%以内とされているが、返礼品に係わる経費が平均で受入額の21.5%(返礼品金額に対しては79.3%)なので、結構高い経費率と思います。 表2は、全自治体のふるさと納税に関する返礼品に係わる費用の合計金額です。 返礼品に関する経費は相当な金額になっており、返礼割合は30%以下として運用されてはいるが、経費とあわせると50%近く、受入自治体に残る寄付金は平均51.4%以下というのは釈然としない。

なお、30%を越えるとこの兵庫県洲本市の発表のように、ふるさと納税対象団体の指定が取り消され、令和5年度洲本市ゼロです。

送付・決済・広報・事務費用・その他経費が全平均で受入額の21.5%であるが、その内訳は表2の通りです。

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2) ふるさと納税に関する地方税の仕組み

ふるさと納税に関する地方税は複雑怪奇です。 ふるさと納税をすると寄付金控除による所得税の減額に加え、住民税が安くなり、実質2千円の負担でふるさと納税を行うことができると言われています。 ふるさと納税をするには、住民税の所得割課税の対象となっていることが前提ですが、所得割の住民税額の20%を上限として、所得税の税負担軽減に加えて、道府県民税と市町村民税により40:60の比率で税減額を行い、ふるさと納税を行っても実質負担は2千円となるようにする。 すなわち、住民税所得割額の20%までのふるさと納税は2千円の負担というマジックです。 よくもこんな地方税制度を考えたと思います。

道府県民税と市町村民税が40:60の比率で税減額を実施するのは、住所地の都道府県と市町村であり、寄付者の実質税負担を2千円とするのでそれなりの税減収となる。 そこで、国が補填する制度が働くのです。 地方交付税法で普通交付金が定められており、規準財政収入額が基準財政需要額に満たない場合は、国が地方自治体に普通交付税を交付するのです。 ふるさと納税の受入額は、基準財政収入額にカウントされません。 一方、ふるさと納税をした納税者の住所地の地方自治体では実質2千円負担とするために税収が減少する。しかし、税収減は、その75%相当額額が規準財政収入額の減少として扱われ、結果、税収減の75%は普通交付金で補填されるのです。

なお、規準財政収入額が基準財政需要額より大きい自治体には、普通地方交付金は交付されず、このような不交付団体は令和6年度86団体あります。 都道府県では東京都のみ。 市町村85団体のうち、東京都には12。 愛知県には19あります。 不交付団体には、普通交付税の趣旨からして、普通交付税は交付されず、その自治体では住民がふるさと納税をすると税収減となります。

3) 地方自治体の損得勘定

本来から言えば、損得勘定などないのですが、ふるさと納税を受入れた自治体はその額の財政収入が増加するが、返礼品に伴う支出が発生する。 ふるさと納税を行った人が住んでいる市町村と都道府県は住民税を減額する分の税減収が発生する。 但し、地方交付税不交付団体でなければ減収分の75%相当は普通地方交付税の受取額が増加する。 各市町村毎に計算し、地図で表示したのが日経電子版の実質収支全国マップ ふるさと納税のリアルというマップである。 実質収支で大きい順から30自治体とマイナスが大きい30自治体を表にしたのが次の表3である。 日経電子版のマップでは、都道府県は表示されないが、表3では都道府県も含めた。

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実質収入が上位となる自治体は、表1のふるさと納税受入額の順位とほぼ同一である。 一方、表3において下方にランク付けされている実質収支のマイナス幅が大きい財政悪化となる自治体には大都市の都道府県が多く含まれている。 都道府県の場合、ふるさと納税の受入は、市町村より少なく、一方で、ふるさと納税の寄附を行う住民に対する住民税減税は市町村と都道府県の双方から行われる。 市町村と都道府県に区分して収支を合計すると表4のようになった。

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地方交付税補填額は、都道府県において補填率が低いのであるが、特別区を含む東京都のみで1651億円がふるさと納税の実質負担となっている。 

<提言>

ふるさと納税という制度については、書いていても嫌気がさすし、全く楽しくない。 税金の無駄使いの最たるものと思う。 地方産業の育成なら、育成としてどの産業分野を育成するか、どのような方法で育成するか、まじめに研究をして実施すれば良いのである。

表4で記載のように、返礼品とその関連費用で5429億円が発生していた。 ふるさと納税を行った人に対して2000円の税負担で止めるために地方交付税が地方自治体に交付される。 補填額3958億円とは、その為に国から地方に支払われた金額である。 

一方、国と地方自治体を一体としての連結ベースで考えると、地方交付税は資金の内部移動である。 従い、ふるさと納税の収支計算は収入が受入額の11175億円で、支出は7682億円の住民税の減収であり、その差引は3493億円のプラスである。 そこに、返礼品関係の支出5429億円が加わると、1936億円のマイナスとなる。

返礼品をなくすれば、地方交付税で調整する額は減少し、本来の姿に近づくと考える。 3958億円の地方交付税をふるさと納税の関係で交付しているが、これも、返礼品制度を中止すれば3958億円は小さくなり、相当の財源が国に生まれるのである。 既に、稼働している制度をいきなり中止するのが難しければ、返礼品とそれに係わる経費率の割合を何年間かをかけてゼロにするようにすれば良いのである。 一方、自治体は、地域の特産品のネット販売を支援する等して、地域の活性化に取り組めば良い。 2千円の実質負担適用の所得上限についても、段階的に引き下げて、適正な所得制限の金額にすべきと考える。

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2024年7月 8日 (月)

東京都都知事選小池氏が当選だが、ふるさと納税は、どうなるか?

東京都都知事選は小池百合子氏が当選と報道された。

この2023年12月8日のブログで、東京都、その特別区および市町村は連名で、総務大臣に対して、ふるさと納税制度の見直し要請を2015年12月4日に提出したことを書いた。 連名の要請とはこの文書のことである。

選挙戦では語られなかったと了解するが、方針変更は何も聞こえてきておらず、知事は当然ふるさと納税見直しを引き続き求めることと了解する。

問題点の第1は、30%相当の返礼品とその手数料は10%以上であることもあるようであり、誰が潤うか、地方自治体に癒着した業者が利益を確保する仕組みになっている。 そもそも、返礼品があるなんて、寄付金ではない。 寄付金とは、見返りを求めない純粋な人の心である。 神社、寺、教会、モスク等に寄附をする人は信者を初め多くおられる。 願い事を叶えて欲しいと寄附をされる方も、おられるが、直接的な返礼品が欲しいとして寄附される人は基本的にはいない。 返礼品とは、求めてはならない見返りを求める賄賂行為である。

問題点の第2は、住民税所得割の額の20%迄の金額のふるさと納税は2千円の自己負担で済む点である。 住民税所得割の額の20%とは、分かりにくいが課税所得額の10%の20%と考えれば、ほぼ等しいはずである。 所得控除等を差し引いて500万円の人なら、10万円程度であろうか? しかし、2000万円の課税所得の人は40万円の寄付金で40万円のほぼ全額(2千円の負担のみ)が戻ってくるとしたなら、通常は何かおかしいと感じるはずである。 まじめに働く人を卑しめる制度である。 2千円の負担で、返礼品を受領するとなるとキチガイ制度である。

第3は、善意を踏みにじっている制度であること。 即ち、地方交付税法により国税である「所得税」の33.1%、「法人税」の33.1%、「酒税」の50%、「消費税」の19.5%と「地方法人税」の100%を都道府県と市町村に配分されるのである。 地方自治体の財政、運営、地方自治のサポートが目的であり、基準財政収入額が基準財政需要額を下回った場合、差額が各都道府県と市町村に普通交付税として配分される。なお、基準財政収入額は標準税率の75%相当としている。 基準財政収入額が基準財政需要額を上回れば、普通交付税は、上回った自治体には配分されない。

都道府県では、東京都が基準財政収入額が基準財政需要額を上回わるのであり、市町村では1719のうち79が上回る。 東京23区は、上回る団体であり、普通地方交付税の交付は受けていない。

ところで、ふるさと納税についてであるが、税減収となった地方自治体は基準財政収入額に税減収がカウントされるので75%は地方交付税で補填されるのである。 一方、ふるさと納税で寄付金を受領した自治体は寄付金は基準財政収入額にカウントされないので丸儲となる。

狂人の制度としか言いようがないのだが、東京都と79市町村以外には、反対の声はあげにくい。 いや、こんな制度で悪行を働いている自治体は、廃止なんて絶対言わない。 モラル上も極めて悪質であり、日本は、このようなことで滅ぶのかなと思う。

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2024年3月30日 (土)

こども子育て支援金を医療保険でまかなうのは筋が違う

どう考えてもおかしい、子ども家庭庁です。

こども家庭庁 令和6年3月29日 子ども・子育て支援金制度における給付と拠出の試算について

NHKのニュースはここにあります。

病気になったときのために、被用者保険である協会けんぽ、健保組合、共済組合の健康保険や国民健康保険そして後期高齢者医療保険に全員が加入しています。 自分や、扶養している家族が病気になった場合に医療費がこれらの医療保険でカバーできるからであり、この制度を信頼・支持しているからです。

医療保険料を支払って、それが医療費に回らないなんて、私は納得が行かない。 子ども・子育て支援に反対するのではありません。 子ども・子育て支援は重要です。 その財源は、税金から支払うべきです。 上に掲げた子ども家庭庁の試算書の5ページと6ページに医療保険で徴収する金額が記載されており、1兆円徴収しようと言うことです。

1兆円を国民から徴収しても、それが日本の現在や将来に役に立つなら、それで良い。 しかし、国民を騙すことは許されない。 1兆円支出の詳細な内訳を国民に説明することは、先ずは重要である。

そして、1兆円と言わずに、一人平均450円なんて、月額で示す。 雇用主から徴収する金額も除外している。

財源は所得税増税で賄うべきです。 医療保険料の徴収は、高所得者については、医療費支出とのバランスから上限を設けざるを得ず、しかも収入額に対して一定の料率となる。 所得税のように累進税率が適用されない。 岸田内閣は、増税を推進すべきです。

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2024年2月 6日 (火)

自民党の税制改正大綱の分析になるほどと思った

国会での税制改正審議が、間もなく始まるが、2023年12月14日に自民党が発表した令和6年度税制改正大綱 (pdfはpdfはこちら )には、なるほどと思う分析の記載がある。

それは、10ページ目の中段辺りから始まる法人税に関する次の文章である。

 しかしながら、わが国においては、長引くデフレの中での「コストカット型「経済」の下で、 賃金や国内投資は低迷してきた。 賃金水準は実質的に見て30年間横ばいと他の先進国と比して低迷し、 国内設備投資も海外設備投資と比して大きく伸び悩んできた。 その結果、 労働の価値、 モノの価値、 企業の価値で見ても、いわゆる 「安いニッポン」 が指摘されるような事態に陥っている。 その一方で、 大企業を中心に企業収益が高水準にあったことや、 中小企業においても守りの経営が定着していたことなどを背景に、 足下、 企業の内部留保は555兆円と名目GDPに匹敵する水準まで増加しており、 企業が抱える現預金等も300兆円を超える水準に達している。こうした状況に鑑みれば、 令和4年度税制改正大綱において指摘した通り、近年の累次の法人税改革は意図した成果を上げてこなかったと言わざるを得ない。

企業の内部留保は555 兆円や企業が抱える現預金300兆円は、ほとんどが大企業に属するのであろうが、法人税は赤字企業に負担はない。 法人税は企業の利益から算出する課税標準を元にするのであり、合理的と考える。 税制が全てではないが、重要なファンクションであり、良い税制を追及することを緩めてはならない。

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2024年2月 1日 (木)

これが本当なら、総務省って、やはりろくでもない役所だと思う

次のニュースを読んで、やはり、ろくでもないと思いました。

日経XTECH 2024.01.26 住民税決定通知書の電子化はまさかの暗号化ZIPファイル配布、「紙より不便」の声

 政府が採用したのは、通知書本体のPDFファイルをZIP形式で圧縮・暗号化したうえで、復号用パスワードの取得方法を記した別のPDFファイルとともに従業員に社内システムを使って配布するという方法だった

とあるのです。 これだと、PPAPです。 例えば、これをご覧頂いても良いし、このようなウイルス付きファイルの警告にもZIPファイルの恐ろしさが書かれています。 ZIPファイルは、クリックして何が出てくるか不明なのです。 名前と中身が異なることは、世の中、しばしばあるのでしょうが、ZIPファイルの嫌なことは、クリックしないと中身が分からないことです。

それでも、信頼できる相手から受領したファイルなら大丈夫ではないかと考えられるが、メールにおいて送信者の偽装もありえますから。

総務省とは、旧総務庁、旧自治省、旧郵政省が統合されて発足したのであるか、私なんか統合理由なんて全く理解できない。 役所とは、管理が重要な組織である。 管理がおぼつかなくなるような組織は、役所の場合、絶対に作ってはならない。 民間だったら、倒産して終わるが、役所は倒産できず、負の遺産を引きずってしまう。 ふるさと納税なんかも、早く中止すべきであるが、廃止できずにいる。

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2023年12月 8日 (金)

東京都は、ふるさと納税見直しを要請

東京都、その特別区および市町村は連名で、総務大臣に対して、ふるさと納税制度の見直し要請を12月4日提出しました。

「ふるさと納税」制度の抜本的な見直しに関する共同要請

問題ありすぎの制度ですから、本来はずっと前に反対論が出て当然であったと考える。 反対論が少なく、賛成論が多かったのは、ふるさと納税の利用で潤っていた国民が多かったと言うのは、言いすぎであると思うが、いずれにせよよほど賢い国民でないと全体像が理解できない制度である。 この制度を導入したのは、相当腹黒のど悪人だと思う。

地方自治体に寄附をすると、30%相当の返礼品を受領できる。 一方、寄附支出は2,000円が支出者負担で、それ以上の額は所得税と地方税で戻ってくる。10,000円の寄附で3,000円の返礼品を受領でき、更に税金(所得税と住民税)が8,000円安くなる。 上限はあるものの、多額のふるさと納税をすると儲けになる。

どう考えても、経済原則に反するわけで、ふるさと納税なんて、美しい言葉で飾っているが、実態は悪徳・モラルハザード・ビジネスである。 収支は、どうなっているかと言うと、寄付者の住所地の市町村は寄付者に住民税で補填するのであるが、その75%分は地方交付税で国から補填される(参考この総務省の資料 )。 但し、地方交付税不交付団体には補填されない。 東京都には、不交付団体が多いのである。 従い、東京都は見直しを要請となるのであるが、所詮ゆがんだ制度であり廃止すべきと考える。 税金は必要な政策に対し、支出されるべきで、寄附をした人に(住民税還付の形で)支出されるなんて、税金を払いたくなくなる。

政府に払った税金が、国民が知らないうちに、地方交付税の制度により、都道府県・市町村に流れていきます。 地方交付税の制度を否定するのではありませんが、国民の目にとまりやすく公表すべきです。 例を言うと、消費税10%だと多くの人は思っている。 実は、日本政府が使えるのは5.5%であり、4.5%は都道府県・市町村の財源です。

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